コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ミスター・ロボット」スティクス


~ヒミツヲシリタイ~
「ミスター・ロボット」スティクス

♪「△○#◇~~ボ~~ンブ!!!」
全員がそれぞれの「自分の名前BOMB」を歌う。
名前部分の歌詞はもちろんバラバラではあるが、
得体の知れない一体感がそこにあった。
そしてラスト「ボーンボーンボーン…ブ!」と余韻のリバーブ感でエンド。
腹の底から声を出した全員が、それぞれの場所に座り込んだ。
歌は終わったがしかし、何かが生まれていた。
何か。そう。「バンド」である…いや、バンドではない。
バンドを超えた「口(くち)演奏のエアバンド」である。
いやいや、超えてはいない。
口(くち)演奏だけに「超え」ではなく「声」のみなのだから。
しかし、5人の「バンドらしきもの」は、
確かに生まれたのである。

「わはは~できたっ!ロボットミート!」
笹井が立ち上がり、BIGスマイルでそう言った。
バンド名を間違えていることは、もはや
「だって笹井だから」という理由で良しとしよう。
できた。という表現は、まあ微妙ではあるが、
「まあ、ね…なんか、もうこれでいい感じもするけど…いいの?これで」
「うん、いい…のかも?」
香織が微妙にそう言うと、遠山も微妙に頷いた。

「あほか!いいわけないっつーの!」
沙織が下着姿のまま噴水横の芝生の上で大の字になり、かつキレている。
「でも沙織、さっき普通のボーカリストを超えたなんちゃらに
 なるとかならないとか言ってたじゃん…」
噴水脇のベンチに座った香織がさらに微妙につぶやくと、
沙織は腹筋を使ってガバチョと起き上がり、
香織のそばにずんずん寄って来てポーズをとった。
「なんちゃら?神よ!分かる?KAMI!」
「KAMIって…沙織こそ意味分かってんの?神の意味」
「もちろんよ。いい?神は何でも分かってるのよ」
「たとえば?」
「たとえば?そうね、山崎はメンバーじゃない!」
そう言って山崎を指差した。中指で。
「それは神じゃなくても何となくみんな知ってるよ。だって山崎、
 私達の誘いに返事してないもん。てか沙織、もう服着れば?風邪ひくよ」
沙織は一瞬悔しそうに唇を噛んだが、あえて下着姿のままポーズをとっている。

「返事してないけど、一緒に歌ったべや。山崎はもうメンバーだよ。
 そうだよね、山崎!」
香織の横に座った遠山が、地面に体育座りしている山崎に、きさくに話しかけた。
さっきは一緒になって「マークンBOMB!」とか大声で歌ってたくせに、
すでに膝を抱えて下を向いたまま返事をしない山崎。
香織は、なんだかもうこいつに気をつかう気がしない。
「ちょっと山崎!あんた早くも陰気逆戻り?返事しなよ、
 せっかく遠山くんがそう言ってるのに!」
「まあまあ、香織、山崎には山崎のタイミングがあるんだよ」
遠山は笑顔でそう言うが、遠山をかばった香織としては
自分が悪者になったみたいで腑に落ちない。
「だって山崎、ホントはやる気満々じゃん!張り切ってぼぼぼぼとか言ってたし、
 パンケーキ屋でもさりげなくピアノ弾けることをアピールしてたじゃん。
 素直じゃないんだよ。めんどくさい」
「もしかしたら、山崎はバンドはやりたいけど、口(くち)演奏じゃなくて
 ちゃんと楽器でやりたいのかもしれないよ」
「そうなの?さっき何気にイキイキとぼぼぼぼ言ってたじゃん」
「じゃ、山崎に軽音部に入れてもらったら、口(くち)演奏も生かしながら
 楽器の練習もしようよ。それがロボトミーズの個性になると思うし」
「山崎が軽音部に入れてくれないなら、口(くち)だけでやるしかないけどね」
「入れてくれないって決まったわけじゃないよ。
 山崎は部長として段取りがあるのかもしれない」
「段取り~?何の?ホント山崎、何考えてんのか分かんないよ」

香織と遠山がそこまで「山崎」をテーマにアツく討論しているのに、
山崎は抱えた膝の上に額をつけ、顔を伏せている。
「うわっ、まさか寝てんの?ねえ山崎!あんたむしろ図太いわ」
香織が意地悪を込めてそう言うと、
山崎は「起きている」と言いたいのか顔を小さく左右に振る。
「まーくん!がんばって!」
芝生でゴロゴロ転がりながら香織達に近づいて来た笹井が、
山崎の前でピタリと止まり、エールを送る。
それを見た遠山も、山崎に呼びかける。

「そういえばさ、山崎、本当の気持ちをずっと言いそびれてるよね。
 何なの?オレらに教えてよ」
「言いそびれるっていうのは、部長としては大問題だよ。
 言いたいことがあるなら、私達の話しを押しのけてでもちゃんと言いなよ」
すると山崎は、ゆっくりと顔をあげた。
サングラスの奥の瞳が何かを決意したようにキラリと光った。
全員が注目する中、山崎が話し始めた。
「…僕は、僕の本当の気持ちは…」
遠山と笹井がその様子を静かに見守り、香織も息を殺して山崎の言葉を待つ。
だのに。
「だから~!」
沙織が遮った。
「だからこいつはメンバーじゃないのよ、アッ!」
香織にどつかれた沙織は、下着姿で「おっとっと」とよろけている。

「え?まーくんはメンバーじゃなかったら何?ウッ!」
駆け寄った遠山に口をふさがれた笹井がもがいている。
「本当の気持ちとか言ってるけど、こいつには気持ち自体ないのよ。
 こいつは機械かマネキンよ、アッ!」
香織が沙織を再びどつく。
負けず嫌いな沙織は、崩れた体勢を
「次はこのポーズって決めてたのよ」とポージング。

「いいから早く言っちゃえ山崎!」
背中を押す遠山の声に、山崎が頷く。
(まーくん!がんばって!ウッ!)
笹井が、口をふさぐ遠山の指の隙間から叫んでいるが、
その声はうっすらとしか聞こえない。
遠山がさらに指にチカラを入れている。
(ウッ!まーくん、今こそ、ウッ!ほ、本当の、ウッ!気持ちを…)

「うっすらとでもうるさいよ笹井!あれ?でも笹井、
 何で山崎の本当の気持ちとやらを知ってるの?」
ふとそう思った香織。
(そりゃ分かるよ。だってまーくんはオレと同じ気持ちだもん、ウッ!)
同じ?どういうこと…?香織は、山崎と笹井を見比べるが、見当もつかない。
「そんなヒント出すなよ、さーくん!」
慌てて顔をあげた山崎が、大声で叫んだ。

「何?さーくんって誰?」
香織が目を丸くして山崎を見ると、山崎は「しまった!」という顔で、
そして遠山にハガイジメにされている笹井が、必死で手をあげている。
「笹井…あんた山崎に、さーくんって呼ばれてるの?」
嬉しそうに頷くさーくん。
「マジか」
驚いた遠山が、思わずさーくんから手を離すと、さーくんは開放感たっぷりに笑った。
「まーくんとオレは幼なじみなんだよ!ね、まーくん」
山崎がコクリと頷き、その流れでまた顔を膝に埋めている。

「え~そうなの~?だから何なのよって気もするけど、遠山くん、知ってた?」
「知らないよ、でも…なんで黙ってたんだよ」
「そうだよ。隠す必要ないじゃん」
笹井は地面に転がったままキョトンとした顔をしている。
「え?隠してないよ。言いそびれてただけだよ、まーくんに悪気はないんだ」
「このことも言いそびれてたの~?てか笹井、あんたがとっとと言えばよかったのよ」
「えへへ!」と笹井が照れ笑いしている。
なぜ照れる?この反応もまた笹井ならでは。
「いや、あんた達が幼なじみだからって、
 衝撃のビッグニュースとまではいかないけど、
 一応情報としてさ、私達が知らないのも不自然じゃん。
 まあ、笹井だからしょうがないけど」

笹井は「うん!」となぜか自信たっぷりに腕を組んでしゃがむ体制になり、
その勢いに乗ってコサックダンスをしながら話す。
この無駄な動きについても、もはや誰もツッコまない。笹井だから。

「だからオレは、まーくんの本当の気持ちを知ってるんだ!まーくんはね、」
「いいよ、さーくん!僕が言う」
「うん!まーくん、がんばれ」
まーくん、さーくん、と呼び合う二人にまだ慣れず、正直キモい香織であったが、
ガマンして山崎の話を聞くことにした。
遠山もちょっとガマンしながら山崎を見ている。
沙織は、本当は見たいのに「べつに見なくていい」というスタンスで、
未だポーズをとっている。
さーくんが(フレー!フレー!ま・あ・くん!)とうっすら言っている。

緊張しているのか山崎は、体育座りからギクシャクと立ち上がる。
そのぎこちない動きを誤摩化すように、リーゼントからボサボサになったままの髪を、
指でオールバック風にしているが、ポマードがないので、何か変なことになっている。
マゲ…。山崎のヘアスタイルは「ちょんまげ」風になっていた。
香織は爆笑をこらえながら、その旨を遠山に目で合図した。
遠山は「それは言うな」という表情で、やや肩が震えている。

にしても山崎は、必要以上にカクカクとした動きだ。
「本当の気持ち」をブレイクダンスとかで表現したらどうしよう!
と香織が心配したその瞬間、山崎のお尻のあたりから、
あろうことか、スペイシーなシンセサイザー音がなり出した。
こ、これは…スティクスの「ミスター・ロボット」だ!

「尻からロボット!なんで???」
山崎以外の全員が驚愕し、沙織もポージングをやめて山崎の尻を見る。
「あっ!」
「みんな!まーくんのお尻のポケットにカセットウォークマンが入ってるよ!」
第一発見者は沙織であったが、さーくんの声の方が大きかったので、
さーくんの「てがら」のようになっていた。
しかしそんな笹井な、じゃない些細な出来事など、どうでもよくなってしまうほど、
山崎が「ミスター・ロボット」のサウンドに乗って、
ちょんまげ頭でカクカクと動いているという絵面に、みんな釘付けになった。

♪ドモアリガト ミスターロボット また会う日まで
 ドモアリガト ミスターロボット 秘密を知りたい

笹井「あれ?この宇宙人声、日本語だ!日本人だよ!」
香織「宇宙人じゃなくてロボット声だよ。
 ロボットって言ってるんだから汲んでやんなよ」
遠山「だからわざとチョンマゲにしたのか?こまかいな山崎」
沙織「ふん、なに仕込んでんのよコイツ。バカじゃないの?」

口々に好きなことを言っているが、
おそらくロボット役に必死な山崎の耳には聞こえていないだろう。

♪君は僕が何者なのか、疑念を持っているね(だって僕には秘密があるんだ)
 機械かマネキンかってさ(だって僕には秘密があるからね)
 僕はメイド・イン・ジャパン 僕は時代最先端なのさ

はああ?なんであんたが最先端なのよ!
最先端はアタシよ!

ぶちキレた沙織が、山崎のカセットウォークマンをポケットから抜き取ろとして、
山崎の尻を追った。

(つづく)






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