コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「サンシャイン・ラブ」イアン・ミッチェル&ロゼッタストーン


~太陽というチカラ~
「サンシャイン・ラブ」イアン・ミッチェル&ロゼッタストーン

香織はハプハプしながらも、EP「フライ・ライク・アン・イーグル」を買った。すると、あんなふうに自分で見つけたこの音楽を、タイトルを間違えながらも自分で探して、自分の金(おこづかい)で買った、という満足感に、宇宙を羽ばたく、簡単にはつかまらないドでかい「鷲」をこの手でつかまえたようなハイな気分になった。

このレコードが自分のモノになったということは、もう自分の好きなようにしていいのじゃ!真のタイトルが「フライ・ライク・アン・イーグル」ならば、不老不死の仙人が永遠に爪を切りすぎて(深爪)、いつしか指の先から、虹色の鷲ような羽が生えてきて、その羽で宇宙まで飛んでいったのじゃという設定で、もう一度歌詞を書き直すのじゃ~!スティーブ・ミラーにはナイショじゃ(あたりまえ)。

と仙人に憑依しながら考え直したその時、背後にいる誰かの視線を感じてゾッとした。う。この突き刺さる視線は………はっ、仙人か?……いや、まさかっ、ミエ!? 震えながら振り向くと、さらに震えることに、ありえない黄色いレイバン的サングラスをかけた得体の知れないオヤジ子供のような人物が立っていた。

「だ、誰っ?」「この間、会いましたけど」聞いたことのある上から目線および薄暗い声の主は、なんと、あの山崎マーク(私服)であった。ガリ勉風ファッションにサングラス、そして父さんの借りてきたのかよ的オヤジ風茶色い革靴。香織は宇宙まで上がっていたテンションが、その私服の異様さにテンションが下がるというよりむしろ想像を超えたゾーンに突入していった。

未体験!未体験のモノに対する対処法が分からなくなってしまったうえに、この男が発する空気のあまりの薄暗さに、再びハプハプした香織だが、軽音楽部には入部したいと思っていたので、とりあえず挨拶だけはしようと思った。

「こ、こんにちは……」「ここに来いって言われたから来たんだけど」「え?誰に?」驚いた香織の視界に、笹井のサンシャインのような笑顔が輝いた。まぶしい!その光は、山崎マークの薄暗ささえちょっと明るくするほどのパワーを持っていた。キラキラと輝く笹井の背中には、なぜか遠足の時のようなリュックサックが背負われていた。おにぎり持参か?

「あっ、香織!早いね!オレも早起きしたよ!今日ね、まーくんも誘ったよ!パンケーキ好きなんだって!」「アンタが誘ったの?」「うん!みんなで食べたら美味しいしょ!」「そ・・・そうだね、でも」

今日の「パンケーキを食べる会」は、もちろん沙織企画だ。山崎にムカついている沙織はきっと「コイツは呼んでないわよ!せっかくのパンケーキもまずくなるぜ!」と激怒してまた暴れだすだろう。てか香織もコイツのことは、改めて気にくわない。「こんにちは」を言わないので。

しかしだ。ここで山崎に「挨拶は基本だ」などとイチャモンをつけるより、一緒にパンケーキを食べることによって軽音楽部に入部できるかもしれない……という姑息な手段がよぎり、香織はそれを尊重することにした。

「そうだね!みんなで食べたら美味しいね」「美味しいベや!」さらに顔を輝かせ、煌めく笹井。しかしあいかわらずぶっ飛ばしてくれる。「まーくん、もう少しで来ると思うけど……あっ!まーくんだ!」笹井は、さっきから私たちの目の前にいる山崎を指さした。その指からレーザー光線のような光が発射され、山崎を照らした。

「う、まぶしい……」山崎の目が、黄色いサングラスの奥でイラっとしたのが分かった。「え?どうしたの?まーくん大丈夫?」笹井は己が発射した光線に気づかず、心配そうに山崎をユサユサと揺すった。

「やめろ、大丈夫だ。でもまーくんじゃない。マーク」「きゃ~まーくんカッコイイサングラスだね!フィンガー5に影響されたの?」「ちがう。ガロにだもともと」「え?玉元?」

山崎は笹井の、あらゆる意味のまぶしさに耐えられなくなったのか、黙って体を帰る方向に向けようとした。

「あっ!いや、ちょっと待って!ええと、そうだ。ぶ……部長はパンケーキ何味が好きなんですか?チョコバナナですか?はちみつシナモンですか?」香織は、山崎が怒ってとっとと帰らないように、さりげなくこの男が好物だというパンケーキの話題を出した。しかもあえて「部長」と呼びながら、タメなのに敬語で。

部長敬語効果があったのか、山崎はちょっとだけ振り向いて言った。「ポテトサラダ」「えっ?ポテトサラダですか?パンケーキの?」「ええええ?まーくん、ポテトサラダなんてあるの?すっげ~~~」笹井がピカピカに輝きながら必要以上に驚愕している。

「待ちな!」「あっ、沙織」なぜか沙織がテレビドラマの主役のようなタイミングで登場した。「待ちな」という台詞が、これまでの会話と微妙にかみ合っていないくせに、もの凄く気合の入ったパンクファッションで、ガーゼシャツの腕を組みながら中学生にしては高いヒール(5cmくらい)で堂々と歩いてくる。しかもパンクを強調するためであろうガムをクチャクチャと噛んでいる。

「わああ、沙織!今日は一段とカッコイイね~!サインしてください」笹井が煌めきながら、あろうことか色紙とマジックインキを、ゴソゴソと自分のリュックから出していた。アンタ……そのためにリュックを背負って……?

香織は想像した。可愛そうな笹井。こんな太陽のような明るさで山崎までも照らす笹井なのに、沙織はきっと「サインなんかしねーよボケ!」と色紙をズタズタに引き裂くか、色紙の角で笹井の頭をボコボコに殴るか、もしくはマジックインキで笹井の顔に「KILL」と書くかするに決まっている……。ハラハラ&ちょっと同情していたら「オッケー」と言う沙織の満足げな声が聞こえてきて「SAOLI LOBOTOMY×××」と書いていたのが見えたので、その光景にちょっと引いた。笹井の瞳が燃えている。傍観するしかない香織。そして中途半端に振り向いたまま薄暗い山崎。

「みんな早いね~」なんともナイスなタイミングで遠山が現れた。笹井は特種として置いとくとしても、何か自分の個性や溺愛するものを誇示せずにはいられないファッションの山崎や沙織の様子を見た後で見た遠山は、いたって普通の中学生らしいファッションで、とてもオシャレに見えた。

訴えるものは常にアピールするより胸に秘めていたほうがセクシーさとしてかもし出されるのじゃ。香織は「KAOROCK」の「AORコーナー」で学んだことを思い出して納得した。

「これでみんな揃ったね!わははは」笹井は、何でそこまで楽しいのか知らんが嬉しそうに爆笑した。陽射し。そう、それはまさに陽射しであった。その時、その陽射しに照らされたかのように、店内にイアン・ミッチェル&ロゼッタストーンの「サンシャイン・ラブ」が流れ出した。

香織はベイ・シティーローラーズの頃からイアン派だったので(沙織はレスリー派)突然嬉しくなり、笹井の如く舞い上がった。

12

「わはー!ロゼッタストーンだ!わははははは」
「え?ロゼット洗顔パスタ?洗顔クリームのこと?わはははは」
その瞬間、笹井以外の全員が笹井に釘付けになった。

「笹井、おまえやっぱ凄いわ。クリームだよ原曲」遠山が感心しながらそう言うと、笹井は何を褒められているのか分からないくせに照れた。沙織でさえ、ちょっと笹井を認めかかったかのように頷いた。

しかし、せっかくいいムードでみんなで頷いていたのに、山崎が話し出した途端、ムードはあっという間に薄暗くなった。「こういう軽いチャラチャラした音楽はくだらないね。クリームへの冒涜だよ。このSunshine of your loveは」山崎の薄暗さは、憎しみにも似た闇を感じさせ、しかもわざと原題を超英語発音で言った。

「わああ。まーくん英語の発音いいんだね!外人みたい」その言葉にピクっとしたのか、さっきまでちゃんと頷いていた沙織の頭が、がぜん頷きのスピードを上げた。ブンブンブン!速い!完全にヘッド・バンギングになってきた!

きっと沙織は、前にみんなに「英語の発音が悪い」と言われたことを思い出して激怒しているのだ!その怒りが、完全に山崎に向けられている(八つ当たり)。

「ちょっと!このクソ山崎!」沙織はブンブンブンブン!と高速ヘッドバンギングをしながら、山崎に近づいていった。いくらなんでもビビる(腑に落ちない)かと思った山崎は、かなりの負けず嫌いらしく、サングラスごと沙織を睨みつけている。ビビッてないのは凄いが、ビビッたほうが可愛げがあるのに。

沙織は髪を振り乱しながら、山崎の胸ぐらを、わしっ!(鷲)と掴んだ。「テメエなんかより、アタシのほうが強いってことを証明してやる~~~~!」店中に鳴り響く「サンシャイン・ラブ」のギターフレーズ(軽め)に乗って、沙織が猛烈にシャウトした。

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