演奏

TEXT:児玉圭一 PHOTO:ヨコマキミヨ

Photo霧雨が空を舞う午後7時。ここは横浜CLUB SENSATION。開演前の店内は既にフルハウス。ステージ前に詰め掛けた人々から放たれる熱気がフロアーを満たしている。もうすぐライヴが始まる――決して見逃せないオーストラリアの鬼才ギタリストDeniz Tekのライヴが。
 
Deniz Tek――音楽雑誌『Australian Guitar Magazine』の特集「オーストラリアの最も偉大なギタリスト TOP50人」において堂々第7位にランキングされた伝説的なギタープレイヤー。60年代後期のロック文化の最前線であったミシガン州アナーバーで生まれ育った彼は、同郷の革命的な2大バンドMC5THE STOOGESに深く影響され、70年代初期に移り住んだシドニーで伝説のRADIO BIRDMANを結成。以後、MC5Dennis ThompsonTHE STOOGESRon Ahetonと組んだNew Race等でのバンド活動を経て、現在はソロアーティストとして活動中。2002年のDTK/MC5、2010年のIGGY & THE STOOGESの再結成ライヴにサポートギタリストとして尽力した事でも有名な彼は、ER外科医、パイロット、そして画家という顔を併せ持つ、正に鬼才という言葉が相応しい男。革命の気運に燃え盛っていた60年代“モーター・シティ”デトロイトの熱い息吹を21世紀の現在に伝え続けているDeniz Tekのライヴがもうすぐ始まる…。

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午後7時30分。今夜のオープニングを飾る、RAMONESをこよなく愛するスリーピースバンド、Hey Ho Let’s Go!渡辺信之(Vocal & Guitar)、ハリケーン☆サリー(Bass)、東川元則(Drums)の3名が登場。「We Love RAMONES!」という気迫を全身から放つ彼らがこの日プレイしたのは初期3部作『RAMONES』、『LEAVE HOME』、『ROCKET TO RUSSIA』からの選りすぐりのナンバー。「Rockaway beach」「Judy is a punk」、そして「Blitzkreig Bop」!RAMONES独自の疾走感とギター、ベース、ドラムのみで創り上げる『Wall of sound』を見事に再現したHey Ho Let’s Go!のライヴは名曲「Pinhead」の熱狂と共に華々しく終了。
 
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◆Hey Ho Let’s Go! 公式サイト
http://vip-69.com/hhlg/index.html

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2バンド目はMOSQUITO SPIRAL。メンバーはBAKI(Vocal)、KASUGA(Guitar)、KYO(Drums)、ANAI NINKICHI(Bass)。日本のロックを代表する錚々たる名バンドを経て結集した彼らが放つのはガレージサイケ、パンク、プログレのエッセンスを呑みこんだカオス感溢れるスリリングなロックンロール。1曲目の「THREE SIXTY」から強烈な音の磁力が並み居るオーディエンスを支配していく様は圧巻の一言。耳をつんざく爆音を切り裂くように叫ぶ、類い稀なカリスマ性を備えるBAKIのパフォーマンスと、磐石の安定力を誇るダイナミックなバンドサウンドは、ラスト曲「SAVING GRACE」でピークを迎え、ロックンロールの狂宴は早くも最高潮に達する。
 
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◆MOSQUITO SPIRAL 公式サイト
http://mosquitospiral.com/

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三番手に登場するのはSENSATIONS。今宵の会場、The CLUB SENSATIONの共同オーナーであるMichiaki(Bass)、Griko(Drums)らによるツインギター・5人編成。しばしの調弦の後、聴衆の五感を異空間への旅へと誘うトリッピーなジャムがスタート。唸りをあげるツインギター。百戦錬磨のリズムセクションMichiakiGrikoが生み出す鉄壁のグルーヴが場内を席捲。聴覚と視覚を歪めるサイケデリックな音の波が高いしぶきを上げて聴衆に襲いかかっていく。そして、いつしか曲はThe Stoogesの「I wanna be your dog」へ突入。Sour JazzMr.Ratboyがヴォーカルで参加したデトロイトロック代表曲の熱演の余韻と共にSENSATIONSのライヴは幕を閉じた。
 
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◆The CLUB SENSATION(ライブハウス) 公式サイト
http://sensation-jp.com/

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そして遂にDeniz Tek & The Badmenがステージにその姿を現す時がやってきた。静かな威厳を放ちながらギターの調子を整えるDeniz Tek(Vocal & Guitar)。それを見守るArt(Bass)とSteve(Drums)の2人は準備万端だ。3ハムバッカーのオリジナルソリッドギターから鳴り響くブルージーなギターイントロダクションからライヴはスタート。オープニングはFleetwood Macの「Oh Well」。Deniz Tekの音楽的ルーツを偲ばせる興味深い選曲だ。”The Badmen“が繰り出す破壊的なビートを切り裂くようにうねるDeniz Tekのソリッドなギタープレイが目の前で展開されていく。
 
2曲目はソロアルバム『Glass Eye World』からの疾走するパンキッシュな「2-Pam」。それに続くのはNew Raceの「Smith and Wesson blues」!RADIO BIRDMANMC5THE STOOGESのタッグチームによる最強のガレージパンクナンバーが惜しげもなく披露され、オーディエンスは大熱狂。そして次なる曲は1977年にリリースされたRADIO BIRDMANのファーストアルバム『Radios Appear』から「Murder City Nights」。血沸き肉踊るパワークランチャー・ナンバーの熱演に呼応してステージ前はモッシュ状態。熱狂のライヴはまだ始まったばかりだ。
 
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「Thank you very much. So much coming here tonight. ドウモアリガトウゴザイマス」というDeniz Tekのの真摯なMCの後でプレイされたのは、RADIO BIRDMANの「Love Kills」。轟音ギターを掻き鳴らしながら歌詞を一語一語噛み締めるように歌うDeniz Tekの。クールなアクションをキメながら歯切れの良いフレーズでバンドを支えるベースマンArt。Tシャツを脱ぎ捨て、上半身を覆った見事なタトゥーを汗で濡らしながら強烈なビートを繰り出すSteve。スネアに叩きつけられたドラムスティックの先端の木片が飛び散るのが見えた。こんな強烈なドラマーを間近で見るのは生まれて初めてだ。
 
ライヴ中盤は「Pine Box」、「Fate, not amenable to change」、「Twilight of the modern age」そして「Can of soup」と最新アルバム『DETROIT』からの曲が続く。そして再び披露されるRADIO BIRDMANナンバーは「Hand of law」。耳を弄するフィードバックノイズ、地鳴りのように響く強力な重低音が渾然一体となってオーディエンスを奮わせる。
 
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ライヴはいつしか後半戦へ突入。ドラマチックなギターイントロから始まったのは「Perfect world」。硬質なリリシズムを湛えたRADIO BIRDMANナンバーがハードにドライヴィングしていく。次なる曲もRADIO BIRDMANのセカンドアルバム『Living Eye』からの「Alone in the endzone」。続いて披露されたのは不滅の英国パンクバンドThe Vibratorsのカバー「Whip and furs」。高揚感溢れる圧倒的なパワーコードの一斉射撃。熱狂的なリアクションに会心の笑みを浮かべるDeniz Tek & The Badmen
 
そして本編ラストナンバーは、アルバム『Detroit』のクロージング・ナンバーである「I’m all right」。Iggy & The Stoogesを彷彿させるガレージ・パンクはいつしか60年代の伝説的なテキサス・ガレージ・サイケバンド13th Floor Elevatorsの「Your gonna miss me」へとなだれ込む。呪術的なギターリフを掻き鳴らしながら叫ぶDeniz Tek。荒れ狂うフィードバックノイズの奔流とオーディエンスの叫びが渦巻く中、アンコール2曲「Aloha Steve and Dannno」、「What gives」が凄まじい熱量を持って披露され、Deniz Tek & The Badmenの狂熱のライヴは終了の時を迎えた。
 
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◆セットリスト
M01. Oh well
M02. 2-Pam
M03. Smith and Wesson blues
M04. Murder city nights
M05. Love kills
M06. Pine box
M07. Fate, not amenable to change
M08. Twilight of the modern age
M09. Can of soup
M10. Hand of law
M11. Perfect world
M12. Alone in the endzone
M13. Whips and furs
M14. I’m all right~You are gonna miss me
-encore-
E01. What gives
E02. Aloha Steve and Dannno
◆Deniz Tek 公式サイト
http://www.deniztek.com/
◆Deniz Tek facebookページ
https://www.facebook.com/DenizTekOfficial
 
de99

 
インタビュー記事(参照:ROCK ATTENTION 27 ~Deniz Tek~)でも触れたが、長いロックの歴史を振り返ってみてもDeniz Tekのような多面性を持った人物は見当たらない。
 
彼は文武両道を地で行く人だ。ロックンロールに目覚めてギタリストとして生きていくことを目指しながらも、さらなる可能性を求めてオーストラリアへ移住。医学とパイロット技術を学びながら、オーストラリアロックの雄RADIO BIRDMANを結成し、MC5のメンバーとIGGY POPから絶大な信頼を勝ち得ている男。オフステージではソフトな口調で話すジェントルマンだった彼の言葉を思い出してみよう。
 
「自分の好きな事を見つけろ。そしてそれをやるんだ。天職に就いている人は幸せなんだよ。殆どの人々は自分の可能性に気付いていないんだ。熱心に働いて、勤勉でいろ。でも同時に激しく遊ぶんだ。がむしゃらにやれば僕等は何だって出来るんだよ……」Deniz Tekの自己探求の旅はロックンロールそのものだ。

◆関連記事
【特集】ROCK ATTENTION 27 ~Deniz Tek~
http://www.beeast69.com/feature/89653