コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「チェリー・ボンブ」ザ・ランナウェイズ


~沙織爆弾~
「チェリー・ボンブ」ザ・ランナウェイズ

「何さ。神であるアタシの前に立つんじゃねーよ」
神とは思えぬ下品な言い回しで、沙織が山崎にガンをとばす。
さっきのヴァン・ヘイレン替え歌の時みたいに、
「お前は神じゃない」などとすぐさま言い返せば、
ロックミュージカル第二幕感が出るのに、山崎は無言。
「…」
じゃ、なんで沙織の前に立つんだっつー話だ。
と、香織は思ったが、とりあえず見守ることにした。
正直、山崎が沙織にキレる様子を見てみたいとも思っている。
だって山崎はめんどくさい。
黙り込んだり逃げ出したりするたびに、
こっちが山崎のことを察したり、追いかけたり、気を遣ったりするのがめんどくさい。
だったらその「本当の気持ち」とやらを、ぶちまけてくれたほうが良い(面白い)。
遠山と笹井も固唾を呑んで様子を見ている。

沈黙が続く。
ついに痺れを切らしたと思われる沙織が、
山崎の額にオラオラ顔でにじり寄る。
が、双方まだ無言。
沈黙タイムが長過ぎてちょっと飽きてきた香織(ひどい)が、
うっかりアクビをしそうになった瞬間、笹井が大慌てで忠告した。
「香織、しゃべらないで!今はまーくんにしゃべらせてあげて」
「ふああ、しゃべってないよ。てかあんたもしゃべってんじゃん」
「あ、ほんとだ」
自分の口にチャックをする笹井。
そのジェスチャーがバカバカしくて笑えたので、
香織は笹井の口チャックを開ける。
「あ、開けないでよ」
「しゃべった。開けたらしゃべるんだ。したっけもっかい閉めてみよ」
笹井は口にチカラを入れて息を止めている。
しばらくその顔を見ていると、笹井は息ができなくて顔を真っ赤にしている。
「あははは笑う~、あんたやっぱ面白いわ笹井」
「ぷは~!はあはあ」
笹井が息を吹き返した。
「ダメだよ香織!まーくんを笑わないで!」
「山崎のことは笑ってないよ、あんただよ」
「なんだ、そうか。ごめんあはは」
遠山が、笹井と香織の口にチャックを閉めた。
「お前ら、もうちょっと待ってやれよ」
(スミマセン…)
耳元で遠山に怒られた香織が、ジェスチャーで謝る。
(あんたのせいよ)香織が笹井の頭を叩く。
(しゃべれないから謝れなくてごめんね)と笹井、必死のジェスチャー。
(ぶははは、必死すぎる!)と香織がウケる。
(だから静かにしろって)遠山のジェスチャー。

あいかわらず山崎にガンをとばしていた沙織が、
ギロリと3人を睨んだ。
ぎくり!
(怖すぎる!)
というジェスチャーをするのも憚られるほどの形相。
神宣言をしているはずの沙織は、地獄代表というくらいの鬼顔だ。

目を血走らせ、感情を漲(みなぎ)らせている沙織は、
口は閉じているものの鼻の穴をふくらませ、
肩で大きく息をしている。
今にも爆発しそうだ。
憎しみ、怒り、苛立ち、
すべての爆発要素が、沙織の中に充満しているのが分かる。
おそらくこの沙織の爆発要素は、山崎だけにではなく、
ここにいる全員に向けられているのだろう。

そう思った香織は、咄嗟に沙織のメンバーキャラ分析の分析をしてみた。
「あんたたちがアタシを置いて勝手にドタバタやってること、
 アタシは許さないからね!」
ということは、
沙織は私達の「ドタバタ劇@大通公園」の一部始終を見ていたってことか。
「アタシは今日から、ヴォーカリストじゃなくて神になることにしたのよ!」
ボーカリストとしての才能はないと自覚したってことか。
「笹井はドラマーじゃないのはもちろん、神でも教祖でもない、ただのバカだしね!」
確かに。笹井はバカゆえの宇宙ゆえ、神や教祖に見えてしまうことが多々ある。
「遠山は腹黒い、香織は生意気女」

そうだ。
このところ笹井の言動があまりにも衝撃的すぎてすっかり忘れていたが、
遠山くんは、一応私の彼氏なのだ。
私に遠山くんを取られたことを、沙織は薄々、
いやもしかしたらはっきりと気づいているのかもしれない。
「それに山崎はただのビビリ…」
香織が分析する前に沙織が声を上げた。

「山崎!あんたはアタシのパンク対決から逃げた。何が『ラナウェイ・ボーイ』だ!
 あんあたはただのビビリ!ロカビリーじゃなくてビビビリーなんだよ!」
「うまい!」
と言いそうになって口チャックの上に指でバッテンをする香織。
ふと見ると、遠山と笹井も自分の口にバッテンをしている。

とっとと言い返せばいいのに山崎は案の定無言…と思いきや、
山崎の口元が微かに動いている。
「僕は…僕の…」
「あんだよ、ぼくぼくうるせーよ!」と沙織。
(まーくん、がんばって!)と笹井のジェスチャー。
「バカ笹井!おめえも黙ってろ!」
「え?オレしゃべってないよ、身振りだよ」
遠山と香織がLRで笹井の頭を叩いた。
その叩き音が「ゴング」のような効果を表し、
沙織の爆弾が爆発した。

「コルアああああ~山崎、いいか!アタシはバンドをやりたいんだよ!アタシがメンバーを集めたロボトミーズっつーパンクバンド、しかもニューヨークパンク!お洒落なのよお洒落!なのに、あんたが暗くてダサくてめんどくさくて軽音部に入れてくれないから、アタシ達はいつまで経っても練習もできなくて、いつの間にかオールジャンルの替え歌みたいな訳の分かんないことになってんのよ!どーしてくれんのよコノヤロー!」

それが沙織の爆発であった。
たまげた。
沙織の言っていることは正しいのであった。
笹井の「替え歌能力」は素晴らしい。
しかしもしかしたら、このバンドをやることについて一番ピュアなのは、
まさかの沙織だったのではないだろうか…。
香織は、ほとんど初めて沙織に好印象を持った。
遠山もちょっと驚いた顔で頷いている。
そしてそして笹井は、目がハートになっている。

笹井は、沙織のこんなピュアな部分に初めから気づいていて(偶然)、
だからずっと沙織に恋をしているのかもしれない。
笹井のハート光線を浴びる沙織は、
自分がモテおよび好印象を持たれたことを知ってか知らずか、
勝ち誇った顔で歩き出し、なぜか噴水の前でポーズをとっている。
眉間ギリギリで脅されていた山崎は、
噴水前に移動した沙織にさぞやホッとしているかと思ったが、
沙織を追うように何か言っている。
「キミは僕の本当の気持ちを分かってない、僕は僕の僕が…」
山崎が「本当の気持ち」とやらを言い始めようとしたが、沙織はそれを遮る。
「あんたの本当も嘘も、知ったこっちゃないわ!」
「でも僕は、僕は…」
「うざい!ここはアタシのステージよ!」
と、シャウトした沙織は、
なななんと、自分の服(ガーゼシャツなど)を脱ぎ出したのだ。
「ちょっと!何やってんの?ストリッパー?」
「え?沢田研二?」
女子として慌てて沙織に駆け寄る香織と、
笹井らしいことを言う笹井。
ギョッとしながらもちょっと嬉しそうな遠山。

もう遠山くんったら。
と香織は思ったが、取り急ぎ大目に見ることにした。
なぜなら、服を脱ぎ捨てた沙織は、
ランナウェイズシュリー・カーリーみたいな下着姿でポーズをとっていたのだ。
「すごいじゃん沙織!」
「ふん、こんなのちょっとした私服よ。アタシは私服が衣装なのよ!」
そしてこうも言い放った。
「みんなよく聞きな!もはやこのバンドにジャンルはない!そもそも楽器も弾けない!口(くち)演奏のエアバンドよ!だったらアタシは普通のバンドのヴォーカリストを超えた神として歌うだけだわ!山崎、あんたは神であるアタシのためにぼくぼく言ってりゃいいのよ!ほら、ビビってないで早く言いなさいよぼくぼくぼくぼくぼく!」

「ぼ…ぼ…」
真面目な山崎には刺激が強すぎたのか、
悩殺下着姿の沙織に「僕」とも言えなくなっている。
「ビビってんじゃねーよ山崎!あんたは『ラナウェイ・ボーイ』で逃げたけど、アタシはここで『ランナウェイズ』!軽音部よりすごい『チェリー・ボン部』よ!」

「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、僕…」
「だからビビってないでもっとでっかい声で!リズミカルに言いなさいよ!」
そう言いながら腰をくねらす沙織の悩殺ポーズにさらにビビったのか、
はたまた挑発されたのかは定かではないが、
山崎は大声を出した。
「ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

それは強制的に「チェリー・ボンブ」のイントロ風になった。
そして、沙織は歌い出す。

♪家にいるのはつまんなーい
 学校行くのもつまんなーい
 おっさん説教ばっかりー
 アタシはメギツネ次世代ガール
 ハロー沙織 ハロー神
 どうよササササササ サオリー・ボム!

なんということだろう。
英語歌詞が苦手な沙織はもちろん日本語で、
しかも「CHERRY BOMB」が勝手に「SAORY BOMB」になっている。
笹井の歌とはまったく違うグルーヴ感、ぶっちゃけ下手くそ。お経のようだ。
しかしそうか。
この曲は、はっきりとメロディーラインを歌わなくともイケるっちゃイケる。
沙織は「超イケテる」と信じ込んでいるかの如く気合いだけは入りまくっており、
激しいお経BOMB。
ガーターベルトと穴空き網タイツで、基本アクションはガニ股!

「ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、ぼーく!」
山崎がさらに声を上げる。うっすらノっているようだ。
ハートEyeの笹井が狂喜乱舞しながら、
「さささささささ~、笹~井~!」
とマサイ族ジャンプをし、
時々気の利いたドラム口(くち)の「おかず」が入る(偶然)。
沙織は、ガニ股からのヒンズー・スクワットみたいな動きで歌う。

♪アタシは今を生きてるー
 さあ、アタシをつかまえなよー
 最悪な夜のティーンエイジ・ブルース
 がっかりさせんなコノヤロー
 ハロー沙織 ハロー神
 ほらサササササササ サオリーBOMB!

「ぼぼぼぼぼぼ、ぼーく!」
と一人でリズムをキープする山崎をサポートするように、
遠山がベースの口(くち)演奏を始めた。

遠山くん…。
となるとここはギターソロを入れるべきである、と思った香織は、
口(くち)演奏でのリタ・フォード役、
さらにはサイドギター口(くち)でのジョーン・ジェット役、二役をこなす。

5人での演奏(お経、口、偶然)は、
虹色に吹き上がる噴水の演出効果も加えられ、もはやノリノリ。
曲はそのまま転調。
すでにバンド自体が爆弾的楽しさ!
そして最後のサビ突入!

サオリーBOMB!
笹井ーBOMB!
カオリーBOMB!
トーヤマーBOMB!
マークンBOMB!

トウキビワゴンから流れて来る音楽ではなく、
新しい音楽が、バンドが生まれた瞬間であった。

(つづく)






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