演奏

 どうせウソだと わかっているさ

TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

2010年8月15日、うだるような暑さの中、渋谷O-WESTへ。終戦記念日の今夜は、遠藤ミチロウが主催するイベント『どうせウソだと わかっているさ!』のVol.7。まず出演者がすごい。若手の人気バンド黒猫チェルシーと、遠藤ミチロウNOTALIN’S。そして戸川純頭脳警察。こんな組み合わせはヨソでは観れない。まさに遠藤ミチロウ主催イベントの醍醐味。特に戸川純は、もう20年以上ステージを観ていない。盆休みということもあり、いつもと少し違う渋谷の雑踏を抜けO-WESTへ。

到着すると、まだ開場前にもかかわらず、多くのファンが外に待機している。今夜のオーディエンスの熱気には期待ができそうだ。イベントのサブタイトルは、『~トラ男3人 不惑の60路を往く~』となっていることもあり、集まっている年齢層は少し高めだろうか。戦争の名残があるの中で育った“昭和中期”の層が多い。私もここの層に属している。介護保険を払っている世代が、こうしてライヴに足を運ぶということは、本当にうれしく思う。これから本格的な高齢化が始まる社会の中で、ロックな生き方を考える本誌BEEASTとしては、『どうせウソだと わかっているさ!』のイベントに、何かヒントをもらえたらと思う。

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1バンド目は黒猫チェルシー。メンバーは、渡辺大知(Vocal)・澤竜次(Guitar)・宮田岳(Bass)・岡本啓佑(Drums)。シンプルでタイトなロックを、若者らしくストレートにぶつけてくる。90年と91年生まれのメンバーは、自分の親(もしくは親以上)のオーディエンスに何を思ったのだろうか。彼らが奏でる音は、真っ直ぐな形のまま、私の体に入ってくる。世代を超えた文化交流の意味は、生に体験することが一つの答えだと感じる。若いバンドだからといって、すべてが新しいテイストとは限らない。黒猫チェルシーは、ギミックの無い楽曲と音作りがされてるので、若者だけでなく多くのロックファンにアピールできる。渡辺大知は、昨年『色即ぜねれいしょん』の映画で主役も演じている。今後の活動が気になるバンドだ。

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黒猫チェルシー 公式サイト


http://www.kuronekochelsea.jp/

◆セットリスト

M01. たんぽぽ
M02. 正義感ある殺しは許される
M03. 黒い奴ら
M04. ユメミルクソブクロ
M05. 地下室のテレビジョン中継
M06. 女にロック
M07. ベリーゲリーギャング
M08. スピーカー
M09. オンボロな紙のはさみ
M10. 嘘とドイツ兵


◆インフォメーション
・2010/09/25(土)【兵 庫】長田大行進曲
・2010/10/09(土) 【仙 台】MEGA☆ROCKS2010
・2010/10/30(土) 【梅 田】Shangri-La
・2010/11/03(水) 【名古屋】HUCK FINN
・2010/11/04(木) 【恵比寿】LIQUID ROOM

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2バンド目は、遠藤ミチロウ率いるNOTALIN’S 。メンバーは、遠藤ミチロウ(Vocal & Guitar)・石塚俊明(Drums)・坂本弘道(Cello)。メンバーが登場しただけで、オーディエンスから声援があがる。頭脳警察石塚俊明がドラムを叩き、日本唯一のパンクなチェリスト坂本弘道が驚くような演奏を披露する。楽曲や遠藤ミチロウの歌の素晴らしさは当然としても、このNOTALIN’Sの魅力は、石塚俊明の生み出すビートと、坂本弘道のアバンギャルドなサウンド&パフォーマンスだろう。目の前で火を吹くチェロを観るだけで大興奮だ。そもそもエフェクターを複数繋いだチェロ自体、聴いたことがない。坂本弘道を生で観てない人は、ソロや舞台の活動もしているので、ぜひ一度そのパンクな才能に触れてほしい。

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遠藤ミチロウ(NOTALIN’S) 公式サイト


http://apia-net.com/michiro/

◆セットリスト

M01. 1999
M02. Just Like a Boy
M03. マリアンヌ
M04. 我自由丸
M05. 父よ、あなたは偉かった
M06. 天国の扉


◆インフォメーション
・2010/11/14(日)【碑文谷】アピア40
・2010/11/15(月)【渋 谷】O-WEST
※NOTALIN’S以外のスケジュールは、公式サイトをご確認ください。

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3バンド目は、戸川純(Vocal) 。バックメンバーは、Dennis Gunn(Guitar)・中原信雄(Bass)・ライオンメリィ(Keyboard)・矢壁アツノブ(Drums)。体調不良のため座ったままで歌うスタイルだが、あの戸川純ヴォイスは健在!そしてセットリストもすごい!「バージンブルース」や「電車でGO」などのナンバーは日常的に記憶があるが、「肉屋のように」や「バーバラ・セクサロイド」を聴けるとはうれしい。印象的なのは、眼光鋭いDennis Gunnのギター。ラストは立ち上がって、「パンク蛹化の女」をアグレッシブに歌ってステージを去る。かつてサブカルの女王と呼ばれた戸川純のパワーが健在なことを、今夜のライヴは十分に伝えてくれる。

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戸川純
◆セットリスト


M01. コレクター
M02. 肉屋のように
M03. 諦念プシガンガ
M04. 12階の一番奥
M05. バージンブルース
M06. 電車でGO
M07. 金星
M08. バーバラ・セクサロイド
M09. フリートーキング
M10. パンク蛹化の女


◆インフォメーション
・2010/10/15 (金)【下北沢】GARDEN
※戸川純と久保田慎吾

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最後の4バンド目は、頭脳警察。メンバーは、PANTA(Guitar & Vocal)・TOSHI(Percussion & Vocal)・菊池琢己(Guitar)・
JIGEN(Bass)・CHERRY(Drums)。「俺たちに明日はない」でスタート。「時代はサーカスの象に乗って」や「うたかたの命」などをベテランの凄みで聴かせてくれる。演奏も素晴らしいが、このPANTATOSHIのオーラは何なのだろ。キャリアが生んだというよりも、幾多の闘いを経て物にしたオーラという表現がマッチするかもしれない。頭脳警察はいつ観ても最高のライヴを魅せてくれる。

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頭脳警察 公式サイト
http://brain-police.net/

◆セットリスト

M01. 俺たちに明日はない
M02. 死んだら殺すぞ
M03. UNDERCOVER
M04. 時代はサーカスの象に乗って
M05. 間際に放て
M06. うたかたの命
M07. 飛翔
M08. オリオン頌歌
M09. Blood Blood Blood
M10. 焔の色


◆インフォメーション
・2010/10/11 (月)【新 宿】ロフト
・2010/11/01 (月)【神 戸】チキンジョージ
・2010/11/02 (火)【大 阪】SOMA
・2010/11/03 (水)【名古屋】ボトムライン

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アンコールは遠藤ミチロウをステージに呼び戻して「悪たれ小僧」。PANTA遠藤ミチロウは、交互に歌いながらオーディエンスに迫る。アンコールだけあって、少し肩の力を抜いたプレイだ。歌詞が即興になっているが、それがまたライヴの楽しさ。実に名残惜しい、もっと観たいという感情が溢れてくる。PANTA遠藤ミチロウが一緒に笑いながらプレイしている姿に、時代の変化を理解することができる。素敵な生き方だ。今まで言われてきた世間一般的な“還暦”は、年金で余生(第二の人生)を楽しみましょう、みたいなイメージだが、年金破綻が決まっている未来、そんなものはすでに幻想だ。

“ふざけるんじゃねえよ”。なぜか終演後にその言葉が浮かんだ。NOTALIN’S頭脳警察には、終戦記念日を意識したMCがあった。“戦争”と“平和”と“ロック”。何かヒントをもらえた気がする。若い頃は自分が年老いたイメージができないが、歳を取ってくるとだんだん見えてくるものがある。“死ぬまでロック!”なんてことは、言うのは簡単だ。昔のバンドも今のバンドも、よく言うフレーズ。しかし本当にロックし続けるということは、どういう意味があるのか。『どうせウソだと わかっているさ!』に教えてもらった気がする。私も、“不惑の60路”を迎えたい。誰かに“素敵な生き方”だと言われるような。