演奏

TEXT & PHOTO :桜坂秋太郎

「人類滅亡まであと3人」そんなキャッチフレーズが踊る『グッドモーニング、ビッグバン』。本公演は、主催する東京ハートブレイカーズのクリスマス特別企画。会場は解放感のある吹き抜けが特徴的な、吉祥寺STAR PINE’S CAFÉだ。クリスマス模様一色の吉祥寺駅前を横目に、夜なのに昼のように明るいヨドバシ吉祥寺を目指して歩く。明るさを利用して機材の確認をすると、STAR PINE’S CAFEの入口から、一気に階段を下りる。会場はほぼ10割、女性で占められている。



事前に『グッドモーニング、ビッグバン』の公演資料を見ていて、「Christmas Punch」と書いてあることが気になっていた。何が“Punch”なのだろうか。その回答を、会場で手にしたパンフレットの中に発見。出演者の座談会コーナーを読むと「フルーツポンチみたいな」「音楽と芝居とライブとクリスマスと色んなモノがごちゃまぜになってる感じ」とのことだ。なるほど、クリスマス・ポンチ。言われてみると納得だ。



登場人物は、サワダ首藤健祐東京ハートブレイカーズ代表)、ニッシー岡田達也演劇集団キャラメルボックス 所属)、カミヤ河野まさと劇団☆新感線 所属)、ウィンディー・フォークロア・コークロアジャック・伝ヨール黄金の手ジャンジャナル・ジンジェ[ジャドーズ] 所属)の4人。定刻と同時に、アコースティックギターの音色が聴こえてくる。どこか悲しげな哀愁的フレーズを、強めのピッキングでアグレッシブに表現している。



サワダニッシーが登場し、二人で野球をすることからストーリーが見えてくる。客席をも使った球拾いに会場が沸く。自分達以外の人類が滅びてしまったがために、毎日いかにして暇を潰すかを考えている設定がとても面白い。楽しみは、携帯電話のワンセグから流れてくるウィンディー・フォークロア・コークロアのギター音楽のみ。いつかウィンディー・フォークロア・コークロアへ会いに行くことが二人の夢になるが、実行に移さないサワダの気持ちがよく伝わってくる。



第三の男として、銃を手にしたカミヤが登場。スパゲッティの姿をした、敵のようで味方のような人間を囲んで、ストーリーは進む。ニッシーが実はウーパールーパーだったり、スパゲッティに知能が宿り、増殖することから人類滅亡が始まったという発想の斬新さが素敵だ。ウィンディー・フォークロア・コークロアは、ワンセグの中の憧れのギタリストという設定上、ストーリーは3人のキャストで進む。3人とも実力派の役者ゆえ、安定感が抜群。例えるなら、凄腕ミュージシャンのセッションを観ているかのようだ。



“超絶ハイテンション脱力系終末コメディ!”ということで、私は単純に笑える“お笑い”をイメージしていた。しかし、ストーリーの途中からそれは間違っていたことに気がつく。なぜなら、ふと涙が出てくるような、切ないメッセージがふんだんに散りばめられているからだ。誰も助けにこない状況に置かれた人間は、どのようなことを思い、何に苦しむのか、私にも多少そのような経験がある。それをこのストーリーは、うまく表現している。“希望”って本当に何なのだろう、そんなことが私の胸の奥から聞こえてくる。



爆弾の風を受けて犬に変化していくカミヤがきっかけとなり、サワダウィンディー・フォークロア・コークロアへ会いに行くことを決意する。そこに例え“希望”が無かったとしても。あきらめない、逃げない、サワダが変わっていく。前に進むことの意味を客席にぶつけてくる。心が震える!このライヴ感がたまらない。最後は、東京ハートブレイカーズの定番オリジナル・ナンバーを、サワダニッシーカミヤで交互に歌う。



終演後、本公演を主催した東京ハートブレイカーズ首藤健祐代表と話をする機会に恵まれ、しばし歓談。「今回の作品はあまりロック色は無かったと思いますが…」というコメントに、「いえ、十分ロックを感じました」と返す私。心が震えた『グッドモーニング、ビッグバン』は、間違いなくロックンロールだ。そう、観終わった後でよくわかるタイトルの“グッドモーニング、ビッグバン”は、新しい始まりへ向けたメッセージ。

東京ハートブレイカーズの次の公演は、『コルトガバメンツ -revisited-』が決まっている。こちらの舞台も見逃せない!公式サイトを要チェックだ!

◆東京ハートブレイカーズ 公式サイト
http://www.tokyoheartbreakers.com/

◆インフォメーション

東京ハートブレイカーズ
『コルトガバメンツ -revisited-』

2012年02月29日(水)~03月03日(土)
【南青山】MANDALA

2012年03月10日(土)
【大 阪】amHALL