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TEXT:鈴木亮介 PHOTO:矢沢隆則

ロックな演劇集団「劇団鹿殺し」のOFFICE SHIKA PRODUCE公演『罪男と罰男』が松島庄汰渡部秀のW主演により、2020年3月11日(水)より東京と大阪にて上演される。2017年オンエアのNHKラジオドラマで話題を呼んだ丸尾丸一郎作品の舞台化。罪を犯す男と罰を引き受ける男――どこか浮世離れしているようで、人間関係のリアルを描いたものだ。
 
本記事では、その出演者の一人として注目を集める女優・岡本玲のロングインタビューをお届けする。大学4年生の頃に劇団鹿殺し作品と出会ったという岡本玲。俳優としてのルーツの一つとも言える鹿殺し作品への出演にかける思い、芝居を続ける中で感じていることなど伺った。
 

岡本玲(おかもと・れい) プロフィール
91年6月18日生まれ 和歌山県出身 第7回雑誌『ニコラ』専属モデルオーディションを獲得し、デビュー。以後、ドラマ・映画・CM・舞台と多方面で活躍中。代表作にNHK連続テレビ小説『純と愛』『わろてんか』ドラマ『わたし旦那をシェアしてた』(日本テレビ系)、映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでる』(藤原和之監督)、舞台『熱帯樹』『ダニーと紺碧の海』(自主企画公演) 2020年3月よりOFFICE HIKA PRODUCE公演『罪男と罰男』に出演する。

「芝居やりたいならやれ!」 劇団鹿殺しとの出会いが女優・岡本玲の針路を決めた
— 劇団鹿殺しとの出会いは大学4年生のときと伺いました。当時のことを詳しく教えてください。

 
岡本玲:知り合いが出ている・出ていないに関わらず色んな演劇を観に行こうって思い立った時期でした。たまたま面白そうだなって思ってチケットを取って一人でふらっと行ったのがきっかけなんですが…結構圧倒されちゃって。なんだこのエネルギー集合体は?と思って(笑)
 

— 圧倒されたんですね。

 
岡本玲:そのとき大学4年生で、みんなが就職活動する中、自分はこの仕事をずっと続けていく自信がないなと思っていた時期で、鹿殺しさんの舞台から「自信とか理由とか探さずにやりたいならやればいじゃん!」って言われてるような熱を帯びて…なんか全然泣くシーンじゃないのに一人で号泣してたっていう思い出があります。いつかこのエネルギーに自分のエネルギーを一緒に発することができる役者になれたらいいなと思っていました。
 

— 2013年頃ですから、既に朝ドラ(2012年放送『純と愛』)にも出た後ですよね。

 
岡本玲:そうですね!
 

— 周りが就活する中で、ご自身も進路に悩んでいた?

 
岡本玲:12歳から早めの段階で色んな仕事をさせていただいていたから、本当のこの芸能界という仕事が自分に合っているのかわからなくなってしまって。やりたい!じゃなくて、合わないかも?もっと合う仕事…事務とか、公務員とか、もあるんじゃないかと思って「何か資格を取ろう」と通信講座を調べたりしてましたね(笑)
 

— そういう意味では大学(日本大学芸術学部映画学科)は芸能界と違った人との関わりも増えたのではないでしょうか。

 
岡本玲:高校が日出高校の芸能コースだったので、周りはライバルしかいない状態で、共通言語が仕事の話の友達しかいなくて。「普通の感覚って何だろう」って思っていたのが、大学に行って普通に友達と楽しい時間を過ごしていいんだなって気付けたんです。やっぱり学生時代から芸能界に入っちゃうと…「したらいけないこと」がたくさん当時はあって(笑)
 

— 「したらいけないこと」…確かに。

 
岡本玲:それを、別にしてもいいのに、「しちゃだめ」と言われたから素直に従って、それが正解の道だって自分で勝手に思い込んじゃってたのを友達が崩してくれて、それが良い効果であり、新しい道も開けたからこそ、今まで信じてきたお芝居という道は違うんじゃないかなって不安になった時期でした。
 

— 視野が広がるからこそ迷いも出てきますよね。私の中の勝手なイメージですが、女優・岡本玲は2008年の「赤い糸」で華々しいスタートを切って、あっという間にお茶の間の人気も集めて、悩む間がないほど突っ走っている印象でした。

 
岡本玲:自分の長所でもあり短所でもあるのが、浮つけないんですよね。今思うと『赤い糸』など色んな作品に出させていただいた高校生の頃に、もうちょっと調子に乗っておけばよかったなって思うんです(笑)。その勢いのまま流れに身を任せて後から地に足付けるということもあるじゃないですか。そういうのを楽しめば良かったんですけど、流れに身を任せるのが怖くて。10代は。
 

— 失敗しちゃいけない!みたいな感じですか?

 
岡本玲:飲み込まれちゃいけない、というか。実力もないのに地に足付けずにお仕事頂いちゃってるという、変な生真面目さが…仇となり(笑)。そんなことを当時思ってました。
 

— その殻を破ろうと大学は自らの意思で日芸を選んだわけですよね。

 
岡本玲:はい。
 

— そこでたくさんの知己に出会えて、いよいよ卒業を間近に控え今後の針路をどうしようかと悩んでいたまさにその時期に、劇団鹿殺しに出会った、と。

 
岡本玲:そうです。本当にそうでした!「細かいこと気にしてんじゃねーよ!」って怒られてる気がして(笑)。衝撃でしたね。
 

「あなたはもっと評価されるべき」 小池栄子からの忘れられない言葉
— 今回の『罪男と罰男』出演にあたって発表されたコメントに「今までどうやって生きてきたかを試されるようでわくわくします。」とありました。

 
岡本玲:そうですね。大学4年生の迷っていた時期に圧倒されて、また前を向けた自分からこの6年間、自分が役者としてどこまで成長して、人間として女性としても色んな経験をしているか。あのとき背中を押してくれた方たちを逆に圧倒できるか?試されてると思いました。自分で勝手に。
 

— ここ最近は非常に幅広い役柄に挑戦されていますよね。中でも『わたし旦那をシェアしてた』の藤宮茜役はとてもインパクトがありました。とても幅広い役柄に敢えて挑戦されている印象です。

 
岡本玲:どこか人間臭い部分?欠陥?がある役を選んでます。真面目に生きてるのにどこかの歯車がおかしくなって壊れてしまった人がすごく好きなんですよ(笑)。作品で観るのもプライベートで出会うのも、なんか事あるごとにうまく行ってない人って、人間臭くて愛らしいじゃないですか。それでも頑張ってるという人を映像や舞台で観ていくと、簡単な言い方になってしまいますがパワーをもらえる。そういう役の選び方をしたいなぁと思ってます。
 

— 藤宮茜は二人の子供を守ろうと真っ直ぐに感情を表すシーンが印象的でした。現実の岡本玲さんとは違う人格を、どうやって作り出していくのだろうなと気になりました。

 
岡本玲:でも、どんな役をやっても自分とかけ離れてるって思うことは少なくて、突拍子もない性格の設定をどう実生活のエピソードに置き換えるかって考えます。その役が何でそうなってしまったかっていう、生まれてからそこに至るまでの細かいエピソードを自分の中で作るんですけど、そこさえ納得できれば、あんまり悩んだり困ったりすることはないですね。
 

— なるほど。

 
岡本玲:実際に人の話を聞いたり、いろんな事件が起きたりして、本っ当に心底納得できないことってそうないじゃないですか。例えば家族の生い立ちだったり、そのときの置かれている状況や人間関係だったり、どこかしらに共感できることがありますよね。
 

— 共感を持って、入り込んでいく?

 
岡本玲:そうですね。共感して好きにならないと、逆に演じられなくて。この間の自主企画公演の役も今までの中で一番自分とかけ離れていて、年齢は自分より上の設定なんですけど、まだ青いというか、私が大学生の頃思っていたようなことを悩んでいて…私はもうそこを乗り越えたから、ちょっと過ぎた感覚という役で。そのときは稽古も辛くて…なんか好きじゃなかったんですよね。こんなことで悩んでるなんて!って。
 

— それは最終的にどうやって乗り越えたんですか?

 
岡本玲:どんどん想像を膨らませたり資料を集めたり、紐解いていくうちに一つ共感できるポイントが見つかるとあとはあっという間でした。その作業が本番ギリギリまでだったのでキツかったです。でもそういう自分と離れた役をやることは大事だなって勉強になりました。
 

— そして『わたし旦那をシェアしてた』ではたくさんの女優さんと共演の機会もありましたね。同業者から得られる刺激はやはり大きいですか?

 
岡本玲:すごく大きいですね。『わたし旦那をシェアしてた』で出会った女優陣はみなさん素敵で!小池栄子さん、りょうさん、夏木マリさん、渡辺真起子さん…この間も真起子さんとご飯行ったんですが。連絡をみんなで取り合っていて、やっぱりみんな自分が生きてる道に対しての責任を背負っているというか、逃げないし人のせいにしないし、愛情深い。女優さんからこんなにも愛情を受けてるなぁって思うことが、『わたし旦那をシェアしてた』の現場が初めてだったんです。本当に姉妹のように仲良くしてもらって。
 

— 小池さんとの共演には特別なものがあると以前インタビューで拝見しました。

 
岡本玲:小池さんは私のお芝居を好きだとずっと言ってくれているんです。初めてお会いしたときにも「ドラマのあの役が素敵だったよ」って言ってくれて感激したんですけど、その後ドラマの共演前にも私の出た『熱帯樹』という舞台を観てくれて、その感想をドラマのプロデューサーさんたちの前で言ってくださったみたいで…それだけが理由ではないけど、その一言が後押しになって『わたし旦那をシェアしてた』の茜役が私に決まったようです。
 

— それは本当に愛情深いですね。

 
岡本玲:それで、ドラマが全部終わって女優陣だけで打ち上げをしたんですが、そのときに小池さんに言われたことではっとしたのが、「あなたはもっと評価されるべきだし、評価されないのであればその評価を私が広める」って言ってくださったんですよ。
 

— かっこいい!

 
岡本玲:かっこいいですよね!「でも、それにはまず自分で自分のことをもっと評価しないといけない」とも言われたんです。「あなたは自分がやってきたことへの正当な評価をしてない。なんでそんなに自信ないの?自分はまだまだだ、って思ったらそれが人に伝わってしまうし、もっと自分を正当に評価しなさい」って。あなたはまだまだだよ、調子乗っちゃいけないよて言われることはあっても、もっと自分で自分をいい女優だと思いなさいって言われたのは初めてで…きっとずっと忘れない言葉だなと思います。
 

— 嬉しいですね。

 
岡本玲:もちろんファンの人が応援してくれることは力になりますし、それとはまた違う角度でそういう人が一人でも側にいると思うと、その人にいいところを見せようっていうエネルギーだけでもいい芝居ができるだろうなって。
 

「やっぱり自分は役者でしかない」「芝居を観客と作る」 自主企画公演で再認識
— そして2020年1月に行われた自主企画『ダニーと紺碧の海』のお話も伺えればと思います。これは結構前から構想していたのですか?

 
岡本玲:あ、違うんですよね。全然考えてなくて(笑)。2019年の秋口くらいに会社の人と話していて「自分で舞台を打つことを今後していきたい」って初めて話したのですが、「やりたいなら自分で動いてみなさい」と言ってもらえたので、そこからすぐに周りに「私舞台やりたいんだけど、(一緒に)やりたい人いないかな?」って色んな人に呼びかけたらたまたま一人芝居の戯曲でやりたいものがあるって言ってくれたのが今回一緒にやった中山求一郎さんで。それが10月末だったんですよ!
 

— そんなにギリギリだったんですね!

 
岡本玲:で、(中山求一郎と)会ったその日に、戯曲は決まってないけど劇場を抑えちゃおうって(笑)
 

— すごい行動力!

 
岡本玲:その日のうちに色んな劇場に電話をして…知り合いのプロデューサーさんに「こういうことを思ってるんですけど何かアドバイスないですか?」って電話したりして。それで、たまたま楽園という劇場が1月に空いていて…3カ月もないけど取ってしまえって(笑)。そのまま数日後に前払い金を払いに行きました。事務所に「決まりました」と報告に行く前でしたが、そのお金が無駄になってもいいやと思いながら。
 

— そんなに即決して動こうと思ったのはどうしてですか?

 
岡本玲:色んな自分に対するフラストレーションが溜まってたんです。『わたし旦那をシェアしてた』の放送終了後、新しい仕事が流れてしまうなど「行きそうで行かないジレンマ」を感じていて。それは高校生のときからお腹に溜まっていた、コップに溜まっていたものが満杯になった瞬間だったんです。求められないなら自分で動いてしまえ!って。自分は海外戯曲で硬めの芝居を、演劇を本気でやっていきたいんだっていうことを示す宣言という形で。海外戯曲で行きたいということは決まっていて。
 

— 自分の中での殻を破るというか…

 
岡本玲:そうですね。自分の中でお芝居に対する思いは昔から変わっていないんですが、でもそれを人に伝え切れてなかった。「こういう役をやりたい、こういう仕事をやっていきたい」と周りに伝え切れてなかったんだなってここ一年くらい思っていて。その伝える表現方法の一つが舞台で自主企画をやるということだったんですよね。
 

— なるほど。わずか3カ月での準備から本番までには計り知れない苦労があったことと思います。特にどんなことが大変でしたか?

 
岡本玲:正直甘く見ていました。急に決めたことだし、制作面なども自分たちで何とかやれるんじゃないかと思って、結局自分に色んなタスクをかけすぎてしまって。でも自分たちは役者だから他のこと…例えば事務作業とかは得意ではなくて(笑)。で、そういうことを日々やっているから芝居の読解に集中できず芝居が上がっていかなくて。人を頼らずに自分たちでできるんじゃないかという驕りみたいなものを改めて感じましたね。やっぱり自分は役者でしかなくて、演出面や構成面はできないんだなって。「できるかもしれない」じゃなくて「できない」。だったら役者やるしかないって。
 

— 他の仕事もやらざるを得ない状況で、自分には役者という道しかないんだ!と再認識できたわけですね。

 
岡本玲:『罪男と罰男』も今日(=インタビューを受けている2月中旬)から稽古ですけど、ここまで来るにも色んな人がいて準備してやっと稽古が始まる。始まってからも色んなこまごましたことがあるんだってことを何にも知らずに15~16年やってきたので、すごく良い経験でしたね。だからこそ一つ一つの仕事を手を抜かずに、周りの人たちに「任せてください」って胸を張れるくらい芝居を真剣に取り組まなきゃいけない、取り組みたい、って、本当に綺麗事でなく思えるようになりました。
 

— 追い込まれたからこそできた、ということは逆にありますか?

 
岡本玲:本番中の相手役へのすがる思いというのはお互いに今まで以上にありましたね。「信頼してる」じゃなく「すがる」っていう(笑)。もちろん私は信頼してほしい、でも甘えさせてくれっていう。それも芝居にとっては大事なのかなって。信頼してないと甘えられないから。自分に任せてくれって思うことはあっても、何とかしてくれって相方に思ったことはなかったので面白かったです。
 

— 確かに普段のお芝居で「甘えさせて」はなさそうですね。

 
岡本玲:稽古場で完璧にして臨みたいタイプなんですけど、そのときは奇跡が起きることを初めて待ってみた(笑)。(中山求一郎と)二人で奇跡を死ぬ気で起こしに行こうとしていて、それは新しい感覚でしたね。
 

— そういうときのお客さんの反応はどうなんでしょう?

 
岡本玲:久しぶりの小劇場でしたが、お客さんの集中力の変化はわかりますよね。自分たちの集中力がいいときはお客さんの集中力もいいし…入りからお客さんの集中を途切れさせてしまってはいけないというのは、小劇場だからこそ意識しました。
 

— お客さんと一緒に作り上げていくものですよね。

 
岡本玲:そう、その点ではすっごい素敵なお客さんでした!1回も物音で嫌な思いをしなかったんですよ。
 

— それはすごい!

 
岡本玲:7ステージあったんですけど、携帯のバイブ音が鳴っちゃうとか本当に1回たりともなくて。それはすごく感謝ですし、それほどお芝居に興味がある方々を私たちが呼べたということが嬉しかったです。
 

— それも役者としての自信になっていきますね。

 
岡本玲:そうですね。
 

「さみしい」が役作りの根幹に 渡米を経て変わった価値観
— ご自身で考える女優・岡本玲の特長、武器って何だと思いますか?

 
岡本玲:うーん…整った表情はなるべくしないように、と思いますね。CMでも綺麗な笑顔を求められますが、自分が元々完璧な美人だと思ってないので…
 

— そうですか?

 
岡本玲:ムロツヨシさんに言われたんですけど「お前は”ブス”も”ちょっとかわいい”もどっちもできるからいいよな!」って(笑)。でもそれって役者の強みだと思うし、ちょっとヘンな顔だから頭に引っかかるのかな?自分の強み…なんだろうな。なんか…うーん…「さみしい」っていう感情は小っちゃいときから人より大きく捉えがちでした。
 

— 「寂しさ」ですか?

 
岡本玲:さみしいっていう感情がきっかけの役作りが多い気がします。だから幸薄い役をよくやらせてもらうんですけど(笑)、そこを自分の強みにしていきたいです。
 

— さみしいから始まるというのは、元々ご自身の中に内省的なところがあったのでしょうか。

 
岡本玲:そうですね。子どものときの経験だったり、親との関係性だったり、人の感情の作り方やバランス感覚は子どもの頃の経験や家庭環境、家族構成で決まると思いますが、それは自分の個性だと思っていて。決してめちゃめちゃ不幸せでも、幸せでもなく、普通にちょっと色んなことがあった家だったのですが、そこが根幹にあってさみしいという感情からお芝居を常にしています。さみしいというエネルギーは自分の中で枯れることがなくて。
 

— そうなんですね。意外な気がします。

 
岡本玲:どんなに人といても幸せでも、お仕事があっても、なんかさみしい、誰かから愛されたいっていう思いが枯れることがないから、そういう役を演じられる役者になっていけたら。
 

— さみしいという感情がお芝居の原動力になっているということでしょうか。

 
岡本玲:ありますね。さみしいとか愛されたいとか愛に飢えているとか。芝居や演劇、映画…芸術に触れるって愛を欲しているということなのかな。愛情は芸術の中で重要な要素だと思います。
 

— 確かに「何かを大事に思う」っていうのはそれがなくなっちゃうかもしれないと思うからこそ発生する感情ですよね。寂しさが根幹にあるから守りたいという気持ちになるわけで。

 
岡本玲:はい。
 

— 以前バラエティ番組で「自分の中の闇をノートに綴っている」という話をされていましたが、ここ1、2年のお芝居や発信されているものを拝見していると、そういう暗いものから脱したというか、昇華したという印象があるのですが。

 
岡本玲:暗いもの…そうですね。若い頃は何か起きると全て自分の内巻きの循環にしていたんですが、そういう感情になる自分さえもここ1、2年は愛らしく思えるようになって。
 

— 何か変わるきっかけがあったのですか?

 
岡本玲:自分のお芝居を楽しんで愛してくれる人が少しずつ増えたことが、そういう風につながっている気がします。1年前に『熱帯樹』という舞台に出たのですが、その演出を務めた小川絵梨子さんと出会ったことが大きくて。本気で評価してくれてるって思ったんですよね。何というか、小川さんの愛をきちんと感じて…
 

— 愛情深い方なんですね。

 
岡本玲:なんというか、うまく言えないですが「この人に愛を与えてもらったこの2か月があったら何でもできる!」ってそのとき思ったんですよ。その後ニューヨークに舞台を観に行って、より演劇を好きになって帰ってきて…うーん、やっぱり海外に行ったのがよかったですね…。あ!変わるきっかけ、わかりました!2、3年前に約1カ月、初めてお休みを取ったんです!
 

— そうだったんですね。

 
岡本玲:それで、アメリカにホームステイしたんです!
 

— なんと(笑)

 
岡本玲:はい。忘れてました(笑)。そのときに「私、ここで生きていける」って思ったんですよ。
 

— 日本に戻らなくても?

 
岡本玲:日本に戻らなくても生きていけるじゃん、って。だったら日本で何やってもいい、失敗してもいいって。本当にそうでした。
 

— お休みをもらって、日本から離れたことでそういう気持ちになったんですね。

 
岡本玲:はい。吹っ切れたというか。行く前は、この世界で仕事がなくなったらどうしよう、求められなくなったらどうしよう、生きていけない…だから好かれるように振る舞わなきゃいけないって…「○○しなきゃいけない」ってずっと思ってたんです。でも「英語さえ喋れればずっとここで生きていける!」って(笑)。12歳から仕事始めて…初めてですよ!1カ月丸々、マネージャーさんたちとほとんど連絡取らなかったの。
 

— それはすごい。

 
岡本玲:どんなところでも生きていけるって。それでもやりたいことはお芝居だから、吹っ切れた気持ちで…恥をかいてもいいって戻ってから思ったんでしょうね。嫌われてもいいやって。
 

— 確かに、仕事をずっと続けていく中で強迫観念というか、続けなきゃいけないというか…

 
岡本玲:うんうん。続けなきゃいけない、だから失敗しちゃいけない、って。渡米中に実はCMの仕事があったんですが「どんなつもりで私が1カ月行くって決めたと思ってるんですか?」なんて生意気なことを言って断っちゃって。事務所としては今までの私からするとあり得ない発言なので驚いたと思います。それで現地で何してたかって、そろばんの先生ですよ(笑)。英語で!
 

— まさかの(笑)。演技とかは一切?

 
岡本玲:なんにもしなかったです!そろばんの先生やって、初めて「クラブ」っていうものに、ホームステイ先のお母さんに連れていかれて。語学留学なんてかっこいいものでもなく、ただただ普通に楽しく生活したっていう、社会勉強(笑)
 

— 確かにそれは日本だとできない経験ですね。「あ、岡本玲がクラブ来てる!」てなっちゃうし。

 
岡本玲:そんなに英語喋れないから、みんなでボウリングに行っても、ちょっとハブられる(笑)。大人になってからプライベートでハブられるってなかなかないじゃないですか。でも喋れたら話し返してくれるから、自分次第。アメリカってやっぱり自分次第だなって。
 

— そうして離れてみた結果として、それでもやっぱりお芝居がやりたいという気持ちになったわけですね。

 
岡本玲:なりましたね。やりたい!って思って帰りました。
 

— 帰国して、見る世界は変わりましたか?

 
岡本玲:強くなりました。
 

— どんな役でもできるぞ!と?

 
岡本玲:できないことが悪いことと思わなくなりました。できないならできないって判断した上で、じゃあできないならどうするか?その次を考えることが大事だなって。
 

◆公演情報
tsumi2OFFICE SHIKA PRODUCE『罪男と罰男』
脚本・演出:丸尾丸一郎
出演:
松島庄汰 渡部秀
鷺沼恵美子 近藤茶 有田あん 長瀬絹也
岡本玲 丸尾丸一郎 ほか
 
公演:
【東京】座・高円寺1
3月11日(水)~3月15日(日)
【大阪】ABCホール
3月19日(木)~3月22日(日)
 
<物語>
罪を犯す男、罰を引き受ける男。二人の再会は、世界を変える魔法の電話に繋がってゆく。
「思い返せば、いくつ罪を犯してきたのだろう」オレオレ詐欺をしている電話口から、
孫に会いたいと懇願するお婆ちゃんの声を聞いた時、日出男はそう思った。そして罰を引き受けてくれた旧友・武男を思い出す。
再会した武男は、世界中の罰を受けて瀕死の状態であった。

 
特設サイト:
http://shika564.com/tsumibatsu

 

「底知れぬ愛情を持った人になりたい」
— さて3月11日より『罪男と罰男』が上演されます。今作のテーマである「誰かの罪を自分が罰として受けている」とか「自分が誰かに対して罪を犯している」といったことを岡本玲さんご自身が感じることはありますか?

 
岡本玲:うーん…幼少の頃から、自分が何か行動を起こすことで誰かに不利益を与えるから、私は色んなことをしちゃいけないんだ、って割と思っていました。人に対して迷惑をかけることを極度に恐れている、子どもらしくない子どもでしたね。
 

— 内省的なのは役者仕事を始める前からずっとそうだったんですね。

 
岡本玲:姉が幼い頃から病気がちで、入退院を繰り返していたんですよ。お母さんが「強い子に産んであげればよかった」って漏らしてるのを聞いてしまったこともあるし、姉も「なんでだけ元気なの?」って…子どもだからこそストレートに言えることですが。私、これまで一切大きな病気をしたことがないんです。親に「お前がみんなからエネルギーを吸い取ってるんじゃないか?」って冗談で言われるくらい、本当に元気そのもので。自分がいい思いをするからみんな不幸なのかなって考えてしまいました。
 

— 幸せであることの罪悪感。

 
岡本玲:変なことですよね?でも日本人らしいですよね(笑)。みんなおんなじが素晴らしいっていう。
 

— そういう自制心のようなものを、アメリカでの生活を経て乗り越えた?

 
岡本玲:乗り越えたというか、「自分は自分」って。強くなったんですけど、傷つくことも減って、傷つけることも減って、それってどうなんだろう、と思う瞬間もあります。不感症というか…
 

— 自信を持つってそういうことなのかもしれませんね。傷つけちゃいけないってビクビクするよりも堂々としている方が人を勇気づけられたり。

 
岡本玲:あーそうかもしれないですね。
 

— 先ほどの話に再び戻ってしまいますが、お芝居の原点にはさみしさがあるということですが、さみしさ、悲哀というのは言い換えると愛しさ、愛情にもなると思います。今回の役どころも、2人の男性に対しての「変わってほしい」と背中を押す愛情がポイントになります。

 
岡本玲:そうですね。最近なかなか「あなたこういうところ直した方がいいよ」って人に言えない世の中ですよね。「自己責任でしょ」って。今は特にそういう世の中だと思うし。そういう助言を人に言うときにはきっと、それまでの思い出だったり関わり方だったり、言わないことでの自分への罪悪感だったりが背景にあると思うので、役作りの上でそういうことを逃さず発見したいです。
 

— 様々な役を演じる中で、今後岡本玲さんはどういう役者になっていきたいですか?

 
岡本玲:包みたい!って思ってます。色んなことをひっくるめて。観てくれる人が人としていい人か悪い人かわからないし、不幸なのか幸せなのかもわからないから、観る人、受け手によって伝わり方は異なると思いますが、どう捉えてもらってもそれが正解!って思えるような。「ありのままで…」とか言いたくないけど(笑)、でっかい心で受け止められる器の大きい役者になりたいと思います。
 

— 大きな愛情で包むということですね。

 
岡本玲:そうですね。底知れぬ愛情を持った人になりたいです。敬愛する小川絵梨子さんのように。そして、鹿殺しさんの舞台にもそういう愛情やエネルギーがあるので、今回一緒にやれて光栄です。
 

◆劇団鹿殺し 公式サイト
http://shika564.com/
◆『罪男と罰男』 特設サイト
http://shika564.com/tsumibatsu/
 
◆岡本玲 公式サイト
http://www.okamotorei.com/
◆岡本玲 Twitterアカウント
https://twitter.com/okarei_official
◆岡本玲 Instagramアカウント
https://www.instagram.com/rei_okamoto/

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