コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ウォーク・ディス・ウェイ」その2 エアロスミス


~応援ソング~
「ウォーク・ディス・ウェイ」その2エアロスミス

「エアロビクスじゃなくて、エアロスミスよ!バカ笹井」
沙織が笹井に八つ当たりをしている。
「アタシはスタイル抜群だからエアロビなんてしなくていいのよ!アホ笹井」
バカ&アホと言われようが、当然、笹井の心は折れる訳もなく、
むしろ照れている。
「そうだよね!沙織はスタイルいいよね!きゃー」
「当然よ」
沙織はデボラ・ハリーのような妖艶なポーズをとっている。
「ひゃ~、やっぱ沙織はスゴいよ!だって神様だもんね!」
とキラキラした瞳で感心している笹井。本当にバカ。
しかし自信をつけた沙織は、再び歌い出した。

♪ カッカッカッカカ カッカッカカカカ アタシは神様~
♪ ゴッゴッゴドゴド ゴドゴドゴッドド ゴッドでゴッデス~

walkthisway

「え…ちょっとヒドすぎるよ沙織…驚くほど歌えてないし」
あきれる香織に、キレる沙織。
「だから歌じゃなくてKAPって言ってるでしょ?」
「今のカッパ出てこなかったからKAPになってないじゃん」
「いいのよ!KAPはアタシならではのRAPなんだから」
「ウォーク・ディス・ウェイってラップっぽいけどラップじゃないよ。
 歌だよ。超リズム感の歌だよ」

「え?香織!サランラップっぽいクレラップって何?アルミ箔?」
噴水の真ん中で、山崎の手を取ろうとして苦戦している笹井は、
けれどこちらの会話に参加する。
「器用か!」
香織がツッコミを入れるが、笹井はこちらを見ず山崎の手を取り、
なんとか噴水から出すべく奮闘している。
「まーくん!みんな待ってるよ。水から出て!」
「…」
無言すぎ頑固すぎの山崎は、何気に器用に笹井の腕を振りほどいている。
「器用対決かよ」
香織がぼそっとつぶやく。
すぐさま笹井が香織に反応。
「対決?そっかラップとアルミ箔どっちがいいか?うちのおにぎりはアルミ箔だよ!」

「ああそう。どっちでもいいし…てかおにぎり関係ないし!」
「え?おにぎりじゃないの?あ、わかった!KAPってカッパ巻き?」
「ああ、そのほうが近いわ」
「まーくんがカッパだから?」
「かなり近い!」
カッパ山崎は、ムッとした顔で上半身を前後左右に動かし、
まだ笹井の救助活動に反発している。

「おお山崎!どうして噴水から出たくないの?何か理由でもあるのか?」
遠山が両手を伸ばし、王子様のように地面にひざまずいて叫んでいる。
遠山クン…やっぱなんかキャラ変わってる。
もっとAORな、アダルトでクールなところが魅力だったのに…。
香織はそう思ったが、どうやら沙織にとっては、
遠山の「ミュージカル王子」なキャラが、どストライクなもよう。

「そうよ黄桜!とっとと出てきなさいよ!」
そう言いながらも、さりげなく遠山の反応をチラ見していることを香織は見逃さない。
「沙織~~むふふふ」
香織が肘で沙織をつつくと、
「なによ!神に気安くさわらないでよ!」とさらに威張るが、
絶対「恋顔」。
「沙織、一緒に山崎を説得しよう!あいつは…オレらのバンドの仲間だ…」
遠山王子がそう言った。
必要以上に苦悩するその表情は、もはやシェークスピアふう。
「バンド仲間と決まったわけじゃないわ。
 あいつが言いたいことも言わないで、ウジウジしてるのがムカつくだけよ」
威張っているがその瞳はハート型♡
異色な二人がちょっとキモイが、微笑ましくもある香織。
香織が一番「上から目線」である。

「そっか~!沙織もまーくんを応援してくれてるんだね!
 だからカッパカッパってお経を唱えてたんだね!」
「お経ですって?バカ!KAPよ!」
「わははは!今のオモシロいよ笹井!」
ウケる香織に、笹井は「ありがとう、えへへ」とお辞儀している。
「なによ!アタシのKAPは、お経よりもエネルギーがあるのよ!
 神のエネルギーよ!ふん!」
そして沙織は、さらなるヒドいKAPとやらで歌い出した。

♪ カッカッカッカカ パッパッパパパパ~~~~ アタシは神様~

すると、あろうことか遠山王子が口(くち)のベースを始めた。

♪ ブ ブブ ブブン ブン ブン…

沙織の顔が、パッと輝く。
笹井ほどではないが、キラッとしている。

♪ ゴッゴッゴドゴド カッカッ神神 アタシはゴッデス~
♪ ブ ブブ ブブン ブン ブン ブ ブブ ブブン…

苦悩顔の遠山王子の口(くち)ベースが何気にファンキー。
そして、香織に目で合図している。
(お前もやれよ)と。

ええええ!無理~~!
香織がそういうアクションをした瞬間、沙織がドヤ顔でシャウトした。

♪ Like this!!!
♪ デデデデ デデデデンデン!

しまった。うっかり口(くち)ギターでリフをやってしまった香織。
遠山王子は満足そうに香織に頷き、リフをユニゾってくる。
「お、これは…」
ファンクな口(くち)ベースと、これまたファンクな口(くち)ギターを口ずさむうちに、
思いのほか気持ちがよくなってきた香織。
ドヤ顔はなはだしい沙織のKAPも、ちょっとはマシになってきた。

思わず3人でノリノリになる図。
はっと気づくと、噴水の真ん中にいる笹井が完全にノッテいる。
未だ山崎に拒否られながらも、救助にトライするその動きが、超絶リズミカル。
「まーくん!ほら、オレにつかまって歩いて!まーくん!」
偶然「歩く」という言葉と「Walk」this way がリンクし、
激しく踊りながら山崎に説得している笹井に、迫力さえ感じる。
そうこうしているうちに3人の演奏(口くち)は、サビに突入。
思わず笹井のバイタリティーにつられた大声でシャウト!

♪ うぉ~くでぃすうぇ~~い!うぉ~くでぃすうぇ~~い!

「まーくん、みんな応援してくれてるよ!
 みんなありがとう!もっと、うぉ~えんして~い!」

え?顔を見合わせる香織と沙織。
「沙織、あんた黄桜を応援してるの?」
「まさか、笹井が勝手に空耳アワーやってるだけよ」
「だよね。私達はなんかノリで歌っただけだよね」

♪「応援して~ぃ!応援して~ぃ!」

笹井が、ありえないほど間違えながら歌っている。

「わかった!」
遠山王子が両手で、頭の上に輪を作っている(OKマーク)。
「もっと応援するよ!さあ、一緒に!」
さあ!と勢い良く首を振り、香織と沙織に合図する遠山王子。
合図したわりには自分だけ前のめりで歌い始めた。

♪「応援して~ル!応援して~ル!」

マジか!
正義の味方すぎる遠山王子に困惑する香織。
「沙織、どうする?」
「どうって…応援なんてしてないわよ」
「だよね。私は黄桜にむしろ『あやまれ』って歌いたいくらいだよ。
 こんなにみんなに迷惑かけて」
こそこそ話をしている女子達に気づいた遠山王子が「さあ!」と応援ソングを促した。
「でも遠山クンがそんなに、さあ!って言うなら歌ってあげてもよくってよ。神として」
「え?」
ダメだこりゃ。沙織の目がまたハート型になっている。
遠山王子の「さあ」もストライクゾーンだったのか。
「ただし!アタシは黄桜の応援なんてしないし、バンド仲間だとも思ってないわよ。
 だからアタシはこう歌う!」

♪「応援して~(ナイ)!応援して~(ナイ)!」

なるほど。じゃ私はこう歌うわ。

♪「応援って~(無理)!応援って~(無理)!」

各々の歌詞が決まり、さらなる遠山王子の「さあ!」で再び歌い出した4人。
笹井「応援して~ぃ!」
遠山「応援して~ル!」
沙織「応援して~(ナイ)!」
香織「応援って~(無理)!」
後半の歌詞が違うので「応援」部分だけ妙に大きく聴こえる。
歌詞が違う部分も、何らかのフュージョン感を出している。

みんなの応援に感動したのか、
笹井の顔が尋常ではないほど煌めき、その輝く光が、噴水の上で虹を作っている。

「出た。笹井、なんかまたスゴいことになってるよ。なんか始まりそう」
香織の予感は的中し、
なななんと、笹井の背後にでっかい翼が浮かび上がった。
「ぎゃ~!なにあれ!」
エアロスミスのロゴだ!」
「ホントだ!笹井の背後にエアロのロゴがいる!」
「しかも笹井仕様になってる!」

よく見ると、ロゴ中央の「A」が「S」になっていた。
「AEROSMITH」じゃなくて「SASAISMITH」だ。

これにはさすがに驚いたのか、山崎も驚愕顔であんぐりと口を開けている。
「あ、まーくんの顔が少し動いた!みんな!もうちょっとだよ!」
♪「応援して~ぃ!応援して~ぃ!」
案の定ロゴにまったく気づいていない笹井は、
光り輝きながら大声で歌っている。

「笹井!うしろ!うしろ見て!」
「え?あっっっ!!!!!」
ようやくロゴに気づいた笹井が、光を発しながら叫んだ。
「怪鳥ロプロス!」

まさかの「バビル2世」発言に、ロゴ出現よりも驚いた香織であった。

つづく
 


◆森若香織 インフォメーション
■GO-BANG’S25周年ベストアルバム
『スペシャルGO-BANG’S』

2013年5月25日~
ポニーキャニオンショッピングクラブにて発売中!
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