コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ショー・ミー・ザ・ウェイ」ピーター・フランプトン


~トーキングモジュレーター~
「ショー・ミー・ザ・ウェイ」ピーター・フランプトン

自然と体が動くグルーヴに、シンセサイザーの音が色っぽく響く…。
たいへんだ。ハスキーヴォイス山崎の「アイム・セクシー」が、
とうとう始まってしまった!
沙織のチェリー・ボンブ的下着姿は、まだアリだが、
山崎のセクシーは絶対にナシだ。
山崎がセクシーになればなるほど、山崎は不利だ。
もはや軽音楽部に入る入らないとか、そういうピンポイントなことではなく、
山崎の人生が不利になることうけあい。
と、山崎の存在そのものをうっかり心配してしまうほど、大それた不適切。

「わー!まーくん!セクシーだよ!本当のまーくんはセクシーなんだよ!
 おめでとう!」
香織の心配をよそに、さーくん笹井が、目に涙を浮かべて拍手している。
「ちょっと笹井、あんた幼なじみなら、山崎を止めなよ」
香織は笹井にそう言ったが、笹井は「わー!」という自分の大声で、
香織の声が聞こえないようだ。

「遠山クン、山崎の味方するわけじゃないけど、これは危険すぎるよね…」
今度は遠山にそう言おうとしたが、遠山はブツブツと独り言を言っている。
「そうか…。本当の山崎ってセクシーなんだ。
 それを言い出せなかっただけなんだな、
 自分がセクシーだなんて、恥ずかしくて言えないもんな…」
どうしよう。クレバーであるはずの遠山さえ、ちんぷんかんぷんなことを言い出した。
山崎のバランスの悪さが、遠山クンにも飛び火したのかもしれない…。
笹井と遠山は、山崎を間違えたあたたかい目で見つめている。
「まーくんはね、子供のころからセクシーなんだ」
「そうなんだ、セクシーってことが『秘密』だったんだ…」

あろうことか山崎はその会話に大きく頷いた。
「そんなバカな…」
唖然とする香織。
しかし、セクシーということになっている山崎は、
リズムに合わせて、プリプリと尻を振っている。
モノホンセクシーヒップのロッド・スチュワートとは、住む世界が違う動きだ。
おそらく、山崎のクネクネプリプリとしたエグい動きは、
セクシーとして「解き放たれた者」としての、
自己トランスなのだ。
こうなったら最後、もう山崎の「セクシー」を止めることは不可能。
そしてそれを受け入れ、かつ応援している笹井と遠山の心を戻すことも不可能。

「ありえねえ…」
香織はふらつき、ふと見ると沙織は猛烈に怒っている。
「アホか!キモザキのくせに何がセクシーだ!」
「だよね、そうだよね!」
今や香織の味方は沙織であった。

♪ シュガー シュガー ねえ 可愛いキミ!

「はあっ?誰?キミって誰よ!」
沙織は目を血走らせて激怒しているが、
山崎は、沙織の、その血走った目を見て歌っている。
山崎の「セクシー」が、自分に向けられていないことにホッとした香織は、
思わず「セーフ!」と心で叫び、しかし味方である沙織に警告した。

「ねえ…キミって沙織のことだよ完全に」
「はあああ??違うわよアタシじゃない、香織よ」
「なんで?沙織のほう見て歌ってるじゃん。沙織へのセクシー攻撃だよ」
「違う!香織へのセクシー攻撃よ!
 アタシになすりつけるんじゃないわよ!バカ香織!」
「バカって何よ!」
「何ってバカよ!」
沙織は、香織にそう言いながらも、慌てて山崎の目線ではないほうに移動している。
すると山崎も大急ぎで沙織方面に移動し、さらにプリプリ尻を振って、
セクシー攻撃を続ける。

♪ 彼女は待っているのさ 男の誘いを

「彼女って沙織のことだよ…ぷふふ」
香織は、沙織に半笑いでそう言った。
「違うわよ!」
沙織は、山崎のセクシー視線から逃れるように、さらに違う方向にダッシュした。
すると山崎も、沙織を追いかけながら歌う。

♪ オレがセクシーだと思うのなら、カモン!シュガー!
  
「ぎゃ~~~!近寄るなキモザキ!」
沙織が、初めて山崎に恐れをなしている。
山崎は、ここぞとばかりに、攻撃を続ける。

♪ さあ、言ってくれ セクシーだと言ってくれ

「命令するんじゃないわよ!アタシは神よ。
 あんたがどんなにキモくても、負けない神よ!
 ぎゃっ!来るな、近寄るな、香織!アタシを助けなさいよ!命令よ!」

ふん。セクシー不利な山崎も、神アピール沙織も、
どっちもどっちだ。
こうなったら誰も味方じゃないよ。勝手にしやがれ!
香織は沙織の命令を無視し、ベンチに腰をおろした。
沙織に勝つためには、真っ向から言い合っても無駄だと知った山崎は、
セクシーという変化球で、勝負を挑んでいるのかもしれないが、
お前は最初から負けているのだよ。
私たちを軽音楽部に入れなかったという、その器の小ささがな!
などと思ったとて、山崎はセクシー真っ只中。

♪ オレがセクシーだと思うのなら…

「思うわけないわバカキモザキ!セクシーなのはお前じゃない!」

アタシよ!と言いたいのか沙織は…。はあ…。どうでもいいや。
いったい山崎と沙織は、なぜそんなに負けず嫌いなんだろう。
せっかく音楽が好きなんだから、いちいち勝負とかしないで、
普通にバンドやればいいのに…。

「え?まーくんじゃないの?じゃ、誰?誰がセクシーなの?」
笹井が沙織に、素で質問している。
「そんなの決まってるでしょ?遠山クンよ!」
「え、オレ?」
遠山がキョトンと自分を指差した。
「そうよ。アタシはね、セクシーな男子が好きなのよ。
 セクシーじゃないとアタシにつり合わないのよ、そうでしょ?遠山クン!」
「いや、セクシーなのは山崎だし…」
遠山のキレが悪い。
やはり、山崎のセクシーバッドバイブから、何らかの影響を受けているのか?
「どうなの?遠山クン!」
沙織が、遠山ににじり寄っている。
なぜか笹井もにじり寄っている…はっ!もしかしたらこれは告白?
沙織はどさくさに紛れて、遠山クンに告白しているつもりなのだろうか。
山崎のセクシー攻撃に勝つために、セクシーの矛先を山崎以外に向け、
かつ笹井を味方につけての告白。なんという合理的!
いやいや感心している場合ではない。遠山クンは一応私の彼氏なのだ。

香織はベンチから立ち上がり、遠山を見た…はずなのに視界に笹井。しかも近い!
「ねえ、沙織ってもしかして遠山が好きなの?」
「うーん、なんか、そうみたいだけど…でも…」
「ええええ?そうなの…?」
あっ!しまった!そういえば笹井は沙織のことが好きなのだ!
笹井は私たちのように音楽が好きなわけではなくて、沙織のことが好きで、
それだけの理由でこのバンドのメンバーになったのだ。
どうしよう、笹井がしょんぼりとしている。
そうだ、ここはひとつ「好き」の意味を壮大にしょう。
これ以上ややこしいのはめんどくさい!
「いや、でも笹井のことも好きだと思うよ。もちろん私のことも。
 だってバンドのメンバーだもん」
「そうか!よかった~~だってオレらバンドだもんね!
 じゃ、沙織はまーくんのことも好きだよね!」
「それはないな」
「えっ???」
「だって山崎は、ちゃんとメンバーになったわけじゃないじゃん」
「えええええっ?沙織は、まーくんのこと嫌いなのおおお??」

ザッブ~~~ン!!!!
笹井の大声をかき消すほどの大きな水しぶきに、驚いて振り向くと、
さっきまで自己セクシーをかもし出していた山崎の姿が消えていた。
「まーくん!まーくんがいない!ま~~~くうううん!」
笹井が、空に向かって山崎を呼んでいる。
「バカ笹井!こんだけの水しぶきなんだから、
 この噴水の中にいるに決まってるじゃん!」
「あ、そうか!」
取り急ぎ噴水のそばに駆け寄る香織と笹井。
遠山と沙織も、噴水の中を覗き込んでいる。
が、山崎の姿はない。
「まーくん、溺れたのかな…まああくうううん!」

「まさか、こんな浅いとこで…。でもいないわね。なんで?
 沙織、山崎が噴水に落ちるとこ見てた?」
「見てないわよ!ずっと目をそらし続けてたんだから。
 遠山クン、あなた見てたでしょ?」
「オレもはっきりとは見てないんだけど、山崎、
 落ちたんじゃなくて飛び込んだような動きだった…」
「え!飛び込んだ?まーくん…もしかしてセクシーすぎて、セク死…」
「死ぬか!噴水に飛び込んだくらいで!どうせまた逃げたんだよ。
 セクシーでも負けたから。ちっさ!器」
「でも、逃げたなら後ろ姿とか見えるよ!いないよ!まーくんは消え…
 あっ!まーくん!」
笹井が指差したのは、なぜか噴水の水面にぷかりと飛び出た、
ホースのようなものだった。
「なにあれ!」
「まーくんだよ!あれで息をしてるんだ。まーくんは潜ってるんだ!」
「なんで?」
「忍者かよ!」
その時だった。
どこからか、ピーター・フランプトンの「ショー・ミー・ザ・ウェイ」が聴こえてきたのだ。

showmetheway

「どこ?どこから聴こえるの?」
「まーくんだよ!まーくんから聴こえるんだ」
見ると、確かにその音は、山崎の水面から聴こえた。
「どういうこと?」
「分かった!」
遠山が身を乗り出して言った。
「あのホースだ。ホースから音が聞こえるんだ!
 山崎はウォークマンごと水に潜ってるんだよ」
「まーくんのウォークマンは防水ウォークマンだよ!お風呂でも聴けるんだ」
「だろうね。きっと今日のために風呂で練習したんだよ」
「練習?忍者の?」
「いや。あのホースは、トーキングモジュレーターだ!」
「ええええ?」
山崎がくわえているであろうホースから、
まるで、水中で揺れるワカメのような、不思議な音色が聴こえてきた。

(つづく)
 

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