演奏

lead_130215

TEXT:児玉圭一

Photoもう春が近いというのに、未だに僕の身体の中には2012年12月20日の余韻が残っている。もちろん、佐藤タイジと総勢22組のアーティスト達が全ての電力を自然エネルギーで賄い、興奮と感動が間断無く続くライヴを成し遂げた『THE SOLAR BUDOKAN』のことだ。そして、あの奇跡的に素晴らしかったイベントの影響力が日本全国に波及し始めている2013年2月、僕は電車を幾つか乗り継いで「代官山UNIT」へ向かっている。『THE SOLAR BUDOKAN』等のイベントで世代を超えた共演を果たした佐藤タイジ率いるTHEATRE BROOK加藤登紀子のジョイント・ライヴを目撃するために。
 
今夜のイベントタイトルは『LIVE REVOLUTIONS!』。3.11後の閉塞した状況を突破するための「最近の革命」を模索し続ける佐藤タイジと、その彼が「彼女は革命の人。僕に与えた影響は巨大です」と絶賛した日本を代表するシンガーソングライター加藤登紀子…両者の初の本格的な共演は一体どんな化学反応を生み出すのだろうか?今夏、佐藤タイジ企画の野外フェスまでを視野に入れた新しいプロジェクトの開催が予定されている。今夜のライヴは、そのプレリュードだ。雨上がりの寒空の中、沢山の人たちが会場前の舗道に佇んで開場の時を待っている。

午後6時過ぎ、地階のライヴエリアに足を踏み入れるなり聴こえて来たのは心浮き立つラテンビート。革命の夜の始まりをファンキーに彩る今夜のサポートDJはSATOL.F a.k.a. 藤井悟DJ TXAKOのDJチームCARIBBEAN DANDY。彼等が次々にスピンするラテン・ファンクのリズムが疲れた身体を突き動かす。フロアーに立ってラム・コークのグラスを片手に大音量で鳴り響くビートに身を委ねるこの感覚はいつだって最高だ。
 
Photo Photo

Photo Photo Photo Photo

Photo Photo

オープニングアクトEKD(未来世紀メキシコ)のパフォーマンスを経て、CARIBBEAN DANDYのアッパーな選曲が観客をダンスさせている午後7時過ぎ、SE、THE ROLLING STONESの「Street Fighting Man」がTHEATRE BROOKの登場を告げる。「今は革命を起こせる時だぜ、だけど貧しいガキに何が出来る?ロックンロールバンドで歌う他に!」たちまち巻き起こる拍手と歓声の嵐。そして程無くTHEATRE BROOK――佐藤タイジ(Vocal & Guitar)中條卓(Bass)、沼澤尚(Drums)、エマーソン北村(Keyboard)―がステージにその姿を現す。無言のままマイクスタンドに歩み寄った佐藤タイジは聴く者を覚醒させる硬質なリフを紡ぎ、彼自身の運命を見定めたかのような詞を歌い始める。「ひとつずつやるしなない 答えは用意されてない 俺たちは歩いている」たおやかだった旋律がドラムの一撃と共に爆発して熱狂的なムードを醸し出す。最新形THEATRE BROOKの「キミを見てる」。これは今のハルマゲドン的な状況を脱するための希望の歌だ。
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

続いては時代をひとっ跳びして1995年の「ドレッドライダー」。歯切れの良いファンク・ビートがたちまちヒートアップして観客の腰を直撃。「はい、どうもどうも、ようこそいらっしゃいました。盛り上がってるじゃないの代官山!」MCタイムで佐藤タイジは「以前から思っていたのだけど」と代官山駅近くの旧山手通りを封鎖しての『代官山ロックフェスティバル』開催を観客に提言する。
 
「日本には街の中フェスってないやん?絶対盛り上がるのに。ロンドンとかでは交差点毎にサウンドシステムを据えて一日中いい感じで盛り上がっているわけ。それが代官山で出来たら進歩的だと思わない?でもそれを都知事に交渉するのは俺なわけ?それはちゃうやろ(笑)でもやるよ、『代官山ロックフェス』やりたいんです!」有言実行の人である佐藤タイジ。彼はまた夢の実現の為に一肌脱ぐに違いない。
 
次に彼は今夜ライヴに使われる電力はグリーン電力証書で購入したものであることと、その購入した電力分の料金が何故か通常の電気料金から相殺されないという法整備の不条理な仕組みを観客に告げる。「家庭側から見たグリーン電力の話ね。やっていかなくてはアカンことがいっぱいあるわけやな。皆で頑張ろう!」その呼びかけに答える大きな拍手。「俺は楽しいのが好き。それは楽しければそれで良いっていうのとは若干違いがあるからね」
 
Photo Photo

Photo Photo Photo Photo

Photo Photo

3曲目は最新アルバム『最近の革命』から「最近の愛のブルース」。「はじめて気がついたのは つい最近のことだぜ 大好きなキミのやさしさ」というキメのフレーズが我が身に染みる今日この頃…と感傷に浸る間もなく曲は「How do you do Mr.president」へ突入。80年代のファンクマスター、ZAPP / ROGERを彷彿させるこのエレクトロ・ファンクではエマーソン北村のポップなキーボードプレイに乗って、佐藤タイジCurtis Mayfieldばりの太いファルセットボイスを披露。ユーモアと皮肉をたっぷり含んだ詞も最高。これを今の日本に置き換えると…そうですね、あなたは初めましてではありませんね、Mr.prime minister!ご機嫌は如何ですか?
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

やがてシンセのイントロが流れ、佐藤タイジの渦巻くディレイ・ギターが長い旅路への決意を歌う「まばたき」の始まりを告げる。ここで生き生きと縦横無尽にうねるサウンドを生み出しているバンドのメンバーに注目。修行僧のような面持ちでベースアンプの前から一歩も動かず、全体のサウンドの動きに目を配りながらファンキーなランニングベースを披露する中條卓。躍動感漲るビートを叩き続けるグルーヴマスター沼澤尚。流麗な鍵盤捌きで曲をカラフルに染め上げるエマーソン北村。そしてバンドの原動力、華麗なリードギターを弾きまくるロック・スター、佐藤タイジ。ルーツ・ミュージック――ロックンロール、ブルース、ソウル/ファンクのエッセンスを血肉化して、それに新しい生命感を与えてくれるTHEATRE BROOKのようなバンドは佐藤タイジが自ら言ったように、もはや絶滅種なのかもしれない。いや、ストーンズが逆境を撥ねのけて50年転がり続けているように、THEATRE BROOKも60代になっても音楽の旅を続けているに違いない。

ライヴ第一部がここで終わり、佐藤タイジは今夜のもう1人のメインアクトを呼び込む。「紹介しますよ、紹介しちゃうよ、加藤登紀子!そして鍵盤はユタさん細井豊センチメンタル・シティ・ロマンス)!」万雷の拍手と盛大な歓声と共に現れた加藤登紀子の装いは迷彩柄のイブニングドレス!そして始まったのは、1871年のパリ・コミューンの崩壊と共に散った勇敢な若い看護婦に捧げられたシャンソン「さくらんぼの実る頃」。加藤登紀子が第一声を放った途端、ステージは彼女の世界に支配される。その歌声と寄り添うように奏でられるのは細井豊のノスタルジックな美しい音色のピアノプレイ。「正に革命の歌」と加藤登紀子が言っていたこの曲は限りなく優しい慈愛の輝きに満ち溢れている。
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

1曲目を歌い終えた加藤登紀子は「私のFM番組のリスナーが自分の生まれた時のことを綴った手紙が一冊の本になりました。みんな、それぞれ覚えてないけど、あるんだよ、生まれて来た時のことが」と観客に語りかける。「君が生まれたあの日」。深い母性愛を湛えた加藤登紀子の歌が心の柔らかい場所へゆっくりと染みていく。続いては佐藤タイジがアコギで加わる「今どこにいますか」。加藤登紀子が幼少期の戦後体験と3.11を重ね合わせて作ったというこのバラードの歌詞が一昨年、未曾有の大災害に見舞われた多くの人々の心の痛みと重なっているように僕には思えた。
 
次の曲に移る前のMCタイム、加藤登紀子は「レボリューションっていうのは、一番分かりやすいのは恋だと思う。20歳のファーストキスの時にそう思った…それまでの私の価値観が全て壊れたのよ」と言って観客を大いに沸かす。「ねえ、ちょっと飲もうよ、飲みたい!」お茶目で豪快なおときさんの発言に「ええっ!?」と目を白黒させる佐藤タイジ。そしてステージに吟醸酒の一升瓶が到着!「ちょっとぐらいねぇ、マトモじゃダメなのよ。人間はややこしすぎる。鳥のようにね…生きることをもっとシンプルにして素敵に楽しみましょう!残念ながらお酒で変えられるのは自分の体だけかもしれないけど。でもキスはしやすくなるわよ。では皆さんとキスをする代わりに飲みます。乾杯!」
 
グラスになみなみと注がれたお酒を一気に飲み乾したおときさんは当然のように佐藤タイジにご相伴を求める。最初は「飲みながらでは演れない。歌えなくなるから」と遠慮していた彼も加藤登紀子の勧める酒を断っては男がすたるとばかりに、やはり大盛りに注がれたコップ酒を飲み乾す。すると会場は一気に楽しい祝祭の雰囲気に包まれてゆく。
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

そして始まった曲は「1968」。加藤登紀子は、これはベトナム戦争で使用された枯葉剤(エージェントオレンジ)のことを歌っていると言った。1968年、それはそれまでかろうじて均衡を保っていたかに見えた社会的・政治的秩序が根底から揺さぶられた1年。ベトナム戦争の泥沼化とマーティン・ルーサー・キングとロバート・ケネディの暗殺、旧ソ連軍がチェコスロバキアに侵攻した「プラハの春」の悲劇、フランスの5月革命、人種暴動の勃発…激化する世界情勢に触発されたTHE BEATLESが「Revolution」を、THE ROLLING STONESが「Street Fighting Man」と「Salt of the earth(高潔な人々)」を発表し、THE DOORSのJim Morrisonが『太陽を待ちながら』というアルバムの最後で体制へ向けて「お前たちには銃があるが俺たちには数がある」と歌った1968年。それは「世界を良い方向へ変えたい」という叫びが地球上のあらゆる場所から聞こえて来た年だったに違いない。
 
次なる曲は佐藤タイジ加藤登紀子が絶妙なデュエットを聞かせる「愛と死のミュゼット」。『THE SOLAR BUDOKAN』でも鮮烈な印象を残した「未来から見えたのは愛と死のはざまにいる僕たち」というフレーズが胸に突き刺さる。細井豊のサウダージ感溢れるアコーデオンが加わっての熱演に続くのは「Revolution」と「New Revolution」。聴衆に皆で模索していくべき最近の革命をアジテートする強靭なメッセージソングが次々に披露される。
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

狂熱のライヴもいよいよ終盤へ突入。佐藤タイジは激しいカッティングでNeil Youngの「Rockin’ in the free world」のイントロを弾き出す。と、突然ここで彼のギターの一弦が切れる。仕掛けられた罠から逃れようともがくライオンのように右手を振り回してギターを掻き鳴らす佐藤タイジの姿が僕の脳裏に深く刻まれる…演者にとっては不本意かもしれないが、観客の記憶の中にはこうしたライヴ中のハプニングの瞬間が不思議と後々まで残るものなのだ。すかさずスペアのレスポールを差し出すローディーに笑顔で応えた佐藤タイジはマイクスタンドに向き直って怒りを込めた意訳詞を歌い出す。「日本人がこんなにも無責任だと思わなかった」
 
躍動するバンドのグルーヴと黙示録的状況を打破しようという強烈なメッセージが一体となって僕らを撃つ。佐藤タイジのギターはどんどん激しく、どんどん早く鳴り出していく。観客の熱狂を煽るフィードバックノイズの残響と共に曲が終わり、加藤登紀子の「続いて行くんだよ」という言葉に導かれて聞こえ出したのはJohn Lennonのレボリューション・アンセム「Power to the people」!愛と革命の夜はまだまだ続く。
 
Photo Photo

Photo Photo

Photo Photo

やがて、切なく美しいキーボードとハーモニカの調べが本編ラスト「ありったけの愛」の始まりを告げる時が来た。鮮やかなギターカッティングと共に打ち鳴らされる満場の観客によるハンドクラッピング。バンドが放つ激しくもポジティヴなヴァイブレーションの波に呑まれて踊るオーディエンス。そう、優れたレベル・ソングは同時にいつだって人々を狂った様に踊らせることが出来るカッコいいダンスミュージックだった。そして曲が不意にスローダウンした次の瞬間、Minnie Ripertonの「Loving you」のメロディが聴こえ出す。幻想的なハーモニカとキーボードの音色が涙腺を緩ませる。「歌ってや」と観客に呼びかける佐藤タイジ。すぐさま会場全体から聴こえ出す天使のハーモニー。これほど優しい気持ちにしてくれる曲が他にあるだろうか?多幸感に満ちた夢のような時が流れる。ここで時間が止まってしまえば良いのに。
 
だが、時は無情、一瞬たりともその歩みを止めることはない。それでも佐藤タイジは自在に歌詞を紡ぐ吟遊詩人のように「終わることはない これが夢でも 夢でも 終わらないぜ」と歌い続けている。そう、僕らは生ある限り素晴らしい人、忘れられない音楽、そして特別な本に出会った時に閃く自分の中で何かが永遠に変わっていくと感じられる瞬間の連続の中で生き続けることが出来る。
 
Photo Photo

気がつけば、会場は盛大なアンコールの拍手と歓声に包まれている。程無く再び姿を現す、THEATRE BROOK加藤登紀子細井豊。「今日来た人はラッキーだと思いますよ。次の曲も強烈ですよ。お父さん連中は漏らしちゃう選曲!あ、でも若者も大丈夫やね」という佐藤タイジのアナウンスと共に始まったのは加藤登紀子の代表曲「百万本のバラ」!しかもスカ・アレンジ・ヴァージョン!
 
赤いタンクトップ姿のおときさんは軽快にリズムに乗りながら誰もが知る名曲をしなやかに歌い上げて「どうもありがとう、幸せでした!いい夜だった」と観客に向けて一礼。そして「次はもうちょっとハーモニーが取れるように頑張ります。お酒がちょっと足りなかったかもしれない」と言って再びグラスに手を伸ばし「まだ飲みますか!?マジですか!」と仰天している佐藤タイジを尻目にお酒をコクリ。「再会を!また会おうね、みんな、ありがとう。元気で!素晴らしい人生!」
 
そして最後の最後に演奏されたのは今夜2回目の「愛と死のミュゼット」!哀愁を帯びたタンゴのリズムが再び会場を席捲し、熱く燃え上がるこの曲の終了をもって、記念すべきTHEATRE BROOK加藤登紀子の共演イベント『LIVE REVOLUTIONS!』は華々しく終演を迎えた。
 

◆セットリスト
THEATER BROOK
M01. キミを見てる
M02. ドレッドライダー
M03. 最近の愛のブルース
M04. How Do You Do Mr.President
M05. まばたき
加藤登紀子×THEATER BROOK
M06. さくらんぼの実る頃
M07. 君が生まれたあの日
M08. 今どこにいますか
M09. 1968
M10. 愛と死のミュゼット
M11. Revolution
M12. New Revolution
M13. Rockin’ in the free world
M14. Power to the people
M15. ありったけの愛
-encore-
E01. 百万本のバラ
E02. 愛と死のミュゼット
◆佐藤タイジ 公式サイト
http://www.taijinho.com/
◆加藤登紀子 公式サイト
http://www.tokiko.com/
 
◆インフォメーション
「MUSIC」
・2013年03月05日(火)【京 都】village
 
「FLOWER CLAP」
・2013年03月10日(日)【恵比寿】BATICA
 
「東日本大震災市民のつどい
Peace On Earth(ピースオンアース)」

・2013年03月10日(日)&11日(月)
 【東京】日比谷公園 芝生広場&噴水広場
出演:坂本龍一加藤登紀子佐藤タイジ後藤正文難波章浩GAKU-MC ほか
http://www.peaceonearth.jp/

 
Photo

炎の夜。一言で言い表すのならそんな言葉がぴったりなライヴだった。その炎とは、もちろん愛と革命の炎。THEATRE BROOK加藤登紀子の共演が生み出したのは、生と死のはざまで燃える熱い炎だった。彼等が全身全霊で演じてくれた素晴らしい音楽は僕を一気にエルドラド(=黄金郷)まで連れ去ってくれた。しかし両者の音楽が多幸性に溢れていたとしても、もちろん彼等が楽観主義者である筈がない。激動する変革の時代を生き抜いて今なお歌い続けている加藤登紀子。『THE SOLAR BUDOKAN』という古いものに替わる新しいアイディアを実現させた後も「最近の革命」の次なる一手を周到に準備している佐藤タイジ。彼等は苦い現実を噛み締めつつも、夢の実現に向けて動くことを全く躊躇しない行動主義者なのだろうと僕は思う。そういう意味で今夜の『LIVE REVOLUTION!』は『THE SOLAR BUDOKAN』と同様、自分の夢を実現させる為に必要なアイディアとイマジネーションを力強くプッシュしてくれた正に革命的なイベントだった。
 
俺は楽しいのが好きなんよ。それは、楽しければいいというのとは若干違いがあるからね――佐藤タイジ

◆関連記事
【特集】THE SOLAR BUDOKAN
http://www.beeast69.com/feature/53321
【連載】ACTION 11 脱・無関心(THEATRE BROOK リハーサルを取材)
http://www.beeast69.com/serial/mukanshin/47781
【連載】ACTION 10 脱・無関心(佐藤タイジインタビュー 後篇)
http://www.beeast69.com/serial/mukanshin/45984


 
 
  コラムニスト
SABER TIGER
SABER TIGER
2018年8月12日更新
SABER TIGER「牙虎見聞録」第20回
The HIGH
さかもとえいぞう
2018年7月12日更新
人生の宿題その2
mondo
中村 “MR.MONDO” 匠
2018年4月7日更新
第十回「名言集」
PINK SAPPHIRE
PINK SAPPHIRE
2018年4月12日更新
第19回「TAKA」
木暮“shake”武彦
木暮“shake”武彦
2017年12月10日更新
その7「Heart Of Gold」
永川敏郎
永川敏郎(Toshio Egawa)
2018年5月22日更新
Progressive Man 第40話