コラム
地獄のコラムニスト・トレーニング
小林信一
90年代にTV/CMソングのギター録音、作曲などのスタジオワークを開始。ESP・SCHECTERの7弦ギターの開発に協力。 04年執筆の「地獄のメカニカル・トレーニング・フレーズ」が大ブレイク。現在までに7冊のギター教則本を執筆。10年2月に初のソロ『ネクタイ地獄』を発表。地獄本シリーズの著者による凄腕バンド“地獄カルテット”にて活躍中。

地獄伍


前回はイレギュラーの中国特別編をお届け致しましたが、如何だったでしょうか?
さて、今回は通常のコラムに戻り、予告していた地獄本の進化シリーズをご紹介したいと思います。
 
2004年”地獄のメカニカルトレーニング”(リットーミュージック社)が発売されて、第2弾そして第3弾にはDVD編が発売されました。
この頃の筆者は、もう十分マゾモードの練習は紹介しているだろうと思っていて、理論書やリズムトレーニング本、または初心者用の本を執筆したいと考えていました。
 
そんな頃に、たまたまベースのMASAKIさんからアニメタルの再封印コンサートのお誘いを受けて観に行くことになり、偶然にもコンサートの数日前に地獄本の担当も行かれるとのことをお互いに知ったので、「コンサートの前に次回作の打ち合わせでもしましょう!」となりました。担当曰く「いいアイデアがあるので。」と。
自分では、どんなバッキング編にしようかな~とか、理論書もいいな~なんて思いを馳せていたのですが、打ち合わせ当日、担当の口から飛び出した企画は、“クラシックソング×地獄メタルアレンジの譜面曲集”でした。
「地獄本の最終練習曲へ果敢に挑戦するキッズ達のために、更なる練習曲としての題材を提供しようではないか!?」と。筆者も同感の思いで、満場一致(2人ですが)でこの企画に乗ろうと決めました。
「クラシック×地獄の企画は、今日のアニメ×メタルのアニメタルみたいで、運命を感じますね!あっ!“運命”もやりましょう!」なんて打ち合わせは盛り上がったのでした。
さて、その後、企画も無事通り、まずは選曲ということで、筆者のやりたい曲と担当のお薦めソングを掛け合わせ下記の6曲に決まりました。
 
・白鳥の湖
・交響曲第5番「運命」
・カノン
・モルダウ
・ウィリアム・テル
・結婚行進曲
 
ここから実際の作業がスタートするのですが、こんなに大変だとは思いませんでしたの連続で…
まず原曲の譜面を取り寄せて研究するのですが、難点は2点ありました。
1つは、7〜8分もある長い原曲をどのように2分ぐらいの約80小節サイズにアレンジするのか?という点。クラシックの曲は“イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ”のようなポップス形式には当然できていないですから、美味しく印象的なメロディーやパートが長い尺の中に緻密に鏤められているので、結構アレンジに悩むポイントなのです。もちろんキッズは有名なフレーズを弾きたいでしょうし、更に地獄アレンジというテクニカルでメカニカルなアレンジ・フレーズにも挑戦したいはずです。また、クラシック曲の美味しいポイントは主のメロディーに限っておらず、裏のベースラインがカッコいい時も多々あるので、原曲から取り上げるパート、そしてアレンジしたメカニカル・フレーズというそのバランスがまた難しさを増すのです。
以上が1つの点でしたが、最も苦労したもう1つの点は、Rockスタイルのバンド・アレンジをするためのコード進行分析でした。当然クラシックはコード進行の概念が無く作曲されているのですが、どうしてもバンド・アレンジするためには、ベースラインとその上に乗せていくコードが分からないと、なかなかお洒落なサウンドにアレンジできないのです。ところが、クラシックの偉大な作曲家達は、対位法など主メロと裏メロなどが自然にハーモニーを取って、何かしらのコード概念に当てはめて解決させているという、とてもとても高度な音楽理論で曲やフレーズを進ませていくため、1小節や2拍分で「何のコードになってる?」なんて考えるのではなく、1音ずつフレーズでコード分析をしていかないと解釈できなくなってしまうのです。
以上の2点を考慮し、かなりの分析時間を費やしながら作業は進めていきました。
1曲に対する実際のアレンジ作業は、以下のような流れで行いました。
 
・1曲80小節ぐらいをメドに原曲からどこを引用するか全体の尺を決める。
・サイズが決まった部分の原曲からコード分析をする。
・その曲のRockアレンジ(曲調)を決め、ドラムのビートパターンを打ち込む。
・引用するメロディー、コード進行、ベースラインを全体的に打ち込む。
・最後に実際に弾くギター・フレーズを決めながら譜面におこす。
 
この作業を1曲ずつ終えながら6曲分を繰り返し、約1ヶ月に2曲のペースで3ヶ月を費やしました。こうやって作業をリストUPすると、なかなかの作業ボリュームなんですね(笑)
 
さて、これでカラオケ打ち込みとギター譜面が完成したところで終わりではありません。地獄本の売り文句である強力な本書解説!そして強力なデモ演奏音源!ここからの作業が真骨頂なのです!そして、何度執筆しても一番苦労するところでもあり、時間がかかって一番編集部に迷惑を掛けるところでもあります(笑)
だいたい原稿を書きながら、実際のギター録音作業に突入し、1〜2ヶ月で完パケに至るという感じだったでしょうか。
 
ざっ〜と地獄本のクラシック編を思い返しながら書いてみましたが、のちにゲームミュージック編、天國本へと繋がっていく練習曲集としての執筆作業の雛形を作っていたことになりますね、このクラシック編が。そう考えると、初めは手探りで、アレンジ作業がどのぐらいの期間で終わらせられるかなど全くもって甘く見ているという見切り発進だったな〜とつくづく思います(笑)反省あっての今でしょうね。のちには、1曲1ヶ月はアレンジ時間の余裕を持とうと決まりました。
 
ということで!この“地獄のメカニカル・トレーニング・フレーズ〜暴走するクラシック名曲集〜”は、めでたく2007年5月31日に発売されました。
 

そして、中には男のロマン?の“袋とじ”企画でボーナス・トラックの譜面などが掲載されています。
 

現在では、日本以外に韓国版、中国版と3カ国のアジアで翻訳版が発売されています。
 

アジア圏では“地獄の輪廻〜カノン〜”の人気が高く、かなりのキッズが演奏動画をアップされているのですが、台湾の映像クリエーターによる“地獄の輪廻”の曲を使用したオリジナル動画“Run”というのが制作されていますので、よろしければ観てくださいね。 

 
ではまた次回お会いしましょう。

関連ページ:
http://www.rittor-music.co.jp/books/06217102.html