特集

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:ヨコマキミヨ

 
新たな時代の風雲児となるべく奮闘を続けているロック男子の姿を追う特集「ROCK SAMURAI STORY」。今年・2014年にデビュー25周年を迎える人間椅子について、メンバー3名のパーソナルインタビューを通じてその魅力をさらに掘り下げていきたい。
 
Part2に登場するのは、ベース&ボーカルの鈴木研一だ。同級生・和嶋慎治とともに人間椅子を結成し、以来一貫して人間椅子というバンドの軸を保守し続けてきた。「イカ天」登場時のネズミ男衣装や、近年はふんどし姿などそのパフォーマンスが注目を集める一方、和嶋慎治ナカジマノブとは対照的に、人間椅子以外のバンドを組んだり他のミュージシャンと同じステージに立つことはほとんどなく、その音楽観は謎に包まれている部分もある。
 
今回、本誌BEEASTではそんな鈴木研一に単独インタビューを敢行。これまで単独で取材に応じたことはほとんどない鈴木研一に、そのルーツから四半世紀を経た人間椅子への思い、旧譜の魅力、さらには今後の展望など幅広く話を伺うことができた。
 

mandoro◆人間椅子 プロフィール
 
もともと高校の同級生であったギターの和嶋慎治と、ベースの鈴木研一により1987年頃結成。
 
コンセプトは、当時よくコピーしていたBLACK SABBATHなどの70年代ブリティッシュ・ハード・ロックの サウンドに、あえて日本語の歌詞を載せるというもの。バンド名は、江戸川乱歩の小説からとった。ドラマーは流動的であったが、鈴木の大学の先輩の友人であった上館徳芳(北海道出身)で固まる。 メンバー2人の出身地である津軽地方の方言を取り入れたり、津軽三味線の奏法を導入したりと、既にこの頃基本的サウンドも出来上がる。
 
1989年、TBSテレビ系列の「平成名物TVイカすバンド天国」に出演。演奏もさることながら、鈴木のネズミ男に扮した奇抜な衣装が評判を呼ぶ。翌・1990年7月、メルダックより「人間失格」でメジャー・デビューを果たす。
 
2004年6月、ドミンゴス等で活躍中のナカジマノブが、新ドラマーとして加わる。2009年、デビュー20周年にあたるこの年、1月21日に「人間椅子傑作選~20周年記念ベスト盤」をリリース。11月、15枚目にあたるオリジナルアルバム「未来浪漫派」発表。現在までにオリジナルアルバムを17枚、ベスト盤も含めて21枚をリリース。

 
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勉強に趣味に打ち込んだ幼少時代 ベースとの出会い&初作曲は高校2年生
—バンド生活25年で、鈴木さんの単独取材というのはほとんどなかったのではないでしょうか。

 
鈴木:嫌いなんですよね(笑)。かしこまると思ったことが言えないみたいなところがあって、喋ることが苦手で。
 

—「バンドの歴史を語る…」といったことはあまりなかったですか?

 
鈴木:ないですねー。聞かれれば答えるくらいで、そういうのは大体和嶋くんに任せていたので。
 

—長い歴史でどこから伺えば…という感じですが、「ミュージシャン・鈴木研一」をひもとくキーワードとして、多彩な趣味ということが挙げられるのかなと。例えば相撲とか…

 
鈴木:そうでもないですよ。相撲は…マニアというほどでもないけど、小さい頃は毎日見てましたね。父親が学校の先生で、職員室で同僚たちと星取表とにらめっこしていて、俺も一緒に勝ち負けを予想していました。今は郷土(青森出身)力士くらいしかわからないけど。
 

—子どもたちの間でも流行っていましたか?

 
鈴木:それはもう、同級生の間でも当時は「相撲消しゴム」が全盛で…北の湖が強くて憎たらしかった頃の話です。(初代)貴ノ花が大関からちっとも横綱に上れないクンロク大関(=「クンロク」は9勝6敗で勝ち星が2桁に届かず、パッとしない成績の意)なんだけど、何にしろ弘前出身なんでね。そこはもう、応援していましたよね。
 

—他にも様々なご趣味をお持ちとのことで。虫とか、鉄道とか…

 
鈴木:ええ。小学校の頃はずっと昆虫博士になるって公言していたから…随分歳行くまでそう思っていましたね。虫は好きだけど昆虫博士になったら虫を殺す方になるんじゃないかって思って、やめたんですよね(笑)。毎日クワガタを捕りに行くか、何かしら昆虫採集をしに行ってました。
 

—特にどの虫が好きだったのですか?

 
鈴木:クワガタに勝るものはないかな。木を蹴って落ちてくるとかじゃなくて、庭に置いてある腐った木片に”ニオイ”を感じて、ちょっとほじくったらクワガタの幼虫が出てくる…っていう宝探しみたいなことが好きだったんです。基地とかも作ったし。あとは養殖もしましたね。
 

—養殖ですか!?

 
鈴木:俺カマキリも好きで、近くの原っぱからいっぱい卵を持ってきて自分の家の庭に置いて…次の年からはもうカマキリの入れ食いですよ。
 

—そして、電車もお好きだということで…

 
鈴木:マニアの方には足元にも及ばないけど、まぁ好きですね。実家の近くには弘南鉄道というのが走っていて、それは今にして思えばすごく貴重な、東京の東急東横線から払い下げになった、床が木で電球(ヘッドライト)が1個の古い電車が走っていて…当時はその価値がわからなかったんですが。それよりはブルートレインが好きで、見るだけでもワクワクしましたね。あ、そういえば「あけぼの」がなくなっちゃうんですよね。
 

—3月で定期運行がなくなってしまうようですね。

 
鈴木:田舎に帰るときはそれで帰ってたので、楽しみがなくなっちゃいますね。周りにいわゆる”カメラ小僧”の友達がいて写真を見せてもらったり、しまいにはNゲージという鉄道模型を買って…でもなんかうまく作れなくて、なんとなく終わっちゃったなぁ。多分KISSと出会ってNゲージやめたんですよ(笑)。そっち(レコード)に金をつぎ込むようになったので、KISSに出会ってなければ鉄道模型オタクになってましたね。
 

—なるほど。そのKISSとの出会いというところも含めて伺いたいのですが、音楽はどのようなきっかけで興味を持つようになったのでしょうか。

 
鈴木:音楽は…青森にたった1局しかないAMラジオがきっかけですね。RABっていう。僕は勉強の虫だったんですけど、「もっと上に…」っていう感じで、夜ラジオを聴きながらずっと勉強していて。その中の一つに夜10時半か11時か、その辺りに放送していた小林克也さんのトップテンものを毎週聴いていました。それまで洋楽ってなんかうるさいものとずっと思っていたけど、その番組で聴くようになってからは日本の曲よりいいなぁと思うようになって。
 

—特にどんな曲が好きでしたか?

 
鈴木:最初に何の曲が好きになったというのは覚えてないけど、そこでKISSの「ラヴィン・ユー・ベイビー(I Was Made For Lovin’ You)」が引っかかったんですよ、俺の心に。それで、まずはシングルを買って。B面も良かったんですよ。Ace Frehleyが歌ってる…
 

—「ハード・タイムス(Hard Times)」ですね。

 
鈴木:それがまた良くて。B面でこんなに良ければアルバムもいいに違いないっていってアルバムも買って、そこから怒涛のようにKISSをまず全部集めて。中学生時代はKISSしか聴いてなかったですね。
 

—そこからどのようなきっかけで楽器を始めたのでしょうか?

 
鈴木:KISSに出会って影響を受けて、じゃあ自分も楽器をやってみようと思いました。中学の時にはフォークギターを持っていたけど、それで「デトロイト・ロック・シティ(Detroit Rock City)」とかを弾いたけど何か面白くないなぁって感じで(笑)。高校に入って、入学お祝い金でPaul Stanleyモデルのグレコ・ミラージュを買って、そこから少しエレキギターを弾くようになったんだけど…どうもイマイチだなぁと思って、ベースを買ったんですよ。高校2年生くらいの頃です。
 

—なるほど。

 
鈴木:ちょうどIron Maidenが1~2枚目のアルバムを出した頃で、Steve Harrisいいなぁと思って、TOKAIのHARD PUNCHERっていうSteve Harrisモデルのベースギターを買ったんです。
 

—同級生には音楽仲間は多かったのでしょうか?

 
鈴木:いっぱいいましたよ。先輩と組むというバンドも含めて一学年に幾つもあって、僕も二つのバンドに入っていました。一つが和嶋くんとやっていた「死ね死ね団」というバンドで、もう一つは…バンド名がしょっちゅう変わっていて、最終的にはOzzy Osbourneの1stアルバムに入っているインスト曲にちなんだ「Dee」っていうバンド名でしたね。そんなさえないバンド名で(笑)
 

—最初はコピーが多かったのかなと思いますが、どのようなきっかけで作曲をするようになったのですか?

 
鈴木:和嶋くんはもう既に自宅録音をやっていて、「死ね死ね団」のボーカルの人もいっぱい作っていて…というように、コピーだけでなく遊びで宅録が流行っていて。たまたま俺も作ることになり、そこでとっさに作ったのが今の「りんごの泪」の原形です。(イントロ部分のフレーズを口ずさむ)
 

—人生初作曲が「りんごの泪」の原形だったのですね。

 
鈴木:それが高校2年生の頃です。「デーモン」っていう曲なんですけどね(笑)
 

—当時、大人でギターやベースを演奏したり作曲したりしている人は身近にあまりいなかったのではないかと思います。いわゆる「ロックを教えてくれた大人」のような存在はいたのでしょうか?

 
鈴木:大人で?やっている人はいなかったけどロックマニアはいましたね。父親の教え子の中に自動車を売っている人がいて、「ちゃん、KISSばかり聴いてるみたいだけど他にもいいロックがいっぱいあるんだ」って言って何枚か貸してくれて。そこで一気に広がって、Pink Floydの「狂気」とか、わけもわからず聴いてましたね。最初はジャケットが虹色に光ってるからRainbowだと勘違いして「Rainbowってこんなに静かなのか?」って(笑)。あとはLed Zeppelinの4枚目とか、Scorpionsとか、結構衝撃的でしたね。「なんだKISSよりいいじゃないか!」って。
 

—「KISS」から一気に広がりましたね。

 
鈴木:まぁでもやっぱりKISSにはかなわないですね。最初に聴いたからというのもあると思いますが。和嶋くんにおけるTHE BEATLESみたいなものです。どの曲も俺の魂にグッとくるんですよね。
 

内定を蹴ってバンドを選んだのは「和嶋くんとやるから楽しいんで」
—そうすると、高校時代はNゲージからKISSに移行して、それからすっかり聴くのもやるのも音楽の虫という日々だったのですね。

 
鈴木:新聞配達をして金を溜めて、それでひたすらレコードを買っていたんですね。どっちかというと聴くのが好きで、やるのは…バンドのリーダーじゃなかったし、自分のそんなに好きでもない曲をやっていたこともあって。でも、その時にコピーした曲は今でも弾けますね。SAXONとかJudas Priestとかやったのかな。
 

—では演奏に関しては、自分の好きな曲をひたすら弾くというような…

 
鈴木:いやー、俺は弾くことに関して和嶋くんみたいに熱中して練習したことは一度もないんですよね(笑)。動かなくなっちゃ困るからライブの直前に指を動かすという程度で、普段は弾かないですね。
 

—とすると…きょうこれだけは伺いたい!と思っていたことをこのタイミングでお聞きしますが、「バンドで飯を食っていく」と決意するに至った経緯といいますか、その時の心境という所で。

 
鈴木:うーん。
 

—今でこそ日本人のメジャーアーティストがテレビに出てCDが売れて…という前例があったり、最近では高校の軽音楽部で顧問の先生が教えてくれるといった身近な大人の影響があると思いますが、鈴木さんの学生時代は、周りの大人にリスナーはいてもプレイヤーはいない、レコードも洋楽が中心で国内のロックミュージシャンという前例はほぼない。「あのバンドに憧れて自分たちもプロを目指す」という今とはまた違った社会環境ですよね。

 
鈴木:そうですね。遊びでやっていた人間椅子というバンドが、意外といい曲がいっぱいできちゃっていたから、(小声で)もしかしたら、行けるかもしれない…というのは和嶋くんも俺も思っていて。でももう大学4年生になって、俺は就職活動をしていて、そんな時、就職活動中に立ち寄った古レコード屋に偶然和嶋くんがいまして、この広い東京で。そこで「こんな所で会うなんてすごい縁だな」って思って…そこで多分、バンドをやろうって俺言ったんですよ。多分。就職しないで。
 

—その時はもう内定が出ていましたか?

 
鈴木:出てましたね。
 

—改めて伺いますが、その「バンドを続けていこう」という言葉はお二人のうちどちらから先に言ったのですか?

 
鈴木:言い出しは俺だったと思いますね。それでバンドやろうと思ってライブをいっぱいやっているうちに、ふとしたきっかけでイカ天にビデオを送ったんです。そうしたら早速返事が返ってきて、是非出てくれと。どう見てもこれはいい曲だと思っていたから…「陰獣」という曲で。これは行けるに違いないという自信はあったけど。
 

—確かにイカ天の頃にはもう「行けるぞ」という確信があったのかと存じます。その前に、学生時代からずっと和嶋さんとバンドを続けてきて、どこかで「このバンドで飯を食う」という面で迷ったり不安になるというようなことはなかったですか?

 
鈴木:飯食っていこうと思ってるとかじゃないけど、和嶋くんとやるから楽しいんで、他の人とはやってないし。その頃はまだ若くて、飯食えるとか食えないとかは考えてなかったですね。就職しないでバンドで内輪じゃない人を集めてバンドをやりたい、それが当たればそれでよし、当たらなかったらまた違うところに就職活動すればいいや、という感じでしょうか。…食えると思ってなかったですけどね、そんなにね。
 

—自分たちの作る曲はいい曲だ、という確信はあったのですよね。

 
鈴木:僕は和嶋くんの作る曲が、「陰獣」とか「鉄格子黙示録」とか、その辺りは他の外タレの曲に肩を並べていたと思うので…詩もいいし。まぁいかんせん25年経っても言えることは、二人とも歌がヘタということですね(笑)。これがいまだにクリアできないところですけど、そこは難点ですけど曲はいいと思いますよ。
 

—その思いはイカ天出演後もずっと変わらず、でしょうか。この25年間でバンドをやめようと思ったことはなかったですか?

 
鈴木:うーん…やめようかなぁっていうのは、ないんじゃないかな。それはたぶん自分のことだけで言うと、バイトしながらバンドを続けていたから、食えないということがなかったので。それがあるから安心してバンドもできるというところがあります。「背水の陣」みたいに自分を追い込むと逆に、落ち着いてバンド活動ができないですよね。そこは和嶋くんと違うところかもしれません。
 

—「バイトに追われてバンドの練習や曲作りの時間が取れないから、思いきってバイトをやめる」というケースもありますが…

 
鈴木:それは和嶋くんですよね。
 

—そういう思いになったことは、鈴木さんはなかったですか?

 
鈴木:和嶋くんは才能があると思うんですよ、音楽も詩も。俺はダメですからね。時間だけが有り余って曲がろくにできないという可能性の方が高いから…そりゃ時間をかければたまには数当たるかもしれませんが…才能がないんですよ。和嶋くんがそうするのと俺がそうするのとでは全然意味が違うと思いますね。
 

—逆に、音楽に対して情熱が薄れたということもなかったですか?

 
鈴木:それはないですね。もうだって、お互いの好みを知っているから、和嶋くんも俺も。自分も好きだし相手も好きだという曲しかやっていないから、それは楽しいですよね。たぶん「俺が俺が」ってやってたら、俺だったらメタルの曲しか作らなくて、和嶋くんが「手が痛ぇ」って言ってやらないだろうし、和嶋くんのブルース…やたら長いギターソロなんかだと「俺もうやってらんねぇ、こんなおんなじフレーズ」っていう感じになっているだろうし、お互いがそこを譲り合って相手のことを考えながらやっているから飽きないんだと思います。
 

—バランスが取れているというか、お互いがお互いに良さがあって。

 
鈴木:それは偶然だけど和嶋くんの広い音楽性の中でKing CrimsonBlack Sabbathという部分があって、自分もいっぱい聴く中でサバスクリムゾンが好きで、そこが合致していたから良かったですよね。
 

—この四半世紀の間に人間椅子というバンドにおいて大きな変化はなかったですか?

 
鈴木:音楽的にはないんじゃないですか?ドラムが変わったくらいで。デビュー当時から事務所とかレコード会社にさんざん言われたけど、そういう音楽性とかバンドの方向性で色々言われたことは全部無視していたから…「カタカナのバンド名にしろ」とかね。
 

—そんなことがあったんですね!

 
鈴木:あとは「ボーカル入れろ」とかね、いっぱい言われたけど。
 

—そこは和嶋さんも同様に、首を縦に振らなかった?

 
鈴木:そうですね。だって楽しみでやっているバンドだから、元々食おうと思ってやっているバンドじゃないから、自分は弾きながら歌うというのがいいと思ってやっているから3ピースがいいと思ってるし、フロント二人が歌ってたまにドラムが歌うのがいいなと思ってやっているからね。
 

苦労の末完成した『三悪道中膝栗毛』は「意外と力作だと思う」
—和嶋さんへのお話をたくさん伺いましたので、ノブさんへのお話も伺いたいと思います。前回のインタビュー(ROCK SAMURAI STORY 人間椅子(Part1)参照)でノブさん加入の経緯を伺いました。最初に鈴木さんがノブさんのドラムを聴いた時、どのような印象を持ちましたか?

 
鈴木:うまい、と思いましたよ。まだ今ほどハードロック的なノリじゃなかったけど…文字にすると伝わりにくいけど、裏を感じるドラム…まぁうまい人は当然できるのかもしれないけど、意外とちゃんとできる人が少ないんですよ。ノブはそれがちゃんとできるので。
 

—ドミンゴスなど、それまでのノブさんが叩いてきたバンドの音楽性との違いは、問題にならなかったですか?

 
鈴木:ノブくん自ら「俺ツーバスやったことないんだけど、やる!」ってわざわざツインペダルを買って持ってきたり、情熱を感じましたね。いまだにそうだけど、「これちょっとできない」というのをひたすら練習していて、ハードロックにどっぷり浸かるようにすごく努力しているなぁと思いますね。
 

—ノブさんが加入されてから既に10年が経ち、その間にも様々なアルバムがリリースされています。この10年を振り返って、レコーディングや曲作りなど、特に印象的なアルバムを1枚、教えてください。

 
鈴木:ノブが入ってから?『三悪道中膝栗毛』じゃないですかね。
 

◆『三悪道中膝栗毛』
2004年09月29日発売
<収録曲>
M01. 洗礼
M02. 遁走
M03. 意趣返し
M04. 新生
M05. 夜間飛行
M06. 野垂れ死に
M07. 悪霊
M08. 道程
M09. のれそれ
M10. 発射
M11. 痴人の愛

 
鈴木:あの1曲目の「洗礼」でノブをオーディションしたから、よく覚えていますよ。あとは…和嶋くんがいい曲をいっぱい作ったなっていうのは覚えてますね。あ、思い出した!「道程」って曲は自分で歌おうと思ったら意外とキーが高くて「これはノブが歌った方がいいな」って決めたんです。俺のキーに合ってたら俺が歌ってたんだけど、でもノブが歌ったことでうまくいって、お陰でライブの目玉商品が一つ増えたんだよね。
 

—ノブさん加入後初のアルバムで、既に3人のグルーブができあがったのですね。

 
鈴木:これは意外と力作だと思うんだよなぁ。相当苦労して作った記憶があるので…
 

—ノブさんが入ることが決まってから作った曲が多いですか?

 
鈴木:そうですね。よし3人で行ける!ってなってから気合い入れて作ったんですよね。
 

—そうするとレコーディング期間もかなり短いですよね。

 
鈴木:覚えてないなぁ…でも、さんざん練習して入ったからレコーディングはすんなり行ったと思いますね。
 

—そしてもう一つ伺いたいのが、2011年8月にリリースされた20thアルバム『此岸礼讃』は東日本大震災というテーマが一つ骨格にある作品だと思うのですが、このアルバムの中で特に思い入れの強い曲、レコーディングでの印象的なエピソードなどありますか?

 
鈴木:和嶋くんはそう一生懸命言っていると思うんだけど、俺自身は震災ということへのこだわりはなくて、その時に考えて考えて考え抜いてやっと出たフレーズを曲にしているだけなんですよね。いつもどのアルバムでも。歌詞は和嶋くんが書いてくれるから、そういう和嶋くんのコンセプトになるんだけど、俺が曲を作っている段階ではフレーズやメロディを作るのにいっぱいいっぱいで、曲のコンセプトというのを考えることはないですね。
 

—今回はアルバムがこういうコンセプトだからこういう曲を…という作り方ではないのですね。

 
鈴木:ただひたすらいいフレーズ、いいリフ、と思ってやっているだけですね。それでまた和嶋くんがいい曲をスタジオに持ってくるじゃないですか。「あんないいリフ来たら俺ももっと作らなきゃ」と思って、やるんですよね。向こうもそう思っているかもしれないけど。
 

—互いにいいライバルでもあるわけですね。レコーディングの方法やスピードも、ずっと変わらずですか?

 
鈴木:だんだんストイックになってますね。もっとうまく、もっとかっちり、という向上心が和嶋くんは強いので、毎アルバムごとに時間がかかるようになりましたね。
 

鈴木研一が人間椅子以外のバンドで演奏しない理由
—曲作りの話とも多少重複するところがあるかもしれませんが…普段自分たちの好きな音楽を演奏するということに加えて、レコーディングでは「聴かせる」というか「魅せる」ということも意識して演奏されるのかなぁと思います。

 
鈴木:うん、うーん…
 

—アルバムを制作するにあたって「今回はこう見せたい」と何か決めて臨むことはあるのでしょうか?

 
鈴木:1stからずーっと同じことをしてるから、特にこの頃こうしたってことはないと思うんだよな。ただ、色んなバラエティに富んだ作品になるようにしているはずですよ。『三悪道中膝栗毛』については、「発射」は景気づけの曲だし、宇宙シリーズで「夜間飛行」が入っているし、ダウンチューニングの「野垂れ死に」と「洗礼」と「悪霊」と「痴人の愛」、ノブの歌が聴ける「道程」…でも、あんまり考えて作ってないんですよね。「これはいい曲だ」っていうのをいっぱいいっぱい作って、その中から一つ一つ削っていってこれになっているので。
 

—無礼な表現になってしまったら恐縮なのですが、よく一般的に「同じことを続けているとマンネリ化してしまう」と否定的に捉えられたり、敢えて過去のスタイルを打ち捨てて新しいことに挑戦する方もいます。そうした「マンネリ」の壁みたいなものにぶち当たることはこれまでなかったですか?

 
鈴木:うーん、俺らは独特のマンネリズムでやっているから、それがないとおかしいと思うし、もしこれでフュージョンっぽいものとか黒っぽいもの(=R&B系)をやり出すって誰かが言い出したら、俺はやらないって言うだけだし…逆に俺が「ブラックメタルみたいなものをやりたい!」って言っても和嶋くんはやらないって言うだろうし、そこは話すまでもなく。音楽性に関して、そんな話題になることはないですよ。
 

—逆の言い方をすると、人間椅子が軸がぶれないながらも四半世紀ずっと新譜を出し続けることができる理由は何でしょうか?

 
鈴木:それは和嶋くんが常に「もっと違うものを、もっと新しいものを」と思っているからこそ飽きさせないのだと思うし、逆に俺は「もっと同じことをもっと突き詰めたい」というやり方でもっとマンネリを…と思っていて、で、二人でちょうどいいぐらいのバランスが取れているのかなと思います。
 

—鈴木さんご自身、期間限定の企画モノも含めてこれまで他の方とバンドを組んだりゲストに出たりすることはこれまでほとんどなかったように思います。

 
鈴木:人間椅子のバンド活動で十分なんですよね。
 

—他のバンドを組んでみたいと思うことはないですか?

 
鈴木:偶然出会いがあれば、もっとメタルなバンドをやってみたいなぁと思ったこともありましたけど、最近はそんなこともなく、今後もそんなことはないんだろうなぁと思いながら。ただ、ハードロック以外には関心がないですね。
 

—「うちで弾いてください!」と誘われることもなく?

 
鈴木:時々あったけど、数えるくらいですね。一回だけ某バンドのレコーディングに参加したことがあるんだけど…
 

—そうなんですね。差し障りのない範囲で詳しく教えてください。

 
鈴木:レコーディング方法が全然違ってやりづらかったですね(笑)。そこにいないドラムに合わせてやらないといけなくて。俺らはいっつも3人で一気にやっていたので。
 

—確かに、人間椅子のレコーディングでは3人同じ部屋に入って録っていますよね。

 
鈴木:普段は相手のフリを見ながら弾くから、そのレコーディングに参加した時は「音に合わせるなんてできねぇよ」って思いながら演奏してましたね。
 

—普段のライブでの共演などで、他のミュージシャンから影響を受けることはありますか?

 
鈴木:うまいなぁという人はいっぱいいますよね。ベースに関して言えばサトケン(=佐藤研二マルコシアス・バンプ)とか。でも、俺は自分のベースが一番好きなんだよね。俺が一番いい音出してるんじゃないかなと思ってやってるんだけどね。テクニックは全然だけど、音は俺が一番いいと思ってやってますよ(笑)
 

—そうすると、人間椅子じゃなかったらバンドをやっていなかったというくらい、3人の関係性、特に和嶋さんの存在は大きいのですね。

 
鈴木:そうですね。他にうまいギタリストはいっぱいいるだろうけど、俺が思っているようなギターを弾けるのは和嶋くんしかいないと思いますよ。音もフレーズも。…って、俺が言っている以上のものをまた和嶋くんが出してくれるから。「いや、こっちの方がいいんじゃない?」って。それがレコーディングの楽しいところですよね。あ、ほんとだ、さすがだ、と思って。
 

—もう次のレコーディング(2014年6月25日リリース『無頼豊饒』)が始まっているんですよね。

 
鈴木:レコードの…発売日も決まってます。で、レコーディングの日付も決まってるんだけど、曲が全然できてない。…だから今回のインタビューのスケジュール(徳間ジャパンの担当者へ)なかなか返信しなかったんですよ(笑)。曲できてねぇのになぁ…って(笑)
 

—ところで衣装に関してはデビュー当初のイカ天当時のネズミ男スタイルからお坊さんスタイルへと大きな変化がありました。これはどのような経緯で決まったのですか?

 
鈴木:しばらく長髪を続けていて、そのうちに長い髪がしづらいというかやりたくなくなったんですよね。それで中途半端に切るよりはスキン(ヘッド)だと思って、一夜にしてスキンにして。まぁその日はみんなびっくりしたけど、試しに1回やってみて気に入らなかったらまた伸ばせばいいやと思って、でも楽なんですよね。自分でバリカンで刈ればいいし…もうこの頭にしたらお坊さんの格好くらいしか似合うものはないかなと。それまではアルバムのたびにちょっとずつ衣装を変えていたけどもう変えなくなって。未来永劫あの格好ですよ。
 

—年末のO-WEST公演では「ネズミ男復活」を思わせるMCもありましたが…

 
鈴木:あー、衣装は家に保管してあるので。…どうでしょうね(笑)。衣装チェンジと言えば、もっと立派な袈裟を着たいと思うんだけど、半端なく高いんだよね(笑)
 

—袈裟姿でステージに立つようになって、弾きにくさというか動きにくさはなかったですか?

 
鈴木:ありますよ。裾がフレットに当たったり、長いと踏んづけて転びそうになるし。まぁでも、そこはね、しょうがない(笑)。あと裸足だから、下にくぎとか出てると最悪ですよね。終わった後血だらけになっていることもあって。
 

—昨年はOzzfest出演もあり新たなファンもたくさん増えたことと思います。今年鈴木さんご自身が新たに挑戦してみようと思うこと、野望などあれば教えてください。

 
鈴木:俺は何も変えないでいこうと思ってますよ。たぶん他の2人もそう思ってると思うけど、ちょっと売れたから変える…みたいなのは僕らはないですよ。いきなりレーザーショーとかやらないですよ(笑)。あぁでもそうだ!よくKISSとかはステージの後ろに派手な電飾がありますよね。ああいうのを俺らもやってみたいなとは話してますね。LEDじゃなくて、初期のKISSみたいな白熱球みたいなのがいいと思うんだけどなぁ。
 

—確かに大きなステージだと映えますね。

 
鈴木:でもライブ終わったあとどこに置くんだって話ですよね(笑)。まぁ新しいことといったらそのくらいですよ。今さらMick Jaggerみたいに走り回るわけにもいかないし、(大きなステージでも)たくさんのお客さんの前で、真ん中に寄って、こぢんまりとやりますよ。
 

◆人間椅子 ディスコグラフィ
(ナカジマノブ 加入以降)
 

『萬燈籠』
2013/08/07発売
TKCA-73939
 
 

『疾風怒濤~人間椅子ライブ!ライブ!!』
2010/12/01発売
TKCA-73608
 

『人間椅子傑作選』
2009/01/21発売
TKCA-73403
 
 

『瘋痴狂』
2006/02/22発売
TKCA-72977
 
 


『此岸礼讃』
2011/08/03発売
TKCA-73676
 
 


『未来浪漫派』
2009/11/04発売
TKCA-73486
 
 


『真夏の夜の夢』
2007/08/08発売
TKCA-73226
 
 


『三悪道中膝栗毛』
2004/09/29発売
MECR-2015
 

 

次回予告

特集「ROCK SAMURAI STORY」、次回は和嶋慎治ソロインタビューを掲載予定!
 

◆人間椅子 公式サイト
http://ningen-isu.com/
◆人間椅子 公式ブログ
http://ningenisu.exblog.jp/
 
◆リリース情報
22thアルバム
『無頼豊饒(ぶらいほうじょう)』

2014年6月25日発売決定!
TKCA-74080 (CD+DVD) 4800円(税込)
TKCA-74085 (CD) 3086円(税込)
◆ライブ情報
『YATSUI FESTIVAL! 2014』
・2014年06月21日(土)
会場:【渋谷】TSUTAYA O-EAST/TSUTAYA O-WEST/TSUTAYA O-nest/TSUTAYA O-Crest/
duo MUSIC EXCHANGE/7th FLOOR/club asia/VUENOS/Glad
http://yatsui-fes.com/
 
「祝20周年!犬神まつり千秋楽」
・2014年07月12日(土)【渋谷】TSUTAYA O-EAST
 
「AOMORI ROCK FESTIVAL’14~夏の魔物~」
・2014年07月21日(月・祝)
会場:【青森】東津軽郡平内町夜越山スキー場
http://natsunomamono.com/
★読者プレゼント★
鈴木研一のサイン入りピックを、抽選で2名様にプレゼント!
 
ご応募方法は“BEEASTファンクラブ”の方にお届けする「週刊ビースト瓦版(無料メルマガ)」にて記載いたします。
 
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取材協力:レストラン・ピアノピアノ
東京都中野区若宮3-36-11 ソシアルビル2F
TEL:03-3336-4525
https://www.facebook.com/restaurant.pianopiano

 

 
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