特集

 遠藤ミチロウ生誕祭

TEXT:桂伸也 PHOTO:ヨコマキミヨ

「言葉より生き方だ!」音にならないメッセージを、遠藤ミチロウが今解き放つ!!

還暦という大台に、なおも野良犬のように凶暴で生々しいロックを放ち続ける遠藤ミチロウ。その生き様、軌跡を綴るイベント「生誕60年祭」のステージを追う!!

2010.11.15 遠藤ミチロウ生誕祭『Roll Over 60th』~還暦なんかブッとばせ!~

THE STALINという日本パンクロック界伝説のバンドを率いた、生きた化石ともいえるべき御大、遠藤ミチロウ。年齢60歳を迎えながら、なおも日本の音楽界の中で、本物のロックの姿を誇示し続けている。その姿はなおも血気盛ん、人間の限界を超えるようなその生き様には、只驚嘆するほかにないだろう。

そんな彼の、最上の生き様をファンに”さらけ出す”、「遠藤ミチロウ生誕60年祭」。パンク発祥の地イギリスでは”Punk is Dead.”という言葉通り、既に絶滅種だが、ここ日本ではどうだろう?彼が死なぬ限り、”死ぬわけがない”くらいの存在感は未だに健在だ。そんな彼の還暦と言う節目は、一つの終焉なのだろうか?それとも新たなスタート?その答えを探るべく、この日のイベントの足取りを追った。

M.J.Q遠藤ミチロウ(Vocal & Acoustic Guitar)/山本久土(Guitar)/クハラカズユキ(Drums:THE Birthday

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会場にはスタート前から満員状態、幅広い年齢層、そして男女半々程度の客層が印象的だ、どの観衆も遠藤のファンということもあってか、かなり尖った目をしており、一触即発寸前と言う雰囲気が当たりを漂っていた。そして、M.J.Qが登場。フロアからは「ミチロー!」と、怒号のような叫びが連発。それに応じるでも無視するでもなく、とてもリラックスした表情を彼は見せた。

一曲目は「虫」。ただ黙々とギターをかき鳴らし、直立で彼の詩を言葉に出し続けている横で、タイトなドラムとサイドのギターが遠藤をサポートする。ベースがいないのが信じられないくらいの音圧と広がり。「お前なんて、知らなーい!!」歌の中で発する言葉が、エコーで響く。音程も何もない叫びが、まるで其処だけ意思を持った生き物のように観衆の心に突き刺さる。ここで既にM.J.Qワールドが成立していた。

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「ありがとう!やっとジジイになりました!皆さん労わって下さい!」ホッとするMCに続いて「自滅」「猟奇ハンター」と続く。ギターの山本とドラムのクハラの徐々にヒートアップしていく姿とは対称的に、決して派手ではない遠藤の、黙々と音を紡ぎ出す姿。その地味な風貌がそれこそ今の彼を、そしてロックの本当のカッコ良さを表しているようにも見える。

曲は「負け犬」「シャララ」「音泉ファック」と続き、遠藤の語る言葉の響きも徐々に過激さを増していった。曲が進むにつれ、彼のパワーは大きなエネルギーを発し始める。彼が一瞬”カッ!”と見開く目に、オーディエンスは反応する。このエネルギーの源とは一体何なのだろうか?ステージからは、聴いているほうがとても落ち着いていられることが出来ないような、グイグイとステージに引きずり込まれてしまうような迫力すら感じた。初っ端からエネルギー全開の迫力ステージは「先天性労働者」で幕を下ろした。

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M.J.Q

◆セットリスト

M01. 虫
M02. 自滅
M03. 猟奇ハンター
M04. 負け犬
M05. シャララ継
M06. 音泉ファック
M07. 先天性労働者

TOUCH ME遠藤ミチロウ(Vocal & Acoustic Guitar)/中村達也(Drums:LOSARIOUS

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オープニングにDoorsの「Touch me」が流れる。ギター&ドラムのデュオという変則ロック、TOUCH MEの登場だ。ステージには遠藤とモヒカンの怪人、中村が現れる。リラックスした雰囲気の遠藤に比べ、血気盛んといった中村のアブナイまでの様子。演奏が始まったかと思うと、遠藤の叫びの様な演説。「オデッセイ」。一瞬のブレイクで、「気をつけー!チャックを閉めろ!!」

何ともユーモアたっぷり、風刺心たっぷり、強欲なグルーブ、パンキッシュで詩的、そんな断片的な言葉が頭を駆け巡りながら、もう既に目はステージの遠藤と、それに追従し争っているような中村のドラムプレイにしか集中できない。フロアは既にモッシュピットと化し、遠藤の世界に引きずり込まれている。ブレイクの間に語られる遠藤のLylicに皆聞き入り、ギターが鳴り始める度に暴動を繰り返す。曲が終わると、フロアから「ミチロー」と、怒号のような叫びが続く。そしてその攻撃的なプレーとは対称的に、和やかなMCが、曲への盛り上がりを一層鋭くしているようにも見えた。

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続いたのは、アップテンポな「下水道のペテン師」、そしてカウベルの音が印象的なバラード「限りある限り」。カントリーフォーク調のコードストロークの中で”空ハ死体デイッパイ~””ワラッタママデ逝キタィ~”と、シュールな詩が印象的だ。何かを思わせる。そしてニューオリンズブルースを思わせる「血は立ったまま眠っている」さりげなくメンバー紹介を入れ、怒涛の最後に向けてのリラックス感を会場に満喫させた。

会場の熱が徐々に上がってくる。「玉ねぎ畑」がプレイされる。ドラムのオンビートに会場全体が包まれ、少しずつフロアの観衆の動きが大きくなってくる。サビでは観衆と遠藤が大合唱、とてもドラムと生ギター1本と思えないグルーブ感だ。怒涛のステージは猛烈にヒートアップし、一気に「午前0時」「BREAK ON THROUGH」を立て続けに決めた。まるで遠藤中村の一騎打ちのその様相に、周りもエキサイトせざるを得ないといった状況だ。が、ステージを離れる際には、親友の如く握手を交わす二人が印象的だった。

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TOUCH ME

◆セットリスト

M01. オデッセイ
M02. 下水道のペテン師
M03. 限りある限り
M04. 血は立ったまま眠っている
M05. 玉ねぎ畑
M06. 午前0時
M07. BREAK ON THROUGH

NOTALIN’S遠藤ミチロウ(Vocal & Acoustic Guitar)/石塚俊明(Drums:頭脳警察)/坂本弘道(Cello)

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奇妙なオルガン・ソングに合わせて、遠藤石塚坂本の3人が現れる。ヨーロッパコンテンポラリージャズのような響きより、ファーストナンバー「1999」は始まった。黙々とかき鳴らされる遠藤のギターの上を、自由に暴れる石塚のドラムと、カオス状態を表すかのような激しく狂う坂本のチェロ。この不思議空間の中を、遠藤のまた別な詩世界が泳ぎ回る。先程までの雰囲気からは一変し、フロアはそのメロディに引き込まれ、催眠状態になった雰囲気すらある。遠藤のスクリームとコーラスするチェロの音。

ステージ上はとにかく混沌の嵐。また一段と高くなる遠藤の金切声に、呼応するチェロのエフェクト音。一瞬の静けさの後にまたかき鳴らされるギターの音。その上で強く主張する遠藤のヴォーカルに、追従し、時には混乱を持たせる坂本のオブリガートが、クールで、逆にカオチックな世界を広げていく。時々に現せる静けさの中からそっと顔をもたげる遠藤の声。2曲目の「マリアンヌ」は、そんなカオスな世界を目一杯に表現したナンバーとなった。エンディングに向かうにつれ激しいリズムと、ギターをかき鳴らすストロークのパワーも増し、徐々にヒートアップさせられる。

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3曲目は「カノン」。全曲とは一転、静かなギターのアルペジオと、坂本のオブリガート、そしてリラックスした遠藤の詩に、誰もが聞き入っていた。まるで大河を現すような石塚のマレットの響きが、それまでの混沌を嘘のように吹き払い、会場を優しく包み込む。遠藤の世界からは一番遠いイメージがあるかもしれないが、明らかに間違いない、ここにも遠藤の世界が存在した。

何処までも上っていくようなチェロのスライドサウンドから激しさを増すラスト曲、「父よあなたは~」。全ての詩が、「父よ、あなたは」という件で始まるその世界、ギターの哀愁味のあるコード進行、そしてまたフリージャズのように暴れまわるドラム、叫び続ける遠藤から出る言葉の数々、それら全てが聴衆を、まるでゴーゴンに睨まれたかのようにオーディエンスを石に変え、誰も微動だにすることすら許されずその音の一つ一つ、詩の一つ一つに引き込まれる。「父よ、あなたは偉かった!」ようやくエンディングで束縛は解き放たれ、またもや強大なミチロウコールがいくつもフロアから上がった。

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NOTALIN’S

◆セットリスト

M01. 1999
M02. マリアンヌ
M03. カノン
M04. 父よあなたは偉かった

THE STALINISM遠藤ミチロウ(Vocal & Acoustic Guitar)/山本久士(Guitar)/KenKen(Bass:RISE)/クハラカズユキ(Drums:THE Birthday)/中村達也(Drums:LOSARIOUS

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いよいよ、THE STALINのスピリッツを継承したグループ、THE STALINISMの登場だ。遠藤はそれまで一貫してギターを抱え直立不動のスタイルから一転、メガフォンからの強烈な叫びやサイレン、ビラ、ミネラルウォーターを撒き散らし、仕舞には爆竹、CO2ガスまでフロアに投げ込む始末。往年のワルガキ振り健在を誇示した。さて、この日初のフルバンド、しかもドラムが2人という豪華編成。

「ワルシャワの幻想」 からスタートした第4ステージ。其処には4ステージ目でもうヨレヨレの遠藤など見られず、4ステージ目にしてまた新たな別の”遠藤”という存在がいた。それほどまでにこのバンドでのステージも、ご多分にもれず前述3バンドの存在感とは別の顔を見せていた。ツインドラムの強力なバスドラと、Kenkenのベースが、地を這うようなビートを形作る。会場はここに来て更に”待ってました!”と言わんばかりの様子、既にモッシュピットと化し、混沌としていた。延々と続くリフの中、爆竹がフロアを狂喜させ、遠藤がほくそ笑む。

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このパワー感で、勢いに任せたステージングを展開。「ロマンチスト」「天ぷら」「アザラシ」「溺愛」「365」「バキューム」「アーティスト」「解剖室」と、王道パンクのオンビート8ビートと、ヘヴィリフを絶妙に織り交ぜた展開が続き、フロアも待ちわびたチャンスとばかりに暴れまくる。そのリズムに遠藤とフロアは同化し、強烈な激しさの中に、異空間がここに確かにに発生した。フロアから「ミチロウ!」と連発コールが飛ぶ。それに答える遠藤。さすがに体力的には辛さもあるのだろうか、それでも遠藤の鋭い眼光は、周りを威圧するのは十分なくらいだ。

「ありがとう、これで心置きなく死ねるぜ!」彼のその一言は、言葉そのもののことを語ったのだろうか?それとも...勢いは全く衰えることなく「STOP JAP」が爆発。ラストは名曲「仰げば尊し」。ポップ・パンクを地で行くようなそのビート感とグルーヴィな雰囲気は、最後の最後でまたフロアを別の雰囲気へと一転させた。そして、このステージも終わりを迎えた。

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THE STALINISM

◆セットリスト

M01. ワルシャワの幻想
M02. ロマンチスト
M03. 天ぷら
M04. アザラシ
M05. 溺愛
M06. 365
M07. バキューム
M08. アーチスト
M09. 解剖室
M10. STOP JAP
M11. 仰げば尊し
M12. 天国の扉 -encore-(遠藤ミチロウ ソロ)

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鳴り止まない喝采の中、3時間もぶっ通しのド迫力ライブに続いて、再び彼はステージに戻ってきた。ギター一本と彼の身一つ。それはまるで、今迄の彼の人生の歩み、そしてこれからの歩みを同時に現したもののようにも見える。ここで遠藤のMC。「今日は本当にアリガトウ。10年前にTHE STALIN20周年やったときには、”絶対に還暦までやらねぇよ”っつったんですけど」と、会場の笑いを誘った。

そして発売された『THE STALIN遠藤ミチロウTribute Album』、その発売記念イベントを年明けに行うことを発表、その名も『STALIN’ Z(Zombie)』が行われることで会場を賑わせた。その”Zombie”に捧げる歌として彼は静かに、そして荒々しくギターをかき鳴らし始めた。何度も上げる唸り声。Bob Dylanの「Knockin’ on the Heaven’s Door」に乗せた、彼の詩が響く、”死を問う”遠藤の詩が。

“Non,Non Knockin’ on the Heaven’s Door.
俺は天国の扉を叩き壊す 何度壊しても 壊しても 壊れない天国の扉を”

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彼の詩が、この日一番、会場の者全てに、ダイレクトに伝わった。あれ程暴れまわった観衆が全て、静かに彼の詩に身を任せ、そして揃ってメロディを合唱する。

割れんばかりの歓声の中、遠藤ミチロウ生誕60年祭は終了した。この夜見せた全く違う4つの個性、どれもがミチロウの一つの姿なのだ。年齢だのどうだの、そんなことより、また新たな道に向けて一歩を踏み出しているのかもしれない。M.J.Qでそっと呟いた、「歳をとるのは楽しいよ」という一言がそれを物語っている。還暦? 彼に赤いチャンチャンコなんて似合わない。強いて言えば、彼のアイシャドウのように”Paint it Black!!”(黒くぬれ!!)というべきじゃないか!? そんな上品なものでもないか...

遠藤ミチロウ 公式サイト
http://apia-net.com/michiro/

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New Album 『ロマンチスト~THE STALIN・遠藤ミチロウTribute Album~』

発売日:2010/12/1   BVCL-148/3,059円(税込)

収録内容 【参加アーティスト / _曲タイトル / オリジナル発表形態】


1.WAGDUG FUTURISTIC UNITY / 「ロマンチスト」/ THE STALIN
2.黒猫チェルシー / 「負け犬」/ THE STALIN
3.銀杏BOYZ / 「JUST LIKE A BOY」/ 遠藤ミチロウ
4.グループ魂 / 「お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」/ 遠藤ミチロウ
5.戸川純 / 「カノン」/ 遠藤ミチロウ
6.フラワーカンパニーズ / 「GO GO スターリン」/ THE STALIN
7.AA= /「先天性労働者」/ THE STALIN
8.BUCK-TICK / 「おまえの犬になる」/ 遠藤ミチロウ
9.UA / 「我自由丸」/ 遠藤ミチロウ
10.MERRY / 「オデッセイ・1985・SEX」/ Michiro,Get the Help!
11.DIR EN GREY / 「ワルシャワの幻想」/ THE STALIN
12.YUKI / 「ア・イ・ウ・エ・オ」/ 遠藤ミチロウ