コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「涙のラナウェイボーイ」ストレイ・キャッツ


~噴水ロカビリー~
「涙のラナウェイボーイ」ストレイ・キャッツ

「それ以上近づくな!」
山崎(黄色)が叫んだ。
食べかけのトウキビをマイクのように持っている。
笹井は黙って頷き、しかし未だ鳴り止まない
「マ・ベーカー」のアノ部分が来ると、反射的に歌いだす。

♪「まままま、まーくん!」

笹井のまーくんコールに、山崎が再度叫ぶ。
「それ以上歌うな!」

そりゃそうだと、香織は思った。
「笹井、もう歌わなくていいよ。それに『まーくん』って言ってるわけじゃないから」
香織がそう言うと、笹井は口を手でふさいで頷いた。

大通公園の平和な景色が、緊迫する4人を包む。
ちょっと歩けば集合できる距離なのに、
山崎は、その距離が縮まるのを拒んでいるようだった。
口をふさぐ笹井はもちろん、誰も話し出そうとはしない。

香織は考えた。
分かりやすい沙織と違って、山崎は謎が多すぎる。
というかめんどくさい。
だいたい山崎はなぜ泣いているのだろう?
泣くほどの心が、どこに向かって動いているのだろう?
ここはやはり、ちゃんと話し合わねば…。
めんどくさいけど!

「山崎、聞きたいことがあるんだけど」
そう言ったのは遠山だった。しかも呼び捨てで(仲間意識アリ)。
さすが遠山くん!よし。ここは遠山にまかせよう。
香織は信頼と尊敬のまなざしで遠山を見た。
遠山も「オレにまかせろ」という合図をくれる。

「山崎、どうして…」
「言うな!何も聞くな!」
遠山の質問にかぶりぎみで山崎がまたも叫んだ。

「ちょっと、せっかく遠山くんが話しかけてるのに最後まで聞きなさいよ」
思わず香織がそう言うと、山崎は香織達にぐるん!と背を向けダッシュした。
「あっ!逃げた!」
「待てよ山崎!」
遠山が、山崎を追いかける。
しょうがなく香織もあとに続く。
「もう、意味わかんない、あいつなんで逃げるのよ」
「泣いてるとこ見られたのが悔しいのかな」
「だったら泣かないでちゃんと話せばいいのに、マジめんどくさいんだけど!」
「あれ?笹井は?」

走りながら振り向くと、笹井はまだ手で口をふさぎながら止まっていた。
しかし、心配そうな目でこちらを見ているのが遠くからでも分かる。
「笹井~~~!走れ~~!誰もだるまさんが転んだやってないから!」
香織が叫ぶと、笹井の顔がみるみる笑顔になっている。
「ホント?わ~~~い!」
「山崎追いかけてよ~~!あんた走るの速いんだから~~~!!」
「オッケ~~~~~~!」
と、笹井が走るやいなや、
ただごとではないスピードであっという間に香織達に近づいた。

「みんなに接近!」
笹井は、嬉しそうに爆笑している。
「笹井、笑ってる場合じゃないわよ。とっとと山崎をつかまえて!」
「うん!まーくんはオレがつかまえるから大丈夫!」
「逃がすんじゃないわよ!」
「うん!だってまーくん、ホントはつかまえてほしいんだと思うよ」
「なにそれ!やっぱめんどくさいやつ!」
「まーくんは今、走りながらオレらを待ってるんだ」
「いや~~~~むかつく~~!
 私、こうなったら山崎の心の闇を暴いてやるわ!めんどくさいけど!」
「闇ってか病みだな、きっと」
さすがの遠山も、ちょっとめんどくさがっているようだ。

「まーくんの心は危険信号を出しているんだ。だから黄色いんだよ」
笹井がそう言った。
「黄色いのはトウキビとグラサンのせいよ!」
「え?そうなの?」
「いいから笹井、早く山崎つかまえて!」
「がってんしょうちのすけ~~~!」
そして笹井は風に乗って走って行った。

遠くに見える山崎に、カモシカのような笹井がぐんぐん近づいて行く。
「すごい!笹井、もう山崎に追いついてるわ」
「ホントだ、すげえ!」
驚愕する香織と遠山。
山崎と笹井は、すでに次の噴水付近にいる。
笹井は瞬く間に山崎に追いつき、その手をつかんだ!
…と思いきや、なんと、山崎が持っていたトウキビをパッと手にし、
猛ダッシュで山崎の前を走っている。
戸惑う山崎。そりゃそうだ。

「追いこすなバカ笹井!リレーじゃないんだから!リレーにもなってないし!」
「笹井!トウキビはバトンじゃないぞ!」
香織と遠山の声にハッとしたのか笹井は立ち止まり、くるりとこちらを向いた。
おそらく山崎と目が合っている。
山崎はまごつき、とっさに香織達のほうを見た。
前方に笹井、後方に香織と遠山、身動きの取れない山崎は冷静さを失ったのか、
あろうことか近くにあった噴水に飛び込んだ!

バッシャ~~ン!
「バカ山崎!何やってんの!」
思わず「バカ」よばわりする香織。
「まーくん!今行くよ!」

バッシャ~~ン!
そして笹井も飛び込んだ…。
「ダブルバカ…」香織は脱力した。

香織と遠山がやっと噴水に到着すると、
笹井は噴水の水しぶきの中を懸命に泳いでいた(平泳ぎ)。
山崎は膝まで水につかりながら、丸い噴水の中をぐるぐる走っている。
その光景は、まさにめんどくさい光景であった。
「山崎!つかまえてほしいんなら、ちゃんとつかまりなさいよ!
 笹井はあんたのために泳いでるんだよ!」

山崎は、さっきまで泣いてたくせに、
いつものふてぶてしいキャラで逆切れした。
「ふん、誰もつかまえてほしいなんて言ってないさ」
「あんたホントにめんどくさいわね!泣き虫なくせに!」
「泣き?誰が?僕が泣くわけないじゃないか。
 あれは噴水の水しぶきがかかっただけさ」
「嘘だね、あんた泣きながらトウキビ食べてたじゃん。
 沙織や笹井のパワーに負けて悔しかったんでしょ」
「ちがうよ!」
笹井が、息継ぎのタイミングでそう言った。
「まーくんは!」
~水中~
「おなかが!」
~水中~
「すいて!」
~水中~
「たんだよ!」

「笹井、泳ぐな〜〜!」
香織の号令に、笹井は泳ぎをやめようとするが、なぜか、泳ぎが止まらない。
「ぶはっ!なんかオレ、ぶはっ!溺れてるかも!」
「え?それ泳いでるんじゃなくて溺れてるの?」
遠山が慌てて笹井の腕をつかもうとし、
香織が遠山の肩に手をあてて覗き込む。
「こんな浅い所で溺れるわけ…きゃ〜!」

バッシャ~~ン!
笹井に引っ張られた遠山と、
それに巻き込まれた香織も噴水の中へすってんころりんと転げ落ちた。
と同時に、噴水が華麗に吹き出し、美しい噴水ショータイム!
溺れていた笹井を助け出した遠山と香織が呆然と立ちすくんでいると、
弧を描く水しぶきにまぎれて、山崎が再び逃げて行くのが見えた。

「や~ま~ざ~き~!」
「待ちやがれ~~!」
「ま~~くうううん!」
香織、遠山、笹井は、意地でも山崎をつかまえようと、
ずぶ濡れのまま再び山崎を追いかける。
水をしたたらせながら走る3人の髪の毛は全員オールバック。
風を切り、そんなオールバックを振り乱しながら走っているうちに、
髪は半乾きになり、自然とリーゼントのようになってきた。

すると、あちこちにある「とうきびワゴン」のラジオから、
ストレイ・キャッツの「涙のラナウェイ・ボーイ」が聴こえてきた。
ロカビリーのシャッフルビートに乗って、ずぶ濡れのわりにリズミカルに走る3人。

笹井は、耳に水が入っているらしく、片手でアタマをポンポンと叩き、
片足でトントン飛びながら走っている。
それゆえ、さっきまでの駿足ではないのだが、
そのポンポン&トントンが、ウッドベースの音と合っている。
「むわ~~~ぐうううううううん!」
バッドーボーイ的ワイルドな笹井のシャウトに、山崎がちらりと振り向いた。
「あ!山崎もリーゼントだ!」
「似合ってねー!」

♪お前はどこに行く
 逃げる男子
 暴走男子

遠山「なんか山崎、さっきより走るの速くないか?」
笹井「まーくんが速くなったのは、リーゼントだからだよ!」
香織「それを言うなら私達だってリーゼントよ!もっと速く走れるわ!」
笹井「分かった!じゃ、みんなオレにつかまって!」
と、笹井が遠山と香織の腕を引っ張り、その拍子に3人はすっ転んでしまった。

香織「いた~~~い!何すんのよ!」
笹井「みんなごめんなさい~~もっと速く走れるかと思って…」
遠山「イテテ、あ、でもオレら全員なんか入れ墨っぽくね?」
見ると、濡れていた3人の腕が泥だらけになり、それが何気に入れ墨ぽくなっていた。
香織「よし!リーゼントなうえにタトゥー!最強だわ!」
遠山「大通公園はロック・タウンだ!」
香織「これで絶対山崎をつかまえる!ぶっ飛ばせ!ティーンエイジ!」
笹井「まーくんをつかまえても怒らないでね!悪気はないんだよ!」
香織「いいえ悪気よ!速いし暗いしめんどくさいし、もうあいつ自体が犯罪よ!」

♪もっと速く走るんだ
 もっともっと速く
 お前の若さ、それ自体が罪
 神様はそれを罪だと知っている

「山崎~~~~!逃げるな~~~~!!」
本当は心底めんどくさいと思いながらも、3人はラナウェイ山崎を追いかけた。

(つづく)






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