特集

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TEXT:桂伸也、栗林啓 PHOTO:桂伸也
女性達の輝く場所 Part III ~ロックから人生を切り開いてきた女性たち~

「ロックと生きる」BEEAST編集部員による全力特集「Editor’s Note…PASSION」。第16回は『Editor’s Note…PASSION Mind6(桂伸也)』の続きとしてHEAD PHONES PRESIDENTAnzaと、JURASSIC JADEHIZUMIという二人のボーカリストの、アーティストを目指した軌跡と、お互いのつながりから、また違った女性ロックミュージシャンの、一つの姿を考察する。
 
古くは「女人禁制」的な風潮をもっていたロックの歴史の中で、カルメン・マキSHOW-YAPRINCESS PRINCESSなど、女性の進出する道を切り開いてきたアーティストがいた。彼女らの功績により、現在ではもはや女性が活躍するということ自体はそれほど珍しいものではなくなってきた。だが、その歴史の過渡期において、現在活躍している女性アーティストたちはどのようにアーティストを志し、現在まで走り続けたのだろうか?
 
今回は、この二人の女性シンガーのインタビューより、その芯の部分を探ってみた。また、2013年12月29日の新宿MARZにて行われた、HEAD PHONES PRESIDENTとJURASSIC JADEのツーマンライブの模様を合わせてレポート、合わせて彼女らの歩んできた道から見える、彼女らの目指すものに迫った。
 
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1)インタビュー

 
元アイドル、舞台俳優という、ロックミュージシャンとしては異色の経歴をもつボーカリスト、Anza。そして活動30周年を超える経歴をもつHeavy RockバンドJURASSIC JADEのボーカリスト、HIZUMI。ミュージシャンとしての生い立ちも、その歩んできた道もまったく異なる二人の女性ボーカリストだが、お互いが感じるシンパシーによって強いつながりをもっている。彼女らはいかに女性ミュージシャンとしての経歴をスタートし、成長を遂げてきたのか?まずはこの二人の関係から見える実態を、インタビューから探ってみた。

 

1.「カッコいい女になりたい!」って思ったんです。

—まずお二人がこの道、ロックミュージシャンとしての道を選択したところをうかがいたいと思います。そもそもAnzaさんが「ロックバンドをやりたい」と思った切っ掛けとは、どのようなものだったのでしょうか?

 
Anza:それは、うちのオカン(お母さん)がすごくロック好きだった影響ですね。昔からよく聴いていたんです。
 

—お母さんがですか?それは入り口としてはとても入りやすい環境にもあったということなのでしょうか?

 
Anza:いや、「始める」ということについては、そうでもなかったと思います。アイドルを経て舞台をやっていっていたころに「これからどうしていけばいいか」ということをいろいろ考えていたことがありました。そしてそんな考えの中にも、「ロックバンドをやるか」っていう思いがあったんです。昔からバンドを組んでみたいっていう夢があって。それからその夢に挑戦してみたいという思いが強く出てきたんです。
 

—ご自身の当時の状況を考えると、道を選ぶには本当に悩みそうですね。

 
Anza:当時は大手の芸能事務所を辞めなければならないという大きなリスクがあったんです。「契約違反だから、何百万円もの違反金を払わなければいけない可能性がある」とか。でも、「今までやってきたことが、本当に最終的にやりたいことだったのかな?」って考え、それを押してでも自分の好きなほうに進むという結論に達したんです。舞台は好きでしたけど、アイドルは本当に辛くて、「カッコいい女になりたい!」って思ったし。だからそのときゼロからのスタートを切りました。
 

—それは大きな覚悟でしたね、現状を「手放す」という観点において。逆に、音楽を始めようとされたときに、一歩踏み出すための覚悟みたいなものもあったのでしょうか?

 
Anza:いや、私はただ純粋にロックがやりたかったんです、「もっと体全体で表現できるようなもの」というような。確かにまだ女性ボーカルが珍しいという時代だったけど、自分自身ではそれを深くは考えていませんでした。確かに今は女性ボーカルの対バンもたくさんあって、ちょっとムーブメント的なところもあるので、簡単に「女性ボーカルを立てておけば、華があるだろう」っていう安易なバンドもいるかもしれませんが(笑)
 

—そういう意味では、ご自身が女性だからということでこの世界に違和感はなかった、ということでしょうか?

 
Anza:なかったですね。まあ昔は活躍している女性が少なかったということもあって、バンドさんには「女」ということを意識して見られて、いやな思いをしたこともありました。それに比べると今は「平和だな~」って(笑)。ただ正直言うと、バンドをやり始めた当時は「男性に負けたくない!」という意識はすごくあって、「絶対てっぺんを取ってやるぞコノヤロウ!」みたいに考えていたこともあります(笑)
 

—なるほど。でも男性が多い世界で奮闘するという状況では、当然だったのかもしれませんね。他方で活動を始めたのは、「本当の自分を見つけたい」ということもあったのでしょうか?合わせて、活動を始めたときに将来に対して描いていた具体的なビジョンはなかったのでしょうか?

 
Anza:いや、どうしたいというものはなかったですね。それ以前に自分自身がよくわからなかったころでした。だから無我夢中でとにかく好きなことをやりたいっていう感じだったと思います。ビジョンっていうのもまったく。どうやってライブハウスに出るのかも全然知らなかったし。当時はライブハウスって大体昼間にオーディションを行われていて、私は高円寺のRITZ(現在の新高円寺CLUB LINER)というライブハウスで、リハーサル室で録った音源とプロフィールをもって「ライブハウスに出たいんです、オーディションしてください!」って言ったところからスタートしました。
 

—ほとんど殴り込みのような勢いですね。なにか気持ちが男性的な感じで。

 
Anza:男性的って、見てそのまま、女っぽくないじゃないですか?私って(笑)。昔は今と違ってパンツスタイルでライブハウスに出ていましたし。いや本当になにも知らなかったんですよ。知らぬがままに動いちゃったって感じですね。
 

—非常に興味深い音楽経歴ですね。HIZUMIさんは、どのような切っ掛けでこの世界に飛び込まれたのでしょうか?最初からJURASSIC JADEのような激しいロック、Heavy MetalやHard Coreな方向に向かわれたのでしょうか?

 
HIZUMI:いや~話すと長くなっちゃうし、だいぶ前だから忘れちゃったこともありますけど(笑)。最初は、ギターのNOBがやっていたバンドで私はベースをやっていたんですよ。ボーカルは別な人がいて。でも、そこでボーカルにコンバートして今に至る、という。もともとロックは憧れでした。時代がだいぶさかのぼっちゃうけど(笑)
 

—そうでしたか。では、今現在バンドに参加したのも、現在この活動を続けておられるのも、流れとしては自然であるということでしょうか?

 
HIZUMI:自然かな?まあ、今となってはそうかもしれませんね。実は最初にもとのボーカルの子が歌っているのを聴いて、あまりにも迫力がなかったから私が勝手に飛び込んで歌ったんですよ。そのあとはもう揉めに揉めましたけど(笑)。そのとき、「ギターとボーカルだけやるしかないな」ってリハを組み立てていたんだけど、なにかその子はギターにかなり気を取られているばっかりな感じがしてダメだと思ったんです。
 

—そうでしたか。すごい事実ですね(笑)。揉めに揉めたけど、最終的には納得してもらったのでしょうか?

 
HIZUMI:まあね。私はJURASSIC JADEのスターだから(笑)
 

2.憧れの人を目の前にしてなにも言えませんでした。本当に失礼なやつですよね(笑)

JURASSIC JADEのステージを何度か拝見して印象的だったことがあります。HIZUMIさんがステージに現れるパートや、ステージの要所で行われる舞踊のようなパフォーマンスがありますよね?サウンドと非常に対照的で、幻想的なイメージを感じ非常に興味深く思っておりましたが、これはどのような発想から作り上げられたイメージなのでしょうか?

 
HIZUMI:暗黒舞踏(日本の舞踊家である土方巽(ひじかた たつみ)を中心に形成された現代舞踊、または前衛舞踊の様式)が好きなんですよ。その筋の知り合いもいるし、そういうイメージからですね。そういったものを取り入れたら面白いんじゃないかなとは考えていました。ただ、それ程計画的というか、練り上げたというほどのものでもないですけどね。
 

—具体的にはどのような方々からの影響なのでしょうか?

 
HIZUMI:大駱駝艦(だいらくだかん)や白虎社なんかの舞踏集団の舞台をよく見ましたし、その影響は大きかったと思います。それとギリヤーク尼ヶ崎という舞踏家がいるのですが、その昔に渋谷のハチ公前でサークルを書いて踊っていたことがあったんです。普通だったら警察に捕まっちゃうけど(笑)、そういうものをリアルライブで見てきたりしましたね。すごいんですよ、舞台ではないところを舞台にして、そこで旅芸人として生活を打ち立てて。そういうものには圧倒されていました、そういう影響はありますね。
 

—とても深い影響を感じますね。積極的になにか自分のステージを特徴づけたいとか、意図的なものというよりは自然に表現として出てくるような表現というか。またあの舞いには、AnzaさんがHEAD PHONES PRESIDENTのステージで披露されているパフォーマンスにも共通するものが見られる印象を受けました。

 
Anza:もちろん!もう正直に言っちゃうと、「パクッています」から(笑)。
 

—Anzaさんも大きな衝撃を受けられたということでしょうか?どのような切っ掛けでそのJURASSIC JADEの衝撃を受けることになったのでしょうか?

 
Anza:私がJURASSIC JADEのステージを初めて見たのは2001年だったんです。私たちが活動を開始したのが1999年でしたが、そのころに「日本でNo.1のバンド」として、このバンドを見ろ!と知人に紹介されて音源を聴き、興味をもっていました。で、その年に初めてJURASSIC JADEのステージを見たんですが、あまりの衝撃にそのときに私は動けなくなってしまったんです、ステージで見ていたその場で。
 

—それはサウンドなどの断片的なイメージではなく、すべてにおいてということでしょうか?

 
Anza:そう。もうすべてのイメージからです。その場の空気そのもの。人を見て金縛りになった経験がそのとき初めてだったということもありましたし。
 

—なにかそのころの生活や出来事に起因するようなものがあったのでしょうか?

 
Anza:あったと思いますね。実はそのころ、私は普段の生活の中で悩みが多くて、「生きているのがいやだ」というくらいの思いを抱いていたんです、「もうだめだ」っていうくらいに追い詰められていて。そんなときにJURASSIC JADE、そしてHIZUMIさんに出会って、強烈な衝撃を受けたんです。
 
それから「あの人のようなステージをやりたい!」と思い始めたんです。それまでなんとなく、っていうレベルで漠然と感じていた、「ロックをやりたい」っていう思いが、そこから明白に「突き進みたい」っていう目標になりました。ネガティブな気持ちもなにも、体全体で表現したいって。売れるとか売れないとかっていうのはどうでもよかったんですよ。その具体的なイメージがHIZUMIさんだったんです。
 

—たとえばバンドのライブを見たときに「この音楽をやってみたい」とか、「この人はカッコいい」という印象を受けたというレベルではなく、もう人生に対しての影響を受けられたということですね。

 
Anza:まさしく。もうそのときから人生の志向が変わってしまいましたから。なにか「やりたい」と思うことに対する自分の志向が。それまではなんとなくメンバーが作ってきたものに対して「自分はこう」という受け身な感じでの行動をしていましたが、そのとき以来は「自分はこうしたい」「もっとこういう表現をしたい」という能動的なものに変わりましたね。
 

—人生の一大転機ともいえる大きな変化ですね。実際にAnzaさんとHIZUMIさんの間で交流が始まったのは、また別の機会だったのでしょうか?

 
Anza:はい、別のタイミングです。しっかり覚えていますよ!初めて対バンしたときで2005年の9月22日、下北沢SHELTERで。OUTRAGEのボーカルの橋本(直樹)さんが一時脱退後、3人構成で活動を継続していたころだったかな(笑)
 

—スゴイ記憶力ですね(笑)

 
HIZUMI:(手帳を見ながら)あ、本当だ、9月22日(笑)
 
Anza:えっ?なんで手帳でそんなことがわかるんですか?(笑)
 
HIZUMI:私、手帳には一年間のライブの予定だけ書いているの。だから、昔のことも全部(笑)
 

—マメですね(笑)。Anzaさんのファーストコンタクトの印象はどのような感じだったのでしょうか?

 
Anza:そのときはもう、私は怖くて怖くて…憧れの人を目の前にしてなにも言えませんでした、声もかけられず。本当に失礼なやつですよね(笑)。緊張しすぎちゃって、吐いちゃったんですよ。次の日は熱を出してぶっ倒れちゃいましたし(笑)
 
HIZUMI:Anzaってよく熱を出すことがあるよね(笑)。初めてしゃべったのは、八王子のCLUB HAVANAだったっけ?
 
Anza:そう!そのときに初めてHIZUMIさんとお話ができたんです。
 
HIZUMI:そのときにHEAD PHONES PRESIDENTのライブを初めて見たんだけど、彼女はすごく激しく動いていたんですよね。強弱のある音楽なんだけど、あまりにも無防備に頭を振り続けていた。だから「腰を痛めるよ」とかいう話や(笑)、ステージの立ち方とか、いろんな話をしましたね。懸命さはすごく伝わってきたので、応援してあげたいなという思いが、そのときからありました。
 
Anza:そうでしたね!そのときはもう本当に興奮状態。やっぱりその日も眠れませんでしたね。意外に小心者なんですよ(笑)。
 

3.いつもこれが最後だと思って、「錦を織る」っていうつもりでアルバムを作っているんです。

—そのコンタクトも衝撃的だったということですね。改めてJURASSIC JADE、そしてHIZUMIさんから受ける衝撃の要因とは、どのようなものなのでしょうか?

 
Anza:いつも作品を聴かせていただいて印象を強く感じているのが、HIZUMIさんの書かれる歌詞なんです。その歌詞を読んだときに、私はいろんな妄想感を抱いてしまうんですよね。歌詞がそのまま映像になるというか。
 
私はまだそういうバンドを見たことがほかにないんですよ。その歌詞に書かれるHIZUMIさんワールドって、「これは将来映画にしたらスゴイものになるんじゃないか」って思うんですけど。
 

—なるほど。それをAnzaさんご自身の創作活動と比較された際には、どのように感じられるのでしょうか?

 
Anza:そうですね、私自身が最終的にたどり着きたいのは、「日本語で詞を書いてみたい」というところなんです。今、まだ英語で書いているのは、ある意味「しゃべれない英語を書くことで、ごまかしている」という思いも、正直言えばあるし。いつかは日本語でHIZUMIさんの書かれるような歌詞が書いてみたいと思うんですが、どうすればできるんでしょうかねHIZUMIさん…?教わりたいと思っているんですが。
 
HIZUMI:じゃあ、JURASSIC JADEの曲を一曲あげるから、それを歌いなよ。年月を重ねて歌わなくなった曲ね。なかなか普段プレイされない曲だけど、それをAnzaに歌ってもらいましょうかね。
 
Anza:ギャー!(笑)。え?本当に!?マジですか!?ねえみんな聞いた!?これ、絶対にインタビューで書いておいてくださいよ!(笑)。いや~ヤバい!どうしよう…じゃあ、次のアルバムで(笑)。本当にいいんですか?大丈夫ですかね?私、JURASSIC JADEファンに殺されちゃわないですかね?(笑)
 
HIZUMI:作風的にAnzaにピッタリかなっていうのがあるの。私の渾身の一作だし。
 
Anza:いや~もう私、多分また熱が出る(笑)
 

—すごいハプニングですね(笑)。一人の人間として、AnzaさんはHIZUMIさんをどのように見られているのでしょうか?

 
Anza:お母さんのようでもあると思っているんです。偉大なシンガーであり、大先輩である一方で。何より私たちの方が経験したことのないシーンを作り上げてくれた方々なんです、壮絶な経歴を経て。だから私たちも普通では経験しないようなことも経験されていて。いまだに自分たちは新人バンドくらいの、まだまだ頑張らなきゃいけない立場だと思っていたんですが、今は若い子たちに結構相談されることが多いんです。それで「相談されることはあるけど、相談を願いたい相手がいない、どうしよう?」となったときに、どうしようと思うことがあるんでが、そんなときにHIZUMIさんに教えを乞うこともよくあります。私、HIZUMIさんの前で泣いたこともあるんです(笑)
 
HIZUMI:あ~あったね(笑)。私の舞台を見て、ときどきなぜかそのあとに楽屋に来て泣いたりする子がいるんで、「ヨシヨシ」とかやってあげたりすることがあるんですよね、感動してくれているみたいで(笑)。
 
一つ応援してくれる人たちも言いたいことがあるんですよ。やっぱり、女だからということでそういうこともあったけど、Anzaは随分不当な目にあっていたっていうことを。私も強く感じていたし、そんなことをするのは大概男性だったの。
 
Loud Musicを女性がやるなんて生意気だ、という考えは実際にずっとありましたし。だから同じような道を通り過ぎるなら、そんなのはなるべく回避したい。でもあまりにも失礼なやつにはちゃんと主張すべきだと思うし。もちろん正攻法で戦うなら男子も女子も関係ないですよ。でも汚い手を使ってくるつまんない男もいるわけ!(笑)
 
Anza:今の女性ボーカルの若い子たちって、HIZUMIさんが言われたようないやな部分は、かなりクリアにされていると思うんです。でもひょっとしたら若干でもいやな思いをしている子は今でもいるのかもしれない。だからそんな、女性としてフロントマンとして立つことに対して、HIZUMIさんから教えてもらったことを含めて、自分で経験したことを伝えていきたいと思っているんです。ただ、それでも私はまだまだHIZUMIさんにはこれから10年でも20年でもやっていただきたいなと思っています。
 
HIZUMI:いやいや、「10年も20年も」だなんて無理だって!(笑)。私たちは別のメディアでは、伝説とか言われたり(笑)、形骸化して風前の灯火みたいな言われかたをしたりしてるの(笑)。だけど肉体を維持していかないとね、形のあるものを表現していくには。表現者であるということは、舞踏であろうが役者であろうが、鍛えるというところまで行かなくても、体力を確保していかなければね。ただ本当に大変なのよ。厳しいですよ(笑)
 
Anza:でもやっぱり憧れですから。立っているだけでその生きざまみたいなものが伝わるボーカリストって、なかなか出会えないと思うんですよ。私にとってはそれがHIZUMIさん。世の女性ボーカルの方はJURASSIC JADEを一度体感しないとダメだと思いますね!それくらい言いきっちゃう!(笑)。なぜかというと、やっぱりJURASSIC JADEは「本物」ですから。ただ可愛くミニスカートでアイドル的なものを行いたいのなら、そういう方向を目指せばいいけど、表現者として本物を目指すのなら、その「本物」のバンドを絶対に一度見てもらいたいと思うんです。JURASSIC JADEを見て、私も変わったから。
 

—アーティストという立場だけでなく、人間としての姿に深く影響を受けられているのですね。HIZUMIさんから見られたAnzaさんの印象というのは、最初に会われたときには先程言われたような内容がいろいろとあったと思いますが、今現在のAnzaさんを見られてどのように感じられていますか?

 
HIZUMI:やっぱりたくましくなったな、って思いますね。それは人間としても、ボーカリストとしても。八王子で初めて話をしたときのころはまだ線も細かったし、無防備にも思えたんです。
 
そんな彼女に衣装や立ち方、ガードの仕方を教えたのも、なにかを彼女に感じたからだと思うんですよね。そんなことを出会った子にいちいち言って回るわけじゃない。舞台なんかの経験もあるから、その必死さも伝わってきたのかもしれない。
 
Anza:ドレススタイルになったのも、HIZUMIさんのアドバイスのおかげなんですよ。それまではどちらかというと体のラインを隠すような恰好をしていたんだけど、HIZUMIさんから「若いんだから、もうちょっと体を出しなさいよ!」って(笑)
 
HIZUMI:それをやったら、お客さんが増えたでしょ?(笑)
 
Anza:いや本当に。ありがとうございました(笑)
 

—憧れから築き上げた信頼関係でしょうか?コンビネーションもバッチリですね(笑)。では、最後に年明けに向けた抱負的な部分でのメッセージをそれぞれいただければと思います。

 
HIZUMI:まあ、来年(=2014年)も一年元気でありますように、無病息災というところではありますが(笑)、それでまたいいアルバムも作ることができれば。最近はそんな話も急に出てきているし。ただ「鶴の恩返し」みたいに自分の羽を抜いてはたを織るわけだけど、最近はなかなか抜く羽もなくなってきてるの。だからいつもこれが最後だと思って、「錦を織る」っていうつもりでアルバムを作っているんです。今まで本当にたくさんの仲間が死んでいったことも忘れないし、その中でもご縁があっていまだに「私は生かされて、ステージに立たせていただいてるんだ」と、ロックの神様がおっしゃっていると思うので、できるだけのことをやっていきたいです。
 
Anza:2013年12月29日、この日のツーマンライブは私にとっては夢がかなった気分で、「明日からどうしよう」って思っています(笑)。来年はJURASSIC JADEも、アルバムを出してくださるだろうということですが、私たちもアルバムのリリースになります。その上で次に掲げている私の夢は、JURASSIC JADEとともに海外に行きたいと思うこと!日本だけじゃなく、海外にもこのバンドを見てもらいたいと思うんです。申し訳ないけど、まだまだ私たちは若い子たちに負ける気がしないので(笑)、「嬢メタル」じゃなくて「女王メタル」代表として世界にアピールしていきたいと思っています!(笑)。まだまだ終わらせない。HIZUMIさん、まだまだ引っ張ってください!お願いします!(笑)
 
HIZUMI:え~勘弁してよ、まだ引っ張れなんて。それに海外なんて。私、飛行機は大っ嫌いだし(笑)
 
Anza:ダメです、まだ私はそんな器じゃないし。それに飛行機にも乗ってもらいます。私の横の座席に(笑)
 
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2)ライブレポート
(『HEAD PHONES PRESIDENT & JURASSIC JADE ツーマンライブ』2013/12/29 @新宿MARZ)

 
毎年恒例となりつつあるHEAD PHONES PRESIDENTの年末のライブイベント。2013年12月29日、この日のイベントも新宿MARZにて行われた。2012年はビートボクサーTATSUYAとのコラボレーションや音響メーカElectro-Voiceのサラウンドシステムの導入が話題を呼んだ(『Editor’s Note…PASSION Mind8(桂伸也)』参照)が、昨年2013年は日本を代表するThrash MetalバンドのJURASSIC JADEとの2マンライブ。強力な女性ボーカリストを擁するバンド同士の対決となった。
 
今回のライブに際して、ステージ前にAnzaがこんなメッセージを語ってくれた。「今回の2マンは本当に念願だったんですよ。HIZUMIさんに直接お願いするのはやっぱり怖かったし(笑)。でもお願いしたら夢がかなって。JURASSIC JADEが好きな子は、HEAD PHONES PRESIDENTのファンにもたくさんいて、今回のライブはファンの念願でもあったんですよ。一つ気になっていたのは、やっぱり本来であればトリは「先輩」だと思ったんです、生意気な私たちでなくてね(笑)」AnzaHIZUMIに対する強い尊敬の念が感じられるメッセージだ。
 
そんな思いは確かに、オープンから彼らの登場を今か今かと待つフロアの観衆の様子からも感じられた。そしてDJ狂犬によるエキサイティングな選曲でフロアが十分に暖まったところに、場内が暗転し、怪しげなSEが始まった。JURASSIC JADEの登場だ。

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◆メンバーリスト:
HIZUMI(Vocal)、NOB(Guitar)、GEORGE(Bass)、HAYA(Drums)
 
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幕が上がると、バンドのメンバーはステージ上で既にスタンバイしていた。そして、HIZUMIが前衛舞踏を彷彿(ほうふつ)させるようなパフォーマンスでステージに現れた。その舞いが一つの区切りを見せた瞬間、耳をつんざくような爆音が放たれ、1曲目の「G.D.G」がスタートした。重量感たっぷりでタイトなサウンド、そして観客との掛け合いによってオープニングから大変な盛り上がりだ。
 
HIZUMIの個性的な舞いが、JURASSIC JADEを独特の世界観に誘(いざな)う。続いてスピーディーなThrash Metalソングの「BROTHER OF MINE」。NOBの切れのいいギターのリフと、GEORGEのドライブ感のあるベースのフィンガーピッキングが印象的。彼らの繰り出すその猛烈なノリに、フロアはヘッドバンギングの嵐。曲は途中スローダウンして、HIZUMIの舞いがまた怪しい空気を会場に漂わせた。猛烈なオープニングで観衆をとりこにした彼ら。MCでHIZUMIは、「Anzaとの頂上決戦。どっちがキレイか勝負を付ける(笑)」とおどけながら、この日のステージの意気込みを語った。
 
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独特なギターリフとドラムのブラストビートが印象的な「ドク・ユメ・スペルマ」から、Thrash Metalの王道的ナンバー「Left Eye」へ。HAYAのプレイの上で、独特なバスドラムのフレーズが耳に残る曲だ。そのリズムがフロアをさらなる興奮に包み込んでいった。再びMCを挟んで、ギターのアルペジオとHIZUMIの呪文のようなボーカルのイントロが印象的な「3times per 49days」へ。次の瞬間にバンドの演奏が加わると曲は一気に重々しくグルービーな展開へと変わった。さらに派手なドラムフィルから始まる「VERTIGO~眩暈~」へ続いた。途中のベースによるタッピングのプレイが耳を引く。このときHAYAによるドラミングがあまりにも激しいため、シンバルスタンドが壊れるというハプニングが発生したが、セッティングをし直すと何事もなかったかのようにまた激しいドラミングを叩き出し、ハプニング前にも増して強烈なグルーブを巻き起こした。
 
MCを挟んで、HIZUMIが特別な思いを寄せているという「MIDNIGHT CHILD」が始まった。スリーフィンガーによるGEORGEの印象的なベースリフが曲をぐいぐいとリードし、HIZUMIのあおりが猛烈なアピールを巻き起こした。フロアも彼女の声に、拳を上げて答えた。さらにブラストビートを交えた「僕らの狂気」、ギターとベース、そしてドラムのキックがシンクロしてマシンガンのような破壊力を発揮する「9月の詩」へと続き、前半戦をプレイし切った。
 
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後半戦は、HIZUMIが「曲名は恋するアトミックボーイにしてみようかな?」と語っていた新曲が披露された。ザクザクと刻まれるギターリフとスピーディーなリズム、途中スローダウンしてNOB、GEORGE、HAYAが完全にシンクロして奏でるリフが印象的な、JURASSIC JADEらしいThrash Metalソングだ。そして、グルービーなベースラインが印象的な「Chaose Queen」、スピーディーな「MONSTER SACRE,FARADIZED」と立て続けに演奏。MCを挟んだあとも、速くて重い「D-DAY~精神病質」とバンドは手を緩めることなく攻撃を続行、対するフロアも必至の抵抗とばかりにヘッドバンギングを止めなかった。
 
そんな中でNOBのギターは解き放たれたように流麗にメロディを奏で、キラリと光るアクセントを見せていた。ベースのアルペジオから始まるスピーディーな「Let’s Go, Heroes」から「触れてはいけない」へと続き、HIZUMIの叫びにフロアも歓声で応戦した。「最後の3曲、用意はいいか?私を超えてゆけ!」HIZUMIの叫びから、いよいよクライマックス。Deathrash(Death Metal+Thrash Metal)ともいえそうな「紅の女王」から「HEMIPLEGIA」へと続き、フロントの3人が前に出てフロアをあおり、観衆はそのあおりに引かれて拳を上げ、サビを合唱。最後は彼らの代表曲であり、猛烈なスピードナンバー「鏡よ鏡」。フロアにはモッシュが発生し、強烈な盛り上がりを見せた。そんな観衆に対してHIZUMIは、「みんながいるから今日までやって来られた。もう少し生き延びてみようと思う。」と感謝の念を語った。そしてJURASSIC JADEに向けた、止まない歓声と拍手の中、彼らはステージをあとにした。
 
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◆公式サイト
http://www2.odn.ne.jp/jurassic-jade/
◆セットリスト
M01. G.D.G
M02. BROTHER OF MINE
M03. ドク・ユメ・スペルマ
M04. Left Eye
M05. 3times per 49days
M06. VERTIGO~眩暈~
M07. MIDNIGHT CHILD
M08. 僕らの狂気
M09. 9月の詩
M10. new song(タイトル未定)
M11. Chaose Queen
M12. MONSTER SACRE, FARADIZED
M13. D-DAY~精神病質
M14. Let’s Go, Heroes
M15. 触れてはいけない
M16. 紅の女王
M17. HEMIPLEGIA
M18. 鏡よ鏡
2 HEAD PHONES PRESIDENT

◆メンバーリスト:
Anza(Vocal)、Hiro(Guitar)、Narumi(Bass)、Batch(Drums)
 
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続いてはHEAD PHONES PRESIDENTの登場だ。SEが終わりステージの幕が上がると、黒のドレス風の衣装に身を包んだAnzaが、ステージ中央で後ろ向きに構え、たたずんでいた。オープニングは「Reality」。Batchのタイトなドラム、Narumiの激しいアクションのベースは、重くうねるようなサウンドを叩き出し、Hiroは、流麗なメロディを奏でた。続いた2曲目は、「Desecrate」。Anzaの感情を叩き付けるようなボーカルが凄まじい。楽器隊も激しい演奏で、曲の世界観をさらに深めていった。
 
続けてHiroのタッピングと高速のオルタネイトピッキングを交えたスリリングなギターソロから「Labyrinth」が始まった。重くて激しい演奏に、フロアもヘッドバンギングの嵐。そして、サビでは拳を突き上げてサウンドに対する気持ちの高ぶりを目いっぱいに表していた。そして、マリオネットのようなおどけた素振りを見せるAnzaのパフォーマンスから、一変して重く激しい「Hang Vail」へ。彼女の悲痛な叫びが、フロアの感情をわしづかみにした。5曲目は、「Rainy star」。Narumiが奏でるベースのアルペジオの中、Anzaは座り込み、なにかに語りかけるように歌い出し始めた。サビの切ないメロディが人々の心を打ち、会場は静まり返り、みなその音にじっと耳を傾けていた。
 
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幻想的なインターバルから、曲は「Stand In The World」へ。フロアは興奮の中、またもやヘッドバンギングの嵐となった。アルバムのバージョンとは違うBatchのドラムのフレーズが、ファンの耳を引いた。Anzaは長い髪をたなびかせ、所狭しとステージを駆け回っていた。たて続けに「My name is」へ、フロアは曲中のリズミカルな16ビートに合わせて激しく体をゆらした。そんな中、Hiroのタッピングを交えたギターソロが冴え渡り、絶妙なアクセントをサウンドの中に織り込んでいた。さらにハーモニクスとアーミングを交えたギターのインターバルから、曲は「Just A Human」へ。変拍子の展開部からギターソロへの流れは非常に複雑で難易度の高いものであり、いかにこのバンドの演奏力が長けているかを物語っていた。
 
9曲目は「Dive」。Anzaは座り込み、Narumiはパーカッシブなベースをかき鳴らしていた。なにかに取り憑かれたようなAnzaの激しいパフォーマンスと流れるようなHiroのギターソロとの対比が美しい。エフェクトをかけたAnzaの天に語りかけるようなボーカルのインターバルから曲は「Eyes」へと続いた。感情を解き放つようなAnzaのボーカルが胸を打つ。途中ステージは暗転し、静寂の中、彼女は語りかけるように歌っていた。続いて曲は一変し激しい「Lost Place」へ。「Rise And Shine」ではBatchがビートを刻む中、AnzaJURASSIC JADEとの2マンが実現したことへの謝辞を語った。会場の空気は猛烈な熱気に包まれていたこのとき、彼女の思いも感極まったのだろう、その気持ちを受け取るように、フロアもまた大きな歓声を上げた。
 
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「Chain」のタイトルコールのあと、バンドは激しい演奏を畳み掛け、フロアも一体となって躍動した。そして、Narumiのベースのアルペジオからカッティングへと移り、テンポを上げ「Light to Die」へ。感情むき出しのボーカルと激しい演奏に、フロアはさらに引き込まれた。そして、Anzaはなにかを求めるようにフロアに手を差し伸べた。続いて「Where Are You」のイントロへ。静かでトライバルなドラムから、一気に重く激しい演奏へと解き放たれる瞬間。この静と動のコントラストの美しさはHEAD PHONES PRESIDENTの強みの一つだ。Batchの激しいドラムフィルから、3人が激しく楽器をかき鳴らし、ライブはエンディングを迎えた。
 
アンコールではAnzaが、この日にたどり着くまでに自らにつのらせた思いを語った、自分の進むべき道に悩んでいたときにJURASSIC JADEのライブを見て衝撃を受けたこと。それ以来HIZUMIを追いかけ、いつかHIZUMIを超えたいと思っていたこと。長年の夢だった、尊敬するJURASSIC JADEとの2マンライブが実現したこと。その思いをぶつけるようにアンコール曲「In Scrying」が演奏された。Anzaは自らを解放するように激しく歌っていた。さまざまな人の思いが交錯する中、イベントは幕を閉じた。
 
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◆公式サイト
http://headphonespresident.com/
◆セットリスト
M01. Reality
M02. Desecrate
M03. Labyrinth
M04. Hang Vail
M05. Rainy star
M06. Stand In The World
M07. My name is
M08. Just A Human
M09. Dive
M10. Eyes
M11. Lost Place
M12. Rise And Shine
M13. Chain
M14. Light to Die
M15. Where Are You
Encore
M16. In Scrying

 
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バンドを取り巻く環境や影響の違いにより、JURASSIC JADEHEAD PHONES PRESIDENTには違いはあれど、非常に共通した雰囲気が感じられることがよくわかる。詞やサウンドの中で目指そうとする世界観、さまざまな表情や動きで目いっぱいに表現する人間の内面的なもの。フロントマンであるHIZUMIAnza、二人のパフォーマンスには、「ロックのステージをカッコよく見せよう」という思いよりは、もっと別の表情が見える。それは、ステージで表現したいもの、ロックで表現したいものに対しての意識のように感じられる。
 
そこには、女性だからこそできる表現というよりは、「彼女らだからこそできるもの」というようにも見える。なかなか観衆や同僚アーティストにも受け入れられない、女性アーティストという不遇の立場を乗り越え、ここまで走り抜けてきた彼女らだからこそ。そして今や女性アーティストはHIZUMIAnzaのように、意思を受け継ぐ関係が成り立つまでにその広がりを見せてきている。今回レポートしたライブは、まさしくそれが実感できたステージだった。
 
HEAD PHONES PRESIDENTはいよいよ今年、新たなアルバムリリースに向けて動き出すようだ。また、その動きはJURASSIC JADEもしかり。ベテランと呼ばれる彼らが次に繰り出す手の内とはどのようなものか?非常に期待の高まるところだ。女性云々という特異点は既に克服し、ハードなサウンドを奏でるロックの世界で、一人のアーティストとしての位置を確立した彼女ら。「まだまだ追いつけない」と、HIZUMIの背を追いかけるAnzaと、ロックの長い歴史の中を駆け抜けながら、さらに意欲的な活動を続けるHIZUMI。そのアクティブな姿勢を引き続き追うとともに、改めて人々がロック界を憧れ目指す意味を、考えていきたい。
 

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