演奏

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TEXT & PHOTO:鈴木亮介

人間椅子ファンにはおなじみ、鈴木研一がDJを務め、王道からコアまで、様々なハードロックナンバーのシャワーを浴びつつ、緩やかな時を過ごせる「ハードロック喫茶ナザレス」。高円寺Show Boatで季節開催されており、23時にスタートし早朝4時過ぎまで行われるオールナイトイベントでありながら、マスター・鈴木研一による濃厚な選曲と緩いトークがコアなファンに人気を呼ぶ定番イベントだ。
 
5月のOzzfest出演以来初の開催ということもあってか、今回はなんとチケット完売。満員御礼となった「ナザレス」の模様を本誌単独レポートにてお届けしよう。

午後10時半、夜の公演を終えた出演者が機材を搬出し、フロアに整然と椅子が並べられる中、マスター・鈴木研一が現れた。ARABAKI ROCK FEST.のこと、Ozzfestのこと、そして新譜レコーディングのこと…1ファンとして聴きたいことが溢れそうになる中、表面張力ギリギリの所で挨拶をさせていただく。マスターいわく「やる曲は決めてない。今考えてるけど…基本はオレの聴きたいものを流すって感じかな」とのこと。膨らむ期待をさらに煽るように、バーカウンターの奥では「ソールドアウトにしましょう」という声が聴こえてくる。オールナイトのDJイベントで、これほどの盛況となるのは稀なことだろう。
 
 

 

そして午後11時半、開場。続々と観客で座席が埋まる中、マスター・鈴木研一もステージへ。脇には何百枚ものCDが入ったケースが置かれている。この中からいったいどんな曲が流れるのか…
 
「Show Boatが20周年ということで、そして今日は和嶋君がコラムを書いてるBEEASTの取材も入っているというのにね…普通に来てしまいましたよ。いつも通りのナザレスで…」「まぁでも記念といえば、ついに僕の体重が3桁に行きまして…」実に和やかな、緩やかな雰囲気でスタート。記念すべき今夜の1枚目は、”アイルランドの英雄”と評されるハードロックバンド・Thin Lizzyの『Chinatown』!
 
 

 

序盤からキュイーンとギターが唸る王道のハードロックナンバーが連発。イベントタイトルにもなっているスコットランドを代表するHRバンド、Nazareth(ナザレス)の『Close Enough for Rock ‘n Roll』からもキラーチューンが流される。Motorheadの2ndアルバム『Overkill』がかけられ、さらにOzzfestへの出演を経て改めて人間椅子にとって特別な意味を持つバンドとなったBlack Sabbathの『Paranoid』から、スローなナンバー「Planet Caravan」がかけられたところで、日付をまたぐ。その楽曲の雰囲気そのままに、ディープな時間に突入。
 
「ナザレス」は観客が流してほしい曲をリクエストすることもできる。勝手を知った常連さんは早くも備え付けのメモにリクエストを書いてマスター・鈴木研一の元へ渡しに行っている。トークテーマのリクエストもOKということで、最初のリクエストは「レコーディングの裏話」。(この日時点でまだ発売されていない)ニューアルバム『萬燈籠(まんどろ)』について、「7月1日にレコーディングが終わったんだけど、和嶋君が同じ(タイムリミットギリギリの)7月1日に歌を入れてトラックダウンをやってマスタリングをやるという離れ業をやってしまいまして…」と驚きの事実を明かす。世の中でそんなバンドは一つもないんじゃないか、とマスター・鈴木研一は語るが、確かに1つの曲をわずか1日で1から10まで作り上げてしまうのはいくら四半世紀活動を続ける人間椅子と言えども、容易なことではないだろう。ただ、先日本誌インタビュー取材の際に(参照:ROCK ATTENTION 25 ~人間椅子~)「追いつめられてかえっていいものができる」という話があった通り、むしろ彼らにとっては「良いレコーディングの仕方」なのかもしれない。
 
 

 

往年のファンいわく「いつも以上に饒舌」というマスター・鈴木研一。スローな曲に合わせて体を揺らしながら冷たいお茶を飲む。観客も「一心にステージへ視線を送る」という普段のライブとは違って、友人同士おしゃべりをしたり、読書をしたり、うとうとしたり…と、思い思いにこの空間を楽しんでいる。余計な気遣いなしに、一緒の空間をともに楽しめる。人間椅子に長年寄り添ったファンだからこそ為せる”嗜み”であり、(筆者も含め)ナザレスに初参戦というファンもその空気にすぐに順応することができた。
 
さらに、トークはOzzfestについて。当日、和嶋慎治とともに気持ちは学生時代に戻って本家・サバスのプレイに見入ったようで、「Iron Man」を流しながら「びっくりしたけどこれ…Tony Iommiソロ間違えましたね!」と上機嫌。さらに、陽気なギターサウンドが目を覚ますBlue Oyster Cultに続いて、「Motorheadと思って持ってきたらRADIOHEADだった」と冗談を言いつつ、マスター・鈴木研一RADIOHEADをターンテーブルに。深夜ラジオに時めく少年少女の表情が、客席のあちこちに見える。
 
 

 

Wishbone Ashの『Pilgrimage』が流れた後、「(Ozzfestで)オーって思ったのはね、「Black Sabbath only」って書いた便所があったことですね。帰る時もうこれいらねぇだろと思ってもらってきて家に飾ってあります」…マスター・鈴木研一のまさかの告白に、場内大爆笑。ちなみに、Black Sabbathメンバーとの対面は残念ながら果たせなかったそうだ。
 
この後、スクリーンでホラー映画のDVDを流しつつ、(ももいろクローバーZのバック演奏のためOzzfest初日も出演した)和嶋慎治が「生で観て感動した」というSlipknot、そしてMarty Friedmanの作ったももクロ曲のフレーズのコピーに和嶋慎治が苦戦したという話の流れから、Marty Friedman在籍時のMegadeth、さらにはJudas Priestの「Invader」と、幅広い選曲が続く。ちなみに鈴木研一いわく、「人間椅子にもきゃりーぱみゅぱみゅにもインベーダーという曲はある」のだとか。(※人間椅子の「侵略者(インベーダー)」は2001年発売10thアルバム『見知らぬ世界』に収録)
 
 

 

曲間のMCではレコーディング秘話が続く。「和嶋君のギターのネックが折れて、新しいギターを買った」「ノブ君はOzzfest出るということで新しくバスドラ買って…タムも1個増やしてましたよ」…実はナカジマノブはそれまでタムを2つしか使っておらず、「ハードロックなんだからタムを増やした方が良い」という鈴木研一の主張に難色を示していたのだとか。それを、鈴木研一がサビに高速タムが必要になる楽曲を今回の新譜『萬燈籠』収録曲として制作したことで、「半ば強制的に1個増えた」という。ちなみにそれは今作で唯一鈴木研一が作詞も手がけた「ねぷたのもんどりこ」なので、アルバムを聴く際サビのタム音も是非チェックしてみてほしい。
 
午前2時過ぎ、ギターをブイブイ陽気にかき鳴らしていたMetallicaから一転、「この前ラジオで聴いていい曲だなと思って、一昨日『Greatest Hits』を買ってきましたよ」と、Elton Johnを流し、しっとりとした雰囲気に。と思えば日本文化に魅せられたイタリアのメタルバンド・HOLY MARTYRの「座頭市 -Zatoichi-」で再び鋼鉄サウンドを轟かせると、Steel Pantherで畳みかける。そこに「好きな力士を教えてください」というリクエストカードが届くと、もう完全に高円寺Show Boatが津軽鈴木家と化す。「好きな力士は安美錦です。(出身が)青森だって言うのもあるし、渋いんですよとにかく。強い相手には強いし、弱い力士には手を抜いて負けるという(笑)」人間椅子鈴木研一の脳内の一片を覗いているようで楽しい。
 
 

午前3時を回り、Cheap TrickからGhost(スウェーデン出身のゴシックホラーロックバンド)、KISSまで、選曲も依然としてハードロックファンを飽きさせないラインナップだ。「何だかんだでKISSは心が落ち着きますよね」と語る鈴木研一、自分は他の人間椅子メンバー2人と違って夜型じゃないから、と言いつつレコーディング裏話も多々語り、サービス満点。中でも印象的なのは「和嶋君は常日頃、外国でプレイしたい、ヨーロッパツアー行きたい(と言っている)」という話。マスター・鈴木研一も「(海外に行くとしたら)アメリカじゃないだろうという予感は僕もするんですよね。もし行けるとしたらヨーロッパ。デンマーク受けるんじゃないかなと思って」と加える。日本を代表するハードロックバンド・人間椅子のヨーロッパツアー、実現する日が待ち遠しい。
 
さて午前4時を回り、いよいよ終盤。観客からのリクエストに応えつつ、AC/DCQUEENといったラインナップに続いて「せっかくBEEASTが取材に来てくれたので『ビースト』って曲をかけましょう」と、手にしたアルバムは70年代にアメリカのメタルシーンを席巻したTwisted Sisterが1984年にリリースしたベストセラーアルバム『Stay Hungry』。その中に収録された「The Beast」が流れる!(ありがとうございます!)さらに「7月にナザレスがあるということで、やっぱりあの曲をかけますか。普段はスタジオ版だが「ベースがすごい」ライブ版を…」と、Uriah Heepの「July Morning」を流し、7月14日の朝を迎えたところで、これにてお開き!
 


「長い時間お付き合いくださってありがとうございました。もう外は明るいですからね。腹も減ったでしょう…」と、最後は鈴木研一お手製のおにぎりときゅうりの漬物を、リクエストを寄せた観客の中から1名にプレゼント!
 
ハードな楽曲にとことん浸りつつ、菩薩のような鈴木研一の笑顔に優しく包まれる、大変奥深いイベントであった。これは、人に教えたいような、教えたくないような…そんな”数寄者”だけのイベント、ハードロック喫茶ナザレス。次回は11月30日(土)深夜~12月1日(日)早朝に開催される。チケットはShowBoat(http://www.showboat.co.jp/pick_up/201311.html)にて販売中なので、”数寄者”たちは早めにチケットを入手しておこう。
 

◆リリース情報
人間椅子 21thアルバム 『萬燈籠』
2013年8月7日~発売中

 


鈴木研一お手製おにぎり
(見事当選したBEEAST読者Kさんより写真提供)
◆人間椅子 公式サイト
http://ningen-isu.com/
◆人間椅子 レーベルサイト
http://www.tkma.co.jp/j_pop/ningenisu/
 
◆人間椅子レコ発ツアー ~萬燈籠~
・2013年09月12日(木) 【札 幌】ベッシーホール
・2013年09月15日(日) 【青 森】クォーター
・2013年09月16日(月祝)【仙 台】enn2nd
・2013年09月20日(金) 【博 多】DRUM Be-1
・2013年09月21日(土) 【熊 本】DRUM Be-9 V-1
・2013年09月23日(月祝)【大 阪】ROCK TOWN
 ※SOLD OUT!!
・2013年09月24日(火) 【神 戸】チキンジョージ
・2013年09月26日(木) 【名古屋】E.L.L.
・2013年09月29日(日) 【渋 谷】O-WEST
 ※SOLD OUT!! 「おどろの日」
・2013年09月30日(月) 【渋 谷】O-WEST
 ※SOLD OUT!! 「どろろの日」
 
AOMORI ROCK FESTIVAL ’13~夏の魔物~
http://www.natsunomamono.com/
・2013年09月14日(土)
【青森】東津軽郡平内町夜越山スキー場
 
LIVE DVD 発売記念ツアー「四半世紀中」
・2013年11月03日(日)【大阪】BIGCAT
出演:筋肉少女帯 / 人間椅子

 

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