演奏

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TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

遠藤ミチロウBAKI。私はこの組み合わせのライブを知った時、「これをBEEASTが取材しないで、どこのメディアがヤルんだ!」と、血がたぎった。1980年代にTHE STALINGASTUNKの洗礼を受けたロックジャンキーにとっては、たまらないカップリングだ。ロック、そしてロック雑誌がまだ熱かったあの時代。日本のロックが一つのピークをむかえた1980年代、そのど真ん中でシーンに大きな影響を与えたカリスマボーカリスト同士の共演。
 
THE STALINのステージは、友人に連れられてはるか昔、新宿LOFTや後楽園ホールへ観に行ったことを覚えている。ハンマーで頭を殴られたかのような、とてつもない威力で、私のロックの価値観をぶち壊してくれたバンドだ。1985年、今から30年前。ライブハウスに通い詰めていた私は、ライブ仲間から衝撃的な話を聞いた。遠藤ミチロウ率いるTHE STALINの解散。そしてTHE STALIN が解散した1985年に、BAKIGASTUNKでの本格的な活動に入った。
 
GASTUNKは、メンバー全員の演奏力と圧倒的な音圧で、観る者の度肝を抜いたステージが評判となり、短期間で知名度が急上昇。この頃から、ロックを細分化してジャンル分け(※※系など)をする人が増えてきたのだが、それをまるであざ笑うかのように、GASTUNKは強烈なオリジナリティでシーンを駆け抜けた。GASTUNKのファン、リスペクトを公言するミュージシャンは、多岐にわたっている。
 
2015年、遠藤ミチロウはアコースティックソロとバンドM.J.Qを中心に活動している。BAKIは、MOSQUITO SPIRALと復活したGASTUNK、そしてアコースティックソロを中心に活動している。カリスマボーカリストは、今なおロック最前線で歌い続けている。今夜の会場は、碑文谷APIA40。東急東横線の学芸大学から、目黒通りへ向かう。開場より少しまえに到着すると、すでに多くのファンが列をなす。そう、今夜はソールドアウトなのだ。特別な夜になる事を、誰もが感じているようだ。
 

遠藤ミチロウ×BAKI ダイジェスト映像

 

1 BAKI

 

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ダブルのライダーズジャケットを着こんだBAKIが、アコースティックギターを手に、ステージへ登場する。アコースティックライブは、温かな拍手でアーティストが登場するケースが多いが、カリスマBAKIのオーラに飲みこまれた会場は、静かに開演を待つことしかできない。MOSQUITO SPIRALの5thアルバム『LIGHT ON SHADE』3曲目に収録された「AKARI」が始まる。“あかりを消してくれ!暗くて眠れない!”と歌うBAKIの野太い声は、バンドサウンドの時よりも、一段と凄みを増したかのように伝わってくる。
 
BAKIのソロステージはお馴染みの「レモネード」へ。クリーンな声で、高音までよく伸びる。BAKIの個性、そして魅力はワイルドな歌声だけではなく、表現力がとても素晴らしい。短いMCから激しいコードストロークの「エスケープ」。BAKIのギターワークは、ギタリストのアンサンブルを考えたフレーズではなく、カリスマBAKIの歌を生かすためだけに考えられたフレーズだ。それが歌をより惹きたてている。そしてMOSQUITO SPIRALの5thアルバム7曲目「PRAY WITH FIRE」へ。BAKIの歌うメッセージが胸に突き刺さる。
 
そしてBAKIが歌いだしたのは、THE STALINの名曲「ワルシャワの幻想」。BAKIの声が、遠藤ミチロウの世界観を上手に表現する。リスペクトしている事が伝わってくるようだ。短い二回目のMCをはさみ、MOSQUITO SPIRALの4thアルバム『IN THE CROWD』 11曲目、「REBIRTH」へ。“願いはいつも!なにかが変ること!”BAKIの魂の叫びに、身体が金縛り状態になる。続いて優しいギターフレーズと歌声で「GONE WITH THE WIND」。一転して、MOSQUITO SPIRALの4thアルバム7曲目「DARKSIDE MOON」へ。アコースティックギターと歌声だけで、BAKIワールドを見事に表現する。
 
1曲単位で細かくチューニングをするBAKI。ここで長めのMCへ。昔、まだ本格的にバンド活動を始める前に、THE STALINを観たことなどが語られる。物悲しい曲調と歌詞が印象的な「エイオー」へ。そしてMOSQUITO SPIRALの2ndアルバム『MARBLES』10曲目、「SAVING GRACE」のイントロが流れてくる。BAKIの歌詞は、身体の中に溶け込むようなものが多い。曲が終わるとBAKIが時間を気にした。そろそろエンディングなのだろう。クライマックスに選ばれた曲は、GASTUNKの名曲「GERONIMO」。着席スタイルの会場だが、オーディエンスは腕を振り上げて歌う!Fight!ラストはBAKI流にアレンジした、世界のスタンダード「MY WAY」。自分の道を信じて、歌ってきたカリスマへ、会場から大きな拍手が送られる。
 

◆BAKI Official Twitter
https://twitter.com/bakimos
◆Setlist
M01. AKARI
M02. レモネード
M03. エスケープ
M04. PRAY WITH FIRE
M05. ワルシャワの幻想
M06. REBIRTH
M07. GONE WITH THE WIND
M08. DARKSIDE MOON
M09. エイオー
M10. SAVING GRACE
M11. GERONIMO
M12. MY WAY
2 遠藤ミチロウ

 

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ステージの照明が明るくなり、お馴染みのSE、THE DOORS「THE END」が流れる。遠藤ミチロウの登場だ。アコースティックギターのセッティングを終えると「Just like a boy」のイントロを静かに弾き、ゆっくりとステージがスタート。日本全国の街に出て、アコースティックソロ活動を長年続けてきた遠藤ミチロウの姿に、“まるで少年のように街に出よう”という歌は良く似合う。続いて福島のイベント(プロジェクトFUKUSHIMA!)用に書きおろされた「原発ブルース」。福島は二本松出身の遠藤ミチロウだからこそ、ストレートな歌詞を伝える事ができるのだろう。
 
福島は、東日本大震災の自信と津波の被害だけでなく、原発の放射能汚染という大きな問題を現在も抱えている。そして壊滅的な被害を受けた福島の沿岸部、浪江町で毎年開催されていた「浪江音楽祭」。今は会場を二本松へ移動して開催されている。その浪江町をテーマにした「NAMIE(浪江)」。“ここはどこなんだ!”と叫ぶ遠藤ミチロウの歌が、深く心にしみてくる。そして「オレのまわりは」へ。「原発ブルース」と同じく、福島のイベント用に書きおろされたナンバー。遠藤ミチロウの強い、強いメッセージが込められている。まさに、アンプラグド・パンク!
 
友川カズキのカバー「ワルツ」を静かにプレイした後は、「オデッセイ・1985・SEX」へ。遠藤ミチロウの凄さは、とても覚えにくいだろうと思われる言葉が、たくさん詰め込まれた歌詞を、間違えずに歌いきる事だと思う。これはプロでもなかなかできる事ではない。弾き語りステージの定番、譜面や歌詞カードをまったく使わないのも、ロックだ。そして優しい声で「冬のシャボン玉」へと繋ぐ。次は激しい「音泉ファック」。サビに合わせてオーディエンスの拳があがる。静と動をうまく組み合わせたセットリストで、再びしっとりと「アイウエオ」を歌い上げる。
 
本日のお礼、そして新譜の話を少しすると、本編最後のラストナンバー「天国の扉」へ。イントロの遠藤ミチロウの遠吠えのような叫び声で始まるこのナンバーは、何度聴いてもそのインパクトは衰える事がない。Bob Dylan の「Knockin’ on Heaven’s Door」は数多くのカバーが存在しているが、世界で一番メッセージが伝わる「天国の扉」だと思う。演奏が終わると、アンコールへ。遠藤ミチロウがジャンベを叩き、BAKIがアコースティックギターを弾く。BAKIの本編でも演奏されたTHE STALINの「ワルシャワの幻想」が始まる。交互に歌うというこのレア感がたまらない。つい、オーディエンスに混じって「乾杯!」と叫んでしまう。二度目のアンコールは、遠藤ミチロウ一人で「お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」を熱唱。30年前の衝動、初めてこの歌を聴いた日を思い出す。あらためて遠藤ミチロウの世界に、大きな影響を受けている自分に気がつく。
 

◆遠藤ミチロウ Official Website
http://apia-net.com/michiro/
◆Setlist
M01. Just like a boy
M02. 原発ブルース
M03. NAMIE(浪江)
M04. オレのまわりは
M05. ワルツ
M06. オデッセイ・1985・SEX
M07. 冬のシャボン玉
M08. 音泉ファック
M09. アイウエオ
M10. 天国の扉
M11. ワルシャワの幻想(encore1)with BAKI
M12. お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました(encore2)

99s
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新しいグッズを買い求めようと物販に並ぶ人、カリスマ同士の2マンの余韻にひたり、身動きできずに座る人、ドリンクを飲みながら、ライブの感想を楽しそうに話す人。終演後、特別な夜を共有した会場内に、様々な動きが見られる。年齢層は70~80年代にロックに染まった方が大半だろう。一般的には中高年と言われる属性だ。もう若くは無い。色々な事が人生に起きる。
 
遠藤ミチロウは昨年、病のために音楽活動を休止せざるを得ない状況になった。長年、ロック最前線で歌ってきたカリスマも、当たり前だが病には勝てない。中高年となってくれば、病気の一つや二つは何ら不思議ではない。そしていつか死ぬ。ひとりで死ぬのか?象のように隠れて死ぬのか?つまんない人生だと思って死ぬのか?それはわからない。ただ、ロックが好きで良かったと思いながら死ぬことは間違いないと思っている。
 
そう遠くない日、また大型の震災が日本を襲うかもしれないという恐怖を抱いているのは私だけではないだろう。国際社会の今、海外の問題へ日本の支援も必要だろうし、東京のオリンピックも悪くないと思う。しかし、日本には多くのやるべき事が目の前に積まれている。夢や希望が無ければ、つまらない人生なのは確かだが、夢や希望だけでは生きていかれない。
 
BEEASTでは、3.11後にスタートした社会派連載「Stand Up and Shout!~脱★無関心」において、ロックメディアとして真正面から取り組む姿勢を打ち出しているが、“まずは関心を持って考えよう!”という事を伝えている。今夜の二人のカリスマボーカリストも、真正面から取り組む事を姿勢として打ち出している。ロックの輪で、日本に生きて良かったと思えるような流れが作れたら最高だ。
 
会場を出ると、雨が降っている。機材が濡れないよう、コートの中に抱え込む。小走りに駅へ向かう途中、ふとBAKIの「MY WAY」がリフレインする。いい歳したオジサンが、傘もささずに背中を丸めて走っている。窓越しに見える滑稽なその姿。信じた道だから、ロックを愛してきた。耳を悪くして、演奏活動が出来なくなってから、私はBEEASTを創刊している。アーティストとはスタイルが違っても、ロックへの情熱の炎は消えていない。今回のカリスマボーカリスト共演をレポートを通じて、一人でも多くの心に、何かを残せたら幸いだ。

■遠藤ミチロウ INFORMATION
ニューアルバム『FUKUSHIMA』2015年4月29日発売
M01. オデッセイ・2014・SEX・福島
M02. 原発ブルース
M03. NAMIE(浪江)
M04. 新・新相馬盆唄
M05. STOP JAP 音頭
M06. ワルツ
M07. 大阪の荒野
M08. オレのまわりは
M09. 志田名音頭ドドスコ
M10. 三陸の幻想
M11. 放射能の海
M12. 冬のシャボン玉

 
新譜『FUKUSHIMA』& 詩集「膠原病院 – KO GEN BYO IN -」発売記念ライブ
2015年4月29日(水・祝)東京都 APIA40

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