演奏

TEXT:まりな

劇団鹿殺し演出家、女優の菜月チョビが文化庁新進芸術家海外研修制度による一年間の留学後、初出演となる「彼女の起源」は”ロックオペラ”と銘打った音楽劇だ。
 
新進気鋭のシンガーソングライター石崎ひゅーいをゲスト俳優に迎えたということもあり、公演前からさまざまなメディアで取り上げられ、さらに現役のロックミュージシャンをプレーヤーに加えた生のバンド演奏ということで、劇団ファンのみならず、音楽ファンからも注目されていた。
 
普段ライブステージを見慣れている音楽ファンから見ても圧倒的な演奏と迫力、そしてそれと一緒に進行していく笑いと悲劇の物語はエンターテイメント性が高く、初めて観劇して演劇の魅力に惹きこまれたという人も少なくないのではないだろうか。
 
そんな本格的な音楽と演劇を組み合わせた鹿殺し流のロックオペラ、衝撃の約二時間のステージをレポートしたい。

開場して中に入るとフライヤーとともに本日の公演で使われる楽曲の歌詞カードが渡された。このカードがカセットテープを模したデザインとなっている。そう、カセットテープこそ「彼女の起源」のキーアイテムとなっているのだ。
 
物語の舞台は1984年、東京から一時間ほど離れた、キューポラの見える町、西川内市に建つ二階建ての「金子家」。そしてそこから30メートル離れた場所にある「金子鋳物工場」から始まる。ステージ上は工場を思わせるオブジェと、左端にドラム、ギター、ベースのバンドセット、そして右上には四畳半の四角い箱のような空間がセットされている。
 
生まれてからずっと四畳半の部屋に監禁されている女の子、金子陶子(菜月チョビ)は広い世界を知らずに育った。一方、父親である金子伊砂夫(丸尾丸一郎)から「姉の陶子は虫歯が脳に回って死んだ」と教えられて育った陶子の弟、金子三樹夫(石崎ひゅーい)はある日二階の部屋に姉が監禁されていることを知る。しかしその部屋に近づいた日、監禁した張本人である伊砂夫から激しい暴力を受け家出をする。なんとかして陶子を助け出そうと考えた末思いついたのがカセットテープに声を吹き込んでの「往復書簡」だった。
 
三樹夫役の石崎ひゅーいは初舞台と思えない程堂々とした佇まいと、異彩な雰囲気を放っていた。監禁された姉を持つ少年という複雑な役を猫背な姿勢や表情で完全に表現、もしくは元から彼自身が持つ、どこか陰のあるオーラがピッタリと当てはまったのだろうか、そこにいるのは歌手の石崎ひゅーいではなく三樹夫そのものだった。
 
しかし物語序盤、さっそく三樹夫のアカペラから入る劇中歌「声」が始まると、さすが歌の表現者なだけあって急に舞台上の空気はピシッと冷たくなった。暗闇から助けを求めるような震えた声に少しハスキーな陶子の声が重なると美しいハーモニーとなって会場に響き、兄弟が同じ宿命の元に生きているということが染み入るように伝わってきた。
 
このようにしんみりさせる曲もあれば、デスメタル調の楽曲「虫歯が脳に回って死んだんデス」、伊砂夫の後妻、ロザンナ(鷲沼恵美子)が登場した際にはステージがフィリピンパブの店内風に変わり「フィリピン人」を管楽器とダンスも一緒に披露するなど、楽曲の幅広さとエンターテイメント性は、さすがライブパフォーマーとしての活動もしている劇団鹿殺しといったところだ。脚本を担当している丸尾丸一郎が書く秀逸でくすっと笑える歌詞、入交星士×オレノグラフィティが手がける迫力のある楽曲。生演奏だからこそ客席まで届く楽器の震動がより劇を体感的にして一種のアトラクションのような気もしてくる。
 
カセットテープの往復書簡で陶子が監禁された理由がわかった。幼いころ、陶子と三樹夫にはロザンナの前に本当の実母、金子華枝(傳田うに)がいたが、バイクの轢き逃げに遭い命を落とした。妻の華枝を溺愛していた伊砂夫は母にそっくりな娘、陶子を「世界は危険だから」という理由で部屋に閉じ込めてしまったということだった。
 

三樹夫は友人の助けやロザンナをうまく利用し、部屋の鍵を手に入れて救出を試みるものの、部屋のドアを開けてもすでにそこに陶子はいなかった。代わりに伊砂夫がいて「お前は歌がうまいから音痴な俺の息子ではない、華枝の過ちの子だ」と今度は三樹夫を部屋に閉じ込めた。
 
伊砂夫に「母を殺した犯人を知っている」と嘘をついて10年以上ぶりに外の世界に出た陶子は、今度は自分が三樹夫を助けようとするが、初めて見る新しい世界に夢中になってしまい、救出作戦は難航してしまう。
 
周りが見えなくなる嫉妬や、誰かの事を強く思っても煩悩にとらわれてつい自分の事に夢中になってしまう人間の心理が描かれていることによって、ただの家族物語ではなくもっとリアリティある人間模様を感じさせる。
 
演出を担当した菜月チョビはフライヤーにこう書き記していた。「大切な人をなくすこと、上手になくせないこと。死のニュースが溢れている日々、視線を逸らさないでいるうちに生きている自分までが死にとらわれて居場所がわからなくなってしまうような不安を覚えることがたくさんありました。」そんな誰もが経験しうる「人の死」を経て、立ち止まったり、何かが急に動き出したりして物語は終盤へと突入していく。
 
同じステージ上にいるのに決して目を合わせることのない陶子と三樹夫。ラストでは二人並び、石崎ひゅーいが作詞し石崎ひゅーいオレノグラフィティが作曲した「鉄の花」を絶唱する。そこでふたりはようやく出会い、互いの手を握るのだ。
 


シリアスな内容でも笑えて感動的、音楽とダンスを楽しめる盛り沢山な内容。そして、本当は誤魔化したい自分の中の何かと対峙する勇気を与えてくれる力強い公演だった。
 
今回、見事成功を果たした、生バンド演奏でのロックオペラという新たな演劇の可能性を身に着けた劇団鹿殺し。来年はいよいよ活動15周年という事もあり2016年新春、新作の公演もすでに予定されている。今後の活動もますます楽しみだ。
 
14日で本公演は終了となるが、物語をライブバージョンにアレンジした公演が6月16日(火)に渋谷TSUTAYA O-WEST、6月18日(木)に仙台darwinにて行われる。本編+特別ライブで送るもう一つの「彼女の起源」。すでに観劇した人はライブも合わせて観ることによってさらに作品の広がりを感じることだろう。見逃してしまった人は是非足を運んで劇団鹿殺しの演劇とライブパフォーマンスに触れてほしい。

 

◆「彼女の起源FINAL」
本編終了後、劇団鹿殺しRJPのライブあり! ゲストミュージシャン参戦!
・2015年06月16日(火)【東京】渋谷TSUTAYA O-WEST
 ゲスト:ジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい)、鳥肌実、masato(SuG)
・2015年06月18日(木)【宮城】仙台darwin
 ゲスト:ティーナ・カリーナ
 
チケット(オールスタンディング):
一般4900円/学生券3500円(いずれも税込/ドリンク代別) 
http://shika564.com/kanojo/ticket_ippan_2nd.html

◆劇団鹿殺し ロックオペラ「彼女の起源」
【作】丸尾丸一郎
【演出】菜月チョビ
【音楽】入交星士×オレノグラフィティ
【出演】菜月チョビ/石崎ひゅーい
丸尾丸一郎/オレノグラフィティ/山岸門人
橘 輝/傅田うに
piggy(ギター ex.pocketlife)/辰巳裕二郎(ドラム ex.花団)
鷺沼恵美子(サックス) 浅野康之(トランペット) 近藤茶(サックス)
有田杏子(トロンボーン) 清川果林(ビオラ)
 
【公演期間・日程】
東京公演:2015年06月03日(水)~08日(月)@CBGKシブゲキ!!
関西公演:2015年06月11日(木)~14日(日)@伊丹アイホール
<次回作>OFFICE SHIKA PRODUCE 「竹林の人々」7月に上演決定!
作・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
出演:鳥越裕貴、小澤亮太ほか
・2015年07月30日(木)~08月09日(日)【東京】座・高円寺
・2015年08月13日(木)~08月16日(日)【大阪】HEPホール
詳細は http://shika564.com/chikurin/

 

◆「彼女の起源」 特設サイト
http://shika564.com/kanojo/
 
◆劇団鹿殺し 公式サイト
http://shika564.com/
◆石崎ひゅーい 公式サイト
http://www.ishizakihuwie.com/

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