コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ハロー・イッツ・ミー」その2 トッド・ラングレン


~恋バナの罪~
「ハロー・イッツ・ミー」その2トッド・ラングレン

♪ ハロー、罪だよ…。

山崎の反省歌が、雲の隙間から漏れて来る。
とはいえ、山崎がいるのは空の彼方なので、追いかけようにも追いかけられず、
噴水の中にいた3人は、
とりあえず歌が聴こえる方向に耳を傾け、水からあがってきた。
濡れ鼠トリオは、びしょ濡れのまま、あんぐりと口を開けて空を見ている。
それを見た香織は、腹を抱えて笑った。
「わははは、あんた達、濡れすぎ!しかも黄桜、飛びすぎ歌いすぎ!」
「まーくんは、反省を歌にしたんだ!」
「なんで歌にする必要があるの? わははは」
笑い続ける香織をよそに、笹井は、空に向かって、手を振っている。
「まーく~~~~ん!誰も笑ってないから安心して!早く戻っておいで~~~!」

♪ ハロー、僕だよ…。罪だよ…。

山崎の歌声が、微妙に返事をしている。
「わははは!黄桜、なに手の込んだ反省してんのよ。よけい迷惑なんだけど」
香織が悪丸出しでそう言うと、
遠山はあきらかに「それはひどい」という目で香織を見た。
「でもちゃんと歌って反省してるべや」
「反省するならちゃんとみんなの前でやんなくちゃダメだよ。
 歌ってる場合じゃないよ」
しかし遠山は、笹井と一緒に手を振りながら、山崎に叫ぶ。
「山崎~~~!誰も怒ってないから戻っておいで~~!」
「怒ってるわよ!なに飛んでるのよ!」
沙織がキレたので、もはや香織は沙織側につく。
「だよね~飛ぶか普通。しかもあれは笹井のロプロスじゃん。黄桜、横取り?」
「ロプロスじゃなくてササイスミスよ!」
「それは、どっちでもいいけど」
「よくないわよ!アタシのKAPで現れたんだから、本来はサオリスミスなんだから!」
「え。本来はバンドのロゴが現れるって、さっき言ってなかった?
 じゃ、ロボトミーズスミスじゃないの?」
「そ、それは…ロボトミーズ=アタシってことよ!」
香織に揚げ足を取られた沙織は、唇をギリギリと噛んでいる。唇を噛み切りそうだ。
「はいはい。そうですね」
流血したらめんどくさいので、香織はそう答えた。
すると、すかさず笹井が、
「え?ロボットミーって、沙織のことだったの?オレ、バンド名かと思ってた!」
と、驚いた顔をして言った。
「笹井…。この期に及んでそんな間違え方…。笹井だからしょうがないけど…」
香織は、笹井を笹井として判断する。
「笹井はきっと、ロボトミーズは沙織だけのものじゃなくて、
 オレ達みんなのものだって言いたいんじゃないかな」
遠山が会話に参加してきた。会話というか、翻訳で。
「違うわ!笹井は、アタシあってこそのロボトミーズだって言ってるのよ!」
案の定、沙織はそう言った。会話というか勝負で。
「でもオレ、沙織ならなんでも好きだよ!えへへ!」
笹井の目がハート型になって、キラキラと輝いている。
その異常な状態を含め、遠山が翻訳する。
「沙織がボーカルであるロボトミーズが、
 目がハートになるほど好きだと言っているんじゃないかな」
「遠山クン、笹井はストレートに沙織に恋をしていると言ってるんだと思うけど」
香織がそう言うと、
沙織は完全なるどや顔でベンチに座り、女王様のように足を組んだ。
「アタシに恋をしてしまうのはしょうがないわよ。
 たとえ笹井でも、アタシの魅力の虜になる権利はあってもよくってよ」
「わ~~~~~い!」
笹井がぴょんぴょん飛び跳ねて、
「オレ、沙織ならなんでも好きなんだ!
 沙織がロボットでも沙織がロボットミーズでも沙織が沙織でも」
と、ハートeyesでぴょ~~~んと飛び跳ねた。
本当におかしな趣味の笹井に、
「沙織が沙織でも」という部分をついつい深読みしたくなる香織。
「あんな沙織を好きな、こんな笹井」と読み取る。
笹井は笹井なので、ただただ喜び、遠山の周りをくるくる回っている。
濡れた服から水しぶきが飛び、笹井を中心にした辺りが洗濯機のようになっている。
「笹井、水飛ばすなよ!」
遠山がちょっとムッとしている。
「あ、安心して、だってもちろん、遠山クンもアタシに恋をする権利があるのよ」
遠山がムッとしているのはソコではないのに、
何気に遠山に「自分を好きになれ」と脅している沙織。
「え?遠山にも権利があるの?
 じゃ、沙織に恋をする権利はみんなにあるってこと?」
「香織にはないわよ!」
「そうか。オレ、男でよかった!」

あたりまえじゃ!と香織は全身で表現しながら思った。
このメンバーは演奏はできないにせよ、バンドメンバー。
音楽でつながるメンバーなはずなのに、この中ですでに恋愛4角関係になっている。
これでは、バンドをやるために集まった意味がない。
バンドの練習をする前に色んなことがありすぎたうえに、
ただの恋愛模様になってしまった。
「わーい!よかったね遠山!オレら、沙織に恋をする権利があるんだよ!」
遠山に水しぶきが飛ばないように、自分の服を絞りながらくるくる回る笹井。
ドロドロした恋愛関係を越えた所に笹井はいる。
笹井こそ、本物のロックンローラーなのかもしれないと、香織は思った。
「笹井は、権利はあるけど、権利を乱用する権利はないのよ!
 このアタシに片思いする権利はあるっていうだけだからね!」
沙織が女王様ポーズを崩さずにそう言った。でも遠山をチラ見している。
しかし遠山は、沙織の熱い目線に気づかずに、自分の服を絞っている。
笹井は、自ら沙織の視界に入るようにのけぞっている。
もちろん、遠山と対抗意識を燃やしているわけではなく純粋に。
「うん!いいよ!オレ、片思いででも両思いでも、沙織が好きなんだ~!えへへ」
「笹井がアタシと両思いになるのは100万年早いわ」
「えっ?オレ、100万年も生きれるかなあ~。でも100万歳目指して頑張ろう!オー!」
そんなに沙織のことが好きだなんて、
笹井はロックンローラーなうえに、死をも越えたデスメタルだ。
「頑張らなくてもいいわよ!あんたは一生アタシに片思いなのよ」
「うん!いいよ!オレ、権利があるから大丈夫!」
「だから~~!笹井は、遠山クンみたいな権利は…」
沙織がしつこく
「笹井ではなく、遠山は自分を好きになれ」という解釈をするべく脅しをしていると…。

♪僕のことを思って…

「あ、まーくん!」

とり急ぎ笹井が山崎の名を呼んだが、本当はすっかり忘れていたに違いない。
いや、笹井だけではなく、ここにいる全員が、忘れていた。
きっと「恋バナ」というものは、他の事柄がぶっとぶくらい、
夢中になってしまうものなのかもしれないが、だとしても、
あんなこと(水の中から現れたロボットふうなものと合体し
空の彼方に飛んで行く)があったというのに、
普通に忘れ去られる山崎って逆にスゴい。
香織がちょっと感心していると、再び歌声が聴こえた。

♪僕のことを思ってほしい…

Photo

「え~~?反省中なのに僕のことを思えって、図々しくない?」
香織があきれていると、遠山が大きく首を振り、
「山崎!大丈夫か~~~~~?」
と、心配顔で叫んでいる。
自分も忘れていたくせに…。
その横で、ムッとした顔で女王様ポーズをキープしている沙織。
きっと沙織は、さっきの流れで、遠山にもっと自分をアピールしたかったのに、
話を中断させた山崎を許せないのだろう。
「ま~~~く~~~ん!戻っておいでよ~~~!沙織もそう言ってあげて!」
沙織は、笹井の誘い?を無視している。
沙織にとって山崎の件は、もはやどうでもいいことなのである。

♪できることなら一緒にいたい…

「ほら、まーくんがそう歌ってる!
 ホントは一緒にいたいんだよね、ま~~~く~~~ん!」
「さんざん逃げておいて、今更一緒にいたいって、
 やっぱり図々しくない?飛んだくせに」
香織がまた山崎をディスると、
「でも、まーくんにチャンスをあげて!フレー!フレー!ま、あ、くん!」
笹井が正義魂を燃やしていた。
「それフレッフレッまーくん!フレッフレッまーくん!わ~~~!」
遠山も、笹井と共にエールを送っている。
ふたりは耳を澄ましているが、それに対するアンサーソングが返ってこない。

「ダメだ…。まーくんが歌わなくなってしまった…」
がっくりと肩を落とす笹井…。
すると、その肩が突然、肩パットのようにシャキーン!と動いた。
「そうだっ!沙織!沙織に恋をする権利、まーくんにもあるよね?」
「はあ?」
「ま~~~く~~~ん!沙織がチューしてくれるって~~~~!」
「はあああああ?ちょっと笹井!なに勝手なこと言ってんのよ!」
沙織が笹井を羽交い締めにして怒っている。
「このアタシが、キモザキ黄桜にチューなどするわけないでしょーが!
 1000万年早いんだよ!」

♪僕のことを思ってほしい…

空の上から、山崎が歌った。

♪僕のことを思って
 僕のことを思って
 僕のことを思って…

「黄桜…ぜんぜん反省してなくない??」
香織はそうつぶやいた。

 

つづく。


◆森若香織 インフォメーション

gobangs_flyerA4_130823out■GO-BANG’S 森若香織 ワンマンライブ

『スペシャルGO-BANG’Sショー』

・
2013年12月4日(水)【渋谷】duo MUSIC EXCHANGE
時間:OPEN 18:30 START 19:30

料金:自由席 5,500円 / 立見 5,000円(各税込/1D別)
チケット:
・チケットぴあ(Pコード209-932)

・ローソンチケット(Lコード72401)

・e+(http://eplus.jp/
出演:
森若香織(Vo/ GO-BANG’S)、白井良明(Gtr/ムーンライダーズ)
、會田茂一(Gtr/FOE)、佐藤研二(Ba/ FOE)、小松正宏(Dr/ bloodthirsty butchers / FOE)、村原康介(key)
、ゆうき(cho/ ダイナマイトしゃかりきサ~カス)、たろう(cho/ ダイナマイトしゃかりきサ~カス)


■GO-BANG’S25周年ベストアルバム
『スペシャルGO-BANG’S』

2013年5月25日~
ポニーキャニオンショッピングクラブ/全国CD店/Amazonにて発売中!
http://gobangs.com/

 
 
◆森若香織 オフィシャルサイト
http://www.moriwaka-kaori.com/
◆森若香織 オフィシャルブログ
http://ameblo.jp/moriwaka
 
◆GO-BANG’S オフィシャルfacebookページ
https://www.facebook.com/gobangs.official