コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「チキチータ」アバ


~勝つ理由~
「チキチータ」アバ

テーブルの上で仁王立ちになっている沙織は、
これでもかというほどのガン飛ばし面で、笹井に向かって叫んだ。
「笹井!あんたが山崎の代わりにアタシとパンク対決するのよ!」
「パンク対決」の意味が分からぬ店の客たちが、
その威嚇に怯えながらもややきょとんと沙織を見上げる。

「最弱の山崎に勝ったってオモシロくもなんともないっつーの!
 なんか知らないけどいつの間にか最強みたいになって調子こいてる笹井、
 あんたがアタシの相手だわ!もちろんアタシが勝つけどね」

なんか知らないけどというより、
笹井はあきらかに神をも恐れぬ サンシャインパワーで最強になったのだ。
調子もこいてはいない。しかし香織と遠山は、
沙織の怒りの根源はこの店におびき出した自分達であることを思い出し、
うっすら後ろめたい。

香織が、責任を持って何らかの対処(言い訳)をしようとしたその時、
遠山がこう言った。
「沙織、みんなに『パンク対決』の意味を教えてあげて!
 沙織にしか分からない、いや、沙織にしかできないことだよ」
確かに。
この店に来る前のくだりで、
香織は「パンク対決」という言葉を使った気もするが、
そもそも「パンク対決」という名前がついていたわけではなく、
しかもノリで「パンケーキ対決」になっていたはずだから
「パンク対決」と言う言葉をキャッチし、その真意を知っている、
というか、勝手に解釈しているのは沙織しかいない。

しかもこれは、頭脳派遠山の心理作戦だ。ついさっきまで「裏工作」等、
微かに「黒頭脳」だった遠山は「手をとりあって」あたりからの改心により、
さりげなく「嵌める(はめる)」方法を改めたのだ。
そんなネオ遠山のフレッシュ頭脳からくる「清らかな作戦」だ。

汚れのない遠山のアイディアに、香織は便乗することにした。
だって沙織は、とにかく何でもいいから「勝ちたい」だけなのだ。「勝つ」その先に
何があるわけでもなく、沙織は常に、この瞬間を「勝ちたい」女なのだ。
なぜそこまでして勝たなければならないのか、誰にも理解できない心理が
「パンク対決」というタイトルの中に隠されているはずなのだ。
そう確信した香織がさっそく遠山に乗っかる。

「そうだよ。沙織『パンケーキ対決』じゃなくて『パンク対決』だったら、
 なおさら笹井はどう戦っていいか分かんないし、みんなもどう応援していいか
 分かんないよ。その説明は沙織にしかできない偉業だよ!」

いけない。ついつい大袈裟な言葉を使用してしまったが、
沙織は得意そうな顔をしている。
「そうね。アタシにしかできないことよ。誰にもできないもの凄い説明よ!」
店内がざわついたが、かといって、
その説明にもの凄く興味があるわけではないという空気も漂う。

「わああああ!さすが沙織だ!凄い説明だよ」
笹井が、まだ説明を聞いていないのにそう言った。すると、またたく間に空気は
「興味津々」となって、皆、一斉に沙織ではなく、笹井に注目した。

香織と遠山も思わず笹井を見てしまったが
「みなさ~ん、僕はSASAIでSAOLIじゃないよ!
 『S』から始まって『I』で終わるから間違えやすくてゴメンネ!」
とすまなそうに言われ、皆、恐縮しながらもあわてて沙織に目線を移す。
遠山が沙織に叫ぶ。
「さあ、沙織、オレ達に説明してくれ!いったい何が『パンク対決』なのかを!」
「いいわよ!ええっと…」

皆が沙織に注目する中、沙織はまさかの「言葉に詰まって」いた。
「おい、あの女、今考えてるぞ」
客の一人がそうつぶやいた。
いけない!そんなつぶやきが沙織の耳に入ったら、沙織は
「赤っ恥」というエネルギーで、暴れ馬のようにキレまくるに決まっている。

心配する香織をよそに、沙織はどうやら、
そのつぶやきも耳に入らぬほどの緊迫感で「ええっと、ええっと」と
額に汗しながら確実に「今、考えて」いる。
笹井に促されて沙織を見つめていたはずのその瞳達が、
今度こそ真剣に、自らの意思で沙織を見ている。憐れみという意思で…。

ちょっと面白いと思ってしまう自分を否定できない香織であったが、
同じバンドのメンバーとして、ここは沙織に助け舟を出さねばなるまい。
質問形式にするのだ。

「沙織!沙織にとってパンクって何?」
「え?」
沙織が、あきらかにアホっぽい顔で香織を見た。
しかしすぐに顔の筋肉を立ち直し言い返す。
「何って、決まってるでしょ! パンクはデストロイ精神よ!」
「何をデストロイしたいんだ?」
すぐに「質問形式」に気づいた遠山が第二問目を出題した。
「そ、それは…世の中よ!」
「え?おなか?もうおなかすいたの?沙織!」
笹井が、一瞬「いつもの笹井」に戻った。
「笹井、あんたは黙ってて!」
香織が思わず「いつもの笹井」に「いつもの態度」をとると、
店の客達(笹井信者)が、目を丸くして香織を見た。
気にせず香織は、沙織に質問を投げかける。

「世の中をデストロイって、具体的に何をどうすればいいの?」
「それは、ええっと…ええっと…世の中に勝つことよ!」
「どうやって何を勝つの?世の中ってどこ?誰?」
「一番強い奴に勝つのよ!そいつより強い立場になるのよ!」
「それが笹井なの?まあ、確かにこの中じゃ笹井だけど、
 笹井は世の中じゃないよ!」
「笹井は世の中よ!笹井は世の中を独り占めして天狗になってるのよ!」
笹井が世の中…。だとしたら、沙織の「世の中」はあまりにも狭いではないか。

「ひどい!SASAIさんは天狗になんかなってないわ!」
サインを求めた女子が、涙目になって沙織に訴えた。
「そうだそうだ!」
ほかの客達(世の中の群集)も、拳をあげて沙織に糾弾する。
いよいよ沙織のピンチ!と思いきや、沙織は負けない。
「うるせえ!アタシの相手はお前達じゃない!笹井だ!」
「え?オレ~?きゃあ~」
笹井が頬を赤らめて喜んでいる。告られたと思っているのだろう。
最強なのだ。笹井はただただ最強なのだ。
何をやったって沙織がこの笹井に勝てるわけはないのだ。

「笹井、アタシの相手しな!」
何の「相手」なのかを、また「今、考える」であろう沙織を
複雑な思いで見ていた香織と遠山の視線にアピールするかのように、
沙織はテーブルからスタッと飛び降りようとして、
しかし自分で思うほど運動神経が発達していないらしく、のろのろと降りている。
そしてポーっとなっている笹井の前に立った。

笹井は喜々として答える。
「うん!オレ、やっと沙織と両想いになれたんだね!」
「ぶわか!これから勝負なんだよ」
「うん!いいよ!」
笑顔でうなずく笹井に、群集が戸惑いの表情を浮かべた。
しかし、サイン女子が声をあげた。
「SASAIさんは、なんて心の広いお方なの?」

その言葉に、群集の目からウロコが落ちている。
床に落ちたそのウロコを拾いながら(イメージ)誰かが笑い出した。
「わははははは」
誰?
笑い声の主は、ずっと話題にのぼらなかった山崎であった。

「あ、まーくんだ!ひさしぶり!」
笹井が、これはこれで喜んでいる。
いけない。山崎を説得するためにこの店に来たのに、
あろうことか山崎のことをすっかり忘れていた。
香織と遠山は自分達の忘れっぽさを深く反省し、改めて山崎を見る。

山崎は、無表情で群集を掻き分け、沙織のほうに向かって歩いてゆく。
急に行動を起した山崎にギョッとしている沙織。
山崎は沙織の前で足を止めると、
黄色いサングラスを、左手の中指でクイッと上げた。
沙織がそれに負けじと、自分の髪を掻きあげる。

「ふん、何よ。あんたは弱すぎてアタシの相手じゃないんだよイモ!」
ポテトサラダが好きなだけあって
「イモ」と呼ばれることに、なんら抵抗のない山崎は
「フッ」と口の端で笑い、こう言った。
「キミって救いようのないトンチンカンだね」
「え?トン吉チン平カン太の略?」
いつもの笹井が、いつものように山崎に無視される。
そしていつものように沙織がキレる。
「なんだとコラ!」
山崎はさらに不敵な面構えだ。

「僕らがどうしてこの店に来たのか、キミは何も気づいていないようだからさ。
軽音部に入れるように、あの二人が仕組んだのさ」
山崎はそう言って、香織と遠山を見た。
ガーン!バレていた!
こりゃピンチだ、と香織は焦ったが、さすがの遠山は顔色ひとつ変えずに言った。
「山崎くん、ごめんね。確かに最初はそうだった。
 でも、オレらは山崎くんと一緒にバンドをやりたいんだよ。
 山崎くんが必要なんだよ。だから、
 話すきっかけを作りたかった。それだけなんだ」

よし。もう敬語も使ってないし、これもまた清らか。多少捏造部分もあるが、
まあいいだろう。山崎がバンドに入ることはもはや避けられないが、
犯人扱いされずに済んだ香織はホッと胸をなでおろし、付け加える。
「そうだよ山崎くん。私見たよ。さっき笹井と手をつなぎあって泣いてたよね。
 隠さなくていいよ。ということはもう私達はつながってるんだよ。仲間なんだよ」

山崎は、黙って聞いていたが、そのうち微笑んで…じゃなくて
勝ち誇ったように笑い出した。
「わははは、キミ達ってバンドごとトンチンカンのトントンチキだね」
「あ、それも、ヨシ子ちゃんとこの三つ子の略?」
いつもの笹井が山崎にそう質問した時、店内にアバの「チキチータ」が流れ出した。

「あれ?この曲も三つ子?」
「うるさいよ笹井!」
遠山、香織、沙織が、めずらしくユニゾった。
笹井を攻撃した三人に群集がどよめくが、これはバンドの問題だ。
ただ一人ユニゾらなかった山崎が話し出す(ソロ)。
「僕が泣いていた?はっはっはっ、ありえない。あれは冷や汗さ。
 キミ達のトンチキっぷりにじんわりと冷や汗をかいて、サングラスに溜まっただけさ」
唖然とする香織の耳に、アバの「チキチータ」はささやく。

チキチータ どうしたの?
あなたの瞳に、明日への希望は見えない。
私は分かってる。
あなたがとても寂しくて、落ち込んでいることを。

「山崎…あんたって、沙織と同じくらい負けず嫌いだよね。ただ勝ちたいだけだよね。
 なんで?ここは勝つとか負ける場所じゃないじゃん。つながろうとする場所じゃん」
香織はそう言った。しかも「山崎」と呼び捨てで。

チキチータ 本当の気持ちを話してよ。
あなたはいつだって自信を持っていたのに、
羽を折ってしまった。
一緒にそれを治そうよ。

香織は、もはやアバのメンバーの一員のような気持ちになり、話し続けた。
「山崎も沙織も、傷つくのが怖いんだよ。だから勝ちたいんだよ。でも、
 勝とうとする相手が間違ってる。自分以外の誰かに勝ったって傷は癒せないよ。
 傷を癒すのは、自分に勝った時だけなんだよ」
 
チキチータ 
私達は分かってる。
悲しみがやってくることも。
傷跡だけ残して去っていくことも。

 
「その勝ちたい気持ちを、バンドに向けようよ。一生懸命練習して、
 みんなで楽しく演奏できるようになろうよ。それが本当の『勝ち』だよ」

サンシャイン笹井とはまた違う、香織のアバ的ヒーリングトークに、
店中が優しさにつつまれていった。

「そうか!香織、よく分かったよ!ありがとう!」
沙織と山崎ではなく、笹井がそう言った。

「この曲、最初は三つ子の曲かと思ったけど
 『勝ち気』な人のテーマソングなんだね!カチキータ!」

「うるさいよ笹井!」
遠山、香織、沙織、そして山崎がユニゾった。
 
でも、太陽はあなたを照らしている。
さあ、新しい歌を歌おう。
チキチータ。(Notカチキータ)。






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