演奏

TEXT:児玉圭一 PHOTO:遠藤真樹

Photo日曜日の夕暮れ時、あふれ返る人波を潜りながら吉祥寺サンロード商店街を抜けて「ROCK JOINT GB」に辿り着くと、店の前には既に数多くの開場を待つ人々が集まっている。黒いTシャツの着用率が高い彼らの放つテンションと期待感が醸し出す雰囲気は、平和でのどかな繁華街の雰囲気からは明らかに遊離している。
 
それもそのはず、彼らのお目当ては1970年代初頭から現在に至るまでカウンターカルチャーの象徴であり続けている頭脳警察と、1980年に衝撃的なデビューを果たしたTHE STALINを皮切りに様々な音楽的メタモルフォーゼを繰り返して日本のロックシーンに衝撃を与え続けている遠藤ミチロウが率いるアンプラグド・パンクバンドM.J.Qの共演ライヴなのだから。熱狂の夜への期待感と緊張感。そして開場とともに「ROCK JOINT GB」はフルハウス状態。オーディエンスが発するテンションの高まりは開演時間が近づくにつれて高まっていく。

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午後7時、オープニング・アクトのカリフ――平内正人(Vocal & Guitar)、幸田拓也(Drums)、アオキサトシ(Guitar)、えんどう光豆(Bass)――がステージに登場。程なく唸りをあげるツインギターが今夜の幕を切って落とす。しなやかさとスリルに満ちた彼等のサウンドは数多くのライヴを重ねてきたがゆえの安定感があり、極めて硬質でメロディアスな演奏に乗って歌われる文学的な歌詞がとても印象的だ。今夜のメインアクト頭脳警察M.J.Qに真摯なオマージュを捧げたカリフのライヴは鮮烈なグルーヴの熱を放ちながら終了。
 
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◆カリフ 公式ホームページ
http://www.calif-web.com/
◆インフォメーション
・2013年7月11日(木)【下北沢】SHELTER
・2013年7月24日(水)【代々木】Zher The Zoo

しばしの幕間が明け、THE DOORSの「THE END」がM.J.Qの登場を告げる。巻き起こる拍手と歓声。「これで終わりだ、美しき友よ…」終末を歌う叙事詩とともにステージに現れる山本久土(Guitar)、クハラカズユキ(Drums)、遠藤ミチロウ(Vocal & Guitar)。そしてクハラカズユキの強烈なドラムの一撃からライヴはスタート。1曲目は「虫」。激しく掻き鳴らされる2台のアコギ、躍動感に満ちたドラムの波動、そして遠藤ミチロウの圧倒的なシャウトは身震いするほどのすごみにあふれている。
 
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「日曜日の吉祥寺は最低だ!」という遠藤ミチロウの叫びを合図に始まったのは、山本久土の幻惑的なギターリフが耳を引く「自滅」。ジワジワと演奏の推進力を上げていくM.J.Qが放つ壮麗な音の嵐が容赦なく吹き荒れる。もう全てはM.J.Qのなすがまま。あとは彼らが向かう闇の奥に続くトリップに巻き込まれるしか術はない。
 
続いては「オレの言葉はただのSEX」というフレーズが鮮烈な印象を残す現代の黙示録「オデッセイ・2013・SEX」。遠藤ミチロウは福島弁による赤裸々なアジテーションで観客の熱狂を煽りまくる。そしてアシッドフォーク的なメロディの「溺愛」では、「死んだものほど愛してやるさ」とニヒリスティックな愛が狂おしく歌われる。深いエコーに包まれた遠藤ミチロウの声が底なしに深い喪失感の中へ潜っていく様を目撃しながら、僕は魂の極北を目指し続けていた60年代のアンダーグラウンド・ヒーロー達、The Velvet UndergroundSyd BarrettJACKS早川義夫の存在を教えてくれたのはこの人だったことを思い出していた。
 
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ライヴ中盤、「猟奇ハンター」、「負け犬」と疾走感みなぎるパンクナンバーが続けざまにプレイされた後、感極まった山本久土が「俺、高校生の時、スターリンの『トラッシュ』と『頭脳警察セカンド』の歌詞コピーとTHE DAMENDSEX PISTOLSの写真を挟んだ下敷きを薄いカバンに入れて学校へ行ったり行かなかったりしてました」と観客へ告白。「青春の思い出だね」と微笑む遠藤ミチロウ。「そんなこいつも来年50歳です…みんなクソジジイだよ、本当にもう(笑)」。三つ子の魂百まで…彼らの闘いは終わることはない…そして再び深い情念の嵐が渦巻く「Shalala」~「午前0時」が始まる。この2曲でのクハラカズユキの破壊的なドラミングはまさに圧巻。
 
狂熱のライヴは終盤へ入り、聴く者の心を掻き乱す「音泉FUCK」へ突入。音の大波に呑みこまれた並み居るオーディエンスは恍惚とした表情を浮かべて身体を揺らし続けている。そして曲はそのままラストナンバー「先天性労働者」へ突入。破裂する水晶玉のように美しい音の粒を撒き散らす山本久土のギターカッティングに乗って「これまでの社会の歴史は全て階級闘争の敗北の歴史である」と断じる遠藤ミチロウ。しかし彼はこの長い闘いが終わることがないということを知っている。そして曲がふいに終わった瞬間、場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
 
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鳴り止まぬアンコールの歓声に応えた遠藤ミチロウは頭上に掲げたメガフォンのサイレンを鳴らして「ワルシャワの幻想」をスタートさせ、禍々しいサイレン音に呼応した山本久土は「暴れちゃうよ、この野郎!」と叫び、激しいアクションをキメながらギターを殴るように弾きまくる。曲のスピードを支配するペースメーカー、クハラカズユキはクライマックスに向かってヘヴィな揺さぶりを仕掛けて遠藤ミチロウの絶唱を煽る。圧倒的な熱量を誇る音の壁の雪崩打ち。そして凶暴なフィードバックノイズの残響と共にM.J.Qの壮絶なライヴは終演の時を迎えた。
 

◆セットリスト
M01. 虫
M02. 自滅
M03. オデッセイ・2013・SEX
M04. 溺愛
M05. 猟奇ハンター
M06. 負け犬
M07. Shalala
M08. 午前0時
M09. 音泉FUCK
M10. 先天性労働者
-encore-
E01. ワルシャワの幻想
 
◆遠藤ミチロウ 公式ホームページ
http://www.apia-net.com/michiro/
◆山本久土 公式ホームページ
http://www.hisatoyamamoto.com/
◆クハラカズユキ 公式ブログ
http://kazuyukikuhara.blog103.fc2.com/
◆インフォメーション
・2013年08月03日(土)【新宿】レッドクロス
・2013年08月30日(金)【 柏 】Thumb Up
 
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午後9時過ぎ、荘厳なSEが場内に鳴り響き、頭脳警察がステージにその姿を現す。今夜のラインナップはPANTA(Vocal & Guitar)、石塚俊明(Drums & Percussion)、菊池琢己(Guitar)のレギュラーメンバーに加えて京都出身のブルース・ロックバンド騒音寺の楽器隊である、タム(Guitar)、こーへー(Bass)、素之助(Drums)が参加するという特別編成。
 
菊池琢己が奏でる鐘の音のようなギター・イントロが「戦慄のプレリュード」の始まりを告げ、遂にライヴがスタート。のっけから奔流のように押し寄せる音の波に乗って「マグマを怒らせ、ドグマをばらまけ」と地獄の番犬のように吠えるPANTA。「頭脳警察!今日は騒音寺が入っての騒音警察!実は今夜が初ステージになります!」
 
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曲は続いて不穏な音色のベースラインが闘争への士気を煽る「銃をとれ!」へ。呪術的な揺さぶりを仕掛ける石塚俊明のコンガが鳴り響き、この世にはびこるおためごかしを断罪するPANTAの決意が歌われると、鉄壁のバンドサウンドが歯止めが効かないほどにうねり出す。
 
革命の時を求めるPANTAの熱い叫びに菊池琢己がスリリングなギターブレイクで応える「嵐が待っている」の後は、不滅のリフが大音量で押し寄せる「ふざけんじゃねえよ」へ突入。息をもつかせぬ躍動感を見せつけるバンドのグルーヴの熱は続いての「RED」へも引き継がれ、場内には「レヴォリューション」の叫びがこだまする。
 
続いてはイラク戦時下の語られざる鮮烈なドキュメント「七月のムスターファ」。16歳のイラク軍兵士の壮絶な戦死を悼むPANTAが歌う壮大なレクイエムはそのまま軽快に撥ねるシャッフルビートが印象的な「アラブ・レッド」へつながっていく。
 
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ライヴ中盤のMCタイムでPANTA頭脳警察のニューアルバムのレコーディングが終了したことをオーディエンスに告げる。「ニューアルバムは寺山修司さん没後30周年ということで寺山修司に特化しています…新曲もあります…『戦争を知らない子供達』とか、とても頭脳警察には似合わない曲も歌っています。そして有名な『あしたのジョー』…頭脳警察が歌ったラジオ版の主題歌も入っています。発売は、発売禁止にならなければ…あの頃の時代背景があっての歌詞だということを理解していただいて、発売禁止にならなければ12月の寺山さんの生誕祭りに向けて発売されます」
 
遂にライヴは怒涛の終盤戦へ突入。疾走するロックンロール「俺たちに明日はない」が熱く燃え上がった後、ラストナンバー、歌い出す前に「頭脳警察としてオリコン・シングルチャートを狙った曲でした」とPANTAが紹介した「時代はサーカスの象にのって」が始まる。これはPANTAが敬愛する詩人、劇作家である寺山修司の言葉を集めてPANTAが作曲した1990年の頭脳警察再始動のきっかけとなった曲。そんな記念すべき壮大なバラードを彩るたおやかなグルーヴの高まりとともに、ライヴ本編は終了。そしてすぐにアンコールを求める歓声と手拍子が開場を埋め尽くしていく。
 

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盛大なアンコールの叫びに応えて再び姿を現した頭脳警察。マイクに向き直ったPANTAは傍らにいる相棒石塚俊明を感慨深げに見つめて「やっぱり君が居ないとダメだよ…」と笑いかける。再び巻き起こる盛大な拍手。「17歳の時から一緒だからさ、嫌んなっちゃうよ。誕生日も3日違いだし…遠藤ミチロウも虎年で同い年…だからトラ・トラ・トラなんだよな(笑)」
 
そしてPANTAがギターに腕を振り下ろし、アンコール1曲目、1990年リリースの復活作『頭脳警察7』から「6000光年の誘惑」がスタート。スタッカートの効いた石塚俊明のパーカッションはやはり頭脳警察の屋台骨であり、絶対に不可欠な存在だ。
 
アンコール2曲目でPANTAがステージに呼び込んだのは、騒音寺のヴォーカリスト、なべ!ギラギラとしたロックスター然とした雰囲気を漂わせながら登場したなべは「みんな頭脳警察好きかよ?ここにいる中で俺が一番頭脳警察を好きなんだよ!みんなこの曲を歌えるよな?」と観客を煽りながら「悪たれ小僧」を紹介し、バンドは一斉に偉大なるロックンロール・オリジネーター、今は亡きBo Diddleyが発明した革命的なジャングルビートを刻み出す。
 
一本のマイクを囲んで楽しげに歌うPANTAなべ。場内はたちまち祝祭の雰囲気に包まれていき、ラストナンバー、極上のロックンロール「コミック雑誌なんかいらない」がオーディエンスに向かって放たれる。ブレイクで展開された楽器隊のインタープレイが鳥肌もののカッコ良さを見せつける。そして永遠の反逆児・頭脳警察のライヴは鳴り止まぬ歓声の中、華々しく終了。
 

◆セットリスト
M01. 戦慄のプレリュード
M02. 銃を取れ!
M03. 嵐が待っている
M04. ふざけるんじゃねえよ
M05. RED
M06. 七月のムスターファ
M07. アラブ・レッド
M08. 俺たちに明日はない
M09. 時代はサーカスの象にのって
-encore-
E01. 6000光年の誘惑
E02. 悪たれ小僧
E03. コミック雑誌なんかいらない
 
◆頭脳警察 公式ホームページ
http://brain-police.net/
◆菊池琢己 公式Twitterアカウント
https://twitter.com/tac88tac88
◆騒音寺 公式ホームページ
http://www.so-on-g.com/
◆インフォメーション
「朝日のあたる村音楽祭2013」
・2013年07月13日(土)、14日(日)
【長野】あさひプライムスキー場特設ステージ
 
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頭脳警察遠藤ミチロウ。共に気が遠くなるような長いキャリアを持つ彼らが今まで生き延びて来た秘訣は何なのだろう?…それは彼らが継続と進化を繰り返してきたからではないだろうか?アジテーターであると同時にミュージシャンとして、常に冒険と挑戦を自らに課して、決まりきった型を壊し続けること。本当に夢を追っている者は、何を手に入れたいのかをはっきりと分かっていて、そう簡単にあきらめたりはしないのだ。とにかく自分のやっていることを信じて続けていくしかない。今夜のライヴで頭脳警察M.J.Qはそんな大切なメッセージを僕らに身を持って提示してくれた。継続と進化。それが今、必要だ。
 

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