演奏

TEXT:鈴木亮介

ロックな演劇集団「劇団鹿殺し」のOFFICE SHIKA PRODUCE公演『罪男と罰男』が松島庄汰渡部秀のW主演により、2020年3月19日(木)より大阪・ABCホールにて上演された。
 
本作は2017年オンエアのNHKラジオドラマで話題を呼んだ丸尾丸一郎作品の舞台化。罪を犯す男と罰を引き受ける男――どこか浮世離れしているようで、人間関係のリアルを描いたものだ。本来は2020年3月11日(水)より座・高円寺1にて東京公演が行われる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止を図る政府要請を受けて東京・杉並区が3月中の劇場休館を決定。東京公演は中止となった。
 
当たり前に音楽や演劇を楽しんでいたことが、実は当たり前ではないのか?と思わされ、不安が広がる今。そんな今だからこそいっそう響く”魂のぶつかり合い”を、レポートする。
 

◆公演情報
OFFICE SHIKA PRODUCE『罪男と罰男』
脚本・演出:丸尾丸一郎
出演:
松島庄汰 渡部秀
鷺沼恵美子 近藤茶 有田あん 長瀬絹也
岡本玲 丸尾丸一郎 ほか
 
公演:
【大阪】ABCホール
3月19日(木)~3月22日(日)
 
特設サイト:
http://shika564.com/tsumibatsu


罪を犯す男、森日出男(松島庄汰)。罰を引き受ける男、山田武男(渡部秀)。2人が出会ったのは1995年1月17日、神戸にて。未曽有の大震災で混乱する街中を、日出男は友人の小島人志(長瀬絹也)とともにスケボーで滑走する。周囲の光景は彼にとって「写真」。無自覚に、災害の悲惨さや人々の悲しみに気づいていないのだ。SNSの普及した今なら真っ先に”不謹慎厨”と叩かれるだろう。それでも、日出男に罪の意識はない。ある人から見たらそれは不幸なこと、可哀相なこと、またある人から見たらそれは愚かなこと、怠惰なこと、と映るのかもしれない。
 
そんな中、声を上げて号泣する白衣の少年、武男。世界中の悲しみを全て当事者として受け取ってしまい、ボロボロに傷ついていたのだ。生きづらさを抱える武男もまた、ともすると哀れみや嘲笑の対象になり得る存在だ。そんな真逆とも言うべき2人が出会い、意気投合。「真逆なのに友達?」「真逆だから友達!」罪男こと日出男は、自らが周囲の悲しみに気づけていなかったことを恥じる。一方罰男こと武男は、スケボーで走る日出男に憧れ、悲しいときほど笑うことの大切さに気付き、そして悲しみの桎梏から解き放たれる。
 
「お母さんが死んじゃった、お母さんに電話しなきゃ…」遊びに興じる中、姉の月夜(有田あん)から母の死を聞かされた日出男。無自覚な陽気から悲しみのどん底へと変化していくコントラストを、松島庄汰は巧みに演じる。人の感情は原色でなくパステルカラー、それも見方角度によって瞬間瞬間変わっていく捉えどころのないもの。そうした機微の表現が非常に秀逸な役者だなと感じる。大人になってからの日出男も、とことんクズ男かと思えば純粋な側面もありつつ、「いい人」「悪い人」なんて簡単に捉えられない。





本作は舞台の中心に公衆電話ボックスが設置され、この電話が大きな役割を果たす。直接会えない、でも声に自分の思いを乗せて、互いに相手を想像し、コミュニケーションが成立する。母に電話をする1990年代の日出男と、見知らぬ老婆にオレオレ詐欺の電話をする2010年代の日出男。亡き母に向けて思いを一方的に語ることも、息子を装い作り話をすることも、本質的には同じことなのかもしれない。
 
目に見えないものを信じる力。それも、妄信ではなく視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、判断していく力。奇しくも新型コロナウイルスの猛威により日本全国総自宅謹慎状態になりつつある昨今、PCやスマホの画面越しに情報を得たりコミュニケーションをしたりする時間が激増している今だからこそ、視覚以外の感覚、「目に見えなくとも分かるもの」の大切さを噛み締める。本舞台演出の特徴でもあるが、通行人の”無言の圧”だったり、学校という集団生活の場で徐々に日出男と武男の立ち位置・関係性が影響されていく部分だったり、文字や映像だけで捉えられない表現がやはり本作の醍醐味と言えよう。





2010年の日出男は借金に追われ姉からも見放され八方塞がりの状態。そんな中、かつての恋人である美濃羽美子(岡本玲)との偶然の再会がストーリー展開において重要な役割を担う。美子との再開から日出男の存在を再認識し、過去の回想から未来を変えるヒントを取り出そうとしていく様は、タイムトラベル作品を観るような躍動感がある。
 
よく、「過去に執着する」と言うが、本作における美子はどうだろう。かつての恋人に心惑わすも、借金取りの木崎(丸尾丸一郎)によりバラされた現在の姿に幻滅。それでも、再再会した際には「変わってほしい、前に進んでほしい」と背中を押す。過去を切り離すのでも、リピートしようとするのでもなく、過去からの連続の上に、今を丁寧に重ねていく。
 
本作では美子のほかに姉、学校の先生、オレオレ詐欺の電話相手、そして姿見えぬ母と、母性に満ち溢れた女性が何人も登場する。母性、父性というものの捉え方自体が時代錯誤かもしれないが、全てを大きく包み込む愛情を持つ者は、罰を引き受ける武男のスタンスとはまた違う、そして彼らにとって重要な存在だ。





終盤の舞台となるのは病院。人の命には限りがある。限りがあるからこそ、前に進もうとして、様々な感情を引き起こすのだろう。映像作品化もされるのでネタバレは避けるが、武男が放つこのセリフが終幕後、何度も脳裏で反響した。「やっぱり笑おう。いっぱい悲しいことがあったときは、同じくらいいっぱい笑おう。」
 
全身ボロボロで、瀕死の人間、武男。真っ白な”弱さ”を身にまとっていて、だからこそ不思議と”強さ”という輪郭が浮かび上がる。そういう、教室の隅にいる、でもちゃんといる、という絶妙な存在感を渡部秀が好演する。東京公演は残念ながら中止となってしまったが、そんな今だからこそ、時代に必要な作品だと感じた。いつかまた、このメンバーでの再演を期待したい。

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