演奏

TEXT:鈴木亮介

歌手としてはもちろん、エッセイ集の発売や個展開催など幅広い活動を続けるCoccoの、初舞台にして初主演作だ。舞台「ジルゼの事情」が2014年1月16日から東京と大阪で開催された(~2014年2月2日まで開催中)
 
幼少時の夢はバレリーナになることだったというCocoo自身が愛する古典バレエ「ジゼル」を原案に、人気劇団「劇団鹿殺し」の丸尾丸一郎がオリジナル脚本と演出を担当。現代の東京に舞台を置き換え、歌やダンスの要素も取り入れた群像劇だ。
 

2011年の「ザ・ベスト盤ライブ」以来、約2年ぶりにCoccoの生歌を、それも普段のライブ会場よりも格段に至近距離で聴けるとあって、前売券は初日公演開催を前に全日程が完売。追加公演(東京は1/19、1/22、大阪は1/31)も急遽決定した。魂を揺さぶるロックな劇団鹿殺しとCoccoが、どのような融合を見せるのか。
 

女優・Coccoとしての仕事はこれが初めてではない。2012年公開の塚本晋也監督作『KOTOKO』で銀幕デビュー。それも主演の大役を務めあげ、国内外からその演技力を高く評価されている。加えて、祖父である真喜志康忠は琉球芝居の役者として絶大な人気を誇った人物で、彼女には幼い頃からその舞台を見て育ったという生い立ちがある。
 
Cocco自身、そのことに触れた上で「いつかはたどり着くだろうと信じていたお芝居に挑む機会を頂き、高鳴る胸に踊り出しそうな現状。不思議と恐れはありません。毛の生えた逞しい心臓でもって、舞台に臨む所存であります」と今回の舞台への意気込みを語っていた。
 
そんなCocco演じる汁是優子(じるぜゆうこ)は、渋谷・宮益坂に構える純喫茶「マーガレット」の看板娘。泥のようなコーヒーとチンするだけのミックスピザが売りの、閑古鳥が鳴く喫茶店。一昔前の設定と思いきや、時代は2013年。「7年後の東京オリンピック開催決定」を伝えるテレビニュースを消す所からストーリーは始まる。
 
そして五輪開催に伴う再開発で店が地上げに遭っていることなどが、セーラー服姿の女性の口を通じて語られる。この女性、Cocco演じる優子の妹・加奈子(坂本けこ美)は、交通事故で他界し優子には見えない幽霊だ。あの世の存在、幽霊を使うことで現生に生きる人間の強烈な生を描くという展開の仕方は劇団鹿殺しの十八番だ。
 
坂本けこ美のほか、優子の母親・響子役に傳田うに、優子に恋心を寄せるティッシュ配りのバイトリーダー・森番太郎役にオレノグラフィティ、雨宿りに来た「顔が綺麗で金持ちだけが取り柄」の政治かよ子役に鷺沼恵美子、地上げ屋・氷室公成役に丸尾丸一郎と、劇団鹿殺しの個性派俳優たちが脇を固める。
 
優子がバーカウンターで生卵を割って「特製ミルクセーキ」を作ったり、ダンスレッスンを抜け出して飛び戻ってきた母・響子が強烈な衣装で現れるなど、序盤は劇団鹿殺しの舞台ならではの威勢のいい芝居が続く。Coccoも、時にナイーブさを見せ、時に乙女な一面を見せ…という不安定な主人公を、これは素のCoccoをそのまま役柄にしたのではないかと思うほど自然体に演じる。
 
今作「ジルゼの事情」の脚本を手がけた丸尾丸一郎によると、古典バレエ「ジゼル」を土台にしたストーリーはCocco自らのアイデアによるものだったという。1841年にフランス・パリで初上演されたバレエ作品「ジゼル(Giselle)」は二部構成。一部は昼を舞台に「正体を隠した貴族アルブレヒトと村娘ジゼル」の恋模様を描く一方、二部は夜を舞台に、恋破れてこの世を去ったジゼルが亡霊となって登場する。
 
そんな「ジゼル」をオマージュして、「ジルゼの事情」も主人公・優子の生前/死後に大きく二分して作られている。内田滋演じる役者志望の青年・虻レ一志(あぶれひとし)のプロポーズを受けて心躍らす優子。しかし、虻レ一志の真の姿は政治家志望の策士で、純喫茶「マーガレット」買収のため優子を騙していたことが発覚。そこから、虻レ一志殺害計画が持ち上がるが…
 
劇中、優子はしばしばコーヒーの歌を歌う。交通事故で亡くなった父が幼少期に歌ってくれたという思い出の一曲だが、この楽曲は作詞:丸尾丸一郎、作曲:Coccoによるオリジナルソングだ。優しい旋律に、糸を紡ぐように繊細な、透き通ったCoccoの歌声にうっとりする。他にも、ウィリアム・シェイクスピアへのリスペクトも散りばめられた脚本からCoccoの不可思議なダンスに至るまで、ハッとさせるポイントも笑わせるポイントも満載だ。
 
さて後半、舞台はスナック「WILL」。未来を意味するその店のオネエオーナー・ローズマリー(廣川三憲)は、実は優子の父親。愛するがあまりの行き過ぎた親の庇護、いい子を演じようとする長女、姉妹で比較されコンプレックスを抱え続けた妹…現実は白か黒かの二元論でもなければ、理屈で説明できるほど単純でもない。性急に分かりやすさが支持される今だからこそ問い直したい、単純化された「家族の絆」みたいなものへのアンチテーゼだ。
 
現実を受け入れられずに彷徨い続け、刹那的な享楽に踊り狂う。亡霊だらけのこのスナックに、欲望を求め迷い込む男たちは皆、生き血を吸われ、果てていく。行きはよいよい、帰りは怖い。そんなスナック「WILL」に、優子も「オジー・ユウコ・ボーン」として仲間入り。前半の「地味系」な衣装と打って変わって、妖艶なドレスに身を包んだCocco、その美しさに思わずため息が出る。バレリーナになりきった優子、華麗にステップを踏む。
 
終盤、優子と再会を果たした虻レ一志との美しき愛のシーン、そして「WILL」に迷い込んでからクライマックスにかけてのシーンは凄まじい。笑いと泣きとが交互に、これでもかというほど素早く入れ替わる。このスピード感もまた劇団鹿殺しの持ち味だ。そして終盤、純白の衣装に着替えたCoccoの一人歌唱するシーンは圧巻!作詞・作曲ともCocco自ら手がけた、根源の”生”を問う愛に満ちあふれた楽曲だ。
 
Coccoの独唱に完全に心囚われてからの、訪れる沈黙と、妖艶な舞い。この凄まじい歌唱のその後に来る、それを凌駕する表現。これは言葉に形容しづらいしネタバレを避けるためにも敢えて詳細な説明を避けるが、生の舞台鑑賞だからこそ味わえる醍醐味である。Coccoと劇団鹿殺しとの化学反応で、とてつもない花火が夜空に打ち上がった。

なお、Coccoは3月12日に待望のニューアルバム『パ・ド・ブレ』をリリースすることが決定している。また、劇団鹿殺しは現在、座長・菜月チョビが文化庁新進芸術家海外派遣制度でカナダ留学中のため充電期間中だが、「楽団鹿殺し」としての新たな舞台「喇叭道中音栗毛(らっぱどうちゅうおとくりげ)」の開催が決定した。3月27日より東京と大阪で開催されるが、「劇団」ではなく「楽団」となることで、どのような舞台になるのか注目だ。
 

OFFICE SHIKA × Cocco 「ジルゼの事情」
(東京公演)
会場:CBGKシブゲキ!!
2014年1月16日(木)~26日(日)
 
(大阪公演)
会場:ABCホール
2014年1月30日(木)~2月02日(日)

 
★全ステージ前売券完売のため、追加公演決定!
<東京>1月19日(日)19時の回/1月22日(水)14時の回
<大阪>1月31日(金)14時の回
 
 

脚本・演出/丸尾 丸一郎(劇団鹿殺し)
出演/Cocco 内田滋 オレノグラフィティ
 傳田うに 坂本けこ美 鷺沼恵美子  廣川三憲(ナイロン100℃) 丸尾丸一郎
 
音楽:入交星士×オレノグラフィティ
舞台監督:野口毅 舞台美術:秋山光洋 照明:吉澤耕一
音響:鏑木知宏 演出助手:田村友佳 衣裳:赤穂美咲 振付:岡本優(TABATHA) 
ヘアメイク:宮内宏明 舞台撮影:彩高堂 舞台写真:和田咲子
宣伝写真:小嶋淑子 宣伝デザイン:アリカデザイン 
制作協力:SUI(東京公演) 制作:高橋洋平 プロデュース:日野淳/菅原武春
運営協力:サンライズプロモーション大阪(大阪公演) 
協力:SPEEDSTAR RECORDS/CUBE/ダックスープ
主催:オフィス鹿
「ジルゼの事情」につづく、オフィス鹿主催公演 第2弾が今春上演決定!
楽団鹿殺し「喇叭道中音栗毛」
(東京公演)2014年3月27日~4月6日 すみだパークスタジオ 倉 
(関西公演)2014年4月10日~12日 AI・HALL

 
出演:傳田うに、坂本けこ美、橘 輝、丸尾丸一郎、教祖イコマノリユキ、伊藤ヨタロウ ほか
1月18日(土)12時~26日(日)23時59分 特典付き劇団先行販売実施!
チケットのお求め、公演詳細は http://shika564.com/otokurige から

 

◆ジルゼの事情 公式サイト
http://shika564.com/gilse/
 
◆Cocco 公式サイト
http://www.cocco.co.jp/
◆劇団鹿殺し 公式サイト
http://shika564.com/

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