久々に奥田民生が帰ってきた。そう胸をなでおろしたファンも多かったのではないか。2012年1月11日リリースの「拳を天につき上げろ」以来1年8ヶ月ぶりのニューシングル「風は西から」が9月11日に発売される。そしてこのシングル、どうやら「原点回帰」というメッセージが込められているようだ。
 
「久々に」と感じるのは、約2年ぶりのリリースということ以上に、コンスタントなソロ名義での活動自体が久しくなかったためであろう。最後に奥田民生名義でのオリジナルアルバムがリリースされたのは3年以上前、2010年8月4日リリースの『OTRL』にまでさかのぼる。この間、もちろんユニコーンや地球三兄弟での精力的な活動や、THE SOLAR BUDOKAN、ジョンレノン・スーパーライブなど数々のイベント出演はあったが、「奥田民生」としての新たな活動を渇望していたファンは、決して筆者だけではないだろう。
 
さてこの新譜「風は西から」、冒頭シンプルなギターフレーズとともにそっと歌い出すのだが、決して楽曲自体の奇抜さはなく、むしろ既視感ならぬ”既聴感”を覚える。ただそれは決してネガティブな意味ではなく、「あぁ、これが俺たちの好きな奥田民生だよね」という安心感、そして「原点回帰」を感じる期待感へとつながる。
 
ここ最近の奥田民生ソロ名義の活動は、一人で弾いて録って作る過程を全て見せるという前代未聞のレコーディングライヴツアー「奥田民生ひとりカンタビレ」（2010年3月～）や、故郷広島の世界遺産での弾き語りライブ「ひとり股旅スペシャル＠厳島神社」敢行（2011年10月）など、実験的な試みや様々なアーティストとのコラボレーションに主眼が置かれていたのかなという印象、オリジナル曲を引っ提げての直球ストレートなライブはユニコーンの方で…と棲み分けされていたような印象さえ感じていた。だからこそ「原点回帰」を望む声は大きいだろう。「民生、待ってたぞ！」生意気を承知で、十五年来のファンとしてはそんなつぶやきをせずにはいられない。
 
とは言え改めてこのシングルを堪能すると、奥田民生の中では一貫したテーマがあり、その現時点での集大成としての1枚と言えるのではないか、という重みも感じる。機材・レコーディングへのこだわりと、故郷を背負う覚悟。「風は西から」の「西」とは自身の出身地・広島を差すに違いない。広島発・日本を代表する自動車メーカー「マツダ」の企業CMソングとして書き下ろされたこの楽曲。歌詞の結びも「きっといいぜ」「いこうぜ」「心はいま赤いぜ」と、民生節を象徴する「ぜ」が連呼される。
 
ボーカルやギターはもちろんのこと、ドラム、ベース、パーカッションまで全ての楽器を奥田民生が一人で演奏し、レコーディングした今作。このシングルCDを「集大成の1枚」と表現するのは、決して大げさなことではない。楽曲自体がもちろんその表れであるが、併せて注目したいのが特典だ。完全生産限定盤にはCDの他もう1枚CD-Rが付属されており、なんとその中身は「風は西から」のマルチトラックデータが収録されているのだ。一つ一つの楽器トラック、ヴォーカルトラックをMIX前のマルチトラックデータとして収録しているので、リスナーはもちろんのことバンドマンは各楽器の音色の研究をしコピー練習に活かしたり、エンジニア志望者などはミックス用の素材としても楽しめるものになっている。
 
さらに特典DVDには「風は西から」のMusic Clipに加え、楽曲が出来上がっていくまでのレコーディングドキュメント映像を収録。機材を解説した奥田民生の直筆コメント付きブックレットもあり、「風は西から」がどのようにレコーディングされているのか、機材やレコーディング方法などが一目瞭然だ。もちろん過程だけでなく完成品、ボーカルの入っていないインスト音源もCDのトラック2に収録されているので、それぞれの楽器の音を知った上でそれらが全て合わさった時にどのような音楽を生むのか、より深く理解できる。演奏面、機材面、アレンジ面などテクニカルな部分での興味も喚起する、奥田民生だからこそできる画期的なシングルだ。
 
もちろんそうした面だけにとどまらず、純粋にリスナーとして堪能する目線でも、楽しみは尽きない。「風は西から」の1曲に加えて、今年6月に恵比寿リキッドルームで開催されたサッポロ生ビール黒ラベル「大人エレベーターの会」での斉藤和義とのセッションを2曲収録している。短い曲ながらソニー損保のCMソングなどとしても依然人気を誇る「And I Love Car」と、斉藤和義の代表作の一つ、「歌うたいのバラッド」。どちらも円熟したボーカリスト・奥田民生としての魅力満載だ。
 
9月11日リリースの「風は西から」、そのタイトルは厳島神社のように、或いはマツダのように、（そして、カープのように？）故郷・広島代表として第一線を走らんとする覚悟の現れだ。馴染みのMTR＆Y（イニシャル順に湊雅史、奥田民生、小原礼、斎藤有太）で全国を巡る「奥田民生 2013ツアー“SPICE BOYS”」も10月14日（月祝）＠東京・新木場STUDIO COASTを皮切りにスタートする。願わくは、ツアー中にさらなる新譜のリリース発表があるだろうか…期待したい。
 

◆リリース情報
「風は西から」　2013年9月11日発売
【通常盤】 KSCL-2299 \1,223 (tax in)
M01. 風は西から
M02. And I Love Car (Live) 奥田民生 × 斉藤和義
M03. 歌うたいのバラッド (Live) 奥田民生 × 斉藤和義
M04. 風は西から (Instrumental)

【完全生産限定盤】　(CD+CD-ROM+DVD)KSCL-2296～2298 \2,800(tax in)
DISC1：CD
M01. 風は西から
M02. And I Love Car (Live) 奥田民生 × 斉藤和義
M03. 歌うたいのバラッド (Live) 奥田民生 × 斉藤和義
M04. 風は西から (Instrumental)

DISC2：CD-ROM
「風は西から」マルチトラックデータ
Drums Track
Bass Track
Guitars Track
Tambourine Track
Maracas Track
Vocals Track

DISC3：DVD
「風は西から」Music Clip
「風は西から」レコーディングドキュメント

■「風は西から」特設ページ
http://okudatamio.jp/special/kaze/
 
■奥田民生 2013ツアー“SPICE BOYS”
・2013年10月14日(月・祝)　東京・新木場STUDIO COAST　OPEN 17:00 / START 18:00
・2013年10月18日(金)埼玉・三郷市文化会館 大ホール　OPEN 18:00 / START 18:30
・2013年10月23日(水)三重・尾鷲市民文化会館　OPEN 18:30 / START 19:00
・2013年10月24日(木)愛知・日本特殊陶業市民会館(旧 名古屋市民会館)　OPEN 18:30 / START 19:00
・2013年10月26日(土)宮城・東京エレクトロンホール宮城(旧 宮城県民会館)　OPEN 17:30 / START 18:00
・2013年10月28日(月)神奈川・神奈川県民ホール 大ホール　OPEN 18:00 / START 18:30
・2013年10月29日(火)神奈川・神奈川県民ホール 大ホール　OPEN 18:00 / START 18:30
・2013年11月1日(金)新潟・新潟県民会館　OPEN 18:30 / START 19:00
・2013年11月5日(火)東京・府中の森芸術劇場(どりーむほーる)　OPEN 18:00 / START 18:30
・2013年11月7日(木)大阪・大阪オリックス劇場(旧 大阪厚生年金会館)　OPEN 18:30 / START 19:00
・2013年11月8日(金)大阪・大阪オリックス劇場(旧 大阪厚生年金会館)　OPEN 18:30 / START 19:00
・2013年11月10日(日)広島・広島文化学園HBGホール(旧 広島厚生年金会館)　OPEN 17:00 / START 17:30
・2013年11月19日(火)北海道・札幌市民ホール　OPEN 18:15 / START 19:00
・2013年11月23日(土・祝)福岡・福岡サンパレス　OPEN 17:30 / START 18:00
・2013年11月27日(水)東京・中野サンプラザホール　OPEN 18:00 / START 18:30
・2013年11月28日(木)東京・中野サンプラザホール　OPEN 18:00 / START 18:30

◎チケット料金：全席指定 ￥6,300(税込)

◆奥田民生　オフィシャルサイト
http://www.okudatamio.jp/