特集

TEXT & PHOTO:金井孝介、鈴木亮介

photo「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」をご存じだろうか。アメリカ・テキサス州で開催される世界最大の音楽見本市として27年の歴史を誇り、世界各国から毎年1000組以上のミュージシャンが参加し、アメリカを始めとする世界各国の音楽関係者にその魅力をアピールできる場、新たな才能と業界関係者とのマッチングができる場として知られている。日本からもこれまでにロリータ18号氣志團FLiPなど数多くのロックバンドがSXSWに出演している。
 
そんなSXSWのアジア代理店(SXSW Asia)の協力を得て、日本版SXSWをスローガンに4年前から発足したのが「TOKYO BOOT UP!」だ。代表を務める渡邉ケン氏は「音楽見本市という音楽イベントが定着しない日本で敢えて挑んできた。日本の音楽シーンの豊かさを真に評価しきれていない音楽業界への提起と可能性の喚起に努め、アーティストを支援していくことが目的」とその意義を語る。
 
TOKYO BOOT UP!は、インディーズシーンで活躍するバンド約80組が、3日間に続々とライブ出演する、サーキット型のライブイベントである。まずは、TOKYO BOOT UP! 2013の概要を時系列に沿って説明しよう。
 

05月01日 第1次エントリー開始/随時審査により出演者決定
06月09日 出演者第1弾発表
06月15日 第1次エントリー締切
07月01日 第2次エントリー開始/出演者第1弾発表
07月08日 出演者第2弾発表
07月09日 プレイベントの開始(全6回/都内複数ライブハウスにて)
09月07日 出演者第3弾発表
09月15日 第2次エントリー締切
10月05日 出演者第4弾発表(全出演者決定)
10月17日 タイムテーブル発表
11月08日 Music Day初日開催(新宿ライブハウス3箇所にて)
11月09日 Music Day2日目開催
11月10日 Music Day最終日開催
11月16日 Conference Day開催
12月06日 2013年度報告会開催

 
アーティストがライブハウスに出演する「Music Day」がTOKYO BOOT UP!のメインだ。金曜夜と土日の昼夜の合計3日間、新宿のMotion、MARZ、marbleのライブハウス3会場にて開催された。この3会場はそれぞれ徒歩1分以内に立地し、行き来がしやすい。
 
出演を希望するアーティストはまず、エントリーチケット(一般3000円、高校生以下1500円)の購入が必要となり、エントリー後はTOKYO BOOT UP! 実行委員会による審査を経て出演が決定。今年は昨年の約1.5倍となる339組のエントリーの中から78組のミュージシャンが選出され、それぞれ25分間のステージを披露した。アーティスト側は機材費等を支払うのみで、ライブのノルマは発生しない。また、観客も中高生はチケット代無料(ドリンク代500円のみ必要)となるほか、出演者自身も3日間を通じて自分たちの出演しない日のライブもドリンク代のみの支払いで観覧することができた。
 
このほか、SXSWにならって今年は「Conference Day」を「Music Day」の翌週に開催。多様化する音楽業界の現状を多角的に紹介し、アーティストに「自立」した音楽活動を行うための知力やヒントを情報提供する目的で、音楽業界関係者を多数招いてトークセッションやセミナーを開催した。
 
Photo Photo

Photo Photo

新たな才能に出会い、新たな創造ができる場は、活躍の舞台を広げたいミュージシャンはもちろんのこと、そうしたミュージシャンとタッグを組んでビジネスチャンスを拡大したい音楽関連各企業、新人発掘・開発を目指すレコード会社にとって大変貴重な場だ。もちろんリスナーにとっても、格安の料金でインディーズシーンで活躍する多数のミュージシャンのライブを体感できるという、「才能の第一発見者になる醍醐味」がこのイベントにはあるのだ。
 
前置きが長くなってしまったが、何より3日間の熱いライブパフォーマンスの数々を実際に観ていただくのが、TOKYO BOOT UP!の魅力に触れる一番の近道であることは間違いない。本記事では「実際にその目で」が叶わなかった人たちのために、また当日足を運んだ人たちにあの熱気を思い出してもらうべく、ライブレポを通じてTOKYO BOOT UP!の魅力の一端をお伝えしたい。なお、誌面の都合上78組全てのレポートが叶わないことから、本誌BEEAST目線での一押しアーティストをセレクトさせていただいた。
 

 

【1日目】 11月8日(金)   (TEXT & PHOTO:金井孝介)

Photo Photo

Photo Photo

初日。21時前にMARZに到着すると、日の毬がステージでサウンドチェックの真っ最中だった。イベント初日、しかもこの時間にも関わらず、ミュージシャン・オーディエンス共に、全く疲れの色は見えない。それどころか期待感に膨らむように、熱気も最高潮に達している。会場全体が人で埋まり、身動きするにも一苦労だ。そして、唐突に日の毬のステージは幕を開けた。
 
初っ端から、そのすさまじい世界観を破裂させるが如くのパフォーマンス。VJ(ビデオジョッキー)を駆使しつつ、会場を「日の毬の色」に染め上げていく。幻想的なVJの醸し出す色と、激しくも繊細に響く楽器の色が化学反応を起こしているかのような、不思議なステージだ。幻影のように揺れ動く中で、オーディエンスも思い思いに曲に乗っていく。心地よい夢を見ているような感覚だ。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆日の毬 公式サイト
http://www.hinomari.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

劇団鹿殺しRJPは、下北沢などの劇場やストリートを中心に活動する演劇集団・劇団鹿殺しの中から派生したユニットだ。最初に楽器を持って出てきたメンバーたちは、ステージが始まると同時に楽器を離し、ハイテンションなロックナンバーの中でパフォーマンスを始めた。楽しい。こんなに楽しいステージがあっていいのか。舞台を所狭しと駆け回り、オーディエンスを完全に巻き込んでいってしまう。
 
演劇で鍛え上げられた、そのパフォーマンス力。メンバーが動くたびに湧き上がる笑いと声援。力をまざまざと見せ付けられる。最後の最後まで全力のステージをやりきった時、メンバーはほぼ全裸だった。それでも、下ネタではない。これはエンターテインメントなのだ。純粋にそう思えた。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆劇団鹿殺し 公式サイト
http://shika564.com/

 

 

【2日目】 11月9日(土)   (TEXT & PHOTO:鈴木亮介)

Photo Photo

Photo Photo

2日目と3日目の土日は昼過ぎからの長丁場だが、新宿MARZに到着して真っ先に飛び込んできたのは観客たちの談笑する声、そしてTOKYO BOOT UP!スタッフの笑顔だ。見本市だから…と気張ることなく、肩の力を抜いて楽しめる空気が入口から既に作られている。そして、Motion、Marble、MARZの3会場が徒歩1分未満の近さに林立していること、それぞれのステージの進行状況をスタッフが逐一会場内外でアナウンスしてくれることから、一般的なフェスにありがちな移動の負担が心理的にも体力的にもほとんどないことも、BOOT UP!の魅力だと感じた。
 
さて最初にライブステージを観たのは、ガールズバンド・Merpeoples(マーピープルズ)だ。メンバーはCharlotte(Vocal & Guitar)、Sayaka(Keyboard)、Shiori(Drums)、Ikuko(Bass)。メンバー4人中2人が多摩美術大出身で”ガールズアートパンクバンド”を標榜しカナダツアー参戦歴もある彼女たち、そのサウンドは非常に特徴的だ。テクノ的なキーボードが中核を為しつつも、太いガレージサウンドがそこに融合し、さらにCharlotteの歌声には切なさも入り混じる。メロディの展開も意外性があり、一筋縄でいかない。個人的にはMerpeoplesのライブは2度目だが、初回より2回目、2回目より3回目…と、回を重ねる毎に引き込まれていく、独特の魅力を感じる。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆Merpeoples 公式サイト
http://merpeoples.p1.bindsite.jp/

 
Photo Photo

Photo Photo

続いてはMarbleに移動し、20歳になったばかりの若き3ピース、安頭(あんず)を観る。メンバーは、「ギター弾き兼歌うたい。」金井伶弥(Vocal & Guitar)、「太鼓。」坂本龍一(Drums)、「四弦と唄。」川上冬実(Bass & Vocal)。先日クレヨンイーターpresents「ロックンロールハイスクール!」でもご紹介した通り、彼らのライブはとにかく勢いがあり、早朝の市場のような威勢のいいエンタテインメントが堪能できる。それは決して若さに身を任せた乱暴さでも、一生懸命練習して一挙手一投足練習通りやってます~みたいな堅苦しさでもない、ロックの神様が憑依したような勢いがある。だから、自然に体が動き、耳が喜ぶのだ。
 
一つ、「勢い」の解明を試みるならば、その秘訣は3人の立ち位置にあるのかもしれない。ドラムをステージ上手にセッティングし、金井伶弥が下手前方、川上冬実がセンターやや後方に陣取り、綺麗なトライアングルを為している。これにより、ステージに観客が引き込まれるかのように音が響き渡るのだ。また、川上冬実のパフォーマンスには可憐さと色気が同居し、同世代の女性ベーシストでは群を抜いて存在感を示しているように思う。そこに男子2名のスパークする演奏が加味する。確実に、シーンを牽引していくバンドの一つだ。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆安頭 公式サイト
http://ansansans.jimdo.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

続いては本誌特集BEEAST太鼓判シリーズ第20弾アーティストでもご紹介した、counterparts(カウンターパーツ)。3月に『edge curve square』をリリースして以来定期的なライブ出演を続けており、加えて年末からは新曲の無料配信を始めるなど様々な形で”発信”を続けている。この日のステージもモリダイキ(Bass)、サワイノリヒロ(Vocal & Guitar)、コダマトモノリ(Guitar)のメンバー3名に加え、サポートにカトウタダシ(Drums)が入る。淡々と、しかし着実に納得いく音を準備し、ステージに臨むその姿は職人そのもの。おそらくcounterpartsを初めて観るという観客も多かったであろうこの日、ライブ序盤はそうした人たちを「お、なんだろう」とステージ前方に呼びよせる、独特の空気が漂っていた。
 
もはや第4のメンバーと言うべきカトウタダシの安定したリズムキープにより、漂流するスペーシーなサウンドがしっかりとまとまる。そしてギター2本とベースはそれぞれがそれぞれ勝手に弾いているようで、見事なまでの一体感を創出する。「あうんの呼吸」は、観ている者までを心地良くさせる。願わくは、このこだわり抜いたサウンドを、もっと大きなライブハウス、あるいはホールで、たっぷりと耳に入れたい。ステージの小ささを感じさせるプレイが終始展開された。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆counterparts 公式サイト
http://www.counterparts04.com/

 

 

【3日目】 11月10日(日)   (TEXT & PHOTO:金井孝介)

Photo Photo

Photo Photo

インディーズシーンの音楽見本市も、最終日に突入。この日も魅力的なアーティストが名を連ね、パフォーマンスの火花を散らす。最終日は、Motionのレポからスタートだ。
 
キーボードの弾き語りで独特のメロディーと歌を紡いでいく井上水晶(いのうえみあ)は、現在大学生ということもあり、フレッシュな音楽センスが魅力的なシンガーだ。その場にいた観客一人一人に語りかけるように、言葉を歌でくるんで届けていく。そして、キーボードの技量が驚くほどに高いのも目を引く。本人以上にピアノを歌わせることのできるミュージシャンは、そう多くはない。Vanessa Carltonを思わせる、優しさの中に秘められたものを感じることの出来る歌手だ。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆井上水晶 公式ブログ
http://ameblo.jp/inouemia/

 
Photo Photo

Photo Photo

Tokyo Common Senseは、プレイベントから引き続いて登場。今回も、その音楽性は健在だ。おとなしめな男子のラブソングといった感じの、心にピタッとはまってくるような世界観が印象的。バックのメンバーもそれぞれ抜群のテクニックを持つのだが、特にドラムの演奏には目を見張るものがある。リズムのしっかりした支えがあってこそ、音楽は際立つのだ。幸福な時間を過ごさせてもらった。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆Tokyo Common Sense 公式サイト
http://www.tokyo-common-sense.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

浮遊スル猫は、バンド名そのままに、浮遊しているような錯覚を起こさせる音楽が素敵なバンドだ。歌詞から感じられるのは、壊れやすくて手に触れるのも怖いほどの感情であるのに、音は完璧にロックのそれなのだ。一昔前のサイバーパンクムービーを見ているかのような、機械的な世界が広がっているように感じる。自分のいる世界を疑いたくなるような、厳しいロックだ。「ガールズバンド」と一括りにできない深みがある。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆浮遊スル猫 公式サイト
http://fuyusuruneko.web.fc2.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

もう外は薄暗くなってきていたが、祭りはまだこれから。MARZへ移動すると、アーティスト達の祭典はさらなる盛り上がりを見せていた。
 
Lapis Lazuliは、女性ボーカルの魅力が際立つ面白いバンドだ。この祭典の中でも異色な雰囲気を醸し出している彼らは、やはり異色な音楽を展開していく。声だけで観客を圧倒できるボーカルの技量と、それを見事なバランス感覚でもって支えていく楽器隊の黄金比。メンバーが互いになくてはならない存在なのだろうと感じさせるその姿勢は、尊敬に値するものだ。もっとライブで聴きたいと、本当に思った。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆Lapis Lazuli 公式サイト
http://lapislazuliinformation.wordpress.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

Alternative Rockの世界観を醸し出すガールズバンド、POP CHOCOLAT。女性らしさを前面に押し出したパフォーマンスを繰り広げる彼女達だが、音楽はれっきとしたAlternative Rockだ。そのアンバランスな魅力が、オーディエンスには受けるのだろう。場内の熱気は最高潮だが、その熱気をものともせずに涼しい顔で、自分たちの音楽を奏で続けた。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆POP CHOCOLAT 公式サイト
http://popchocolat.com/

 
Photo Photo

Photo Photo

山崎千裕+ROUTE14bandはトランペット、ギター、ベース、ドラム、キーボードという、ややジャズっぽい構成のバンドだ。事実、ジャズに影響を受けたであろう音楽性が彼らの持ち味にもなっているのだが、独自の「山崎千裕+ROUTE14bandとしての音楽」となっている。爆発的なトランペットの音色に、熱狂も最高潮。盛り上げ方も手馴れたものだ。海外での活動が多いこともあり、彼ら自身「音だけで盛り上げる」ことのプロフェッショナルだと感じる。客席の最高潮の盛り上がりは、最後まで続いていった。
 
Photo Photo

Photo Photo

◆山崎千裕+ROUTE14band 公式サイト
http://www.route14.rdy.jp/

 

 
TOKYO BOOT UP!は、三日間全てが最高に盛り上がる形で幕を閉じた。こんな素晴らしいアーティスト達がまだ数多くいる。こんな素晴らしいパフォーマンスが、日本のどこかでは行われている。そう思うと、体のどこかからふつふつとした思いが湧いてくる。
 
「音楽見本市」であるTOKYO BOOT UP!、今年は昨年以上に音楽業界で働く人の参加が多く、「特定のバンドを目当てに観に来た」という観客はもちろんのこと、「TOKYO BOOT UP!というイベントを観に来た」という観客も多かったという。それでも、事務局スタッフは「出演者と音楽関係者との結びつきという点ではまだまだ改善できる所がある」と、あくまで謙虚だ。「TOKYO BOOT UP!」、ここに来れば、次のシーンを担う素晴らしいミュージシャンとの出会いが、確実にある。是非とも2014年の開催およびさらなるイベントの盛り上がりを期待してやまない。
 

Photo
◆TOKYO BOOT UP! 2013 特設サイト
http://hellotbu.wix.com/tbu2013
◆TOKYO BOOT UP! オフィシャルサイト
http://www.tokyobootup.jp


 
◆関連記事
【レポート】TOKYO BOOT UP!2013 プレイベントvol.4(浮遊スル猫、Tokyo Common Sense、Lapis Lazuli)
http://www.beeast69.com/report/32151
【レポート】counterparts 1st album『edge curve square』Release Party(日の毬、counterparts)
http://www.beeast69.com/report/63576
【レポート】[SHELTER SUMMER GIFT] 魔性姉妹プロジェクト2012(劇団鹿殺しRJP)
http://www.beeast69.com/report/38797
【特集】クレヨンイーターpresents「ロックンロールハイスクール!」(安頭)
http://www.beeast69.com/feature/84463
【特集】The 7th Music Revolution 東日本FINAL(井上水晶)
http://www.beeast69.com/feature/89235
【PHOTOレポ】浮遊スル猫 @立川BABEL
http://www.beeast69.com/report/72229


 
 
  コラムニスト
The HIGH
さかもとえいぞう
2019年5月30日更新
人生の宿題その4(最終回)
mondo
中村 “MR.MONDO” 匠
2019年11月23日更新
第十三回「一問一答 Part.2」
PINK SAPPHIRE
PINK SAPPHIRE
2019年4月3日更新
第20回「AYA」
永川敏郎
永川敏郎(Toshio Egawa)
2019年5月29日更新
Progressive Man 第42話