連載

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ユニコーン『ゅ 13-14』
TEXT:鈴木亮介

~貪欲さと、”終幕”の一端を感じさせる1枚~
 
「すばやくなりたい すばやくなりたい すばやくなくなりたくはない」
 
歳を取ると色んな感覚が鈍ってくる。「思うように手足が動かない」とか「忘れっぽくなる」とか「食べてないのにすぐ太る」とか「あちこちに体をぶつける」とか「目が霞む」とか。2015年5月に奥田民生の50歳を記念して広島・広島文化学園HBGホールで行われた『ユニコーン 奥田民生50祭“もみじまんごじゅう”』ではグッズに老眼鏡が販売され話題となった。ただの冗談でしょ、と受け流されずに賛否含め結構な話題になったのは、”老い”がユニコーンにとって、またファンにとって避けて通れぬ重大なテーマになったから、ということに他ならない。
 
「すばやくなくなりたくはない」…どっちかというとこれが本音だろう。再び若い状態に戻りたいというよりは、劣化した状態にはなりたくない。そんな「避けられない老いに対しての、半分は諦念、半分は抵抗」を示す40~50代に向けて、ユニコーンは一定の共感を示しつつも、その思考停止とも言うべきネガティブをいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。
 
「すばやくなりたい」と言いながら本当に素早く華麗にギターをドラムをベースを弾いて見せ、サビでは血管浮き出る様子が目に浮かぶような全力の5人ユニゾン、そのくせ肝心なところでドチャーッ!と不協和音(聴いているうちにこれもだんだん”不協”でなく感じてくるから不思議だ)をぶっ放ち、「ま、焦らず気楽にやろうぜ」と笑いかける。そんな感じだ。
 
まぁそもそも言葉なんて意味がないのかもしれないね。ここには敢えて書かないが、本作を手に取った際はぜひ、8曲目「TEPPAN KING」の歌詞をご覧になってほしい。言葉の持つ不確実さと、それで以て契って心を留めようとすることの無意味さ。「すばやくなりたい」なんて歌いながらちっとも素早くなりたいと思ってないじゃないか?本音はどうなんだ? なんてSNSの裏アカウントを検索したりLINEをこっそりのぞき見したり…したところで、虚しい。”意味”なんて所詮、受け取る側が勝手に解釈して後付けするのだから。
 
それにしてもユニコーンは貪欲だ。発売のタイミングがリオ五輪開催中だから?なんて極めて安易な理由で選ばれたのではないかと思わせるほど彼らに縁もゆかりもないサンバがふんだんに取り入れられたり、4曲目「僕等の旅路」では手島いさむが作詞・作曲を手がけた曲でありながら、ゴリゴリのギターよりも川西幸一の爽快な歌声とABEDONの流麗な鍵盤を前面に出していたり、これでもかと実験的な楽曲が今作にも盛り込まれている。全員50歳を超えたオサーンたち、これでもかというほどに、貪欲だ。
 
往年のカントリーロックの名盤を思わせる7曲目「マッシュルームキッシュ」などに垣間見える”温故知新”、そして既視感ならぬ”既聴感”が織り交ぜられた楽曲も。9曲目「マイホーム」はシンプルでストレートなロックナンバーだが、アコギ1本に奥田民生の熱を帯びた歌声が乗る珠玉曲「家」(1991年発売『ヒゲとボイン』収録)の続編であることは間違いない。さらにはEBI作詞・作曲の5曲目「道」の終盤には、彼の代表曲の一つ「フーガ」を思わせる鐘の音が盛り込まれている。
 
そんな中で気になったのは、8曲目「TEPPAN KING」の冒頭、テープを巻き戻す音から曲が始まった。クレジットを見てやはり納得、ABEDON監督からのメッセージだ。「時は巻き戻せない 巻き戻せたつもりでも、テープは劣化し、いずれ再生できなくなる」…なんだかそんな気持ちになって、ギュッと胸が締め付けられた。なんだろう、終わりが近づいているのだろうか。
 
2015年7月、川西幸一が脳梗塞の一種であるラクナ梗塞と診断され、3カ月近い休養を余儀なくされた。見事完全復活を遂げほっと胸をなでおろしたが、同時に「あぁそうか、不滅の勤労戦士ユニコーンも、その活動にいつか幕を下ろす時が来るのかもしれないな」という思いがよぎった、という人も少なくないだろう。
 
本作と正対し、きっちり10曲まで聴いた人たちのために…11曲目「エコー」からの3曲は、涙腺崩壊必至の名曲揃いだ。「針を振らす 声を上げる かき消されないよう」…シリアスに、琴線を揺らす12曲目「第三京浜」。そして13曲目「風と太陽」はユニコーン史上最高にポップで晴れ晴れしている。どちらもABEDON作詞・作曲で、「第三京浜」はABEDON、「風と太陽」は奥田民生がメインボーカルをとる。この幸せに満ちあふれる感じはまるで映画のエンディング。いっぱい笑ったね、楽しかったね、さぁ、もう終点だよ。…勝手にそんなセリフが脳内をよぎり、それはそれは美しいコーラスとチューブラーベルのサウンドに刺激され、自然と涙があふれ出した。人の命はいつ終わりが来てもおかしくない。だからこそ今この瞬間を全力で愛したい。ユニコーンの音楽はいついかなるときも僕らの町にあって、すばらしい日々をもたらしてくれる。
 
なーんて、真面目に考えすぎちゃだめだぜ!「風と太陽」のアウトロが消音して、約10秒の沈黙…ボーナストラック的に14曲目「フラットでいたい」が流れ始めた。クレジットを見なくても一瞬で川西幸一作だと分かる。脳梗塞から完全復帰し、3年後には還暦を迎える”西川くん”がこれだけチャラいボーイなんだから、大丈夫だ。ユニコーンはまだまだ続く。
 

 


uc_cover_t◆リリース情報
ニューアルバム『ゅ 13-14』
・2016年08月10日(水)発売
完全生産限定豪華BOX(CD+DVD+2LP+カセットテープ+おまけ)
KSCL 2750-5 ¥15,700+税
初回生産限定盤(CD+DVD)
KSCL 2756-7 ¥3,600+税
通常盤(CD)
KSCL 2758 ¥3,000+税
完全生産限定盤(2LP)
KSJL 6183-4 ¥4,500+税
完全生産限定盤 (カセットテープ)
KSTL 1 ¥3,600+税

<CD / 2LP / カセットテープ 収録曲>
M01. すばやくなりたい
M02. オーレオーレパラダイス
uc_cover_sM03. サンバ de トゥナイト
M04. 僕等の旅路
M05. 道
M06. ハイになってハイハイ
M07. マッシュルームキッシュ
M08. TEPPAN KING
M09. マイホーム
M10. CRY
M11. エコー
M12. 第三京浜
M13. 風と太陽
M14. フラットでいたい

<DVD 収録内容>
DVD: MOVIE31 「ゅ13-14」レコーディングドキュメント
<5000セット限定!完全生産限定豪華BOXの「おまけ」内容>
ユニコーン「ゅ 13-14」オリジナルトートバック & 聴く前にかく耳かき

Uc_cover_Cassete◆ライブ情報
ユニコーンツアー2016「第三パラダイス」
・2016年09月03日(土)【東 京】府中の森芸術劇場 どりーむホール
・2016年09月07日(水)【千 葉】市川市文化会館 大ホール
・2016年09月09日(金)【石 川】本多の森ホール
・2016年09月11日(日)【新 潟】新潟テルサ
・2016年09月16日(金)【埼 玉】大宮ソニックシティ 大ホール
・2016年09月18日(日)【宮 城】仙台サンプラザホール
・2016年09月19日(祝)【宮 城】仙台サンプラザホール
・2016年09月22日(祝)【山 形】南陽市文化会館 大ホール
・2016年09月24日(土)【秋 田】秋田県民会館
・2016年10月01日(土)【愛 知】名古屋国際会議場センチュリーホール
・2016年10月02日(日)【愛 知】名古屋国際会議場センチュリーホール
・2016年10月07日(金)【北海道】帯広市民文化ホール 大ホール
・2016年10月09日(日)【北海道】札幌ニトリ文化ホール
・2016年10月10日(祝)【北海道】札幌ニトリ文化ホール
・2016年10月14日(金)【兵 庫】神戸国際会館 こくさいホール
・2016年10月15日(土)【兵 庫】神戸国際会館 こくさいホール
・2016年10月17日(月)【京 都】ロームシアター京都
・2016年10月22日(土)【東 京】オリンパスホール八王子
・2016年10月23日(日)【東 京】オリンパスホール八王子
・2016年10月29日(土)【神奈川】パシフィコ横浜 国立大ホール
・2016年10月30日(日)【神奈川】パシフィコ横浜 国立大ホール
・2016年11月05日(土)【福 岡】福岡サンパレス
・2016年11月06日(日)【福 岡】福岡サンパレス
・2016年11月12日(土)【大 阪】オリックス劇場
・2016年11月13日(日)【大 阪】オリックス劇場
・2016年11月19日(土)【広 島】広島文化学園HBGホール
・2016年11月20日(日)【広 島】広島文化学園HBGホール
・2016年11月23日(祝)【東 京】中野サンプラザホール
・2016年11月24日(木)【東 京】中野サンプラザホール

 

◆ユニコーン オフィシャルサイト
http://www.unicorn.jp/
◆『ゅ 13-14』特設サイト
http://www.unicorn.jp/special/yuno13-14/


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