演奏

TEXT:下村祥子、羽月えり

本誌BEEASTのレポートでもおなじみ、東京ハートブレイカーズの9月公演が吉祥寺STAR PINE’S CAFEにて行われた。今回は「グレイテストヒッツ+」ということで、 過去に上演した短編の中からピックアップしたキラー・チューン2作品に、新作を加えたベスト・ヒッツ・オムニバスという内容だ。今回は本誌の女性ライター2名それぞれの視点から、東京ハートブレイカーズの魅力をレポートしたい。

 


 


 


まずはライター・下村がレポートする。吉祥寺にあるSTAR PINE’S CAFEは、わたしにとってはライブハウスとしておなじみの場所だけど、ステージをぐるっと囲むように2階席があるオシャレな吹き抜けの造りは、なるほど小さな劇場みたいだ。今回の公演は、東京ハートブレイカーズの過去に上演した短編作品に新作を加えた、音楽で言うところのベストアルバム、つまりは『グレイテストヒッツ+』というわけで、彼らのキラーチューン満載の観劇レポートをお届けする。
 
会場に足を踏み入れると、開演を前にフロアのテーブルはほぼ満席で、お客さんはアルコールに、サンドイッチ、おつまみなどを楽しんでいる。ゆったりとした程好いカンジ。ミュージシャンとしても活躍する首藤健祐が旗揚げした東京ハートブレイカーズは、演劇とロックのクロスオーバーが大きな魅力だが、見渡した客席に演劇ファンとロックファンの垣根は全く無さそうだった。

 


 


 


静かに暗転した舞台に照明が当たると、スーツ姿の男性が二人。どうやらそこは社長室らしく、陰険な口調の社長(首藤健祐)が、会社に大きな損失を与えた部下(小林健一)の行動をなじり、土下座をさせているシーンから始まった。…もしかして、かなりダークな展開のストーリーが始まるのだろうかと身構えた矢先、強引なセールスマンのごとく押しの強い、独特な雰囲気の男性(森下亮)がアタッシュケースを抱えて、社長室に入ってきた。「次にこの部屋に入ってくる人物を15分の間に3回笑わせる事ができたら5千万円を支払う」という実験を社長に持ちかける、という予想外の展開へ。そこでドラマは一旦中断し、束の間のインターバルの後、舞台では次の作品『一番の誕生日!』が始まった。病院の分娩室の前の待合室に集まったかつての同級生三人は、父親になりたい男(河野まさと)と父親になりたくない男(小林健一)と父親な男(森下亮)。彼らが出産を巡ってのそれぞれの立場や想いを吐き出すうちに、観ているこちら側も不安や苛立ちの入り混じった登場人物たちの緊張感から解き放たれ、次第にクスっとしたり、ゲラゲラ笑ったり。そのうち「ちょっと電話してくる」とケータイを耳にあてたまま客席へ降りたり、また舞台に戻っていったりする俳優陣の行動に、この物語が自分たちの実世界と地続きになっているように錯覚してきた。

 


 


 


そしてさらに、地続きのような展開へ。前の作品が終わった舞台に「あぁもう、片づけてないんだから」とぶつぶつと文句を言いながら河野まさとが登場、地味に自らセットチェンジを始めている。すぐに森下亮小林健一もやってくるが、おしゃべりばかりでちっとも進まない。…これもお芝居なのかな?と首をかしげて観ていると、おもむろにワタナベマモルがエレキギターを持ってステージへ。役者の三人がはけると、そのままギター一本の弾き語りライブがスタート!あまりの空気感の違いに最初は戸惑ったけど、STAR PINE’S CAFEがいつものライブハウスに見えてくるまで、それほど時間はかからなかった。マモル&ザ・デイビス/グレイトリッチーズのフロントマン、ワタナベマモルの歌声が、直にアンプにつないだエレキギターをかきならす音と共に会場に響く。彼が叫ぶ「俺はロックンロールしかできないんだ!だから爆発するぜ!」の言葉が印象的だ。3曲ほど弾き語りで会場を盛り上げると、ステージは再び芝居の舞台へと戻った。

 


 


 


さてここからはライター・羽月がお伝えする。心地良い潤滑油として心に響くワタナベマモルのライブ後は、「言い方講座」というお笑いのような作品がはじまった。4人の役者が組み合わせを変えて、役柄を変えて、一作品につき3人が舞台に現れる。普通の言葉を面白く言うという講座でシンプルながらも爆笑!
 
そして冒頭の「15分間に3回笑わせると5千万円」の続きがスタート。傲慢な社長が短時間で変わっていく展開ぶりには人間臭さを感じ、5千万円というお金を目の当たりにしたときに人はどんなことでもできてしまうんだなとしみじみ納得。人間のいやらしい部分をコミカルに表現していて面白かった。

 


 


 


照明がパッと切り変わると、勢いよくワタナベマモル首藤健祐が登場!再びライブシーンだ。歌を熱唱というよりも音楽に合わせて言葉を読むように発しているリーディング形式のライブで新鮮!ワタナベマモルの存在感の強さも、場をしっかりと締める。
 
舞台は終盤。「忘れ物管理センター」が始まった。忘れ物を預かってくれる場所に行くと挙動不審な男がいて、彼のなくしたものをなかなか見つけられないと係員が言うのだが、一体彼は何をなくしたんだろうとドキドキ。形ある物以外にもなくしてしまった”色んなもの”がそこには届けられていることが後にわかる。忙しい現代社会への風刺のようにも思えるその内容にはハッとさせられた。カーテンコールはキャスト全員がステージに揃ってワタナベマモルのギターに合わせて歌を披露。一人ずつ歌うパートもあり、芝居と違った素の表情は緊張感さえ含まれているようで、微笑ましい。最後まで新鮮で飽きさせず充実した舞台だった。

 


 


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~鑑賞後記~
・ショートショートのオムニバス形式だが、間に歌やお笑いやトークが入っても全体の流れがあり、作品としてのまとまりを強く感じた。その構成が斬新で非常に心に残る舞台だった。内容も日常で起こり得ることをメインにしており、ハッとさせられたり笑ったりグッと来たり、合間に歌があったりでかなり面白く、普通の舞台とはだいぶ違うため新しい印象を受けた。(羽月)
 
・東京ハートブレイカーズのハートウォーミングな舞台を観た帰り道、井の頭線に乗っていろんな場面を思い返しながら到着した終点の渋谷駅、その雑踏の中で、お財布を落とした人や、それを拾って声をかけている人たち、すべての人々の行動が舞台のお芝居みたいに見えてきて、なんだか愛おしくなってくるから不思議だ。(下村)

 
◆好きさ★ 2nd LIVE!
 
【日付】2012年11月10日(土)
【時間】18:00 open 19:00 start
【会場】六本木BeeHive
http://live-beehive.com/index.php
 
【出演】
首藤健祐(Vocal)
石川よしひろ(Guitar & Vocal)
ジャック・伝ヨール(Bass)
平野勲人(Drums)
 
【チケット】
9/29(土)AM10:00~ 発売中
東京ハートブレイカーズチケットボックス
 
◆東京ハートブレイカーズ公式サイト
http://www.tokyoheartbreakers.com/

◆『グレイテストヒッツ+』
脚本:
後藤ひろひと岡部尚子
脚本/演出:
諸岡立身
出演:
森下亮
河野まさと
小林健一
首藤健祐

ライブパフォーマンス:
ワタナベマモル
【会場】吉祥寺スターパインズカフェ
http://www.mandala.gr.jp/spc.html

 
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