演奏

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:大竹実華

Photo本誌で何度か取り上げてきたロックバンド、The nonnon。ガールズロックの最前線で取材を続けたジャーナリストとして、一目置くバンドだ。
 
2012年1月に結成し、2013年からギター&ボーカルとドラムの2ピース体制になり、2016年9月には地元千葉・稲毛海岸野外音楽堂でワンマンライブを敢行。2017年に入ってからはユーノ(現・ゆーの)、sjueとの2マンライブや、『SUMMER SONIC 2017 GREENFIELD』への出演など活動の幅を広げ、このまま突っ走るのかと思われた矢先、ナオ(Drums)の脱退が発表され、9月16日のステージをもって西脇友美(Vocal & Guitar)1人体制になった。
 
3ピースから2ピース、そして1ピースへ(なんていう表現があるのだろうか)。「背水の陣」だとか「試練」だとか、周囲から好きなように言われるだろう。それでもThe nonnonの活動は止まらなかった。西脇友美一人体制になって、最初に立つステージは、千葉・名古屋・東京の3都市で行う『THREE POINT ONEMAN TOUR』の初日公演だ。
 
The nonnon メンバー:
西脇友美(Vocal & Guitar)
 

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切ないブルースハープ、次いでカントリー調のアコギが流れる。「わたしは今日まで生きてみました」「時にはだれかの力をかりて」…オープニングのSEが吉田拓郎とは意外なセレクトだが、「わたしにはわたしの生き方がある」という歌詞の通り、その「今日までそして明日から」の生き様をしっかりとステージで表現しようという決意表明なのだろう。期待が高まる。
 
The nonnonです、よろしく」いつも通りの挨拶で演奏を始めた西脇友美。「私の世界名作劇場」から、一人アコギ弾き語りのステージがスタート。個人的に一人弾き語りのステージを観るのは久しぶりだが、歌声の温もりが増して、耳元に寄り添う優しさを感じる。1コーラス歌いきると、観客に手拍子を求める。アンニュイでキュートで、柔らかいボーカル。リズムの安定感も手伝い、一瞬にしてフロアに幸福感が溢れる。
 
続いて演奏するのは「ヘドロになりそう」。2016年1月リリース『OPeN』1曲目に収録し、その年のThe nonnonを象徴する曲としてラジオなど様々な場所で流れた曲だ。
 
ライブではその都度その都度異なるメッセージを添えながら「新しいアルバムの中で一番聴いてほしい曲」と告げ演奏していた。「スキ、キライ スキ、キライ…」というサビのコーラスが印象的なこの曲だが、友美は一人何役も演じる役者のように、時に弱弱しく、時に気だるそうに、時に声を震わせ、時に突き刺すように、くるりくるりと歌声を変え、都度表情を変える。覚悟の年の、代表曲。
 
これを早々に持ってきたのはどういう意味があるのだろう…なんて考えるのは野暮だな。そう思いながら耳を委ねる。「スキ、キライ スキ、キライ…」徐々にボリュームが上がり、パッと突き放すように音が消える。人の感情は何と複雑で、そして儚いものだろうか。寄り添う弦の音色も表情豊かで、1曲の中に濃厚なドラマがある。

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軽いチューニングを挟んですぐに3曲目「エンドロール」へ。同アルバム『OPeN』の最終トラックだ。小気味良いギターのカッティングに、伸びやかで力強いボーカルが対比される。2ピースで歩む覚悟を作品にし、サポートメンバーを入れずにツアーに出た『OPeN』の1年を、まさかこの7分で総括してくるとは。立ち止まって感傷に浸る余裕など見せまいということか。
 
4曲目、スローな「リビングルーム」を弾き終えた友美は溜めていた言葉を丁寧に表現し始める。「次の曲は…ノンノンはみんなをもっと色んなところに連れ出して、連れまわしたいぞっていう気持ちで作った曲なんです」そう言い終え、アコギのシールドを抜くと「みんなと同じ目線で歌います!」と宣言。手拍子を求めつつ、一歩ステージから客席へ。マイクもアンプも一切使わずに、地声生音だけで「ルミナリエ」を演奏。
 
観客が左右に割れてフロアのセンターに花道が作られると、モーゼと化した友美が左右隅々をゆっくり見渡し、そしてフロアに降り立つ。中央から後方まで全員と目を合わせながら等身大の弾き語りで、会場を一つにする。「一人も取り残さない、少しでも長い時間、一緒に連れて行く」。これがThe nonnon流のロックスターへの歩みだ。みんなのリーダーとして、一歩一歩、確実にみんなを牽引していく。大きな拍手に送られて第一部の幕が閉じる。

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しばしの暗転を挟んで第二部の開幕。サポートメンバーの高田歩(Guitar/高高- takataka-)、クロキアツロウ(Bass/ハラフロムヘル)、荒内塁(Drums)に続いて、The nonnon友美は衣装替えしバット片手に登場。野球というより、プロレスが始まりそうな雰囲気の持ち方だ。
 
「ゆらゆらしてる…」歌詞とは対照的に、ドラムとベースの3カウントが明瞭に、心地よく耳元に風を起こす。先ごろ配信リリースされた新曲「あみだくじ」から後半戦スタート。4ピースで、ボーカルの背後にドラムがいる光景はThe nonnonのステージとしては新鮮だ。
 
「死んだ方がマシさ」「天国か、はたまた地獄か」そんな歌詞が決して暗くはならず、軽妙なメロディに乗せて、でもズシリと響く。この言葉とメロディの融合はThe nonnon独自だ。サビ前の3カウントにはギターも加わり、そしてフルパワーのボーカル。「どこでも行けるよ!どれだって当たり!」そんな言葉に勇気づけられる。

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加速する勢いそのままに軽快なロックナンバー「メロンソーダ」へ。友美はギターを置き、マイクを手にステージを縦横。自然と沸き起こる手拍子に乗せて踊る。
 
そういえば2ピース時代はサビでこれでもかとギターをかき鳴らす様が印象的だったが、ギターを置いた友美はとても自由に、表情豊かに、曲の世界観を全身で表現する。目の動き、手の仕草。ボーカリストとしての、自身の歌声に装飾をする”全身を使った表現”。ギターボーカルのバンドではどうしてもギターとマイクスタンドの制約を受けてしまって、それが「抵抗」「打破」を示すロックサウンドに融合することはあるのだが、ギターから自由になることでボーカリストとしての表現の幅は格段に広がる。これは4ピースになっての新発見だ。
 
そして歌姫・友美はこう言う。「これまでさんざん今日まで『私がThe nonnonだ。』言うてきましたけど…みんなも今日はノンノンだ!ていうか一人じゃバンドできない。みんながいないと私、ノンノンやれないんだよ!みんな、一緒に歌おう!」
 
タイトさ、力強さのあるドラム。リードフレーズをくっきりはっきり弾くギター。リズムをしっかり支えるベース。結成当初からのThe nonnonの代表曲「まわる」2017年バージョンは、メロディの秀逸さがしっかりと届く、強さあふれる進化を遂げていた。続く9曲目「ジェリーフィッシュ」も、より遠くまで届くエモーショナルなサウンドに、妖艶なボーカル。”一歩前へ”を強く感じる。

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「みんなにとっての大事な人。当たり前にいるようだけど、それって本当は当たり前じゃなく…。必ずお別れの日はやって来る」「でもまた絶対会えるって私は信じてるんです。一方的なんだけど、また会おうねって思って自分の人生を一生懸命生きたら、必ず会えると思って」時に声を震わせながら、力いっぱい曲へ込めた思いを語る友美。10曲目「ひとりゆびきり」、素朴な音の構成で、詩がスッと心に入る。間奏で友美はその全力の思いをギターにぶつける。シンプルに熱い曲。
 
長い拍手のあと、いったん静寂が作られる。11曲目はバラード曲「Chelsea」、12曲目はギターフレーズがクールな「終わらないタスク」。3曲続けて、「僕がいなくなるから どうかいなくならないで」(「ひとりゆびきり」)、「あの日無くした大事なものと 引き換えにして 君が欲しかったな。」(「Chelsea」)、「ありがとうって言ったんだ 悲しそうに言ったんだ それはそれはまるで さよならと言うように」(「終わらないタスク」)…歌詞に心臓をギュッと絞られる。

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「みんな、しょんぼりしてないかい? …敢えてそうしてみました、Yeah!」そうおどけて見せる友美。なんだか彼女の手の内に翻弄された気にもなるが、この日ここに集まった多くの観客は、ポップでパワフルでハッピーなドラマー、ナオのことに思いを馳せ、ナオの叩く「まわる」を思い出していたに違いない。しんみりした気持ちを引きずるくらいなら、その涙を全て流し出して、そして笑顔で前に進まねば。「今の私を見てくれ、そしてこれからついてきてほしいです。みんなを笑わせるのが趣味なんです。時間は限られてると思うけど、できるだけ長く一緒にいれたらな。この出会いを大事に…」
 
「私たちは出会うべくして 出会えたと思うんだ 私たちは成るべくして 別れの日を迎えた」…今このタイミングで、一番聴きたかった曲。ナオとの最後のステージで最後に演奏した曲。「くもりのち晴れ」。”今の私を見てくれ”というメッセージそのままに、高音を重ねるギターも、スパークするシンバルも、アンニュイと透明の共存した、まさに”くもりのち晴れ”な友美のボーカルも、前向きにステージから客席を照らす。光を浴びて、客席の拍手もさらに大きくなる。
 
終盤はアップテンポな「転校生」、「Nuts dance」、「パパパ」と畳みかける。楽しさ全開の「転校生」は友美の歌声が今日一キュート。かと思えば「Nuts dance」ではギターを置いて「ついてこれるか!千葉LOOK行けますか?ついてこーい!」挑発するようなマイクパフォーマンス。そして客席中央にスペースを作らせると、モーゼ友美がフロアに再降臨。観客と入り混じって熱唱!そのまま「パパパ」で大合唱。「手を取り前だけ見ていこうよ」…自然体、だけど何か憑依したみたい。みんなを笑顔にすると、最後はカントリー調の「5冊目の日誌」で映画のエンドロールのように、ステージを終幕する。

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4ピースになり、メロディメーカー友美の才能が改めて浮き彫りになった今宵のステージ。アンコールでは再び友美が一人でアコギを手に登場すると、”大人になるにつれて白黒はっきりさせず曖昧にぼかす世の中に対する疑問を歌にした”という新曲と、門出に向けてのメッセージソング「ハネムーン」を披露。
 
The nonnonのライブに来ると、背中を押される。前に進める。」そんなファンがこれからまた増えていくのだろう。数々のビッグネームが羽ばたいていったここ千葉LOOKで、ネクストステージを予感させる一夜となった。
 
「幸せはここにある だなんて平和ボケだよな この景色さえもいつか 当たり前じゃなくなるよ」

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◆セットリスト
-Acoustic-
M01. 私の世界名作劇場
M02. ヘドロになりそう
M03. エンドロール
M04. リビングルーム
M05. ルミナリエ
-Band-
M06. あみだくじ
M07. メロンソーダ
M08. まわる
M09. ジェリーフィッシュ
M10. ひとりゆびきり
M11. Chelsea
M12. 終わらないタスク
M13. くもりのち晴れ
M14. 転校生
M15. Nuts dance
M16. パパパ
M17. 5冊目の日誌
-encore-
M18. (新曲)
M19. ハネムーン
◆The nonnon 公式サイト
http://the-nonnon.com/
 
◆インフォメーション
・2017年12月19日(火)【千葉】佐倉Sound Stream sakura
・2017年12月20日(水)【愛知】名古屋APPOLO BASE
・2017年12月30日(土)【東京】下北沢CLUB251

 
The nonnon THREE POINT ONEMAN TOUR
・2018年01月20日(土)【愛知】名古屋sunset BLUE
・2018年01月27日(土)【東京】下北沢440

 
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