クリスマスも近づく今日この頃、町中に流れるクリスマスソングの歌詞の中には、「クリスマス・キャロル」という言葉が飛び交う。しかし意外にも「クリスマス・キャロル」が何かを理解している者は、少ないのではないだろうか？「クリスマスを祝う賛美歌、祝歌」（大辞林 第三版より）という定義がある。単なる一つのお祭りイベント的な日ととらえられがちな現代のクリスマスでは、そんな重要な意味が忘れられがちにも見える。その意を改めて考えこの日を迎えれば、また違ったクリスマスという日を感じることも出来るのではないだろうか。
 
今年3月に、Kelly SIMONZ’s BRIND FAITH名義のメジャーデビューアルバム「BRIND FAITH」をリリースしたKelly SIMONZ。そのアルバムに続き、以前BEEASTの記事『ROCK ATTENTION 33　～Kelly SIMONZ～』でもその発売をにおわせていた、彼のクリスマスアルバム『Holly Winte』が、リリースされた。
 
本作は完全なソロという作品形態である上に、クリスマスアルバムというフォーマットを持ったユニークなものだ。冒頭に語った「クリスマス・キャロル」そしてクリスマスソングに対して、彼がこの作品でどのようなアプローチを試みているのか？非常に興味深いこのアルバムを今回は紹介しよう。
 
このアルバムの印象は、おそらくKelly SIMONZのサウンドに触れたことのない人の目からすれば、「良質なクリスマスアルバム」と映るのではないだろうか。「ロックアーティストが作ったアルバム」「ギタリストが作ったアルバム」ということで、作品に対して特殊な見方があるかもしれない。しかし、それを差し引いてもクリスマスという一つの時期を過ごすにための充実したサウンドがあふれている。
 
オーケストレーションの中にロックなテイストを存分に盛り込んだ「Joy To The World」のゴージャスなサウンドでアルバムは幕を開け、クリスマスキャロルと、クリスマスを髣髴とさせる名曲たちでアルバムは展開していく。クリスマスの華やかでにぎやかな面と、神聖で静かな面をバランス良く組み合わせた構成は、グルーブ感も十分。自然なBGMとしてこれ以上ないくらいにこの日の雰囲気に溶け込むサウンド。かつそこには選曲、アレンジなど練りに練られた深い思惑が感じられる。さらにそこには、インストアルバムであるにもかかわらず、本来「クリスマスとはどのような日なのか」を深く考えイメージしたトライも見られる。
 
逆にKelly SIMONZのサウンドに一度でも触れたことのあるリスナーであれば、このサウンドには驚いてしまうかもしれない。特に彼の超絶プレーを存分に見せた、先述の『BRIND FAITH』を聴いたリスナーであれば、その落差に驚くかもしれない。しかし、注意深くそのサウンドに耳を傾ければ、その音楽的な思惑の深さに気付くことだろう。美しいメロディ、ハーモニーをオーケストラ、アコースティック、そしてロックサウンドそれぞれのアレンジで最大限に引き立てる技量は、ギタリストとしてというよりも、ミュージシャンとして、そしてアーティストとしての技量の高さを物語っている。
 
もちろんギターサウンドにも手抜かりはない。先述の『BRIND FAITH』と比較すれば「渋い」という印象もあるかもしれないが、これだけのギタープレーは一聴した以上にかなり難しい。彼がトレードマークとしている「超絶」テクニックとはまた一味違った別のスタイルの「超絶」スーパーテクニックを存分に披露している。ギターキッズにも十分聴きごたえのあるサウンドとして満足してもらえることだろう。
 
また一つ、新たなKelly SIMONZの世界観の一部をこのアルバムで披露した彼は、今年大きな飛躍を遂げた。彼の動向は、来年さらにどのような展開を見せるだろうか？Kelly SIMONZの益々の活躍に期待しながら、まずはこのアルバムの空気に浸り、楽しいクリスマスを過ごしてもらいたい。