演奏

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TEXT:鈴木亮介

大学を卒業し、ミュージック社会人へ…ねごとの”卒業旅行”は、彼女たちを一回りも二回りも大きくした。
 
2月15日@千葉LOOKを起点に全国を巡る旅に出たねごと。対バンライブハウスツアー『お口ポカーン!! 卒業旅行は全国ツアー ~GREEN and motion~』の3ヶ月間におよぶ長旅は、4月29日@札幌PENNYLANE 24でほぼ全行程を終了。5月18日の沖縄公演を残すのみとした所で、東名阪ホールワンマンとして『お口ポカーン!! 東名阪ワンマンツアー ~spark of FLOWER~』を開催。そのファイナル公演が5月11日にZepp Tokyoにて開催された。
 
東京での、ホールでのワンマン公演は12月の「お口ポカーン!! ~SEED with groove~」以来。種を蒔き、芽が出て茎が伸び…そして、「spark of FLOWER」。そう表題に名付けたように、大きな花を咲かせたいと臨んだ彼女たち。その思いは実を結ぶか。
 
ねごと メンバー:
蒼山幸子(Vocal & Keyboard)、沙田瑞紀(Guitar)、藤咲佑(Bass)、澤村小夜子(Drums)

 

 

あいにくの雨、開場前のZepp Tokyo前にはたくさんの傘の花が咲いた。ねごとの咲かせる大輪の花を目撃すべく、今か今かと待ちわびる観客。開場からほどなくしてフロアは満杯に。12月のワンマンの時とは明らかに観客の様子が違う。あの時はまだ、開演前は静寂が支配していた。曲を経る度に拍手が大きくなる、ドラマチックなあの空気感は今でも鮮明に記憶しているが、その時とは明らかに違う、ざわつきがある。既にねごとの音楽を見知って、楽しみ方を熟知しているファンが多勢を占めているのだ。そんなことを考えていると、時計の針が開演の午後6時を指す。
 
真っ暗な中、蒼山幸子(Vocal & Keyboard)と澤村小夜子(Drums)が静かに登場。澤村小夜子が綺麗な鍵盤を奏でる。まるで外の雨に合わせたかのように、”0曲目”「ふわりのこと」をしっとりと、粛々と披露。すぐにまたステージを降りる。
 
拍手はやがて、宇宙旅行のような沙田瑞紀作のSEに代わり、そしてまた歓声に代わる。ねごとの4人が揃って、いよいよ「spark of FLOWER」の開演だ!「Zepp Tokyo~!」藤咲佑の絶叫を皮切りに、1曲目は「潜在証明」。リーダー・藤咲佑に加えて沙田瑞紀も積極的にステージ前方に身を乗り出し、ギターの心地良い高音フレーズを響かせる。
 
それにしても驚いたのは、既にアンコールかと錯覚するかのような大きな拍手と歓声。続く「Re:myend!」ではメンバーが促さずとも客席から自然と手拍子が。ねごとメンバー4人はもちろんのこと、観客も昨冬のホールツアーから飛躍的な進化を遂げていて、これには鳥肌が立たずにはいられない。
 
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「東京のみんな元気?男の子!女の子!うしろ?みんな?」すさまじい歓声。この声が聞きたかった、と藤咲佑も感慨深げだ。「ここにいるみんなで大きな花を咲かせたい」と宣言し、3曲目「メルシールー」から、4曲目「drop」、5曲目「フラワー」とゆっくりテンポの曲を続ける。自然と起こる拍手にも驚くし、拍手が鳴り止みかける絶妙なタイミングで次の曲に入るねごと4人にもびっくり。「会場が一つになる」とはまさにこのこと。息の合ったパフォーマンスで、観客と一緒に心地良い空間を作り上げていく。「フラワー」での沙田瑞紀のカッティングがまた涙腺を緩ませる。
 
「あいにくの雨だね、さすが雨バンド」と澤村小夜子。ツアー25本中晴れたのは8本だったのだという。そして、「私たちはね、今年の春、全員無事に大学を卒業して、ミュージック社会人になりました!」と報告。いちだんと大きな拍手と歓声が沸き起こる。「音楽に就職しました。…今日は社会人の人はどれくらいいるのかな?…二階の人も手挙げていいですよ」「お父さんお母さんの人?…子育て頑張ってください」と、いつものペース。続く藤咲佑は「今日はいっぱい私も前に出ようと思うので、後ろの人まで届けようと思うので」とライブにかける決意を述べる。
 
蒼山幸子も「私はこの2月からの全国ツアーで一つ得たものがあって、それはね…全く風邪を引かなくなったの!」「打ち上げでお酒を飲むことを解禁した」と、自らの成長を語る。さらに「みんながものを食べている音で誰が食べているのか、みんなの歯の状態がわかるようになった」と澤村小夜子もまさかの”成長”を報告。
 
その澤村小夜子から「ねごとのスカイツリー」と紹介された沙田瑞紀も兄に子どもが産まれて叔母になったことを報告。その沙田瑞紀が「一緒に100%足並みをそろえたいので、みんな歌ってね!」と促し、「100」のサビでコーラスの練習。さらに、この曲ではもはやツアー恒例となった「ご当地コール&レスポンス」を皆で考え、「東京タワーのぼりたいな」「浅草で会いたいな」が採用された。
 
そんな「100」で綺麗なコーラスを見せつつ100%一つになって、さらに「メイドミー…」では蒼山幸子がステージ前に出てポップにゆらゆらと歌う。「ワンダーワールド」は藤咲佑のベースでグイグイ引っ張る。元々楽曲の奥深さに加えて演奏力の高いメンバーが集まっていた所に、いっそうグルーブ感が強まっていて、鳥肌がおさまらない。
 
 

 

ライブも中盤。MCは卒業旅行ツアーの話題に。色んな観光地を堪能できたことや対バン相手に恵まれたことなどを振り返り、そして話題はツアー中に行ったマラソン対決の結果発表に!(※経緯は昨年12月の「お口ポカーン!! ~SEED with groove~」レポを参照)4人にそれぞれ総走行距離を記したパネルが手渡される。アルバムタイトル『5』に合わせてカウント「1,2,3,4,5!」で一斉にパネルオープン!結果は…藤咲佑76.3km、沙田瑞紀81.0km、蒼山幸子98.8km、澤村小夜子106.5km。なんとメンバー内の予想に反して澤村小夜子がぶっちぎりの優勝!
 
これからも走る宣言から、キーボードがポロンと鳴ってムードを一変。「高い高い空には、冷たい風が吹いていました…街。」蒼山幸子独自の感性でチョイスされた言葉が、4人のエモーショナブルな音に乗せて丁寧に届けられる。決して爆音な感じの音ではないのに、よく聴くと澤村小夜子の手数の多さに驚く。ポップとかロックとかそういうことでなしに、ねごとは日本の音楽界の宝だとつくづく思う。
 
9曲目「街」から「トレモロ」、「week...end」、「そして、夜明け」と、4曲中「week...end」以外の3曲は2月発売のニューアルバム『5』収録の楽曲。ライブ序盤の煽りとは対照的に、メンバー各々はプレイにのめり込み、パフォーマンスや言葉ではなく音でしっかりと観客を牽引する。「そして、夜明け」はジャ、ジャ、ジャーンと4人揃えてから、蒼山幸子のキーボードが引っ張っていくイントロがたまらなく爽快!
 
さらに13曲目、何の前置きも後談もなくさらっと新曲を1曲披露してくるのもまた憎い。4つ打ちの軽快なナンバー、これまたキーボード、そしてギターの高音リフが爽快。頭からサビまで曲の随所にパッパッパッとクラップ音が盛り込まれ、客席からも自然と拍手が起こる。そして14曲目は「私たち一番みんなに届けたい曲…」という蒼山幸子の紹介から始まった「たしかなうた」。その言葉に裏付けられる蒼山幸子の透明感あふれる、それでいて強靭さも感じるボーカルが心に沁み入る。ステージ下手からベース(藤咲佑)→ギター(沙田瑞紀)→ドラム(澤村小夜子)→キーボード(蒼山幸子)と一筋の光さえ通っているように見える、4人の一体感も改めて感じる。心底から自信を持ってステージに立っているのだ。
 
 

 

いよいよ終盤。沙田瑞紀が自らの一眼レフでメンバー3人、そして客席を撮影したところで、リーダー・藤咲佑が「一度は夢を諦めかけたけど、もう一回叶えたい、もっともっとねごとの音を届けていこうと思えた」と涙ながらに語ると、大きな、長い長い拍手が自然と沸き起こる。そして「1つのチームができた。不器用だけど、壁を壊すことができた…」と思いを語ったのに続けて、重大発表!「カメラが入ってるよ!みんな撮られてるよ!」ねごとにとって自身初となるライブの映像化、つまりDVD化を予定しているという、ファンならずとも嬉しい知らせが発表される。
 
「アンコールないから、最後まで全力でよろしく!」藤咲佑の宣言通り、メンバーも観客も全身全霊スパーク!「みんなとの壁を壊したいと思って作った」という「greatwall」から、鍵盤と六弦と重低音と歌唱とがそれぞれ見せ場を作るカラフルなアップテンポナンバー「季節」、歪んだギターや怒涛のように押し寄せるドラムロールなど、ライブにおけるゲーム音っぽさを追究しCDとはまた違った魅力を見せる「nameless」と快走キラーチューンを連発。どの曲でも自然と”5人目のメンバー(=観客)”による手拍子が沸き起こるのが楽しい。
 
これらの楽曲は昨年末の東京ドームシティ(「お口ポカーン!! ~SEED with groove~」)ではポップなキーボードサウンドが強く印象に残っていたが、今夜は沙田瑞紀の弾けるギターフレーズが強烈に刺さってくる印象だ。4者4様に役割を持って、自分の音を力強く届けている。わずか5ヶ月、全国22か所の対バンツアーと大阪、名古屋ワンマンを経て、一回りも二回りも大きく成長・進化していることを改めて実感させられる。
 
成長、進化が際立つ今宵だが、デビュー当初から持つ魅力も失われていない。藤咲佑が耳馴染みのあるベースコードを鳴らし、「次の曲で、みんなで一緒に宇宙に行きましょう!」蒼山幸子のおなじみのフレーズから、18曲目は「ループ」!笑顔の花びらが一面に舞う。
 
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徐々に終わりの気配が感じられる中、19曲目は「カロン」。感情を抑えきれない観客たちの歓声が、間奏で幾重にも重なって響き、それもまたねごとのサウンドの一角を為している。「壁」が完全に取り払われ、乗り越えられた瞬間だ。
 
そしてついに最後の曲。蒼山幸子がマイクに手を添える。「今日はありがとう。最後の曲は、去年この曲を渋谷AX(=2012年5月12日の東名阪ファイナル)でやったときは、たとえ半歩でも前に進みたい、そんな願いのような曲でした。でも一年経った今は、いつの間にか私たちを一歩も二歩も三歩も進めてくれた、強い光の曲になりました。最後、聴いてください。sharp♯!」
 
「もっと速く駆け抜けてゆく あの星になりたい」強い思いが種となり、一年間雨にも風にも耐えながら、成長を続けてきた。見守るファンとともに。そして今日、綺麗な綺麗な花がステージに、そして客席至る所に咲き誇った。
 
今日のステージがまた、一つの通過点になる。繰り返しになるが、ねごとはこの国の宝。この日Zepp Tokyoに集まったファン、そして全国で卒業旅行を見届けたファンが、その証人だ。晴れてミュージック社会人となったねごと。きっとこのツアーで咲かせた花が次の種を作り、次のステージでもう成長を始めているに違いない。さて、今度はどんな花が咲くのだろう。
 

◆セットリスト
M00. ふわりのこと
M01. 潜在証明
M02. Re:myend!
M03. メルシールー
M04. drop
M05. フラワー
M06. 100
M07. メイドミー…
M08. ワンダーワールド
M09. 街
M10. トレモロ
M11. week...end
M12. そして、夜明け
M13. (新曲)
M14. たしかなうた
M15. greatwall
M16. 季節
M17. nameless
M18. ループ
M19. カロン
M20. sharp♯
 
※Photo by:H.and.A
◆ねごと 公式サイト
http://www.negoto.com/
 
◆インフォメーション
LIVE DVD『spark of FLOWER』
2013.8.7 Release!
完全生産限定盤(2DVD) KSBL 6103-6105
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