コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「宇宙の彼方へ」ボストン


~笹井の彼方へ~
「宇宙の彼方へ」ボストン

ぶくぶくぶくぶく…。
水面に飛び出たホースから、山崎が何か言っている。
ぶくぶくぶくぶく…。
「ねえ、山崎なんか言ってるよ。何言ってるのか分かんないけど」
香織がそう言うと、笹井が大きく頷いた。
「笹井、あんた分かるの?山崎、なんて言ってるの?」
「まーくんは…まーくんは…何かを言ってるんだ!!」
「だから!その何かってなにさ」
「あっ、そうか!えーっと、それはね、耳をすましてみようよ!」
「なんだ…あんたにも分かんないってことだ」
「分かる!耳をすませば分かるよ」
「え~?すますのめんどくさいんだけど」
「みんな!みんなも耳をすまして!」
笹井が、手のひらを耳にあてながら、噴水の水ギリギリまで体を折り曲げている。

「オレもすましてみるよ」
遠山が笹井の横で、同じ体勢をとると、
近くにあった自動販売機でミリンダ(パイナップル)を買っていた沙織が、
急に遠山の横にぴったりとくっついて、ここぞとばかりにアタックして始めた。
「遠山ク~ン!飲む~?」
「あ、沙織、ありがとう、でも今は山崎の声に耳をすまさなくちゃ…」
「ふ~ん、じゃあアタシも一緒にすましてあげてもよくってよ」
「うん、たのむよ」
沙織が勝ち誇った顔で香織を見たので、
思わず自分も耳をすます香織。
まったく、山崎に耳をすますなんてめんどくさいが、
沙織だけが遠山に「たのまれる」のもシャクにさわる。
しかし、遠山の隣は沙織でふさがれていたので、
しょうがなく笹井の隣につく。

「まーくん!みんなで耳をすましているよ!まーくん!!」
額に汗する真顔の笹井の向こうで、
沙織が遠山にバンバン話しかけているのが聞こえる。
「ねえ、遠山クンはさ~、ミリンダはどの味が…」
「しっ!今、何か聞こえた!山崎!あんだって?」
「オレにも聞こえた!まーくううん!もう一度言って!」
「なによっ!!!遠山クンはこのアタシよりキモザキをとるわけ?」
「とるとかそういうことじゃなくて今は山崎の…」
遠山に無視され、般若顔の沙織。

ぶくぶくぶく…。
I want you show me the way(どうしたらいいのか教えてほしい…)

「あ!まーくんが教えてもらいたがってる」
「ほんとだ!オレにもそう聞こえた」
笹井と遠山が顔を見合わせた。その横で沙織はワナワナと震えている。

ぶくぶくぶくぶく…。
(誰かが水の中にコップを落としたら、僕はぶくぶく沈んでいく…)

「え?」
「この中にコップを落としたら、まーくんは沈んじゃうよ!」
「あ…」
男子二人は、沙織が手に持っているミリンダの紙コップに注意を払っている。

ボトン!

という音とともに、水面に円い水しぶき。
もちろんコップを落としたのは沙織である。

ぶくぶくぶくぶく…。
(円を描いて、このまま落ちていく…)

「ダメだよ沙織!紙コップなんて落としちゃ、山崎が沈んじゃうべや!」
「遠山クン、あなたまだ分かってないわね。今のは紙コップじゃなくて神コップよ」
「そんな…」

「沙織、遠山クンのジャマしちゃダメだよ」
香織がすかさずそう言った。
ちなみに沙織の攻撃を受ける遠山を助けるためであり、
山崎が沈む云々のためではない。
「ふん!ジャマなんかしてないわよ。手助けしたのよ。アタシ達はこれ以上、
 キモザキのわがままにつきあってる場合じゃないわ。こんなことしてる間に、
 アタシはとっととバンドをやりたいのよ」
「ほお、そりゃそうだ」
沙織はやはり、バンドに対してなら的確なことを言う。

「てゆーか!アタシには山崎の声なんて聞こえないんだけど。
 香織は聞こえたっていうわけ?」
「いや、特に。山崎に興味ないからかもしれないけど」
「そうよ。アタシ達はキモザキに興味がないから聞こえないのよ。
 聞こえなくていいのよ」

ぶくぶくぶくぶく…。
(来る日も来る日も、僕はどうしたらいいか分からないんだ。
 どうしたらいいのか教えてほしいんだ…)

「聞こえた!まだ教えてもらいたがってる!」
「笹井!あんたも聞こえなくていいのよ!」
沙織が笹井に怒鳴る。
「でも、まーくんに教えてあげなくちゃ!どうすればいいかを、
 オレ達が教えてあげなくちゃ!」
「教えてとか言ったら心配してもらえると思ってんのよ。
 ホントはアタシ達と一緒にバンドやりたいくせに、意地張ってるうちに
 逃げ場がなくなって水の中にいるって…カッパか!」
またも的確な沙織。
「だいたい何を?何を教えるのよ」
香織もちょっと半笑いでそう言った。
「それを推理するんだ!」
「はあ?事件か!」
「うん。きっとまーくんにとっては、オレ達とバンドやることは事件なんだよ。
 今までずっと1人でガロやってたから…」
ガロって3人じゃん。ガロ友もいなかったの?いないか、普通の友達も。あはは」
笑う香織に、笹井が大きく微笑んだ。
「友達はいるよ!オレだよ!」
「笹井のみ…ぷぷぷ」
「うん!幼稚園の頃からだよ!でもオレ、ガロには誘われなかったから、
 まーくんがガロやる時は1人3役だったんだよ!」
「あんた誘われなかってことは、山崎はあんたのこと友達だなんて思ってないんだよ」
「え?そうなの?」
「そうだよ。山崎はそういうやつだよ」
「そうか~。でもそれがアリババだよ」
「アリババ?」
「うん!まーくんの秘密にはアリババがあるんだ」
「それを言うならアリバイだろが!40人の盗賊のほうが大事件だよ」
「あ、そっか!えへへ」
「でもさ、その秘密がどーのこーのって…結局どうなったの?」
「まーくんの秘密は、まだ伝わってないよ。だからまーくんの心を推理するんだ!」
笹井はそう言うと、ぶつぶつ独り言を言い始めた。
「まーくんは…本当は…だから…まーくんの…心は…沙織が…」

「ちょっと!今、沙織って言った?
 やめてよキモザキの心にアタシを登場させないでよ!」
「あ~、そうですねえ~あ、しかし~沙織は、まーくんのですね~」
「なによ!刑事コロンボみたいに言ってんじゃないわよ!アタシは神よ!!」
「うちの神さんがね~まーくんにね~」
怒る沙織を尻目に、
笹井はコロンボ調のまま、まだ推理とやらをしている。

遠山はあいかわらず噴水に耳をすましているので、香織はそばに行った。
水面から例の「ホース」だけが飛び出ている。
山崎は、水からあがって来るタイミングを逃し、
あのホースで呼吸しているだけなのだが、
遠山は心配そうに水の中をのぞき込んでいる。
「なんともマヌケな忍者状態だよね。山崎」
香織が声をかけると、遠山がこう言った。
「このマヌケさを、オレは受け入れたいんだよ」
「あ、よかった。遠山クン、やっぱ山崎、マヌケだと思ってるんだ」
「うん。オレは笹井みたいに純粋にはなれないけど、でも山崎は、
 もはやロボトミーズのメンバーだと思ってる。
 だからこいつがマヌケなことも、有りにしたいんだよ」
 笹井とは違う方法で、山崎とつながろうとする遠山が、まぶしすぎる香織。
「遠山クンは優しいなあ…でもめんどくさすぎるよ山崎。たとえメンバーに
 なったとしてもコイツとは続かないよ。コイツが変わらない限り無理」
「無理じゃないよ。こんなに関わってしまった山崎をここで見捨てたら、
 オレらの目的もここで終わっちゃうよ」
「目的って…ああ、軽音部に入ること?」
「もちろんそれもあるけど、なんてゆーか、バンドやるっていう夢みたいな。
 バンドってみんなとつながることができないと、ダメじゃん」
「そうかもしれないけど…むずかしいよ」

「そんなに~むずかしいわけではないんですがね~。いやね、
 うちの神さんが言うにはね、まーくんはナシだって言うんですがね~
 でもね…ああ考えすぎてちょっとむずかしくなってきましたね~」
コロンボ笹井が、役になりきって香織たちの会話に参加したその瞬間、
山崎の命綱であるホースから、
ボストンの「宇宙の彼方へ」が、美しいアルペジオとともにフェード・インしてきた。

boston

「ほほう~考えすぎたらダメですね~
 もっとフィーリングでまーくんを感じとってですね~」
コロンボ笹井は、そのイントロに合わせながら背中をまるめ、
「う~ん、そうですね、う~ん、そうですね」
と首を前後に揺らしている。

「やっぱ笹井はスゴいな。きっとこの曲も初めて聴いたんだろうけど、
あんなに音に溶け込んで、超馴染んでるよ。しかもコロンボのままで」
遠山が、改めて笹井を絶賛する。
確かに、この甘美でゆったりとしたボストンのリズムに、
コロンボ笹井は夢心地顔で、ゆらゆらと身をゆだねている。

♪ 馴染みの音楽で我を忘れて
  目を閉じると 心は夢の世界

ぴょ~ん!
笹井お得意のジャンプが出た。
ヴァンヘイレンの時のジャンプとは違い、
まるで背中に羽が生えたような、ふわりと、
でもどこまでも飛んで行きそうな浮遊飛びである。
香織も遠山も、笹井のように飛べるような、そんな気分。

♪ 感情や感覚を超えて 
  あの音楽で 夢を見はじめる

 
It’s more than a feeling (It’s more than a feeling)
と()内を3人でハモる。
♪ そして僕は夢を見始める
  まーくんが去って行く姿を…

とことん浮遊感覚になった3人を残し、
曲は、ホースの中にフェード・アウトしていった。

「そうですね~…あ!まーくん?たいへんだ!まーくんが消えた!」
「え?」
我に返る3人。
「どうしよう!オレがふわふわしたばっかりに、
さらに複雑な事件になってしまった!ごめんねまーくん!どこ?まーくん!」

「アホか!」
おそらく3人の「浮遊」をシラケて見ていたであろう沙織が、
ミリンダの紙コップを大量に抱えて、笹井の前に立っていた。
「あ、神さん!」
「うるさいバカ笹井!神を女房みたいに呼ぶな!」
「でも、まーくんが消え…」
「るわけないだろが!くそマヌケなだけよ!ますます出るタイミング見失って
 潜り続けてるのよ。ああイライラする、これでも食らえ!」
沙織が紙コップの束を、水中に投げ入れた。

ボストン!
という音とともに、
大きな水しぶきがあがった。

(つづく)
 

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