特集

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TEXT:桜坂秋太郎
新たな世界への一歩

1BEEAST編集部員による特集「Editor’s Note…PASSION」。第21回は編集長の桜坂秋太郎がお届けしよう。
 
編集部入魂の企画として立ち上げた「Editor’s Note…PASSION」は、過去3度【「~ロックにできること アジアを一つに~」、「~日本人ロックの海外進出ビジョン~」「~アジアを繋ぐ未来、突破口としての音楽~」】書いている。いずれも海外をテーマにしたものだ。
 
私はBEEAST創刊から、特にアジア圏というマーケットにおいて、ロック文化のハブ的な媒体にしたいと考えてきた。しかしアジア圏の政治的関係は一向に改善されず、むしろ悪化してしまった部分もあるように思う。
 
BEEASTのコンセプトは、「ロックと生きる…ライフスタイル応援マガジン」。エンターテイメントだけでなく、震災や災害に関係した社会派連載も掲載しているが、政治的なコメントやメッセージは一切発信していない。
 
さて今回は、韓国にフォーカスして「Editor’s Note…PASSION」を書いてみたいと思う。近隣の国という意味においては、日本に一番近い韓国。しかし実態は遠い国かもしれない。日韓のパッシング合戦は、まだまだ終わりそうも無い。
 
私は実際に肌で感じる事が大切だと考えているので、自分の足でアジア諸国を周り、そこに暮らすミュージシャンや音楽ファンと交流してきた。もちろん韓国も何度か渡航し、頭では無く、自分の身体で感じてきたつもりだ。
 
韓国のバンドの中には、日本で活動を本格化させようと考えるバンドもあった。特に私が興味を持ったのは、ガールズロックバンドWalking After Uだ。数年前、日本に長く滞在して、日本国内をライブサーキットしていた時に、取材もしている。ほぼ毎日ライブをするという、真剣な活動をしていた。
 
Walking After Uは演奏力があり、オリジナルソングの完成度も高く、ガールズとしての華もあり、三拍子そろったバンドだ。彼女たちは韓国に拠点を戻し、今でも活発に活動している。そしてそんな彼女たちをサポートしていた、ある日本人とも知り合う事ができた。
 
名前は水科哲哉。制作や編集の会社、アンフィニジャパン・プロジェクトの代表者だ。腰が低く、礼儀正しい人で、知り合ってすぐ一席を設けた。新大久保の韓国料理店で、日韓交流について、長い時間話したのを覚えている。その彼が今夏、400ページ近い分厚い書籍『デスメタルコリア: 韓国メタル大全』をリリースした。
 
※合資会社アンフィニジャパン・プロジェクト
http://www.infini-jp.net/
 
リリースのインタビューを行うことになったのだが、私自身が書籍の内容をしっかり読んでから実施したかったので、少し時間を頂く事となった。内容は実に素晴らしく、まさに韓国ロックのバイブルと言える濃い内容で、これほどの書籍は今後出てこないと思う。
 

水科哲哉(Tetsuya Mizushina)インタビュー
 
B— 著書を読ませて頂きました。韓国メタルにフォーカスした書物は見たことありませんので、執筆のご苦労が相当あったと思います。まず、水科さんの経歴を簡単に教えてください。
 
水科:1972年、東京生まれの東京育ちです。1980年代のハードロック/ヘヴィメタル全盛期に中学~高校時代を過ごし、20代の頃は映像業界で仕事していました。ちょうど30歳に差し掛かった頃に出版業界へ軸足を移し、それと共にINFINI JAPAN PROJECTという屋号で法人化しました。出版業界でのキャリア16年間で、ライター/書籍編集者/翻訳者として手掛けた単行本、雑誌、ムックは60点近く。担当書籍は多岐にわたり、『イングヴェイ・マルムスティーン自伝~Yng-WAY-俺のやり方』、『ポール・スタンレー自伝 モンスター~仮面の告白~』のようなメタル関連本から、ビジネス書や自己啓発書、あるいは語学テキストに至るまで様々です。ライターとしては、『BURRN!』臨時増刊『METALLION Vol.60&65』(以上シンコーミュージック)で韓国のガールズロックについて寄稿したことがあります。また、日・英・韓のトリリンガルで、英語の共訳書に『アンプ大名鑑[Marshall編]』(スペースシャワーネットワーク)があります。
 
— 水科さんと韓国の繋がり、人生への影響など、少し掘り下げて教えてください。
 
水科:アジア近隣国のハードロック/ヘヴィメタルに興味を持ったのは、二十歳を過ぎてからです。中国ロックの始祖と呼ばれる崔健(ツイ・ジェン)を大学在学中に知って以来、同じく中国の唐朝(TANG DYNASTY)と黒豹(BLACK PANTHER)、モンゴルのHURD、韓国のSAHARA、そしてフィリピンのWOLFGANGといったアジア近隣国のアーティストのCDを折に触れて聴いていました。当時のロック界を俯瞰してみると、洋楽シーンではSEPULTURAが母国ブラジルの伝統音楽を採り入れた『ROOTS』(1996年)で200万枚ものセールスを叩き出し、邦楽シーンではLOUDNESSが俗に言う「インド3部作」で東洋情緒を発散していた頃でもありました。そんな中、自分はといえば1997年にアジア文化会館(ABK)主催の多文化共生ワークショップに縁あって参加しました。アジア近隣国の留学生と一般の日本人が、実体験をもとに演劇を創作するというものでしたが、韓国人留学生の参加率がたまたま高かったので、彼らから韓国語を教わるようになりました。これをきっかけに、「欧米諸国と違って、アジア近隣国と日本との関係が円滑とはいえないのは何故だろうか」と自問自答するようになりました。そこで韓国語学習と並行して、20代半ばの頃は日本史の学習参考書を読み直したものです。というのも、中学の社会や高校の日本史で学んだ通り、易や暦、仏教といった中国大陸由来の文化は古代の朝鮮半島を経由して日本に伝来しており、室町時代~江戸時代には朝鮮王朝の外交使節団である「朝鮮通信使」が日本をたびたび訪れました。日韓両国では領土問題や歴史認識問題が何かと取り沙汰されますが、遥か古代や中世に遡ると関係が良好だった時期もあります。古の人々が良好な関係を築けたならば、21世紀の現代を生きる我々にも実践できるのではないか。そのためには相手のことをよく知らなければ、と思ったことも韓国語を学んだ動機の1つです。
 
— 著作の方のお話ですが、「まえがき」に 日本のメタルファンが読者であると定義されていますが、社会的な「用語解説」や「地域間対立」、「歴代大統領」といった国のバックボーン的な部分を冒頭で説明されている理由を教えてください。
 
水科:2016年秋に執筆オファーをいただいた当初から、発売元のパブリブ代表のハマザキカク氏には「韓国の社会事情や歴史、文化などの話も盛り込みたい」という要望を受けていました。しかし実際のところ、「何もそこまで踏み込む必要はないのでは?」と執筆中に躊躇したのも事実です。日本のアーティストにしろ、リスナーやオーディエンスにしろ、難しいことは考えずに日本に一番近い隣国のアーティストとステージで共演したり、彼らのライヴを観たり、あるいは音源を聴いていればそれで十分、という人が大多数でしょうから。ただ、よく言われるように、何事も知らないよりは知っていたほうがよいものです。そんな訳で、執筆が佳境に入った頃に気持ちを切り替え、韓国シーンの歴史的、社会的、政治的背景を理解できるような語句注釈、各種コラムなどをふんだんに盛り込みました。おかげさまでSNSをチェックしていると、「韓国の歴史が勉強できるのも嬉しい」とか、「社会情勢を含めて韓国シーンを解説した本は世界でも稀ではないか」といった反応が複数見受けられます。もしかすると、単に韓国のヘヴィメタルというより、隣国の社会事情の一側面を成すヘヴィメタルという視点で興味を抱いてくれたのかもしれません。その時々の社会情勢や国内事情が音楽に影響を及ぼすことは、どこの国でも見られる現象なので。

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毎週水曜オンエア『TOKYO FM WORLD』の「Share the World」コーナーへ10/3(水)出演!
 
韓国勢の音源を流しつつ、韓国シーンの変遷を語り、出版をPRした。
その際に流したバンドは以下。
 
夜間飛行/BLACK HOLE                 二重人格者/N.EX.T

 
Feel The Soul/ソ・テジ(Seo Taeji)            Venom/Synsnake

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— あらためて確認すると「歴代大統領」の多くが、収賄罪にからんだ逮捕や実刑を受けていることに驚きました。また国民性のような、韓国独自のカルチャーの音楽活動への影響について、どう思われますか?
 
水科:韓国の大統領制に関しては、韓国のドキュメント番組『38度線』日本版DVDの監修や、『北朝鮮が核を発射する日』(PHP研究所)の翻訳でお世話になった辺真一(ピョン・ジンイル/『コリア・レポート』編集長)氏が折に触れて的確に考察しています。差し当たり、辺真一氏が「Yahoo!ニュース個人」に寄稿した次の記事2本をご覧願えないでしょうか。
 
「韓国の歴代大統領はなぜ哀れな末路を辿るのか?」 (2018年3月23日付)
https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20180323-00083040/
「韓国の大統領はなぜこうなるのか?」(2016年11月6日付)
https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20161106-00064149/
 
ご存じかと思いますが、韓国が民主化され日本文化が開放されたのはそれほど遠い昔ではありません。ソウルオリンピック前年の1987年6月に「民主化宣言」が発表され、同年10月に現行憲法(第6共和国憲法)が制定される以前は、軍人出身の大統領が圧政を敷いており、表現の自由も制限されていました。ロックを含むポピュラー音楽も規制当局の管理下に置かれ、朴槿恵(パク・クネ)の父に当たる朴正煕(パク・チョンヒ)の在任末期の1979年には、政府当局にとって好ましくて「健全」とされる唱歌や軍歌をレコード1 枚につき1 曲以上収録する「音盤挿入義務制度」が施行されたほどです。この制度は、1988年のソウル五輪を誘致した全斗煥(チョン・ドゥファン)の在任中も踏襲されました。現在の韓国で、音楽活動を初めとする表現の自由が完全に保障されているのかどうかは、拙書をご覧になれば分かるかと存じますが……。日本産の映画や音楽、漫画といったポップカルチャーが韓国で公に解禁されたのは、1998年に就任した金大中(キム・デジュン)政権の頃です。これをきっかけに韓国の若者達が聴ける音楽の幅が広がり、日本のヴィジュアル系の影響が窺えるアーティストが時を前後して韓国シーンに少数派ながら登場しました。韓国産ヴィジュアル系バンドの始祖と呼ばれるEVEは、解散~再結成を経て、今なお精力的に活動しています。最近の韓国の若手バンドの中には、Crossfaith、coldrain、HER NAME IN BLOOD、MAN WITH A MISSION、SiM、ONE OK ROCKなど、俗に「ラウド系」と呼ばれる日本産アーティストからの影響を公言している人々も見受けられます。
 
— バンド紹介がチャプターでカテゴリー別となっているのは、広範囲にサウンドバリエーションがあるメタルならではのものですね。各バンドのアー写やスナップ、またはジャケ写などは、どのように集めたのですか?
 
水科:執筆当初は単に活動を始めた年代順にバンド紹介を書き連ねていましたが、パブリブ代表のハマザキ氏より、「やはり最低限のカテゴリー分けは必要では?」という助言を受け、最終的に全312組、384枚の音源を8章に大別して掲載しました。音楽性が相通ずると思われる日本や欧米のアーティスト名を「類似」欄に列挙したのも、元を正すとハマザキ氏の発案によるものです。アー写やスナップ、ジャケ写に関して言えば、拙書冒頭で述べたように、できる限り各掲載対象アーティストに自ら接触を取り、先方から直接入手しました。レーベルオーナーが窓口を担ってくれた一部の例外を除き、大半はメールやSNSで個別交渉しなければならず、非常に骨が折れました。掲載意図がきちんと伝わるよう、オール韓国語に訳した企画書も準備しなければいけなかったし。また、日本でもありがちな出来事ですが、執筆中に新譜がリリースされたり、掲載予定バンドのメンバーが交代したりというケースも多々ありました。鮮度の高い情報を盛り込めるように、こうした変化が起きるたびに新しい写真素材の手配にかかりましたが、本文もそれに準じて加筆修正しなければならず、余計に手間がかかりました。執筆~刊行までに1年9ヶ月もの歳月を要した一因は、まさにこうした手間暇の煩雑さによるものでした。ちなみに、表紙写真のセンターに据えたCRASHのアン・フンチャン(vo,b)の写真は、彼らのライヴを過去に取材した現地の大手通信社、聯合ニュースから有償で借り受けたものです。
 
— おそらく水科さんが一番読者に望む事は、著作を読み、実際に音に触れてほしいのではないかと思います。「音源視聴方法」そして輸入盤や音楽配信についてのケアが素晴らしいと感じました。
 
水科:歴代の「世界過激音楽」シリーズでも音源試聴アイコンを載せていましたが、iTunesとSpotifyのアイコンは自分の発案で今回初めて追加しました。かつては新大久保のコリアンタウンで韓国のハードロック/ヘヴィメタルの音源を探し歩き、時折ジャケ買いで失敗するという苦い体験を味わったものです。しかし、現在は定額制の音楽ストリーミングサービスのおかげで、韓国のみならず世界各地の音源を探しやすくなりました。もちろん、アルバムを手元に所有してコレクションするという物的な感触はフィジカルCD でしか得られませんが、差し当たっては本書を片手に、気になるアーティスト名、アルバム名などをインターネットや定額制サービスの検索窓に入力し、いろいろと探してみてはどうでしょうか。おかげさまでSNSをチェックしていると、拙書に掲載されているアーティストのCDを輸入盤で入手したり、定額制でダウンロード視聴したりという方を複数見かけます。

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A— アーティストやディレクターなどのロングインタビューも、実に読み応えのある内容ですが、このロングインタビューについては、誰にお願いするか、どのように決められたのですか?
 
水科:執筆スタートから約3ヶ月後、2017年1月末にはハマザキ氏と人選を協議し、インタビューのオファーを出していました。中でも、1990年~1994年の時点で日本盤デビューを果たしたSINAWEとBLACK SYNDROME、そしてCRASHというベテラン3組は是が非でも外せない存在だと思っていました。それで各アーティストからメールで戻ってきた回答を日本語訳しているうちに、プログレメタルバンドのN.EX.Tが韓国の後進に多大な影響を及ぼしていたのを再認識したので、最後にN.EX.T~NOVASONIC他のギタリストだったキム・セファンにインタビュー依頼しました。全14組のアーティストの中には、過去に面識のある人物もいれば、そうでない人物も混じっていましたが、総じて快くオファーを承諾してくれたし、本邦初公開と思われる貴重なエピソードを惜しげなく披露してくれました。何しろ、全14組中6組のアーティストは1 万字超えの長尺インタビューです。察するに彼らは、日本のメディアに自分達の存在をアピールする機会に飢えていたのではないでしょうか? あるいは、韓国事情とハードロック/ヘヴィメタルの両方に詳しい日本人インタビュアーという自分の特異さが物珍しく、親近感を抱いてくれたのかもしれませんが。
 
— 日常でもバンド活動でも使える「韓国語フレーズ」や「外来語リスト」は実際に役立つ内容ですね。水科さんとしては、韓国アーティストと交流したり、ライブに足を運んだり、日本のメタルファンに希望されていますか?
 
水科:最初に申し上げたように、自分は語学テキストの編集制作に携わった経験があり、制作点数はのべ10点に及びます。当然ながらその大半は韓国語学習テキストなので、当時培ったノウハウをもとに、シチュエーション別に実践的なフレーズ、単語リストを厳選収録しました。それに当たっては、韓国シーンに詳しい現地在住の加納麻理子氏にアドバイスを仰ぎました。韓国語を表記するハングルは、予備知識がないと丸や四角、棒が羅列された暗号にしか見えないかもしれませんが、実際のところ韓国語は日本語と文法が似ており、日本人が学びやすい言語でもあるんです。日本人アーティストやリスナーが韓国へ遠征する際に、拙書を旅のお供にしてくれるとよいのですが。
 
— アーティストであっても「兵役制度」は逃れられないので、「兵役制度」についての描写も大変興味深く読む事ができました。日本には無い習慣で、意識もしませんが、音楽活動にも大きな話となりますね。
 
水科:韓流スターやK-POPアイドルの兵役は、日本でも芸能ニュースとして時折報じられますが、日本のメタルファンが韓国の兵役制度を窺い知る機会は少なかったのでは? と思われます。インタビューに応じてくれたアーティスト14組のうち、エクストリーム・メタルバンドのREMNANTS OF THE FALLENとMIDIANの2組は拙書刊行当時は、まさに所属メンバーの兵役により、サポートメンバーを入れて活動していました。彼らのインタビューを読めば、兵役という韓国特有の問題をひしひしと実感できるのではないでしょうか。もちろん兵役制度のある国は韓国だけではありません。たとえば北欧メタルのSONATA ARCTICAのギタリストだったヤニ・リマタイネンは、故国フィンランドでの兵役のためバンドを脱退し、約2年のブランクを経てCAIN’S OFFERINGの一員として表舞台にカムバックしました。しかし距離の近さゆえに、北欧のフィンランドよりも韓国のほうが日本の読者はいっそう身近な問題として捉えやすいでしょう。

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— 「欧米アーティストの韓国公演歴」の詳細にも驚きました。あれほどの数がプレイをしているとなると、メタルのマーケットは確実に存在していますね。「日本勢の韓国公演歴」では、小さなものまでピックアップしていますが、情報はどのように収集されたのですか?
 
水科:韓国のマーケット規模に対する認識は、各アーティストによって異なるかもしれません。たとえば、洋楽のビッグネームではDREAM THEATERが9回、MR.BIGが6回、DEEP PURPLEが5回韓国公演を実施しています。その一方で、AC/DC、KISS、VAN HALEN、MOTLEY CRUEなどは韓国で一度もライヴしていません。日本勢ではスラッシュ寄りのアーティストが上位を占め、SURVIVEがのべ12回、次いでOUTRAGEが8回、MANIPULATED SLAVESが7回の韓国ライヴをこなしています。LOUDNESSも過去6回韓国でライヴしましたが、ANTHEMやX JAPANなどは現時点では1回限りです。ライヴ情報に関して言えば、韓国にはentcrowd(http://www.i-get.net/)と、INTERPARK(http://ticket.interpark.com/)というプレイガイドがあります。特に後者のINTERPARKは、伝統芸能や演劇、オペラ、ライヴなどあらゆる公演情報をデータベース化したPLAY DB(http://www.playdb.co.kr/)というサイトも運営しており、2009年以降の主立った公演情報はそこで閲覧、検索できます。しかしそれ以前の公演情報は、韓国のネットコミュニティーで得た情報を、各アーティストの公式サイトや過去のライヴ写真、あるいは日本の音楽誌などと照合して事実確認しなければならず、これまた骨が折れる作業でした。イングヴェイ・マルムスティーンのように、日韓共催W杯以前のソウル公演の模様をオフィシャルブートレグとして映像商品化しているケースは稀だったので。
 
— 「参考文献」やサイトの数を見ても、著作をまとめるのに相当なパワーが必要だったことがわかります。まとめる上で、何が一番大変な作業でしたか?
 
水科:紙媒体かWeb媒体かを問わず、日本の既存の音楽メディアで何らかの形で扱われたアーティストは細大漏らさず網羅しようと、執筆中は考えていました。重箱の隅を突かれる余地を残さないよう、執筆の合間を縫っては永田町の国会図書館に出向き、既存の音楽誌のバックナンバーをくまなくチェックしたものです。どのみち、韓国側のアーティストが日本について言及していたら、既存の音楽誌と照合して事実確認しなければならなかったので。朝鮮半島の歴史や韓国の政治、社会情勢について述べる際には、信憑性の高い学術論文に依拠した上で、予備知識のない読者にとって平易かつ有益な文章にまとめることに気を配りました。音源レビューは客観かつ公平に、そして単に音楽性をあれこれ論じるだけでなく、韓国語を知らない日本の読者に歌詞や曲のテーマが大ざっぱに分かるように配慮したつもりです。
 
— メタルの韓国大全なので、サウスコリアなのは当然なのですが、ノースコリアについては、水科さんの中でどう考えられてますか?
 
水科:冒頭で述べたように、自分は過去に朝鮮半島問題を扱ったDVDソフトや書籍で辺真一氏とご一緒したことがあるし、去年~今年にかけても『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』(柏書房)と、『豊渓里(プンゲリ) 北朝鮮核実験場 死の情景』(徳間書店)という北朝鮮関連本の編集制作を2点手掛けました。ただ、これらは日本人拉致問題や核開発問題をテーマにした単行本で、北朝鮮の音楽シーンを生で体験したことはありません。2017年12月に内閣府が発表した「外交に関する世論調査」(※1)でも一目瞭然だったように、たいていの日本人が北朝鮮に対する関心事項として上位に挙げるのは「ミサイル問題」(83%)、「日本人拉致問題」(78.3%)、「核問題」(75.3%)であり、自分自身もマクロ視点で日朝関係を見ているので。しかし、後者の『豊渓里~』の巻末解説で米村耕一氏(毎日新聞外信部副部長)が指摘してくれたとおり、「北朝鮮も多様な個人からなっている」はずです。1991年に平壌でライヴしたSHOW-YAや、北朝鮮の中高生にロックを教えた実体験を書籍化(※2)したファンキー末吉さん(爆風スランプ、XYZ→A)のように、もし自分自身もロックを取っかかりに訪朝し、北朝鮮の人々と直に接する機会が出来れば、また違った視点で北朝鮮を捉えられるのではないか、と思いますが。
 
※1:2017年10月26日~11月5日まで全国の成人男女3000人を対象に実施。有効回収率は60.1%(1803人)
※2:『平壌6月9日高等中学校・軽音楽部 北朝鮮ロック・プロジェクト』(集英社インターナショナル)
 
— 「あとがき」にある“どんな分野であれ一歩踏み出せば、新たな世界が広がるはずだ”との言葉通り、日本のメタルファンにとって、新たなサウンドとの出会いを含めた、まさに一歩を踏み出すための書物になっていると思います。最後にアピールをお願いします。
 
水科:2018年2月、あるアメリカ人のデータ・サイエンティストによる『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿記事が、日本のネット上でも話題になりました。具体的には、Spotifyユーザーの視聴履歴を分析したところ、男性ユーザーが最も好む楽曲は彼らが14歳だった時にリリースされたもので、女性ユーザーが最も好む楽曲は彼女達が13歳だった時にリリースされたものだった、という記事です。確かに日本でも、自分と同世代のリスナーが働き盛りとして社会の中核を担うにつれ、1980~1990年代カルチャーのリバイバルブームが間欠的に起きています。誰であれそういう原体験は大切で、居心地のよさを感じるでしょうけど、自分にとって最も快適な「コンフォート・ゾーン」に安住していたら、未知の領域へ踏み出すことは困難でしょう。「日本産メタルでさえ躊躇するのに、なぜ韓国のハードロック/ヘヴィメタルまで……」と思う方もいるかもしれませんが、一度耳にすれば、たとえ歌詞の意味が分からなくても、韓国のハードロック/ヘヴィメタルは日本産に引けを取らないことが分かるはずです。日本に最も近い韓国を足がかりに、もっと広い視野で世界各地のアーティストの楽曲に触れてみてはどうでしょうか。

『デスメタルコリア: 韓国メタル大全』は書籍のタイトルのインパクトを狙い、“デスメタル”という言葉を使っているようだ。書籍の内容としては、ハードロック/ヘヴィメタル全般の内容となっている。書店で書籍を手にしてもらうには、タイトルと装丁は、大切なファクターだ。
 
私が一番驚いたのは、インタビューにある通り、コンテンツの幅の広さだ。いったいどれだけの時間とパワーを使って完成させたのだろうか。辞典のような書籍を手にした時は、そのボリュームにノックアウトされた。水科哲哉の生き様、ロックへの思いが全て詰まっているのは間違いない。
 
私自身、知っているようで知らなかった事が多く載っていて、とても勉強になった。読者にお薦めして間違いない書籍だと思う。そしてこの書籍の性質上、立ち読みではなく所有してほしい。チラっと見て内容を把握するのは極めて困難。読むたびに新たな発見もあるので、じっくり何度も読み、保存版とすべき書籍。
 
手に入れた者が新たな一歩を踏み出せる、その役目を担うことで、『デスメタルコリア: 韓国メタル大全』は目的を遂行できる。サイズが大きい書籍なので、気軽に持ち出したり、電車の中で読んだりは、できないかもしれない。ただこれほどまでに情熱が詰まった書籍は、数少ないのでは無いだろうか。まだ手にしていない読者は、過ごしやすい秋の夜長に、じっくりと読んでもらいたい。
 

デスメタルコリア: 韓国メタル大全 (世界過激音楽)
 
単行本: 383ページ
出版社: パブリブ (2018/8/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4908468273
ISBN-13: 978-4908468278
発売日: 2018/8/10

 
もはやメタル不毛国とは言わせない!!
K-POP・ヒップホップ
だけじゃなかった
コリアンメタル&
大韓ハードロックの魅力に迫る!
 
80年代からSINAWEや白頭山など良質の正統派HMを生み出し、90年代にはソ・テジやN.EX.Tなど新世代が一世を風靡。
隣国故に日韓メタル交流も盛んでヴィジュアル系・レディースバンドも輩出する一方で反日ブラックメタルも登場。
メタルコアは中進国レベルに発展。
 
384頁、シリーズ最高60万字超え
 
●韓国の音楽史上初めてヘヴィメタルを掲げた真のパイオニア SINAWE
●朝鮮民族発祥の聖山の名を冠した韓国HM/HRの第一世代 白頭山(BAEKDOOSAN)
●ポップス界でも成功した「魔王」率いるプログレ・モンスターN.EX.T
●変化を恐れずに四半世紀あまりの歴史を築いた実力派スラッシャー CRASH
●海外公演数150本以上伝統楽器男女混成エクスペリメンタル・メタルJAMBINAI
●K-POPの礎を作ったカリスマは元々HM/HR界の住人 ソ・テジ
横浜アリーナのステージに上がったメタルコア・モンスター DIABLO
 
謎の楽器メーカーSamick本邦初独占インタビュー
 
欧米・日本メタル韓国公演年表、韓国メタル海外公演年表
韓国メタル音源試聴法
韓国語メタル・フレーズ集
韓国メタラーの本音が分かる膨大なインタビュー

 
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