コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「マイ・シャローナ」ザ・ナック


~マイ・カメレオン・カオス~
「マイ・シャローナ」ザ・ナック

意地になっている山崎は、パンケーキを食べようとはせず、
絶対にもう満腹なはずなのに、すべてにおいて負けず嫌いの沙織は、
超てんこ盛りのスペシャルパンケーキを、苦しそうに食べている。

「沙織、何ムキになってんの?全部食べきれるわけないじゃん」
まだまだ皿にそびえたつ、パンケーキの山を指差して香織が言った。
「わざとよ!わざと残してるのよ!
 そして、ここからが本当の対決なのよ!絶対に勝つわ!」
本当も何も、確かに「パンケーキ対決」をしようととっさに促したのは
香織と遠山ではあったが、はたして沙織は何をもって「対決」であり
「勝利」だと思っているのだろうか?
ここにいる全員が「ポテトサラダパンケーキは不味い」と言えば、
それは沙織にとって「勝利」なのだろうか?
だとしたら、あまりにショボい栄光である。

「見なさい。ポテトサラダ部分はひとくちも食べてないわよ」
沙織は自分の皿を、どん!と真ん中に置いた。
「わあ、まーくんのために?沙織はやさしいなあ。やったね、まーくん!」
心から嬉しそうに笹井が笑う。しかし山崎は、サングラス越しの表情を変えない。
沙織も沙織だが、こいつもこいつだ。
せっかく笹井が山崎のために気を遣って(無意識)
話しかけているのに、愛想笑いもできないのか。
まだ流れている「オールバイ・マイセルフ」が、
もはや山崎のテーマソングになっているように、香織には思えた。

♪僕はひとり……。

山崎に友達はいるのだろうか?ひとりでいる「ひとり」より、
みんなといても「ひとり」というのは、どんだけ「ひとり」なんだ。
ひとりはひとりでも、沙織の「ひとり」は、
山崎とは対照的に、みんなを巻き込む「ひとり」である。

「ぶわっかじゃないの!こいつのために残してんじゃないわよ。
 不味いから食べないのよ」
「え?でもひとくちも食べてないのに何で不味いって分かるの?
 超能力?沙織、ユリ・ゲラーみたいな超能力あるの?すごい!」
「うるさい笹井のアホマヌケ!不味いに決まってるから食べないのよ。ふん!」
沙織は、ナイフを握った。

「うわ!曲げるの?すごい!曲がるの?」
「曲げるかボケ!」
沙織は、ナイフを高く持ち上げると、勢いよくポテトサラダ山にブッ刺した。
ナイフが山の頂上にギラリと光り立っている。店の奥で、さっきのウエイトレスが、
嗚咽(おえつ)を漏らしながらこちらを見ている。
遠山が、ウエイトレスに「スミマセン……」という顔で頭を下げた。
なぜ遠山が謝らなければならないのかと、香織は腹が立ったが、
自分まで怒りだしてはせっかくの遠山の犠牲や、
笹井の無意識な優しさが無駄になる。

「山崎部長、食べてくださいよ~」
と明るく言ってみたがしかし、山崎は香織の言葉も無視し、黙りこくっている。

♪ 僕はひとり……。

「誰も信じないとかホントに思ってるなら、この曲みたいになっちゃいますよ」
遠山が「禁句!」という顔で香織を見た。いけない、つい!
「え?香織、この曲みたいになるってどういうこと?お待たせするってこと?
 誰も信じてないまーくんは、食べるの待たなくちゃいけないの?
 まーくんは腹ペコだよ!」
笹井が、心から心配そうに、おろおろしている。

「違うよ笹井、山崎部長は、こんな素敵な曲みたいですね、
 ていう意味だよ。ね?香織」
遠山が、苦肉の策で、香織の代わりに言い訳をする。また犠牲に!
「そ、そうだよ。遠山くん、説明してくれてありがとね」
「なあんだそっか~。オレ、さっきから、この曲、いい曲だなあって思ってたんだ~
 ちょっと暗いけど」

(暗い)も禁句だぞ!という遠山の合図が笹井に通じるわけはなく
「誰?これ歌ってるの誰?誰?誰?」と笹井は、
山崎の肩を揺すりながら質問している。

笹井の「誰?」の連呼に、肩を揺すられ、
首を左右に揺らしながらも仏頂面で、しょうがなく答える山崎。
エリック・カルメン……」
「ええええっ!ピ、ピンクレディー
 カルメン’77ってこんな曲だっけ?」

全員、開いた口が、あんぐりとふさがらないまま笹井を凝視した時、
今、山崎が抱いているであろう多種多様な悲しみを、さらに盛り上げるがごとく
「オール・バイ・マイセルフ」は、間奏のピアノソロに突入した。

「これ弾いてるのミイちゃんとケイちゃん、どっちかな!」
なお肩を揺すられ、左右に大きく結れる山崎。
自然と「どちらでもない」というアクションになっている。
「まーくん、なんで分かるの?
 え?もしかしてまーくん、こういうの弾けるの?すごい!」
勝手にわくわくと目を輝かせる笹井は、山崎をバシバシ叩いて興奮している。
その手を避けながら、山崎が言葉を発した。
「一応」
山崎のワンワード「いちおう」をすかさずキャッチした遠山が、
チャンス!とばかりに身を乗り出す。
「山崎部長、ギターのほかに、ピアノも弾けるんすか?」
「一応。ピアノは子供の頃に習ってて、ソナチネまでいった」
「コマネチ?」
と言った笹井の口を、香織がふさぐ。遠山が横目でそれをチェックし、話を続ける。

「まじっすか?それって凄いっすね!オレもちょっとやったけど、
ピンクのバイエルが終わらないうちにやめちゃいましたよ」
「ええっ?遠山もピンクレディー習ってたの?しゅごい!」
香織に口をふさがれているにもかかわらず、笹井が会話に参加する。
ピンクレディーのバイエルン・アーミーのこと?あれはカメレオンじゃ…う!」
笹井の口に当てた手にギュッと力を入れたはずみで、香織は大声で言う。
「ソナチネはすごい!
 私も小学校までやってたんですけど!ブルグミュラーまででした!」

「う、う、う!」
笹井が「う」しか言えなくなっている。早く!
今のうちに話を「軽音楽部入部」の話に持っていこう。
香織と遠山がアイコンタクトを取ったその時、
「ちょっと!ブルドッグだか、デレク・ロングミュアーだか知らないけど、
 ピアノの話じゃなくて、今はパンケーキ対決…う!」
いつの間にか「対決」を全員に無視され、青筋を立てて怒鳴る沙織の口を、
遠山がふさいだ。
「ちょっと!う、何すんぬゆ、う!」
沙織のくちびるが、が遠山の指の間で「タコちゅう」のようになっている。
香織は思わず吹き出しそうになったが、山崎はニヤリともしない。

さてどうしよう。やっときっかけをつかんだピアノの話題から、
どうやって「入部OK」に持ち込むか、香織は考えた。
そうだ「う」部室で「う」山崎のピアノを聴かせてほしい「う」とでも言ってみようか。
手のひらに微かに振動する、笹井の「う」がこそばゆい。でも言わなくちゃ!
「山崎部長のピアノ、聴いてみたいなあ、うひゃひゃひゃ」

遠山が目を丸くして香織を見た。
しまった!沙織の「タコ」をせっかくガマンしたのに、
笹井の「う」がくすぐったくて、つい笑ってしまった!
山崎が明らかに不名誉な顔をして、おそらくとても怒っている。
香織は慌てて自分をフォローする。
「スミマセン!山崎部長がピアノ弾いてるとこ想像したらつい…うはははは!」

山崎は、わなわなと体を震わせ、そして遠山も、
腹にすえかねたまなざしで香織を見ている。
ゴメン!遠山くん!どうしよう、助けて!香織は遠山にSOSのサインを送った。

「ピンクレディーのSOS…うっっ!」
笹井の「う」、振動マックス!
「わはははははは!」
とうとう爆笑してしまった香織。山崎はついに席を蹴った。
「ま、待ってください!うはは、帰らないで!うはははは!」

どうしよう!この状況をくつがえすほどインパクトのある何かで引き止めなくちゃ!
インパクトといえば笹井だが、
もはやピンクレディーのことしか頭になさそうな笹井が何か言ったら、
火に油を注ぐだけ…。

「山崎部長!オレらのバンドでキーボードやってください!」
遠山が言った。足を止める山崎。
「え!?」
「う!」
「う!」
ちょっと遠山くん!今のは確かにディープインパクテッドだけど、それはどうかと…。
香織が、自分の言動を棚に上げて遠山にダメ出ししようとし、
口をふさがれているピンクレディー笹井と、タコ沙織「う」も、
こそばゆさがなくなるほど、激しくなる。

ピンク:「う、う」
タ コ : 「う、う」
ピンク:「う」
タ コ : 「う」
ピンク:「う」
タ コ : 「う」
ピンク:「う、う」
タ コ : 「う」
ピンク:「う、う」
タ コ : 「う、う」
ピンク:「う」
タ コ : 「う」

♪ジャーン、ジャジャジャン!

と、笹井と沙織の「う」のリズムに合わせるかのように、
ザ・ナックの「マイ・シャローナ」が、いきなり店内に鳴り響いた。


♪ズズタタ、ズ、タ、ズ、、タ、ズズタ、ズルズタタ、ズ、タ…。
件のリフに、笹井の血が騒ぎ出した。
香織に未だ口をふさがれながらも「マイ・シャローナ」を全身で感じ、
しかも「カメレオン・アーミー」byピンクレディーの振り付けで踊っている。

そしてとうとう、香織の手を振り付けで払いのけ
「♪ズズタタ、ズ・タ、カメ~レオ~ン」と、
まさかのミクスチャーで歌い踊りながら、
帰ろうとしている山崎に、ずんずんと近づいて行った。

その奇抜さに、山崎が、黄色いサングラスの奥の目を白黒させている。
笹井は、山崎の前で一度動きを止めると、
ちょうど「マイ・シャローナ」サビ終わりの部分でシャウトした。
「ま~!ま~!ま~!ま~!ま~くん!」

高々とジャンプした笹井。
それぞれが、それぞれの立場から、あらゆるカオスに包まれた。
そして「マイ・シャローナ」のリフは、ひたすら♪ズズタタ・ズ・タと、
もはや「対決」がうやむやになったパンケーキの店じゅうに、響き渡るのであった。

(つづく)






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