コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

続「フライ・ライク・アン・イーグル」スティーヴ・ミラー・バンド


~音楽はイマジネーション~
続「フライ・ライク・アン・イーグル」スティーヴ・ミラー・バンド

そういえばミエが持っていた「ミラーマン」のレコードのB面は「ケーキ屋ケンちゃん」だったな。香織は、再び音楽との交霊に戻る前に、そんなことを思い出した。違う番組の主題歌がそれぞれA面とB面に入っているのだが、あれは画期的だ。洋楽のシングルもそうすればいいのに。エアロスミスのB面がアバとか、クイーンのB面がクラッシュとか。

そうだ!ロボトミーズがレコードを出すようになったら、B面は違うバンドってのもいいかもしれない。曲が足りないから?いや、そーじゃなくて、前代未聞のことをやるのがパンクなのだから……はっ、メガネのフォークバンドを入れるってのはどうか?逆にパンクだ、逆に!

しかも、A面の沙織とB面のメガネが戦っている、という内容にすれば、聴いてて迫力があるだろう。音楽バトルだ!ロボトミーズは、もちろんラモーンズ風の曲で、作曲は遠山。作詞は私。沙織がメガネに喧嘩をふっかけるような歌詞にしなくっちゃ……ぷぷぷ、ああ面白くなってきた……だからこうして、あーして……。ぷぷぷ……。ぬははは……。できた!

タイトル「電撃まーくん」
ヘイ!ホー!レッツゴー!
アタシはアンタ きにくわないわ 
これでもくらえ ブリッツクリーグ・まーくん!

わははははは……て、しまった。スティーヴ・ミラーと、全然関係ないことを妄想でプレイしてしまった。香織はいつだって思いついたら即妄想。時々軌道修正しなければ、妄想はどこまでも広がってしまうことを反省した。

すぐに反省し終わった香織は、改めてヘッドホンをかぶり直すと、キュルキュルとカセットテープを戻し、さっきの「ワシノツメ」を聴いた。ああ、ファンタスティック&スペーシー……いきなり違う世界に連れていってくれる……。香織は英語が話せないので、意味が分からないぶん、頭の中に「世界」が広がる。ライターとして、この音楽世界をどう言葉で表現すればよいのだろう?

香織はしばし、自分が一休さんになったイメージで考える。たとえ洋楽が好きでも、日本人の心を忘れはしない。(英語がわからないだけ) ポクポクポクポクポクポク……チーン。

そうだ!歌詞カードや歌詞の翻訳を見ないで、この音楽のイメージで「ポエム」を書けばいいのだ!!!そしてありきたりのレコ評ではなく「西郷かおり子、およびカオリ・ロボトミー」としての方法で音楽を表現すればいいのだ!

「生まれた……」香織はそうつぶやいた。なんだか、香織にとって、妄想や憑依だけではない、やっとリアルな「西郷かおり子」が誕生したような気がした。そしてそれを記念して、「徹子の部屋」にゲスト出演しているところ妄想をした。

「今日のゲストは、憑依タイプを活かした『レコ評ポエム』でおなじみの音楽ライター、西郷かおり子さんで~す」「こんにちは。西郷かおり子で~す」香織はウキウキと、その時徹子さんに紹介されるであろう数々の「レコ評ポエム」制作にとりかかった。記念すべき第一弾は、もちろんこの曲。スティーヴ・ミラー・バンド「ワシノツメ」。

この歌詞に出てくる主人公は、この世の酸いも甘いも知り尽くした、白髪で白髭のおじいさん。つまり仙人だ。一人称は「わし」。

「わしの爪」
つるつるつるつるつるつるつる
わしは爪を切る 切る  急がなくちゃ
わしは爪を切る 切る  忙しいな
慌てながら切った 遠い星
わしの爪 踊る すべるように
天の川に降る粉雪
愛の爪レヴォリューション
不老不死で行こう つるつるつるつる
不老不死で死のう つるつるつるつる・・・

「け・・・傑作じゃ!」香織は思わず自分を褒めた。ふと気づくと、背後にあるアコーディオンカーテンの裏で、何やらガサガサと音がする。振り向くと案の定、さっきとは逆側の隙間(端)から、ミエがじーっとこちらを見ていた。

「あっ、ミエ!また起きてる」「何がケンサクなの?森田?」「ちがう!青春などとうの昔に超越した仙人が書いたポエムじゃ」「えええ?何それ」「仙人は不老不死なので永遠に爪を切るという話じゃ」「爪?」「そうじゃ。爪磨きもしてつるつるじゃ」「う……で、で、でも、夜中に爪を切ったら、オバケが出るんだよ!ママに言ってやる!」ミエはそう怒りながらも、勝手に話を怖くして、また目に涙をためていた。

香織は、自然とホラー仕立てになったこのポエムを利用して、ミエを寝かしつけようとした。「早く寝ないと爪のオバケが出るぞおお~。ふひひひひ…」「で……でないっ!ママに言ってやる!」「わしは……爪を切る、切る、切る……Kill……Kill……キルザキング……」「えーん!」ミエは怖いというより、悔し泣きをしながらアコーディオンカーテンを閉めた。

11

ミエには悪いが、今夜は「レコ評ポエム」を発明した、とても良い日だ。音楽を難しくしてしまうのは、たいがい専門用語やカタカナまじりの小難しい説明のせいであり、時々、そんな立派過ぎる解説を読んだ後で聴いたバンドが「あれっ?」と思うほどショボく感じてしまうことがあるが、この「レコ評ポエム」なら、その音楽を、音楽のまま説明できると思う。

子供を寝かしつける夜話にもなる、という意外な展開も見せたが、こんな発明ができたのも、作詞をするように薦めてくれた遠山のおかげだ。いや、今となっては強制的に私にバンドをやらせた沙織にも感謝だ。と、香織はしみじみと思った。

沙織にまで感謝する懐の大きさが備えられたのは、たとえ「口(くち)」の演奏とはいえ、バンドをやったおかげで、「KAOROCK」とはまた違う方法で、音楽を今まで以上に深く、立体的に感じることができるようになっていたからだ。ロボトミーズがいつかスティーヴ・ミラー・バンドほどの演奏できるようになったら、この「わしの爪」の歌詞で沙織に歌ってもらおう……あ、やっぱしこれは笹井に歌ってもらおう。笹井ならたとえこの曲を知らなくとも、すぐにこのコスミックワールドを表現できるはずだ。

今まで誰にも見せたことのない「KAOROCK」であるが、完成したら、シンコーミュージックに持っていく前に、まずはロボトミーズのメンバー達に見せようかな…と香織は思った。

翌日の日曜、ロボトミーズは玉光堂で集合することになっていた。軽音楽部に入れなかったとしても、このバンドを続けてゆくために、ちょくちょくミーティングをする、という目的をかねて、沙織のお気に入りのパンケーキ屋に行くのである。「パンケーキを食べる会」。

香織は、昨夜の傑作「わしの爪」の本当の歌詞を確かめようと思い、みんなより少し早めに来て、スティーヴ・ミラー・バンドのシングルレコードを探していた。しかしどんなに探しても「わしの爪」が見あたらないので店員さんに尋ねた。すると「ああ、もしかしてコレですか?」と言われて、見た文字は、「フライ ライク アン イーグル」。

えっ!「わし」って「鷲」かよ!しかも爪じゃないし!ガーン!まさかの原題そのままカタカナ方式……!交霊は失敗じゃ~~~!その時、レコードを手にしてハプハプとのけぞっている香織を、棚の向こうからじーっと見ている者がいた……

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