演奏

TEXT:鈴木亮介

i劇団鹿殺し完全復活!約1年ぶりとなる本公演「ランドスライドワールド」が2015年1月11日(日)より東京と大阪で上演中だ(1月25日まで東京・下北沢の本多劇場で上演され、その後1月29日から2月1日まで大阪・福島のABCホールにて上演される)。待望の復活公演の模様を、いち早くレポートしたい。
 
「ランドスライドワールド」は、「愛するものの存在を見失った人間たちの対話を通して、傷口を縫い合わせ、歩く術を見つける物語」で、2009年上演の音楽劇「ベルゼブブ兄弟」を原案に、陰惨な事件と対照的に、圧縮されたイマジネーションが生み出す自由で滑稽なファンタジーが縦横無尽に飛び回る音楽劇だ。丸尾丸一郎 が脚本、菜月チョビが演出を、入交星士オレノグラフィティが音楽を手がける。
 
キャストは個性派揃いの劇団員に加え、人気俳優の木村了も重要な役どころとして登場。テレビなどではなかなか見られないアクションや歌など多様な面が見られるということで、公開前から話題を集めた。
 
座長・菜月チョビの文化庁新進芸術家海外研修制度による留学で、約1年の充電期間を経た劇団鹿殺し。待ちに待った復活だ。
 

「ランドスライドワールド」一部日程はチケット有り!当日券販売中
http://shika564.com/landslideworld/ticket.html

 

東京から電車とバスを乗り継いで十時間の山間の村、滑谷(なめや)。過疎が進むこの地の村外れに建つ築八十年の旧家、「羽根田家」が本作の舞台だ。上から五朗(丸尾丸一郎)、四門(オレノグラフィティ)、三太(木村了)、二生(ふたお/山岸門人)の4人兄弟と、土木屋の父・大地(今奈良孝行)の5人が暮らす羽根田家は、一見どこにでもある普通の家庭のようで、世間からは「変わった家」と見られていた。
 
一番年上の兄・五朗とその弟・三太は大地の姉の子どもで、大地の実の息子である兄・四門と、一番年下の弟・二生とは従兄弟の関係にある。彼らの父が亡くなり、母も愛人と駆け落ちし失踪したことから大地のもとに引き取られる。さらに、大地の妻で四門と二生の母、宇宙(そら/円山チカ)は過労で死去。何かと不幸が続いているのだ。
 
父・大地は強権的に息子たちを支配。長男にあたる五朗は父からの暴力に苦しめられつつも反抗的な態度を取り、「この家から出て行け」「嫌だ」を繰り返す。三太は役者に憧れるも喘息に苦しみ、四門と二生はそれぞれ音楽、文学を志すが、五朗たちとの才能の差に思い悩む。そうして彼らの根底には「この山間の過疎地で生きていくしかない」という閉塞感が漂っていた。
 
そんなある日、三太は虫眼鏡で桜の木を観察し、そこに壮大な宇宙を発見する。「分子を顕微鏡で見ると、そん中に宇宙のような空間が広がってるって話知ってるか?ミクロを見続けていくと、すなわちマクロに繋がるという理論や。俺はこの家から、駆け落ちした女の息子であることからは逃げられん。だから、虫眼鏡の中に世界を見つけることにしたわ。」
 
ストーリーは、警察官が民家に横たわる4体の死体を見つけるところからスタート。すぐさま木村了演じる三太の語り、父・大地の葬儀のシーン…とテンポよく時空を越えて展開していく。
 
劇団鹿殺し作品では必要不可欠なのが、楽団の存在だ。冒頭の語りシーンでは離れ家の屋根上にビオラ弾き(清川果林)が登場するが、この正体が蝿であったことが後にわかる。三太が虫眼鏡の中に見た”悪魔みたいな化け物”。夢の中でうまく動けない、思い通りにならない、と寝汗ぐっしょりになって目覚めた経験は誰しもあるだろうが、その感覚を本舞台では蝿を用いて忠実に再現。しつこくまとわりついて、うまく追っ払えないもどかしさ、そして独特の存在感から時に恐怖さえ覚えるあの”蝿”を、陰陽両側面を持つ”夢”とリンクさせたのは圧巻の一言!逃避したい、でも戻らずにはいられない現実世界への温かさが、蝿の楽団による迫力ある管楽器とドラム、衣装で表現されている。
 
いつもながら楽曲も秀逸だ。三太の虫眼鏡世界で繰り広げられる葬儀ラップから、五朗の”紅に染まる”コピーバンド、×(ばつ)が披露したヘドバン必至の「ENDLESS SAY ANYTHING FOREVER DAHLIA」まで…楽曲の完成度が高いからこそ心底から笑える楽曲が、ここぞという場で披露される。木村了がラップにハードロックにダンスにと、マルチに活躍。もちろん演技も、病弱ながら虫眼鏡の中に希望を見出す三太を独特の存在感で魅せている。
 
後半は迫力と疾走感あふれるアクションシーンの連続で、手に汗握る展開。予想不能なラストまで…作り手のパワーがみなぎる120分だ。これも劇団鹿殺し作品では切っても切れない関係にある、「幽霊とのコミュニケーション」が本作でも終盤で重要な役割を果たす。短気で手が早い父親・大地を今奈良孝行が好演。加えて今回は幽霊と似た分身、五朗の分身トシゴロウ(橘輝)、四門の分身モンジョビ(傳田うに)、三太の分身サンタローン(円山チカ)も出てきて、迫力満点のロックライブが繰り広げられるのも見どころだ。
 
さらにもう一つ、本作を魅力的にしているのが「水」の存在だ。序盤のビールかけ的お茶らけシーンから、終盤の台風のシーンまで、本作では水がふんだんに用いられている。特に終盤の土砂降りは、これでもかとばかりに思い通りにならない心苦しさ、鬱陶しさを観る者に突きつけてくる。この「土足で入り込んで突きつけてくる感じ」は、これまでの劇団鹿殺し作品と比べても特に本作では強烈に感じた。
 


そうして、強烈な苦しさがあるからこそ、一筋の儚い光が、とてつもなく愛おしく思える。芝居、文学、音楽…閉塞感の中で抱く夢に近づけない苦しみを、ちゃぶ台を囲んで家族で笑い合うという何の変哲もない”普通”が救ってくれる。しかし、それは大嵐の中に一瞬だけ現れた台風の目。生きるとは、かくもドギツく、苦しいもの。そこに立ちはだかる壁を乗り越えたい、逃げたい…でも、壁がなくなってしまったら、自分が自分ではなくなってしまう。安易なファンタジーでもホラーでも、はたまた道徳でもない、真正面から突きつけてくる生、そして死。劇団鹿殺しの舞台は唯一無二だ。
 
繰り返すが、本作では特に蝿、幽霊、音楽、言葉、水と見どころ尽くしだ。ウィリアム・ゴールディングにも横光利一にも肩を並べるlandslide(=圧倒的な) worldを、是非堪能してほしい。

 

◆劇団鹿殺し 復活公演 「ランドスライドワールド」
【作】丸尾丸一郎
【演出】菜月チョビ
【音楽】入交星士×オレノグラフィティ
【出演】丸尾丸一郎/オレノグラフィティ/山岸門人
橘 輝/傅田うに/円山チカ/坂本けこ美
鷺沼恵美子/浅野康之/近藤茶/峰ゆとり/有田杏子
木村了、今奈良孝行、美津乃あわ 他
【公演期間】
東京公演:2015年1月11日(日)~1月25日(日)【下北沢】本多劇場
大阪公演:2015年1月29日(木)~2月01日(日)【福 島】ABCホール
 
チケット:
前売 4,900円/学割 3,500円(税込、全席指定)
 
劇団鹿殺しHP http://shika564.com/
およびチケットぴあ/e+/ローソンチケット/カンフェティ(東京公演のみ)にて受付中
菜月チョビ・石崎ひゅーい 主演、劇団鹿殺しロックオペラ「彼女の起源」6月に上演決定!
作:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:入交星士×オレノグラフィティ
出演:
菜月チョビ 石崎ひゅーい
丸尾丸一郎 オレノグラフィティ 山岸門人
橘 輝 傳田うに 他
 
【東京公演】会場:CBGKシブゲキ!!
・2015年06月03日(水)~07日(日)
【関西公演】会場:伊丹AI・HALL
・2015年06月11日(木)~14日(日)
 
チケット:
劇団鹿殺し 特典付先行販売を3月14日(土)~22日(日)に実施
詳細は http://shika564.com/otokurige

 

◆ランドスライドワールド 公式サイト
http://shika564.com/landslideworld/
 
◆劇団鹿殺し 公式サイト
http://shika564.com/

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