コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ユー・リアリー・ガット・ミー」ヴァン・ヘイレン


~沙織神~
「ユー・リアリー・ガット・ミー」ヴァン・ヘイレン

偶然コーディネートされたロカビリーファッションの3人は、
ラナウェイボーイ山崎を追いかける。
はるか前方にいる山崎は、ものすごいスピードで走っている。
「なんつー速さ!」
「向かい風で、まーくんのリーゼントがますますリーゼントになってるからだよ!」
笹井の発言に納得してしまうほど、確かに山崎はどんどん速度をあげてゆく。

「笹井、あんた走るの速いんだから先に行ってつかまえてよ!」
香織が声をかけると、なぜか笹井はハッとした顔で、急に立ち止まった。
その背中に香織と遠山はつんのめるようにぶつかる。
「ちょっと!急に止まんないでよ」
笹井は返事をせず、前方を見つめている。

「笹井、どうした?」
遠山の声にも返事をしない笹井。
「笹井…?ついに電池切れ?」
香織が笹井を覗き込むと、笹井は驚いた顔でこう言った。
「え?オレは電池で動いてないよ」
「分かってるよ。でもどうしたの?」
「みんな!あれを見て!」
みんな、といっても香織と遠山しかいないのだが、笹井が指差す方を見ると、
そこには、走る山崎の背中。
「山崎じゃん。私達は山崎を追いかけてるんだから当然じゃん」
「ちがう!まーくんのずーっと先を見て!」
「ずーっとって、大通公園の景色じゃん」
「ちがう!いる!」
「え?何が?」
「てか走ろうよ、山崎、見えなくなっちゃうべや」
香織と遠山が笹井の腕を引っ張ろうとするが、
笹井は仁王立ちで、指を指したまま動かない。

「みんな!もう走らなくても大丈夫だよ。まーくんはもうすぐ立ち止まる」
「は?なんで分かるの?」
「だからみんな!あれを見て!」
笹井が再びそう言う。人差し指の伸ばし方が自信満々。
「だから走る山崎じゃん!だんだん小さく見える…あれ?」
「小さい山崎…立ち止まった?」
「ホントだ。止まってる…」
香織と遠山が思わず顔を見合わせる。
しかし笹井は、まっすぐ前を向いている。そして満ち足りた顔でこう言った。
「まーくんには見えてるんだ」
「何が?何を?」
「何かが見えたから、立ち止まったってこと?」
笹井は微笑み、ゆっくりと頷いた。
ここからは、じっと動かない山崎の小さな後ろ姿しか見えない。
その先に何かが「いる」のか?
山崎には何が見えてるというのだ?
そして笹井にも、それが見えてるってこと?
「あ、こっちに来る!」
笹井が叫んだ。香織達には、やはり山崎以外何も見えない。

こいつの目っていったいどうなってるの?
霊視?千里眼?それとも…。香織は笹井に尋ねた。
「あんた視力なんぼ?」
「6.0!」
「えええええ?マジか!」
「うん!オレ、目がいいんだ」
「どんだけ!良すぎじゃね?」

遠山は素直に驚いている。
しかし香織は思った。
いいとか悪いとか、そういう問題ではない。
笹井の視力はマサイ族…。笹井は「まさ井」だ!
「あ、近づいて来る!」
まさ井がぴょ〜んと飛び跳ねてそう言った。
「だから…何が…?」
香織はそう聞きつつも、ぴょ~ん、ぴょ~んと飛び跳ねる、
まさ井のその驚異的なジャンプ力に目が釘付けになる。

「さあみんな!オレらも行くよ!」
まさ井が飛び跳ねながら、再び走り出した。
「よし、行ってみよう!」
遠山が、いかりや長介の「次、行ってみよう!」のように言った。
きっと遠山も、まさ井の視力&ジャンプ力におののき、
うっかりダミ声になってしまったのだろう。

空まで届くようなジャンプをしながらも器用に走るまさ井に、
香織と遠山は、とりあえず普通に走りながら続く。
「ジャンプ!」
と、自らにかけ声をかけながら跳ぶまさ井。そのかけ声がリズミカル。
「ジャンプ!」
そのリズムに、3人の走りが徐々にノリノリになってゆく。
「ジャンプ!」
かけ声のタイミングを把握した香織と遠山も、
自然に一緒に「ジャンプ!」と言って飛び跳ねてしまい、
そのせいで、せっかくのリーゼントが乱れ、
香織はボサボサ頭になってしまった。

「髪が~!」
香織がぼやいたその瞬間、山崎がこちらに向かってぐるんと振り向いた。
「ぎゃっ!急に?」
こちらを見る山崎の顔がヒキツっている。
「何?幽霊がいるとか言わないでよ、こわい!」
「まーくん!」
「山崎!」
山崎が、媒図かずお漫画の恐怖顔で、こちらを見ている。
「ぎゃ~、こわい!幽霊より山崎がこわい!」
香織は頭を抱え、思わず掻きむしった。
「あ、しまった!ますます髪が~~~!」
まさ井と遠山は、山崎のその強烈な表情に注目しているが、
女子である香織は、さらにめんどくさい山崎のことより、見えない幽霊のことより、
ぶっちゃけ自分の髪がボサボサ頭になっていることのほうが気になる。
山崎はぶるぶる震えながらも、まだリーゼントを保っている。
何よ山崎のくせに。自分だけリーゼントでずるい。
あんたのためにこんなに走ったのに!
「ああ~もお~、髪が~!」

「かみ~?かみはここにいる!」

その声はいきなり聞こえた。
そして、香織と遠山も「それ」を見た!
山崎の前方から、猛烈なスピードで走って来る影、それは…。
「あっ!沙織!」

すっかり忘れていた沙織が、山崎めがけて走って来るのだ。
「ぐわああ!」と叫びながら、憎悪丸出しで走って来る沙織。
「こわい!幽霊よりも!」
いたたまれなくなった香織は、またも頭を掻きむしってしまった。
「あ~~!また髪が~~~!」
「神はアタシだ~~~!!」
沙織が鬼声で絶叫している。
「全員集合!」
遠山も、あまりの恐怖にパニクったのか、さらなるダミ声でそう叫んだ。
「うん!これで全員そろったね!ロボットミート!」
ただ一人、とてつもない笑顔でまさ井がそう言った瞬間、
ここにもあった「トウキビワゴン」のラジオから、
ヴァン・ヘイレンの「ユー・リアリー・ガット・ミー」のイントロギターが聴こえてきた。

♪ジャララララ ズクズンジャラララ ズクズンジャララララ ズクズンジャラララ~~
(リズム隊IN!)ズ タン ズズ タン ズ タン ズズ タン ズ タン ズズ タン ウィ~~ン
「ぐわああ!」沙織がシャウトした。
「沙織神なう!」

沙織は超絶鬼顔のくせに、あろうことか自分神発言。
しかも「サオリカミナウ」が、
「ユリリガミナウ(You really got me now)」にジャストフィットしている。

唖然とする香織と遠山をよそに、
「わ~!沙織、かっこいい歌だね!」
まさ井が大喜びで拍手した。
山崎は、額に縦線を何本も入れながら、
前から走って来る沙織と、後ろから走って来る香織達3人を交互に見て怯えている。
「やっぱりまーくんは、オレらにつかまえてほしかったんだね!沙織、まーくんを頼んだよ!」
まさ井はそう言い放ち、遠山と香織の腕をつかむと、速度をゆるめた。

沙織はあっという間に山崎に近づき、その胸ぐらをグワシとつかんでいる。
そのタイミングに合わせるがごとくヴァン・ヘイレンの演奏は、コードを変えてゆく。

沙織♪「ぐわあああ!沙織神なう!(Girl you really got me now)」
沙織♪「てめえ、逃げてる~んじゃねえ~!
(You got me so I don’t know where I’m goin’ yeah) 」
山崎♪「お〜ひえええ!(Oh yeah) 」
沙織♪「沙織神なう!(You really got me now) 」
山崎♪「お前は神じゃない!(You got me so I can’t sleep at night)」
沙織♪「沙織神!沙織神!沙織神!
(You really got me!You really got me!You really got me!)」

何気にミュージカルふう。
髪を振り乱して暴れる沙織と、怯えながらも歯向かう山崎のバトルは、
ヴァン・ヘイレンの熱い演奏によって、アホな中学生の喧嘩というよりも、
何か男女の修羅場のような、微妙にエロいハードさをかもし出している。
激情?いや、劇場か?
沙織にぶんぶん振り回されている山崎のリーゼントがとうとう乱れ、
沙織と共にボサボサ頭になってゆく。
顔を近づけて歌う二人の絡みは、まさにデイヴエディ

香織は、自分のボサボサ頭もいっそのことハードロックふうにしてしまえば、
それはそれで成立するのではないかと開き直り、
「ユー・リアリー・ガット・ミー」のビートに合わせて頭を振った。
ふと見ると、遠山もノっている。もちろんボサボサ頭になっていた。
「遠山くん、ロボトミーズってパンクバンドじゃなくて、メタルバンドのがいいのかも…」
「そうかも…。でもきっとオレらのバンドは、もはやジャンルじゃなくて…
 何だろう。分からん」
「そうだねえ…何だろうねえ…」
遠山と香織は、ヴァン・ヘイレンの演奏で歌いバトる沙織と山崎、
そしてぴょ~ん、ぴょ~んと飛び跳ねながら拍手を続けるまさ井を、
ぼんやりと眺めていた。

そうこうしているうちにヴァン・ヘイレンの演奏が終わり、
沙織と山崎のロックミュージカルもやめざるを得なくなったようだ。
「やれやれ」という気持ちで、遠山と香織が2人に近づこうとするが、
興奮覚めやらぬ沙織は、全員に向かって叫んだ。

「あんたたちがアタシを置いて勝手にドタバタやってること、アタシは
 許さないからね!だってアタシは今日から、ヴォーカリストじゃなくて
 神になることにしたのよ!笹井はドラマーじゃないのはもちろん、
 神でも教祖でもない、ただのバカだしね!それに山崎はただのビビリ、
 遠山は腹黒い、香織は生意気女、どう?神には全部お見通しよ!
 ざまあカンカンかっぱのへ!」

「イエ~イ!」とまさ井だけが大歓声を上げている。
「沙織は神様になりたいの?いいよ!賛成!」
脱力する香織と遠山。
しかしまあ確かに、沙織のそれぞれのキャラ観察結果は妥当である。
とはいえ対応するのがめんどくさいので、とりあえず「はいはい」と頷いておく。

しかしやはり山崎だけは、沙織の観察結果がどうしても許せない目つきで、
こうつぶやいた。
「なんにも分かってないな…」
「まーくん、沙織はみんなのことちゃんと見てるってことだよ!
 だってオレらはバンド仲間だから」
「いや!全然分かってない!
 この女は、僕の本当の気持ちをまったく分かってない!」

山崎以外の全員が、山崎に注目した。
そしてこの時ばかりは、4人とも同じ思いがよぎった。
「本当の気持ちを分かってないって…。
 あたりまえだ!あんためんどくさいんだもん!」
と。
「みんな!まーくんに悪気はないんんだよ、まーくんはきっと勇気を出すよ!」
またもまさ井だけが「イエ~イ!」と拳をあげた。
「まーくん、がんばって!」
山崎は静かに頷き、沙織の前に立った。

(つづく)






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