特集

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TEXT & PHOTO:鈴木亮介
この夏は親子でロックフェスに行こう!

Photo近年、野外のロックフェスに親子連れの姿が多く見られるようになった。先日本誌で特集記事を掲載したARABAKI ROCK FEST.13でも、昨年以上に今年は親子連れの姿を多く目にする機会があった。
 
そこで本特集では、今なぜ親子でのロックフェス参戦が増えているのか、またその魅力と注意点についてまとめ、「親子で読めるロックマガジン ロックと生きる…ライフスタイル応援マガジン」というBEEASTの方針に基づき、子育て真っただ中というロックファンの方々の背中を押すことができればと思う。
 

そもそも野外のロックフェス・コンサートのわが国における起源をたどっていくと、1969年から1971年にかけて3回開催された「全日本フォークジャンボリー」が音楽フェスのルーツとされ、ロック分野については1974年の夏に福島・郡山で開催された「ワンステップフェスティバル」が最初と言われている。
 
Photoもっとも、70年代から80年代にかけての野外フェスの主役はあくまで「若者」。フォークジャンボリーはほぼ同時期にアメリカで開催された「ウッドストック・フェスティバル」にも通じる「若者が集い、その思想や信念をミュージシャンによる表現に託し、共感し合う場」であったし、「ワンステップフェスティバル」の開催コンセプトが「街に緑を、若者に広場を、大きな夢を」であったことからも、そこに幼い子の手を引いた、あるいはベビーカーを押した親子連れの姿がなかったことは容易に想像がつく。
 
そうしたフェスの”意義”のようなものが少しずつ変わり始めたのは、90年代後半から00年代にかけてだ。1997年に「FUJI ROCK FESTIVAL」が旗揚げ。続いて1999年に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」、2000年に「SUMMER SONIC」と「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」がスタートし、これらが今や日本の4大フェスと言われるまでに知名度を向上させたが、注目したいのはその開催場所だ。
 
Photo東京・大阪で開催する都市型フェスの「SUMMER SONIC」を除けば、その開催地が「RISING SUN」は札幌郊外の石狩湾新港、「ROCK IN JAPAN」は茨城・ひたちなか市の国営ひたち海浜公園、そして「FUJI ROCK」は新潟の苗場スキー場となっている。
 
つまり、野外ロックフェスは単なる「野外を開催地とするイベント」にとどまらず、広大な敷地や青空、暑さや寒さ、(会場によっては)森林など豊かな自然を楽しむことができるアウトドアイベントとしても支持され、結果的に音楽はもちろんのことフェス自体のファンを増やすことに成功したのだ。
 
東北最大級のロックフェス・ARABAKI ROCK FEST.も、開催地は宮城・川崎町の「エコキャンプみちのく」。蔵王山麓のキャンプ地の自然を堪能できるフェスとして、根強いファンを誇る。
 
Photoそんな「野外ロックフェス=音楽だけでなく環境自体を楽しめる!」というスタンダードが定着してきた2000年代に青春時代を過ごした今の20代、30代がちょうど子育て世代に突入し、「そろそろ大きくなったわが子を連れていこうかな」と思案していることだろう。また、現代の野外ロックフェス創世記から足しげく通う30代、40代の中には、わが子とともに毎年参戦しているという方も少なくないようだ。
 
先述のARABAKI ROCK FEST.会場でも、小学生から赤ちゃんまで幅広い世代の親子連れが見られた。野外フェスの参戦動機や「子連れ」ならではの苦労、注意点、あるいは楽しみ方など、話を聞いた。
 
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父(34歳)、母(34歳)、息子(1歳2ヶ月)
 
—フェス参戦歴、目当ては?
 
仙台から来ました。「アラバキ」は毎年来ています。今日は目当ては特に決めていなくて…人間椅子くるりは観たいと思います。
 
—子連れで気をつけていることは?
 
勢いしかないので…もちろん子どもを最優先しますけど、息子の最善の安全を考えると、来れないです(笑)勢いしかない。去年は生まれたばかりだったのでさすがに我慢して…今年初です!
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母(35歳)、娘(8歳)、息子(5歳)
 
—フェス参戦歴、目当ては?
 
「アラバキ」は2回目です。今日はくるりとかMAN WITH A MISSIONを観に来たのですが…子どもたちがハンモックしたいというので(笑)のんびりしながら観に行こうかなと。
 
—子連れで気をつけていることは?
 
疲れ過ぎないように適度に休みながら、でも広いのであちこちに遊んだり休んだりできるブースがあって、子どもたちも楽しめて私たちもゆっくり楽しめて良いと思います。
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母(32歳)、娘(7歳)
 
—フェス参戦歴、目当ては?
 
今回は特定のミュージシャンというより、全体を楽しみに来ました。「アラバキ」は4回目です。
 
—では娘さんも小さい頃から?
 
いえ、娘は初めてです。普段から音楽を聴くのは好きなので、今回連れてきました。迷子になったり人にぶつかったりしないように注意しています。
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グループで参戦!
 
—皆さんのご関係は?
 
大学時代の友人(男2、女1)とその奥さん、子どもたちです。「アラバキ」は初回(2001年)からほぼ毎年来ています。子どもたちは今回初めてです。
 
—親子参戦を決めた理由は?
 
何となく、そろそろ行ってみようか?と(笑)「アラバキ」は親子で遊べる場所もあるし、ワークショップ(体験)コーナーもあるので。
 
Photo—子どもたちの年齢も幅広いようですが…
 
一番上が小2、一番下が11ヶ月です。
 
—去年と比べて、子連れということで特に準備したものはありますか?
 
ベビーカーと、やっぱりおもちゃは必要ですね。シャボン玉とか…寒くなるので毛布関係も結構たくさん持ってきましたね。あとは授乳をするので、普段はレジャーシートですけど、今年はテントを買いました。一昨日Amazonで(笑)
 
—会場に到着してからの行程は去年と比べてどうでしょうか?
 
Photoあんまり音楽音楽、という感じではなく、風景を見たりご飯を食べたり、ピクニック気分ですね。ライブは…楽しみにしていたWHITE ASHが、たった今終わりました(笑)あとは加山雄三も楽しみですが、その頃には(子どもたちが)疲れて「帰る!」って言ってるかも(笑)
 
—特に注意していることは…
 
子どもたちから目を離さないようにすることと、あきないようにすることは気をつけています。
 

 
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この他にも親子連れ何組かに話を伺ったのだが、全員共通するのは「フェスをゆっくり楽しんでいる」ということ。恋人同士、友人同士との参戦とはまた違った楽しみ方を各々が見出だしているようだ。爆音のロックフェスに幼い子どもを連れて大丈夫だろうか…と心配する声もあるようだが、親子連れの場合、ステージ前の群衆を敬遠して少し離れた場所から見ることになるだろう。そうすると、ロックの爆音だからこそ、遠くにいてもしっかりと音を聴き、楽しむことができるのだ。
 
ARABAKI ROCK FEST.では子どもたちが遊べるハンモックや、ポニーと触れ合えるコーナー、シートやテントを広げられるスペースが十分に確保されており、初めて親子参戦したロックファンも楽しめる配慮がなされていた。開催時期や土地柄、熱中症の心配をさほどしなくても良いというのも安心だ。
 
ではこれからの季節、夏に全国各地で開催されるロックフェスでは、どんな点に特に注意したら良いのか。日常的に自然の中で子どもと関わる職業人にインタビューすべく、東京・世田谷の羽根木公園を訪れた。
 
羽根木公園にはNPO法人プレーパークせたがやが運営する羽根木プレーパークがある。整備された公園とは異なり、子どもたちが自ら道具や工具を使ってものづくりをしたり、自然に触れ合ったりできる貴重な場だ。ここでプレーリーダーとして子どもたちの遊びと成長に携わる吉田貴文氏に話を聞いた。
 

◆NPO法人プレーパークせたがや プレーリーダー
(羽根木プレーパーク・思春期事業・プレーカー事業) 吉田貴文氏

 
Photo—長時間イベントを楽しむために注意すべき点は何ですか?
 
吉田:野外フェスなどで親子連れが増えている点は善し悪しあると思います。「子どもが親に長時間連れられて退屈して…」ということにならないよう、気を配ることが大切だと思います。
 
—退屈させないために、親にはどんなことができるでしょうか。
 
吉田:子どもたちが自らやってみたいと思うものは集中するし、「やってみたい」という仕掛けがたくさんあれば子どもたちは長時間楽しめるし、「帰りたくない!」ってなると思います。子ども目線では、音楽を観ているだけだと長時間楽しむのは難しいですね。また安全面でも、子どもを遊ばせておいて大人はステージを観に行く、ということはせずに、親子常に一緒に行動することが大切です。
 
Photo—事前にちゃんと行動計画を立てておく必要があるということですね。
 
吉田:そうですね。気持ち次第ですが(笑)親子グループ何組かで一緒に行って、交代で誰かが子どもたちの面倒を見つつ、大人は音楽ステージも楽しむ、というのも良いと思います。
 
—持ち物でこれが必須、というものはありますか?
 
吉田:子どもの着替えはあった方が良いですね。水分補給も重要です。野外なので、虫にさされたり、引っかき傷ができたり汚れたりすることはよくありますが、それほど神経質にならず、親がどっしり構えていることも大事です。万一ケガをしてしまった際、野外フェスは大抵主催者側で応急手当てのできる場所を設けているはずなので、地図で確認しておくと良いと思います。
 
—キャンプや山登りなどのアウトドアとはまた違った危険も野外フェスにはあるかと思います。
 
吉田:人が多いので迷子になりやすいです。特別にこの持ち物が必要…ということよりも、やはり親の子どもへの気持ちが一番大事ですね。ロックフェスというとどうしても親の楽しみ中心になりがちなので、主催側も自由に遊べるコーナーなどを設けると、子どもたちも楽しめるし、また次に行きたくなると思います。

 
なお、羽根木プレーパークでは今年10月に「羽音ロック(はねろっく)」という音楽フェスを開催予定だ。地元の中高生が主体となって企画。前回・2年前に開催した際は小学生から大人まで幅広い出演者が集まり、盛り上がったという。吉田氏によると「自ら参加し、作っていける仕掛けがあると子どもは楽しめる。小さい子も含めて”お客さん”にせず、”参加者”にするつもりでイベントを企画していきたい」とのこと。確かに音楽を聴くだけでなく、一緒に歌ったりマラカスを振ったり自ら参加できるようなフェスなら、子どもたちも長時間楽しむことができるだろう。
 
前述のARABAKI ROCK FEST.では、息子を肩車してステージを見せてあげようとするお父さんや、手をつないで音楽談義をしながらステージを移動する親子の姿がとても印象的だった。そもそもロックフェスなのだから…という原点に立ち返れば、こうして音楽を純粋に楽しめるのが理想だ。日頃様々なミュージシャンにインタビューをしていても、「親に連れていってもらったライブがきっかけでバンドに興味を持った」という人は多い。
 
一方で、幼い子を連れた場合や初めてロックフェスに参戦するという場合は、「あきさせない工夫」が重要だという話も、確かにうなずける。幸いにしてロックフェスは、演劇やスポーツ観戦などと異なり音楽、それも大きな音のロックなので、ステージから離れても耳だけで楽しむことが可能だ。
 
この夏、ステージを観るのはもちろんとして、食べ物も景色も堪能しながら、親子でたくさん対話をして、楽しい思い出を作ってほしいと思う。
 
 

 

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取材協力:
◆ARABAKI ROCK FEST.
http://arabaki.com/
◆NPO法人プレーパークせたがや 羽根木プレーパーク
http://www.playpark.jp/info_pp/hanegi.html

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