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TEXT:熊崎太志 PHOTO:tue
読者の皆さんは、パンクロックという音楽に対して、どのような定義をされているでしょうか。「若者の体制への批判の象徴だ」、または「安全ピンのピアスにタトゥ、ツンツン頭のロックだ」など。共通するのは、メッセージ性の強い歌が多く、ファッション性が高いという事でしょうか。ファッショナブルなんて言い方をすると、誤解があるかもしれませんが、昔も今もパンクロックのバンドは、見た目がカッコいい=こだわりを持って魅せているのではないかと思います。 「お前ってパンクだね!」的な使い方をする人もいるかもしれません。音楽や芸術に限らず、人間の人生や性格を表現する言葉にさえなるのは、ロックミュージックの中でも、パンクロックだけかもしれません。それには何か理由があるのではないか、いつかその謎を解明したいと思っています。 私が自分なりに定義したのは、パンクとは「単純さへの回帰」である、ということです。言うなれば「3歳の頃の自分に対するアコガレ」であると。しばしばそれは、暴力的な表現にもなり得ます。「私は一生かけて、子どもになった」と言う画家ピカソは言わずもがな、「パンク」そのものだったのではないでしょうか。 2009年10月12日(月)の福岡はthe voodoo lounge。あの遠藤ミチロウと、あの中村達也のライブです。野暮な形容詞は不要といった大物アーティストですが、幸いなことに本番前後に、遠藤ミチロウとお話をする機会を得られました。スターリン時代の過激な伝説が強く耳に残っていた私は、正直「負けてなるものか!」という肩をガチガチにしての対面。しかし、遠藤ミチロウご本人は、驚くほど柔らかで丁寧な人でした。オンステージとオフでのギャップに驚くとともに、表現者の知性というものを考えさせられました。 音楽にレッテルを貼ることはナンセンスです。エレクトリックじゃないとロックじゃない!などと言う人が実在することは事実ですが、そんな批判は一度でも遠藤ミチロウのアコースティックスタイルのパフォーマンスを観れば、どこかへ消えてしまうことでしょう。ただひたすら心を打ち振るわせることしか、オーディエンスにはできないのではないかと思います。また、中村達也の暴力ビートと表している強烈なドラムプレイに対しては、砕けるほど腰を振ることしかできないかもしれません。 表現者、遠藤ミチロウが発信するメッセージとは何か、これはなかなか言葉にしにくいものがあります。遠藤ミチロウ詩集「真っ赤な死臭」のあとがきから引用すると、「ボクはいつまで歌い続けるんだろう、なんて普段はほとんど考えない。きっとこれからも、あんまり考えることはないだろうけど、ただ、『時間』は突然やってきて。竜巻のように、何もかも舞い上げて、サッと消えて行く、そんな悪戯が大好きだ。だから、ボクはステージに立つんだ」このフレーズは心に突き刺さります。 ギター、ベース、ドラムのロックバンドスタイルでパンクすることと、アコギ一本でパンクすることは、シンプルな分よりパンクなのかもしれません。スターリン以前の遠藤ミチロウのルーツが、フォーク畑であったことも、近年の活動に繋がるものがあるのでしょう。弦が切れるほどにかき鳴らすアコギの豊かな倍音の中に、遠藤ミチロウのマシンガンのような言葉が打ち込まれます。さらに呼吸をするほど自然に、中村達也のドラムが暴れます。この二人の発散するエネルギーは、目には見えない気という形で、大量放出。 「ああ、もう嫌だ!と思う事だけが こうして居られる力なのです」自らを鉢に閉じ込められた金魚に例えた、美しいフォークソング「カノン」からの一節ですが、普遍的不快感が、これほど美しい情景にこめられた歌があるでしょうか。私は82年生まれですので、ちょうどスターリン結成の2年後に生まれました。したがってスターリンや遠藤ミチロウの音楽を、残念なことにリアルタイムに聴く事ができませんでした。しかしこの日のオーディエンスの比率は私と同じ20代、それから30代以上が、ちょうど半々くらいのようです。 リラックスしたMCを挟みながら、息もつかない濃密な緊張感で曲をプレイして行きます。遠藤ミチロウの象徴主義的な、またはシュルレアリスム的な言葉の群れが、彼の声と身体を通して、生々しく会場を包みます。何か特別な形で、オーディエンスの身体に入り込んでいくような空気です。私自身も、「玉ねぎ畑」のイントロのテンションコードを耳にした瞬間、地平線まで広がる玉ねぎ畑の無数の玉ねぎの光景が、脳内を駆け巡り「もうどうにでもしてくれ!」という心の声が聞こえました。 パンク的な打撃、それは全身の力が抜けて、底のほうから込み上げるもの。アコギ一本とドラムのみで、ここまでパンクできるとは想像もしていませんでした。ここにあるのは、シンプルでストレートな音と、ストイックで複雑怪奇な言葉の、まさに芸術的なパンクです!
【遠藤ミチロウ 公式サイト】
http://apia-net.com/michiro/ 【インフォーメーション】
【セットリスト】
01.オデッセイ・2009・SEX ◆アンコール |