演奏

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TEXT & PHOTO :Mariko-sun

00高校時代、バンド、文化祭、ライブ、授業サボり、屋上、部活動、成績不振、クラスの人間関係、恋愛相談・・・etc. これらのキーワードから甘酸っぱくも友達とバカやって楽しかった高校生活を思い出すBEEAST読者も多いのではないだろうか。例え、明るく楽しい青春でなかったとしても、卒業して社会人生活が長くなると、それらはキラキラと輝きを放ち、当時の想い出を一瞬で呼び覚ます強力なキーワードとなる。
 
そんな宝物がたくさん散りばめられた芝居、東京ハートブレイカーズの公演「スーパーエンタープライズ」を取材する事になった。この劇団の公演レポートは、本誌ではお馴染みのようだが、私にとって、生で観る機会は今回が初めてだった。ひさしく演劇を観ていなかった私に、編集長から取材のオファーがきたときには、なんだか特別なご褒美をいただいたようで、とても嬉しかった。
 
しかも、演劇とライブのコラボレーション、リリース情報によると役者は“粒揃いの男10人”“学園モノ”……取材当日まで、私の楽しい妄想はとどまることを知らなかった。会場は、住みたい街ランキングで常に1位にあがる東京・吉祥寺の駅から徒歩5分ほどの好立地にあるSTAR PINE’S CAFÉ。地下2フロア吹き抜けで、ステージを階下に見おろせるバルコニー席もある。
 

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舞台設定は、2014年~2015年と、1985年。日本のとある地方都市、とある高校の屋上。駅から歩いて15分、小高い丘の上にあり、遠くには小さな街が、その先には海が見える場所。現在と、バブル景気にわいた30年前の1985年、時を隔てた同じ高校の屋上を舞台に繰り広げられる生徒と教師の熱い物語。題名の「スーパーエンタープライズ」は、主宰で本公演の企画・製作、出演者である首藤健祐によると、ちょうど1985年に開催したつくば万博に実在したアトラクションの名前に由来するとのこと。当時流行ったSF映画「スタートレック」に登場する恒星間宇宙船の名前もエンタープライズ号だ。
 
キャストは、かつての高校生時代に“バンドで世界のトップに立つ”という夢を語っていたヴォーカル:サバと、現在は母校の教師となった:サバエを演じた首藤健祐。サッカー部顧問を務める熱血教師:サンゴと、スポーツ万能ながら天文部にかけもちで入部した生徒:トビウオの二役を演じた山崎彬。髪型はリーゼント、グラサンに白つなぎ姿で全編に登場する寡黙な謎のギタリスト:シャークは石川よしひろ。2015年シーンで、成績優秀だがスポーツはからっきしダメな天文部の二人組、部長:イワシタは西井幸人、副部長:クジは永嶋柊吾
 
1985年シーンで、熱烈な阪神ファンのドラマー:カッパはみのすけ。外見はツッパリで強面(こわもて)なのに好きな女の子に告白すらできない気弱なベーシスト:ハマーは西山宏幸。世界的なプロサッカー選手を目指すために高校を中退してイタリアに渡ろうと計画するサッカー部エース:タイシュウは萩野崇。タイシュウの渡航資金を作ろうと、本人には内緒で「ファンド」を企画して学内を金策に走る大人しいけど情に厚い高校生:ヒカリは岡田達也。「さぁ~すが、新人類!」が口癖の神経質で陰険な教師:ヒジキは小多田直樹が演じた。ハートブレイカーズの十八番(おはこ)である劇中のライブ演奏は、時に激しく、時に静かに、シーンの見せ場と場面転換を効果的に演出していた。
 
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1985年は阪神タイガースが球団史上初の日本一を達成した年でもある。まだコンビニが普及していない時代。劇中では、阪神優勝、つくば万博というビッグイベントだけでなく、購買の限定パン奪取、RCサクセションの曲が入ったカセットテープの貸し借り、忌野清志郎への賛辞、テレフォンカード、ビックリマンチョコなどといった当時の学生生活のディティールをみごとに再現。観客それぞれの笑いのツボは違ったようだが、あまりにリアルでコミカルな演技に、何度も思わず笑わされた。
 
しかし、その一方で、本作品には一貫した重いテーマが描かれている。30年前、世界のトップに立つ(予定の)男・サバが率いるバンドは、文化祭での演奏を禁止され、学校には無許可で屋上ライブを計画する。ところが、予期せぬ豪雨が襲い、1曲も演奏できないまま中止に追い込まれた。そればかりか、雨に濡れたレンタル機材を弁償するため、バンドは高校生には不釣り合いな金額の借金を背負い大きな挫折を味わった。
 
担任だったサンゴが、忘れかけていた自分の夢「ワールドカップで日本を優勝させる」ことに再挑戦するために学校を辞めると告げた際、サバにこう尋ねた「教えてくれ。お前にとって、トップに立つって何だったんだ」。即答できないサバに対し、サンゴは「宿題だ」と言い残していった。
――このセリフは、私の心にも突き刺さった。
 
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それから30年後の2015年、サバは宿題の答えを見出せないまま、母校の教師(サバエ)になっていた。入学式をサボっていた生徒トビウオと教師サバエは、屋上で出会い、その後も屋上で微妙な会話を絡め、知らず知らずのうちに互いに影響し合う仲となる。トビウオは、バスケ部と掛け持ちで入部した天文部の部長と副部長が開発したロケットベルトのパイロットを務めるはずだったが、屋上からの飛行テストを実施する日に、仲たがいをして、カッとなってロケットベルトを壊してしまう。その事件がきっかけで、天文部は活動休止状態になった。悔やんだトビウオは自力でロケットベルトの修理を進め、屋上での飛行に再チャレンジする日を迎えた。メカニック担当の副部長のクジが現れ、ロケットベルトの最終チェックを始めた。
 
一方、サバエも昔からのバンド仲間を呼び寄せて機材を運び込み、屋上ライブにリベンジする準備を整えていた。サバエはトビウオにこう言った――「お前を見ていて、俺、結構あきらめが早いんだなって思った。ワールドカップに日本が初めて出場した時、あいつら執念深いなって思ったんだ。一度や二度コケたくらいじゃあきらめない。そういう執念深さ、いいよね。」「俺はいま、ちっぽけな自分を許す。トップに立つっていうことは、他の誰かが決めることじゃない。俺が決めることだ。俺は俺のために、お前らの歌をうたってやる。これから、こいつが自分の我がままで空を飛ぶ。俺は、俺のために、こいつのわがままを全力で応援する。俺は、ちっぽけなこいつに、宿題の答えを教えてもらった。全校生徒諸君、お前らの夢はなんだ。宿題だぜ。ルーフトップ・コンサート、スタート!」30年前に演奏できなかった1曲目「小さな奇跡」がエネルギッシュに演奏されるなか、トビウオは、部長のイワシタ不在のまま、屋上から空を飛んだ。
 
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終演後、客席を後にする観客の表情は、何ともさわやかだった。女性客の占める割合が高かったが、ぜひ、男性にも観てもらいたい内容だった。公演を収録したDVDが8月に発売予定で、ハートブレイカーズの公式サイト内にて予約受付中。最後にひと言。取材日の5月2日土曜日は、いみじくも忌野清志郎の命日だった。心地よい風が吹く中、私は何ともいいようのない清々しい気持ちで帰宅の途についたのだった。

スーパーエンタープライズ DVD予約受付中!
http://www.tokyoheartbreakers.com/shop/view.php
◆東京ハートブレイカーズ 公式サイト
http://www.tokyoheartbreakers.com/
 
 
◆スーパーエンタープライズ
脚本・演出
黒澤世莉[時間堂]
 
出 演
岡田達也[キャラメルボックス]
みのすけ[ナイロン100℃]
山崎彬[悪い芝居]
西井幸人
萩野崇
西山宏幸[ブルドッキングヘッドロック]
小多田直樹[キャラメルボックス]
永嶋柊吾
石川よしひろ
首藤健祐


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