演奏

TEXT:まりな PHOTO:鈴木亮介

遠藤ミチロウ初監督映画作品『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』が2016年1月23日(土)より東京・新宿K’s cinemaにて上映を開始した。本記事では映画の紹介ならびに、ゲストに峯田和伸銀杏BOYZ)を招いて1月28日(木)夜に開催された公開記念トークイベントの模様をレポートする。
 

◆イントロダクション
なぜ歌い続けるのか? なぜ旅を続けるのか?
見届けよ! この旅は終わらない。

 
豚の臓物、爆竹を客席に投下、全裸でステージから放尿、といった過激なパフォーマンス。吉本隆明などが評価し、多くの後進の世代をも魅了したたその類まれなる歌詞世界。ザ・スターリンを率いて時代を築いたミュージシャン遠藤ミチロウ。バンドを解散した後も、現在に至るまで、ソロを中心に活動を続けている。
 
60才を迎えた2011年、ザ・スターリン復活ライブを決行し、そして全国を巡る自身の還暦ソロツアーを敢行する。そのさなか、3.11東日本大震災が起こり、故郷・福島は地震・津波災害と同時に、原発災害にも見舞われることとなった。それまで故郷をまったくと言っていいほど顧みることのなかった遠藤は、故郷の地でプロジェクトFUKUSHIMA!を行うべく始動する。自身のアイデンティティたる家族へ眼差しを向け、第二次大戦でガダルカナル、フィリピンと激戦地に赴いた父への畏敬にみちた思い、自身の代表曲「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました。」にも強烈に込められた母へのアンビバレントな感情が赤裸々に語られる。
 
本作は、遠藤のライブの旅と行く先々での人々との対話を描くロード・ドキュメンタリー。時代をつくり、駆け抜け続ける遠藤ミチロウというミュージシャン=ひとりの人間としてのシンプルにして力強い生きざまは、今を生きる人々に忘れかけた何かを思い出させることだろう。
 
血肉を引き裂くようなヴォイスシャウト。還暦(60才)を超えてもなお躍動する、その肉体と声。
なぜ歌い続けるのか?なぜ旅を続けるのか?
過激なライブパフォーマンスと相反するかのような実直な語りで、男は明かす。
 
その後遠藤は、膠原病を患い入院。一時はライブ活動の長期的停止を余儀なくされたが、本作公開を迎えるいま、見事に復帰。「THE END」「羊歯明神」という新たなバンドも結成、様々な活動を始動し、生命を燃やし続ける。
 
今なお続くひとりの男の旅=生きざま。
見届けよ!この旅は、終わらない。
 
◆映画『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』 公式サイト
http://michiro-oiaw.jp/

 

本作は2011年、還暦を迎えたミチロウが『還暦ツアー』と題して行ったライブツアーの映像を中心にストーリーが進んでいく自身のロードドキュメントムービーだ。しかし3月、東日本大震災に直面したことをきっかけにミチロウの全国を巡る旅は故郷である福島と向き合う方向へと舵を切る。
 
還暦ツアーの模様やザ・スターリン復活のライブ映像はもちろん、旅先で出会ったライブハウスやゆかりの人々、そして故郷への思いとコンプレックスまで語る遠藤ミチロウという人間の人となりをも知ることが出来る貴重な映像が目白押しだ。
 
見どころがありすぎてここが一番ということは決めかねるが、やはりライブシーンは圧巻である。ミチロウが歌うことによって、その体中の筋肉も叫ぶように震えている様子が映画館の大画面のスクリーンだとうかがえる。
 
肉体のすべてを駆使して全身から発せられる絶叫と、とんでもないものを観てしまったと思わせる狂気のライブパフォーマンス、それらの映像と合わさった5.1chサラウンドの迫力ある大音量は、飲み込まれてしまいそうな臨場感だった。
 
 

公開初日から1週間は、各日最終回の上映後にトークイベントが開催され、遠藤ミチロウと親交の深い阪本順治(映画監督)、遠藤賢司(音楽家)、奈良美智(画家)、一条さゆり(踊り子)、三角みづ紀(詩人)、峯田和伸(ミュージシャン)、上條淳士(漫画家)といったメンバーが日替わりでゲストに登壇した。
 
1月28日の上映後には銀杏BOYZ峯田和伸を招いて行われたが、そのトークイベントの様子を少し紹介したい。
 
 

 

この日の会場は満席。拍手でむかえられた遠藤ミチロウに続いて峯田和伸が登壇しトークが始まった。「去年いわきで初めて一緒にソロでライブをやったんですけど、初めて峯田君のソロを観てすげえなって思って…」「いやいやいや。アンコールで、映画でも流れた『JUST LIKE A BOY』を一緒にやれてもう本当にうれしかったです。」と劇中歌「JUST LIKE A BOY」を去年のライブで一緒に歌ったことを明かす。
 
峯田は「初めてミチロウさんの音源を聞いたのはスターリンではなくて(ソロとしての)遠藤ミチロウのCDだったんですよ。初めて高校の時に聞いたのが『JUST LIKE A BOY』で…あの歌を一緒にできるとは思わなかった」とその時の喜びを露わにした。
 
 

 

映画の話題になり、タイトル『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』について峯田は「この曲を初めて聴いた高校生の頃、”これを言ったら親戚一同から白い目で見られるけど、どうしても言わなきゃいけない”とか、”これを言わないかぎり精神が保てない”とか、そういう覚悟を感じて、(遠藤ミチロウは)すごい人だなと思った」と話した。曲を聴いた当初は衝撃を受け、そんな曲を今回映像化したことに対し、”これを出さなければ死ねない”というミチロウの思いが伝わってきたのだと、熱く語った。
 
そこから二人は自分と母親との関係についての話に。ミチロウは母親が自身のライブを初めて観に来たのがザ・スターリン解散からずっと後の、2011年に福島・あづま球場で行われたライブであったことを明かし、「今だって、この映画もお袋には見せたくないなぁって思ってる」と話すと、会場からは笑いが漏れた。
 
一方、峯田は母親との情事を夢で見てしまったことを機に、母親に恋愛感情に似た気持ちを持っていることをカミングアウト。ミチロウは所々同調しながらも「俺より(峯田の方が)根が深いね」と笑う。世間で使われているマザコンという言葉とは違うが、二人とも人間形成の上で無意識のうちに母親の存在が根強くある。そんな意味でのマザーコンプレックスのようなものを二人の会話から感じた。
 
 

 

また、出身が山形県の峯田と、山形の大学に通っていたミチロウならではの地元エピソードもあり、「山形で学生の時にロックバーの店員をやってて。峯田君が高校の時に僕がやってたそのお店に行ったんだよね?」とミチロウが聞くと、峯田は「ミチロウさんがいたらしいよって話題になっていたので友達と行きました。」と答えた。
 
ちなみにそのお店はミチロウが辞めた後も同じ名前で残っていて、内装は当時と随分変わったらしい。山形の話が続く中、峯田が突然思い出したように「うちのオヤジが山形大学に遠藤っていうすごいやつがいたと言っていたけど、ミチロウさんのことですか?」と質問すると、何と峯田の父親とミチロウが同い年で、学生のころ同じくバンドに関する活動をしていたことからどうやらミチロウのことらしく、まさかの共通点が明らかになり二人とも驚いた様子だった。
 
話が盛り上がりすぎて司会者から「ぼちぼちお時間が…」と切り込まれると、すかざずミチロウが2月に劇場上映がされる銀杏BOYZのライブ映像集『愛地獄』の話を振り、峯田が恐縮しながらもそれに早口で答える。3月に同映像集のDVDが発売されることを告げ、この日のトークイベントは幕を閉じた。
 
 

 

爆竹、豚の臓物を投げるなど過激なライブパフォーマンスで有名な伝説のバンド、ザ・スターリンを率いた遠藤ミチロウ。しかし舞台から降りたその素顔は過激なイメージからは想像できないほど物腰の柔らかい人だ。トークショーにおいてもその優しい眼差しが峯田に向けられているのを感じた。
 
一方、峯田ミチロウの曲の話になると少し興奮気味にまくし立てる。10代のころから憧れていたミュージシャンへのリスペクトはいくつになっても尽きないのだろう。二人に共通して言えることは、どちらもステージに立つと魂を削るような全身全霊のライブをする。だからこそ互いに共通し、同調できる部分が多かったのかもしれない。
 
トークイベントは終了したが映画は2月中も東京・新宿のK’s cinemaで上映され、また全国の劇場で順次公開予定なので、まだ観ていない人は楽しみにしていてほしい。観ていて思わず手に汗握る、何度もつばを飲み込んでしまう。そんな遠藤ミチロウという一人のミュージシャンの生き様を描いたこの作品を目にし、誰もが必ず何かを感じると思う。何を感じ得るかはこれを目撃したあなた次第だ。
 

◆映画情報
『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』
ミュージシャン 遠藤ミチロウ(ex:ザ・スターリン)。
還暦、故郷、さらにその先、を巡る旅。
見届けよ!この旅は、終わらない。

 
2015年/日本/カラー/DCP/5.1ch/102分
監督:遠藤ミチロウ 製作・配給:シマフィルム株式会社 ©2015 SHIMAFILMS
 
出演:遠藤ミチロウ、THE STALIN Z(中田圭吾、澄田健、岡本雅彦)、THE STALIN 246(クハラカズユキ、山本久土、KenKen)、NOTALIN’S(石塚俊明、­坂本弘道)、三角みづ紀、山下利広(BIG MOON Cafe)、麓憲吾(ASIVI)、盛島貴男、伊東哲男(APIA40)、中川澄夫(­TE-TSU)、中川ミサ子(TE-TSU)、竹原ピストル、佐伯雅啓(OTIS!)­、AZUMI、大友良英、和合亮一、二階堂和美、オーケストラFUKUSHIMA!、­遠藤家のみなさま、遠藤チエ ほか
 
プロデューサー:志摩敏樹|撮影:高木風太|録音・整音:松野泉|制作進行:酒井力|­編集:志摩敏樹、松野泉|撮影協力:柴田剛|宣伝美術:境隆太|宣伝:植山英美|配給­担当:田中誠一

 


 
上映スケジュール:
・2016年1月23日(土)~【東京】新宿 K’s cinemaにて公開開始
上映時間:14:45 / 16:50 / 18:50
 ※時間変更 2/11(木・祝)~21:00
当日料金:一般 1,800円 / 大・高 1,500円 / 中・小・シニア 1,000円
 
★その他全国で順次上映決定!
【福島】フォーラム福島 3月下旬予定
【山形】フォーラム山形 3月下旬予定
【宮城】フォーラム仙台 3月下旬予定
【愛知】名古屋シネマテーク 2016/4/9(土)~
【大阪】第七藝術劇場 2016/4/9(土)~
【京都】立誠シネマプロジェクト 2016/4/9(土)~
【兵庫】元町映画館 2016/4/9(土)~
【新潟】新潟シネ・ウインド 2016年予定
【広島】横川シネマ 2016年予定
 
★イベント上映
関西先行上映&遠藤ミチロウトークライブ
・2016年2月26日(土)【大阪】KING COBRA
 
ミチロウ祭り ~死霊の盆踊り~ DAY3
・2016年3月1日(火)【東京】碑文谷 APIA40
 


 
◆映画『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』 公式サイト
http://michiro-oiaw.jp/
◆遠藤ミチロウ 公式サイト
http://apia-net.com/michiro/
◆銀杏BOYZ 公式サイト
http://www.hatsukoi.biz/

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