演奏

TEXT:児玉圭一

7月15日、熱い風が体にまとわりつく午後5時。渋谷duo MUSIC EXCHANGE前には幾重にも連なる長蛇の列が出来ている。日本全国を震撼させた3.11以後の閉塞した日々を生きるロック・ピープルに『THE SOLAR BUDOKAN』という革命的なヴィジョンを提示した佐藤タイジ率いるTHEATRE BROOKの2年半振りのツアー、「SEASON REVOLUTION TOUR」の最終日。灼けたアスファルトと、開場を待ち侘びて佇んでいる人々から立ち上る熱気が青い空へ放射されて行く様を眺めながら、僕はある歌を思い出していた――
扇動者を呼んでくれ 何かが起こる予感がするから 僕らはいずれ団結するんだ そう革命はここで起こる そして君はそれが正しいと知っている――(Thunderclap Newman 「Something in the Air」)
 
THEATRE BROOK メンバー:
佐藤タイジ(Vocal & Guitar)、中條卓(Bass)、沼澤尚(Drums)、エマーソン北村(Keyboard)

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場内に入ってまず目に飛び込んで来たのは、黒いステージセットの背後で眩しく輝くオレンジ色の太陽のバックドロップ。憑かれたようにステージを凝視する人々。満員のフロアから聴こえてくる声にならない声。開演時間が近づくに連れてオーディエンス全体から異様なパワーがオーラの如く照射されて行く。そして午後6時、会場が暗転。SE、THE ROLLING STONESの「Street fighting man」が鳴り響く――夏が来た 路上の闘いにはもってこいの時期だぜ――巻き起こる拍手と歓声と共にTHEATRE BROOKの4人が登場。
 
やがて聴こえ出すスペーシーなキーボード・イントロに絡む佐藤タイジの眩惑的なギターリフ。1曲目は「キミを見てる」。「ひとつずつやるしなない / 答えは用意されてない」ステージ後方でコーラスを務めるのは本日のゲスト、うつみようこLeyona多和田えみ。うだるような暑さを吹き飛ばす熱狂のライヴが遂に始まった。
 
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曲は間髪入れずに腰を直撃するファンク・ビートの炸裂する「あふれ出すばかり」へ。溜めの効いたアフタービートに乗って唸りをあげるワウワウ・ギター。並み居る観客は一斉に体を揺らし、両手を打ち鳴らし始める。「みなさん、お元気ですか?久しぶりやから今日はたっぷり演るよ!」
 
続いてはハードロッキンなテイストの「捨てちまえ」。挑発的な歌詞と縦横無尽にうねるグルーヴの奔流が堰を切ったように溢れ出す。そしてエマーソン北村のコズミックなキーボード・プレイに導かれて始まったのは壮大なスケールを感じさせるインスト「聖なる巨人」。迫真のサイケデリック・ジャムの波はオーディエンスの上でしぶきを上げ、僕らを連れ去っていいってしまうかのような高まりを見せた。
 
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MCを挟んで、恋の挽歌「最近の愛のブルース」、うつみようこ多和田えみがドゥーワップコーラスで華を添えた「理想的なサムライ」が次々に演奏されて行き、ライヴ前半のハイライトとなった「やめられないのさ」がスタート。性急なビートの暴走に乗って弾きまくる佐藤タイジのスリージーなギタープレイと、バンドを煽るうつみようこらのソウルフルなコーラスは圧巻の一言。
 
「凄く久しぶりなやつを演ります」というMCと共に演奏されたのは1997年制作のChristopher Doyleの映画「Typhoon Shelter」サウンドトラック盤からのタイトル曲。70年代のPink Floydを想起させるスペーシーなキーボードのさざなみに乗ってCurtis Mayfieldばりのファルセットを聴かせる佐藤タイジ
 
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曲はいつしかTHE BEATLESの「I want you」的なうねりを効かせる「愛の涙」へ変わり、五感を幻惑するサイケデリック・グルーヴが僕らを深海へと引きずり込んで行く。
 
盛大な拍手と共に黒いイブニングドレス姿の多和田えみがステージ中央へ登場。歌われたのは「心臓の目覚める時」。佐藤タイジとの絶妙な相性の良さを感じさせる彼女の澄み切ったエモーショナルな歌声と白熱のバンドサウンドは場内に大いなる高揚感をもたらしてくれた。
 
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次なるゲストは、佐藤タイジが「日本の宝」と紹介した加藤登紀子!赤い革ジャンを羽織って登場した”おときさん“は佐藤タイジと初めて会った時に連想した2人の人物のことを話し始める。「1人は大好きだったジョー山中!もう1人は1995年の全日空857便ハイジャック事件の時に私を助けてくれた特別機動隊員!やっぱり口が大きかったわね(笑)」そして始まったのは「愛と死のミュゼット」。革命の季節の到来を告げる疾走するエスニックなリズムの炎が熱い吐息と共に赤く燃え上がる。
 
そしてスリリングなビートの速射砲が鳴り響き、スペース・レゲエ「五反田ディレイセンター」がスタート。中條卓沼澤尚が繰り出す鉄壁のダブ・ビート、バンドサウンドを極彩色に染め上げるエマーソン北村の鍵盤捌き、忘我の境地で踊る観客の酩酊感を更に煽る佐藤タイジのフリーキーなリード・ギター!終わって欲しくないマジカルな時間が足早に過ぎて行く。
 
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さらなるゲストが登場。「一番付き合いが長い…精神的にも音楽業界の位置的にもご近所さん的な存在の、Leyona!」エスニックなドレス姿のLeyonaと共に演奏されたのは「ドレッドライダー」!ダンサブルなファンクリズムの奔流。会場を揺らすユーフォリックなヴァイヴ。タンバリンを打ち鳴らしながら軽やかに踊るLeyonaはとても艶やかだ。
 
ライヴは遂に終盤へ突入。響き渡る雄大な音色のシンセサイザー…「来るぞ!来るべき者が来るぞ!うつみようこ!」巻き起こる万雷の拍手。やがて聴こえて来る渦巻くディレイ・ギターの調べが長い闘いへの決意を歌う「まばたき」の始まりを告げる。高揚感に満ちたメロディ、うつみようこのソウルフルなコーラス、そしてアウトロでの佐藤タイジの壮絶なギタープレイがオーディエンスの放つ熱を沸点まで押し上げて行く。
 
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そして遂にラストナンバーを迎える時が来た。今夜のライヴを彩った4人の女性ゲストが再びステージに登場。ミスティックな音色のキーボード・イントロと共に佐藤タイジは改めて9月の『中津川THE SOLAR BUDOKAN』開催を観客に告げる。「…中津川では、フードコートの食べ物の放射線量を表示しようと思います…今ある具体的なリスクがどういうものなのかを理解して、それを後世に残す術を持つということ…そうじゃないとお金の動きに惑わされて生きる意味がなくなるよ……ロックって、ファッションやないねん!ビジネスじゃないよ!俺らが思うロックっていうのは生き様のことや!」
 
感動的なアジテーションに熱狂的なYESで応えるオーディエンス。そして始まったのは、THEATRE BROOKの永遠のアンセム「ありったけの愛」。歯切れの良いギターカッティングと共に打ち鳴らされる満場の観客によるハンドクラッピング。希望の歌が長い闘いへの決意と、めくるめくエクスタシーを湛えながら疾走する。ブレイクでの「Loving you」の合唱…溢れる永遠と共に音楽が僕らの心に優しく溶け込んで行き、佐藤タイジの背後ではオレンジ・サンシャインが光り輝いている。
 
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鳴り止まぬ拍手と歓声が渦巻く中、THEATRE BROOKが再びステージに姿を現した。そして、佐藤タイジはオーディエンスにサード・サマー・オヴ・ラヴの到来を預言した。1967年、サンフランシスコで起きたサマー・オヴ・ラヴ…それは、ロックを始めとする様々なカウンターカルチャーの爆発と共に、泥沼化するベトナム戦争、人種差別問題に対して世界中の若者が大いなるNOを唱えた現代のルネッサンスだった。そしてイギリスでその精神を受け継ぎ、レイヴという形で勃興した1989年のセカンド・サマー・オヴ・ラヴ。この2つのムーヴメントは今でも大いなる影響力を持ち続けている。
 
「サード・サマー・オヴ・ラヴ、ここじゃないかなと思うの…3.11以後の被災地のプレッシャーやストレスって計り知れないと思う…それを音楽に込めれば良い作品が出来るのよ。被災地だけじゃなくて日本全体がそうで、今は心を込めて作品を作れる状況なのよ。音楽だけじゃなくて、絵でも文章でも映像でも漫画でも凄い作品が出来る時なのよ。時代背景をひっくるめて…だからこれをサード・サマー・オヴ・ラヴにしちゃえば、もっとハッピーな未来があるんじゃないかと…何もなかったことにして、見て見ぬふりがマナーになったらおかしいと思う。我々ロックを愛する者…見て感じたことを自由に表現出来る人間がこの国には居るんだという証明を今こそするべきだと思う。言っていれば実現するからね…それが東京オリンピックとかに繋がるんだったら、Yeah!ってなるじゃない。」
 
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そして始まったのは「もう一度世界を変えるのさ」。エクスタティックなギターリフと共に「目をそらさないで 耳を澄ましてよ もう一度世界を変えるのさ」と歌う佐藤タイジ。壮大なスケールを持つ新曲が瑞々しいグルーヴを放ちながら僕らの心の隅々に染みて行く。
 
最後に演奏されたのは「昨日よりちょっと」。「昨日よりちょっとは強くなろうよ、昨日よりちょっとはフェアになろう」という真摯なメッセージが「ひとつずつやるしかない」と歌われたオープニングナンバーへ繋がって行く。円環は閉じられた。そして「SEASON REVOLUTION TOUR」の千秋楽は万雷の拍手と鳴り止まぬ歓声と大いなる余韻を残しながら終了の時を迎えた。
 
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結成27年目にして絶頂期を迎えたTHEATRE BROOKのパワーに圧倒され続けたあっという間の3時間。しかし、これは「最近の革命」の前哨戦だったのかもしれない。彼らは8月のRISING SUN ROCK FESTIVAL、FUJI ROCK FESTIVAL、そして9月21、22日の中津川THE SOLAR BUDOKANという重要なイベントを控えている。
 
THEATRE BROOKの長き熱い夏はツアーファイナルのこの夜から始まった。そして僕は佐藤タイジがステージから放った、ロックで育った人間のプライド、目をそらさないで生きて行く流儀に関する発言を忘れることが出来ない。心あるロック・ピープルが闘おうとする戦いは想像を絶するほど長く苦しい道のりを辿るのかもしれない。それでも、思い続け、動き続けていれば夢は必ず叶うということを佐藤タイジは知っている。サード・サマー・オヴ・ラヴよ、早く来い!
 

※本記事の写真は岡村直昭カメラマン撮影のものです。
 
◆セットリスト
M01. キミを見てる
M02. あふれ出すばかり
M03. 捨てちまえ
M04. 聖なる巨人
M05. 最近の愛のブルース
M06. 理想的なサムライ
M07. やめられないのさ
M08. Typhoon shelter
M09. 愛の源
M10. 心臓の目覚める時
M11. 愛と死のミュゼット
M12. 五反田ディレイセンター
M13. ドレッドライダー
M14. まばたき
M15. ありったけの愛
-encore-
E01. もう一度世界を変えるのさ
E02. 昨日よりちょっと
◆THEATRE BROOK 公式サイト
http://www.theatrebrook.com/
 
◆インフォメーション
中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013
“太陽光発電によるクリーンでピースなロックフェスティバル” 
・2013年 9月21日(土)、22日(日)【岐阜】中津川公園東美濃ふれあいセンター内 特設ステージ
出演:
THEATRE BROOK / a flood of circle / SOIL & “PIMP” SESSIONS / THE MAN(冷牟田竜之)/ TRICERATOPS / ZIGZO / インディーズ電力 / 黒猫チェルシー / 子供ばんど / 曽我部恵一/ダイノジ(DJ) / 堂珍嘉邦 /仲井戸“CHABO”麗市 / 宮田和弥(JUN SKY WALKER(S)) and more..
 
◆THE SOLAR BUDOKAN HP
http://www.solarbudokan.com/
 

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【レポート】LIVE REVOLUTIONS! (THEATRE BROOK/加藤登紀子)
http://www.beeast69.com/report/57839
【特集】THE SOLAR BUDOKAN
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【連載】ACTION 11 脱・無関心(THEATRE BROOK リハーサルを取材)
http://www.beeast69.com/serial/mukanshin/47781
【連載】ACTION 10 脱・無関心(佐藤タイジインタビュー 後篇)
http://www.beeast69.com/serial/mukanshin/45984