「My Teenage Heart」ベイ・シティ・ローラーズ
~KAOROCKドリーム~
「My Teenage Heart」ベイ・シティ・ローラーズ
ふと気づくと、香織は自分の部屋にいた。
なぜ?さっきまで大通公園にいたはず…。
と、念のためつぶやいてはみたものの、
本当は「ふと」ではない。
山崎が飛んで行ったあたりから薄々気づいていた。
いいえ。薄々どころか濃厚に。
机の上には「KAOROCK」。例の自分だけのロック辞典だ。
大学ノートに、大好きなアーティスト達の記事(妄想含む)が、
A~Z順でびっしりと書き込まれている。
その中でも、ひときわページ数が多い「L」の欄。
「L」から始まるアーティストだけ、こんなに多いわけないのに…。
と、やや恐る恐るページを開くと、そこにはなんと、
記事ではなく「漫画」が描かれていたのだ!
こ、これは…。
「アハかよ!」
香織は自然とつっこみを入れた。
なぜいつの間にか部屋にいるのか?とか、
なぜいつの間にか漫画を描いていたのか?
という、わりと重要な件へのつっこみではなく、漫画じたいへのつっこみである。
なぜならその漫画は、なんともスピーディーな白黒タッチで描かれており、
まるでA-haの「Take on me」のPVのごとく、アハめいていたのだ。
アハめきながら、1枚ずつページをめくる。
そこには「やつら」がいた。
そう。ロボトミーズの面々だ。
それぞれの夢と魂胆でバンドをやるために集まったにもかかわらず、
いっこうに演奏もせず、ページをめくる度に現実離れしていくやつらが…。
異常な明るさで宇宙規模の働きをする笹井、
二枚目担当のはずがいつしか「ずれ男」になってゆく遠山、
痛いプライドで謎のポーズをキメる沙織、
そして素直になれないまま暗く爆走する山崎が、
とんでもない表情&アクションで面白おかしく登場していた。
う…。うはははは!笑う!シュールというよりカオス。
読み進めるごとにカオス感とハチャメチャ感が増す。
けれど、ティーンエイジャーならではの、甘く切ない迫力があり、
全体的にきらめいている。
漫画なのに台詞がないのだが、それゆえに、たくさんの音楽が聴こえてきそうだ。
演奏ができないロボトミーズではあるが、
スピーディー、カオス、極端な自信と不安、まとまりのないパッション、
そしてなんと言っても「ティーンエイジャーなう」というだけで、
やつらは充分にロックミュージックであり、
なんだかんだ言いながら共に行動している有り様が、
演奏なくともバンド的だという感想を持った。
「なんか…いいバンドじゃんロボトミーズ!」
と、この漫画の謎を追求することも忘れ、
不思議とウキウキした香織は、はたと気づく。
主人公であるはずの香織が、どのページにもいないのだ。
なんでや。
どんな展開になろうとも、ほぼ笹井に持って行かれるシーンをくぐり抜け、
自分を探しながら、香織はページをめくった。
がしかし、香織は登場しない。そして笹井のコマが多すぎる。
あ、また笹井。ここにも笹井。トゥーマッチ笹井!
すると、コマのひとつ(笹井)が…!
やばい…。今、動いた。漫画笹井、絶対動いた…。
いやだなあ。動いてないフリしよっかなあ…。
などと弱気に次のページをめくると、また笹井。
そして白黒なのにうざいほど鮮やかな、そう、うざやかな笑顔の笹井が、
香織に向かってパチリとウインクしたのである。
げげっ!やめてよ笹井、キモいなあ!
じゃなくて、こっちが重要→げげっ!やっぱり動いてる~~~。
と驚きポイントを訂正したその瞬間、
漫画の中からにゅにゅ~~と笹井の手が飛び出てきた。
ぎゃ~~!キャリーか!(墓前ラストシーン)。
じゃなくて、この展開はやはりアハ。指先でCome on的な動きしてるし!
ひえ~~。てことはアレかい?
この手をつないだら漫画の中にしゅるんっと入っちゃって、
そんで、やっと私が登場するってやつ?
で、手を伸ばしてみる。
しゅるん!
入った!うそ~~ん。
漫画笹井は、得意そうな笑顔でリズムを取り、
白黒からカラーになりながら歌っていた。
♪さ~~さ~~い~~。さ、ささい、さ~~さ~~い~~。
おそらく「テイク・オン・ミ~~~」の部分を、
いつもの「ささい」で歌っているのだが、もはや、それで良い。
「笹井、あんた何やってんの?ほかのみんなは?」
笹井は台詞がないので、でも「ササイ・オン・ミー」を歌いながら、
香織の手を引いて走り出した。
「ちょっと!どこ行くの?アハワールド?」
きっとこの先で、沙織や遠山がアハらしく演奏しているに違いない。
あ、忘れてた、山崎もだ。
笹井に引っ張られながら、漫画の中をずんずん走り進んで行くと、
出た!思っていた通りやつらがアハの格好で…じゃない!
アバだ!
♪てかちゃん、てかちゃん、てかちゃん…。
♪take a chance on me~~。
アハからアバへ。
北欧つながりか?
曲も「テイク・オン・ミー」から「テイク・ア・チャンス・オン・ミー」へと移行している。
アハコーナーでは白黒だった漫画は、
カラフルなスポットライトに照らされたみたいに、サテン地(布)風に輝いている。
「うっ。まぶしい!」
目をシバシバさせながらよく見ると、ハンドマイクをぐわしと握り、
世界一のヒップな動きでアバめきながら歌っている女が…。沙織である。
横で遠山がギターを、山崎がキーボードを弾いていた。
♪てかちゃん、てかちゃん、てかちゃん…。
キラキラというよりテカテカとテカっている様子のせいで、
暗い山崎が何気に明るく見える。
ダメ男に成り下がった遠山も、わりとカッコ良くよく見える。
そしてド下手なはずの沙織の歌が上手く見える。
テカる沙織は「早くあんたも歌いな」という顔をしていた。
「私が?アバで?」
と戸惑っていると、すでに笹井がイキイキと歌っていた。
出た、横はいり!ここにも私の居場所がないっテカ?
香織は少しムッとしたが、その瞬間、テカ~~~!っとテカリがスパークし、
アバ風味のメンバー達は、一斉に走り出した。
「大変だ!遅れてしまう!」
テカるメンバー達は、不思議の国のアリスのウサギのごとく、
意味不明な慌てっぷりでダッシュしている。
「ウサギさん!待って~~」
と、香織も思わずアリスのように叫びながら後を追うと、
なななんと、まさに不思議の国のアリス…じゃない!
アリス・クーパーが登場したのだ!
メンバー達は、早くも例のマッド・ハッター帽子をかぶり、悪魔じたてのメイクで、
シアトリカルに踊っている。
巨匠アリス・クーパー様はカラダに大蛇を巻き付けて、
♪学校なんか無いわい!(スクールズ・アウト)。
と歌っている。
うっかり目が釘付けになっていると、
「こっちこっち!」
と、笹井が香織を呼んだ。が、すでに光の速度でメンバーと共に走っている。
「え?どっち?学校?」
だって学校はあるはずだ。なぜなら私達は中学生…なのか?
アリス・クーパーはともかく、アハとアバの曲は、その頃の曲だっけか?
謎めきすぎて、もはや時間の感覚もなくなってきた。その瞬間、
大蛇が「シャ~~!」という怒り顔で、香織を脅している。
「ここにもいちゃダメなの?」
ふんっ!香織はなぜか咄嗟に
「現在過去未来~あの人に会ったなら~私はいつまでも~」という
渡辺真知子の歌詞がよぎりながら、漫画の中の「迷い道」を、くねくねと走った。
「くねくねくねくねくね~~~」
香織の「くねくね」に返事をするように、遠くで笹井の声がする。
「ふにふにふにふに~~~」
「違うよ笹井!『迷い道』はくねくねだよ!」
「ふにふにふにふに~~」
「ふにふには『林檎殺人事件』だっつーの!」
「アダムと~~イブが~~ミカンを食べてから~~~ふにふに…」
「ちが~~~う!リンゴ!アダムと~~あっ!ジ・アンツだっ!」
♪グディシュ、グディシュ、グディグディグディシュ~~。
そう。今度は、海賊ルックのアダム・アントが現れたのだ。
しぇ~~~!なんというニューロマンティック!
メンバー達の鼻には、すでに横一直線の「白線」が引かれ、
「グッディ・トゥ・シューズ」の軽快なリズムにかなりノッテいる。
「ぎょ。山崎も…ノルんだ」
ぼんやりそうつぶやくと、アダム・アントが、これでもかというほどリズミカルに、
びよ~~~んと笹井なみのジャンプをした、
と同時にメンバー達は、またもマッハで走り出す。
なんなんだ。まだ次があるのか?
この流れだと、また誰か大物アーティストが登場する確率100%。
おや?待てよ。
アハ→アバ→アリス・クーパー→アダム・アントって、
全部「A」から始まるアーティスト達じゃないか。
てことは?
もしやこの漫画は「A」から続いてゆくのか?
まじで?
ZZ TOPまで??
そうだ。ロボトミーズは、きっと「KAOROCK」に書かれている大勢のアーティスト達を、
順番に追っているのだ。
「こっちこっち!」
笹井を筆頭に、全員が手招きしている。
「香織!こっちだよ!早くしないと遅れてしまう!」
なぜ急ぐ。
「遅れないよ!だってこれは私が書いた辞典だもん。時間とか関係ないから!」
「大変大変! 遅れちゃう、遅れちゃう」
「大丈夫だよ!これは漫画になってるけど、ホントは辞典で、遅刻とかないし、
学校じゃないし!てかもう走るの疲れたから明日教室で会おうよ。
私、どっかのコマから抜け出すから、あんた達も早く抜けなよ…」
と言いつつ…。
あれ?このメンバー達は、学校に…いたっけか?
と思う。
笹井も、沙織も、遠山も、山崎も、たしか…。
「いねーよ!」
そう叫ぶと、
香織はまたしゅるん!と部屋の中にいた。
慌ててノートをめくる。
そこには漫画ではなく、いつもの文章が綴られていた。
「L」の欄を見ると、リンダ・ロンシュタットとか、レッド・ツェッペリンに混ざって
「ロボトミーズ」と書かれいる。
が、漫画どころか記事じたいも空白だった。
そんなバカな…!
ロボトミーズのメンバー達は、私の妄想だったってこと?
と驚愕するが、やつらの奇天烈さを考えると「そりゃそうだ」と納得すべきだ。
しかも…。
そうだ。私はすでに大学生なのだ。
もはや中学生でもないうえに、ティーンエイジャーではないのだ。
10代という純粋&多感な時期にロックと出逢った香織は、
目には見えない音楽の、その衝撃や想いを文字にし、足りない部分を空想し、
大学生だけに、一冊の大学ノートの中で「世界」を創っていたのである。
のけぞりながら香織は想う。
私は音楽が好きだ。恋なのだ。
めくるめく妄想に溺れるほどの、マジ恋なのだ。
音楽の世界で生きていたいのだ。
そのためには音楽ライターになりたいし、
きっと音楽をモチーフにした漫画も描きたいし、
できることなら自分でバンドだってやりたいのだ。
なんという欲張り!
いや、欲張り上等。なぜならロックだからな。
でも好きすぎて欲張りすぎる私のロック恋は、
その音に一喜一憂する「楽しい片思い」のように、
この大学ノートの中だけで完結されてしまっているのではあるまいか??
つまり、
自分の夢=大学ノート内。
という図式である。
香織は目から鱗を飛び散らかしながらこう思った。
「もう、大学ノートから飛び出そう!」
なぜならロックだからな!
ああ便利だ。
「なぜならロックだから」さえあれば、
現実の中でも何でもできるし、
何にでもなれるのだ。
わはははは!
すでに「音楽の何か」になったつもりの香織は、部屋の真ん中で大笑いし、
この気持ちを奏でる音楽を、ヘッドフォンで聴くことにした。
ヘッドフォンは良い。
音楽が外の空気に触れずに、
ダイレクトに自分の中に入り込んでくるようだから。
選曲したのは、ベイシティーローラーズの「ひとりぼっちの10代」。
「My Teenage Heart」という原題がぐっとくる。
♪私の10代の心は、なぜ君のことばかり考えてしまうのか。
私の10代の心は、なぜ不安定になるのか。
もし私の人生のすべてを、
君と共に生きていけるのなら、
私の10代の恋は、
今も「ホンモノ」てことなのだ。
「そうだそうだ」と頷きながら曲に酔いしれていると、
音の中から、こんな声が聴こえた。
「早く早く!早くバンドやらないと遅れちゃうよ!」
ぎゃっ!だ、誰?
驚いてヘッドフォンをはずし振り向くと、
あろうことか香織の背後には、
強烈な笑顔の「やつら」がいた!
ような気がした。
おしまい♪
Love&Rock&Thank U!!!!
森若香織
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