演奏

TEXT:鈴木亮介

未来が待ちきれなくて走り出してた――
透明で軽やかで、まっすぐで。”少女”の胸のときめきに誰しもが共感する、筒井康隆の名作『時をかける少女』。1965年に作品が生まれて以来、1983年の大林宣彦監督&原田知世主演のタッグなど、数多く映画化、テレビドラマ化、アニメ化されてきたが、原作誕生から半世紀の時を経て、ついに舞台化された。
 
国民的SF大作の舞台化に挑んだのは、今年創立30周年を迎える演劇集団キャラメルボックスだ。脚本と演出を担当した成井豊が「本当に好きなものを舞台化した」という本作、劇団員史上最年少・21歳で初主役を務める木村玲衣がとにかく眩しい。劇場に足を運べば必ずや貴方も”初恋”にタイムリープし、木村玲衣演じる尾道マナツに恋せずにはいられない。
 
(東京公演は8月9日まで毎日上演中。8月20日からは大阪公演もスタート!)
 

成井豊は今回の舞台化にあたり、「原作の続編的な話として、現代の少女の冒険へ移し替えることを是非やりたい。2015年の『少女が時をかける』話をちゃんとやりたい」といった趣旨のコメントをしている。原作の誕生から半世紀の時を経て、「続編」としての初舞台化だ。
 
それにしても、これまで原田知世、南野陽子、内田有紀、安倍なつみ、仲里依紗など数々の女優が(アニメの声優出演を含め)ヒロインを歴任し、日本中のクリエイターを刺激し続けてきた本作だが、意外にも舞台化は今回のキャラメルボックス作品が史上初となる。製作総指揮を務める加藤昌史が上演前の挨拶で「あんなことやこんなことがあるから、舞台化なんてうちくらいしかやらないんだろうなと(笑)。第1回公演からタイムトラベルしてる劇団ですから」と冗談めかして話していたが、確かにこれはキャラメルボックスだからこそ実現できた、疾走感・爽快感のある作品だと思う。
 
そういうわけで、本作は原作『時をかける少女』のその後を描いた作品であり、原作の主人公・芳山和子は”伯母”として登場する。その姪っ子、高校2年生の尾道マナツが本作の主人公だ。原作を知らなくてももちろん楽しめるが、原作の芳山和子をイメージしながら作品に感情移入すると二重、三重にストーリーを楽しめるだろう。
 
(ちなみにロビーの物販コーナーで筒井康隆原作の文庫本を販売しているので、未読の方はまずキャラメルボックスの舞台を鑑賞し、その後原作を読んで、再びキャラメルボックスの舞台を観る…という楽しみ方を是非してみてほしい。まさに”タイムリープ”的な鑑賞ができるだろう)
 
舞台は札幌で両親と暮らす主人公・尾道マナツ(=木村玲衣)が、病気で倒れたという伯母・芳山和子(=坂口理恵)の看病のため東京に行くところから始まる。そこで幼馴染みの竹原輝彦(=池岡亮介)と再会する。その後、大学で薬学研究に従事する和子に連れられ、研究室に顔を出す。大学構内を案内してもらっているうちに迷子になったマナツは、偶然立ち寄った研究室でラベンダーの香りがする煙を吸い、倒れてしまう。
 
さらに、地震が起きマナツの室外機が頭上から降ってくるというハプニング。絶体絶命、身の危険を直感!と、その次の瞬間、マナツは1分前に戻っていた。タイムリープしたのだ。人知を超える能力を手に入れたマナツは、その真相を究明すべく奔走。やがて、伯母・和子の知られざる過去に触れる…
 


タイムスリップでもタイムトラベルでもなく、自在に時を移動できるタイムリープを繰り返すマナツ。その瞬間の、時を巻き戻す表現や、”マナツだけは前に見て知ってる、でも他の皆は初めてだから知らない”といった表現は秀逸。非現実的なのにリアリティがあるというサイエンスフィクションの真髄を的確に表現しており、原作への愛もぎっしり詰まっている。
 
 加藤昌史によるロックな音楽セレクトもキャラメルボックスの魅力だ。ハルカトミユキの「世界」をはじめ、今回の劇中歌のセットリストはいつものようにキャラメルボックスのホームページ上で公開しているので、終演後にチェックされたい。
 
そして何といっても本作の見所はマナツ役の木村玲衣だ。木村玲衣は1993年12月27日生まれの21歳。地元・埼玉の星野高校を卒業後、演劇集団キャラメルボックス俳優教室10期生を経て、2013年にキャラメルボックスに入団。本作で劇団員としては史上最年少の初主役を務める。
 
ネタバレになるので詳細は避けるが、アクセル全開で突っ走るように、間髪入れず「元気いっぱい、マシンガントークなマナツ」が特に印象的だった。今回マナツのセリフの数は合計454あったそうで、成井豊脚本の女性主役の中ではぶっちぎりの最多記録だという。
 
Photo西川浩幸坂口理恵、そしてキャラメルボックスOBである近江谷太朗といったベテラン陣がはみ出ない”枠組み”を作ってどっしり構えることで、木村玲衣が怖気づくことなく無邪気に暴れまわる、そんな心地よい時をかけ抜ける120分であった。
 
「必ず会いに来るよ」「私にはわかるよ。きっと」…輪廻転生というと大げさだが、今世で出会った縁は、必ずつながり続けていく。もしも忘れてしまったとしても、ふとしたきっかけから思い出すことができる。懐かしんだり、また新たな印象を持って関わったり…今を生きる私たちも、日々記憶の海の中でタイムリープを繰り返している。忘れたくない。忘れてしまう。でも、前を向いていればきっとまた出会える。
 
もう一度、何度でも17歳にタイムリープさせてくれる『時をかける少女』。迫力あるステージセットとともに、この時空間を一人でも多くの人に共有してほしい。
 
 

現在上演中!!
◆キャラメルボックス30th vol.3 『時をかける少女』


【脚本&演出】
成井豊
 
【キャスト】
木村玲衣 西川浩幸 坂口理恵 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 三浦剛
左東広之 鍛治本大樹 金城あさみ
毛塚陽介・関根翔太(ダブルキャスト)
近江谷太朗 池岡亮介
 
【公演日程】
東京公演
2015年07月28日(火)~08月09日(日)【東京】サンシャイン劇場
平日ステージ S席(1階・指定席)7,000円 A席(2階・自由席)5,500円
土日ステージ 全席指定 7,000円
 
大阪公演
・2015年08月20日(木)~24日(日)【大阪】サンケイホールブリーゼ
全席指定・税込 7,000円
 
【チケット購入】 キャラメルボックスHPへ
http://www.caramelbox.com/stage/30th-3/

◆演劇集団キャラメルボックス 次回公演のご案内
キャラメルボックス2015ハーフタイムシアター

 
2015half
『水平線の歩き方』
【脚本&演出】
成井豊
【キャスト】
岡田達也 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 実川貴美子 小多田直樹 原田樹里 近藤利紘
 
『君をおくる』
【脚本】
岡部尚子
【演出】
真柴あずき
【キャスト】
実川貴美子 岡田達也 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 小多田直樹 原田樹里
 
【公演日程】
東京公演
2015年10月8日(木)~12日(月・祝)【東京】東京グローブ座
1作品券 S席(1・2階)5,000円 A席(3階)4,500円
2作品券 S席(1・2階)10,000円 A席(3階)9,000円
 
2015年10月16日(金)~18日(日)【大阪】サンケイホールブリーゼ
1作品券 5,000円
2作品券 10,000円
 
★8月2日(日)AM10:00~前売開始
http://www.caramelbox.com/stage/halftime2015/

◆演劇集団キャラメルボックス 公式HP
http://www.caramelbox.com/

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