コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「アイム・セクシー」ロッドスチュワート


あけましておめでとうございます☆
本年も、素晴らしい音楽たちと過ごせますように♪
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」よロックお願い致します!
LOVE&ROCK 森若香織

 

~本当のオレはセクシー~
「アイム・セクシー」ロッド・スチュワート

「あんたみたいなダサいやつが最先端なわけないじゃん!」
沙織は猛烈に怒りながら、山崎の尻ポケットめがけて手を伸ばす。
「沙織、そのロボットの曲を、まーくんから奪わないで!」
まーくんの幼なじみ「さーくん笹井」が沙織を止める。
笹井の助け舟に乗る山崎は「ミスター・ロボット」の調べにも乗りながら、
ロボットのような動きで、カクカクと逃げ回っていた。
「ああ、なんかイラっとする、その動き!」
沙織の正直な意見に、香織も同意する。
「確かに。山崎じたいがイラっとするのに、その動きは変!マゲも」
身震いする女子2人に、遠山が言った。
「山崎は今、自分の殻を破ろうとしているのかもしれないべや。
 変な動きかもしれないけど、見守ってやろうよ」
「遠山くん…」
自分の身震い発言を棚に上げた香織は、
オトナ目線の優しさ発言をする遠山に惚れ直す。
ふと見ると、沙織も目がハートになっている。

「遠山クンってやっぱ素敵よね」
沙織が、香織の耳元でそう言った。
「アタシのバンドは、遠山クンがいないと成立しないわ。
 ほかの男子とは違うのよ。ガキっぽくないし、セクシーなのよ」
「そ、そうだね」
香織は曖昧に相づちを打つ。
「何よ、そのゆるい反応。アタシはね、セクシーな男子が好きなのよ。
 セクシーな男子じゃないと、アタシとはつり合わないのよ」
「え、ああ。そう…だね」
「ちゃんと反応しなさいよ。そうだアタシ、バンドのためにも、
 自分から告白しようかな。遠山クン、
 神であるアタシには告白できないと思うからね、恐れ多くて」
沙織はそう言い放った。
神云々の勘違いはさておき、ということは沙織は、
香織と遠山がつきあっていることに、気づいていないのだ。

「遠山クンって彼女いるのかな」
沙織がまた耳打ちした。
どうしよう。本当のことを言うべきか、言わないべきか…。
と一応悩むフリをして、香織はまったく悩んでいなかった。
んなもん、言わないに決まってるじゃん!
まともな女子ならともかく、この沙織に本当のことを言ったとて、
よからぬバイオレンスを引き寄せるだけ。
テキトウに誤摩化したとしても、都合のいいポジティブ勘違いをするだけ。

無視が一番!
そう思って、なんとなく聞こえないフリをする香織。
「ねえ、遠山クンに彼女いるかどうか知ってる?」
沙織がまたもそう言った。
「……」
香織、無視続行。
「ま、いたとしても、アタシとつきあえないから、
しょうがなく彼女がいるんだろうけどさ」
「……」
「ちょっと!聞いてんの?」
沙織は香織の胸ぐらをつかみ、キレている。
「ぐ~~」
無視に限界を感じたので、突然寝たフリをする香織。
「急に睡眠?ちょっと!起きなさいよ」
沙織が、両手で香織の肩をぶんぶん揺らす。
「ぐ~~~すぴー」
「何よ、役に立たない女ね!アタシは神よ、神に逆らうなっつーの、おら!」
ゴツン!!!
(痛い!)
沙織に頭突をされた香織だが、寝たフリから起きるのも厄介なので、
気絶したフリをした。
「あれ?香織、大丈夫?」
かけ寄って来た遠山に心配してもらう香織に、沙織は歯ぎしりしている。
まずい。この流れだと、沙織は遠山くんにいきなり告白をして、
自分の存在をアピールしそうだ。
厄介~~~~!
沙織が本当に神だとしたら疫病神。どうしたものか。

「みんな!まーくんに注目してあげて!」
ナイスタイミングで、笹井さーくんの声がした。
相変わらず「ロボット」をやり続けている山崎を指さしている。
「あ、そういや山崎のこと忘れてたよ~!ごめんごめん」
香織はすかさず、寝たフリから目を覚まし、
話題の中心を「沙織の告白」から「山崎ロボット」へ戻した。
「ねえねえ、山崎ってさ、なんでミスター・ロボットなわけ~?」
もはや山崎ロボットへの興味は失せていたが、この場合役立つ。
「まーくんはロボットになることで、自分の本当の気持ちを伝えようとしているんだ!」
ロボット山崎の、心の通訳を買って出ている笹井が真剣に言うが、意味不明。
しかしこの話題はキープしたい。
「本当の気持ちを伝えるためにロボット化するって意味ワカンナイけど、
 いいんじゃない?」
「そうだよね!さすが香織、オレもいいと思う!」
笹井が握手を求めてきたので、しょうがなく握手していると、
「あんた達、もうロボットはどうでもいいわよ!」
またまた沙織が、自分に注目してほしい的な発言をするが、だとしても真実。

「そんなことより!これから歴史的出来事が起きるわよ!アタシはね、今、
 遠山クンに告…」
「あ、沙織!まーくんを見て!これからものすごいことが起きるよ!」
またもナイスタイミングで、笹井がまたまた山崎を指さす。
見ると、山崎の動きが、ロボット率をアップさせていた。
カクカクというより、ガクガクとした動きだ。
「何よ!さっきからキモいのよ!キモい山崎、キモザキ!」
沙織がキレまくる。
すると、一瞬動きを止めた山崎。
しかしすぐさま、さらなるキモいロボット率で、なんと今度は歌い出した。

♪僕には秘密があるんだ
 この皮膚の下に隠されているのさ
 僕の心は人間 
 僕の血は燃えたぎっている
 でも僕の頭脳はIBMさ
 だから僕の見かけが行動が変でも驚かないで
 僕は誰かを必要としている、ただの男さ

 
「みんな!まーくんが本当の自分を伝えてるよ!」
笹井がぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。
優しい遠山も「山崎、その調子だ!」とアツく応援している。
なんだか青春ぽい男子3人。

「でもさ。肝心の『秘密』を言ってないじゃん」
香織がうっかり水を差す。
「その『秘密』を伝えたいんでしょ?伝えたくない本当の『秘密』なら、
わざわざ『僕には秘密がある』とか言わなくない?やっぱめんどくさいよ山崎」
「てかキモいわよ!キモザキ!そんな変なロボットの動き、
 ぜんぜんセクシーじゃないしね!」
完全に女子ウケしない山崎。

かたや男子の応援、かたや女子のディスりに挟まれた山崎は、
どちらに向けているのは分からぬが、さっきよりも大きな声で歌う。

♪時はついにやってきた
 このマスクを取り去る時が
 みんなが本当の僕を見ることができるんだ
 本当の僕の姿を…
 僕は………キルロイ!キルロイ!キルロイ!

ついに本当の心をさらけ出した山崎は、声を枯らして絶叫している。

♪キルロイ!キルロイ!キルロイ!

「まーくん!おめでとう!本当の自分を伝えたね」
「そうか山崎…キルロイだったんだ…!気づかなくてゴメン」
笹井と遠山が目に涙を浮かべながら、山崎に駆け寄った。
男子2人に囲まれた山崎は、涙をこらえつつ、なお叫ぶ。

♪キルロイ!キルロイ!キルロイ!

声がかすれて、ハスキーボイスになりながら、それでも叫ぶ。
本当の自分を伝えるために…。

「は~~~?何キルロイって、よけい意味分かんないんだけど」
「キルロイじゃなくて『黄色い』って言ってるんじゃないの?サングラス黄色いし」
「キモイ、って言ってるのよ。自覚したのよキモザキ」
「黄色い、だよ。だって泣きながらトウキビ食べてた時、
 顔じゅう真っ黄色だったんだよ」
「どっちにしてもダッセ~~~!ぎゃははは」
香織と沙織は、珍しく意気投合しながら爆笑していた。

そうこうしているいうちに「ミスター・ロボット」の曲が終わり、
山崎の尻ポケットから、次の曲が流れ始めた。
只今の科学的とも言える「ミスター・ロボット」から打って変わって、
ゆる心地よい、なんとも人間ぽいリズムとフレーズ、
こ、これは…ロッドスチュワートの「アイム・セクシー」ではないか!

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「まーくん!このまま、もっと伝えるんだ!みんな!
 次の歌がまーくんの『秘密』だよ!」
笹井がぴょ~んと、さらなるハイジャンプで山崎を励ます。
「そうだよ!今の山崎ならできる!歌えるよ!」
遠山も、アツい声援を送っている。

「ま、まさか山崎、今、声がかすれてるのをいいことに、この歌、歌うつもり?」
香織が大慌てで言ったが、時すでに遅し。
ガラガラにかすれた声の山崎が歌ってしまった。

♪シュガー シュガー

「ぎゃ~~~!やめてよ!キモザキすぎる!」
卒倒しそうな沙織と香織の目の前で、山崎は、
ポケットにカセットウォークマンが入った尻を、プリプリと振り出した。

(つづく)
 
 

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