コラム
地獄のコラムニスト・トレーニング
小林信一
90年代にTV/CMソングのギター録音、作曲などのスタジオワークを開始。ESP・SCHECTERの7弦ギターの開発に協力。 04年執筆の「地獄のメカニカル・トレーニング・フレーズ」が大ブレイク。現在までに7冊のギター教則本を執筆。10年2月に初のソロ『ネクタイ地獄』を発表。地獄本シリーズの著者による凄腕バンド“地獄カルテット”にて活躍中。

中国遠征番外編


※クリックで画像が拡大します。

今回のコラムは、特別寄稿として2012年5月24~6月1日まで行った中国ツアーを題材にしようと思います。でも、ここで麻婆豆腐を食べたとか、万里の長城に登ったとか、旅行記になっても仕方がないので(笑)ライブ活動を通して感じた生の中国に的を絞って書きたいと今は思ってます。とか書きつつ、後半は中華料理の写真だったりして(笑)

さて、今回2度目の中国ツアーになるのですが、今まで以上にかなりのハードスケジュールと過酷な環境が予想されていたので、事前にかなりの準備をしておきました。
まずは持ち込んだ機材のご紹介。
 
<ギター2本>
通称「ケンシロウ6弦」シェクター製S6、「トキ7弦」シェクター製T7

<エフェクターボード>
 モーリーワウ、DragonDriver、スモールクローン、チューナー

<その他>
LINE6製ワイヤレスRelayG50、MXR製6バンドEQ、AKAI製アナログdelay

まずアンプは持って行けないので、各会場のアンプを借りるしかないのですが、これがまたバラバラで、取り敢えずマーシャルがあるだろうなんて事はなかったのです。
そこで、基本の歪みは、私のシグネチャーモデルエフェクターDragonDriverで歪ませるのですが、各々アンプの特性によるトーンを調節しなければならない場合のために、MXRのEQを適時使用のため準備した訳です。エフェクターのEQを使用する発想は、以前私の尊敬するギタリストである横関敦さんに直接伺ったお話からいただいておりまして、横関さんはご使用になっている(メーカーは定かではないのですが)EQを使って出音のトーンをコントロールしたいと仰っていらっしゃいました。もちろん、この話を伺った翌日には楽器屋に行き、お店にある全てのEQを並べて試奏、そして購入みたいな(笑)そんなミーハーな私もたまには出現します。

さて、機材の事になるとかなり熱くなって脱線してしまうのですが、いいトーンを中国ツアーでも出したいという思いで、上記の機材を使ってあれこれとスタジオにこもり、音作り準備をしていた訳です。

では、ここで実際の演奏したセミナー&ライブのスケジュールを、まず時間軸で確認していただきましょう。

5/24 北京MIDI音楽学校セミナー
5/25 北京現代音楽学校セミナー
   北京ライブイベント
5/26 哈爾濱ライブ
5/27 長春ライブ
5/29 杭州ライブ
5/30 武漢ライブ
5/31 重慶ライブ
6/01 蘭州ライブ

2本のセミナーを含めて全部で9公演です。

お次に移動距離を確認。 今回の総移動距離合計11,433km。

結構な移動距離ですね。この先を読みながら地名と場所を上図で確認するとイメージが湧いて面白いと思いますよ。
 

さて、初公演の北京MIDI音楽学校は、北京の郊外にある全寮制の音楽学校です。周りにコンビニも街灯も何もないという音楽に没頭するのに最適な環境下での学校でした。だだっ広い敷地に平屋のスタジオがたくさん並んでいる感じです。
毎日が合宿というノリですね。とても楽しそうな学生達の雰囲気が印象的でした。

それとは対照的で、翌日の現代音楽学校は都心部に存在する学校でした。“現代”という言葉が非常に似合う近代的な建物で、日本の大学の雰囲気に似ているようでした。学生達もミュージシャンというよりは大学生という感じでしたね。
 
 
 
そして、その夜は北京シェクター祭りというイベントで中国のシェクター・モニター・アーティストが自分を含め4組出演しました。

ソロアーティストは3人、ブルース主体のギタリストくん、このあと一緒にツアー同行する超絶フュージョンギタリスト紀元くんと自分。そして中国重鎮メタルバンドの戦斧です。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
やはり中国の方は技術がしっかりしていて、基礎を重んじているアーティストが多いです。雰囲気優先ではなく、練習が第一に感じました。もちろん一般的には分かりませんが、少なくとも自分が出会った中国プロミュージシャンは、皆さんしっかりした技術力がありました。ただ、2時間押しっていうリハーサルの緩い流れには、おっかなビックリでしたが(笑)

さて、ここから地方ツアーに出発です。

先述した紀元くんとのツアーです。地方によっては、現地のミュージシャンの前座が付いたりもしましたが、基本2マン形式でした。地方ツアー初日はホテルのロビー5時集合で哈爾濱へ!この漢字は“ハルビン”と読みます。ここを訪れるのは初めてで、今まで自分が訪れた中国の中で最も北に位置する場所です。ここはまだインフラ整備が追い付いていないような感じの、いわゆる地方都市っていう雰囲気を醸し出していました。

そのためライブ会場を不安視していたのですが、案の定、倉庫にPAを置いただけという感じの会場で(笑)
でも、これでお客さんが入ると、ROCKな良い雰囲気に包まれるからライブって不思議ですね!物凄く熱いお客さんと触れ合う事ができました。
 
 

翌日は人生初の中国新幹線で長春へ。新幹線というよりは特急か急行かと思う緩いスピードで大地を走って行きます。日本でよくある高架になった新幹線専用の線路がないためでしょうか、最高時速140kmぐらいと車内表示されていました。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長春は昨年も来た都市で、かなりパワフルなノリのお客さんが印象に残っています。今回も雰囲気の良いライブハウスでのライブで、日本語を少し理解しているお客さんがチラホラといらっしゃいましたよ。「小林サン愛シテル~」とか「カッコイイ~」とか聞こえて来ました(笑)

地方ツアー3つ目の都市は、自分のバンド地獄カルテットでも来た事がある杭州。ここは中国国内でも幸せ度No.1と言われる都市で、自然と経済と治安の整った素晴らしい所です。市民も温和で落ち着いた人が多く、自分も好きな街の1つです。いつもお世話になるスタッフや音楽仲間と再会もでき、とても暖かい雰囲気の中でライブができ感謝です。この日は紀元くんも非常に良いパフォーマンスをしていて、自分もいい刺激を受けて演奏した事を覚えています。

さて、その後、飛行機で武漢に飛びました。ここは昨年、成都でお世話になった楽器店の姉妹店がありまして、その社長さんとも再会し、ジャズ・バーのような会場でライブをやりました。さすがに雰囲気重視のジャズ・バーで、ロックサウンドのライブ演奏は正直キツく、モニターも有って無いようなものでしたので、かなりパフォーマンス重視のイカれたライブになりました(笑)モニターに指板を擦り付けたりね!壊れてましたよ、あの日は。

翌日は、また飛行機で重慶へ。ここも初めて訪れる場所で、中国の少し内陸部に位置し、歴史的な都市です。皆さんも名前だけは知っているのではないでしょうか?

ここも哈爾濱にも似ていて、古い街並みが残っている地方都市というおもむきでした。得てして、そういう都市の若者は物凄いエネルギーを内包していて、ライブでは溢れんばかりの感情を放出しておりました。もちろんライブは熱い内容になりました。この重慶では今回のツアー唯一、楽器店の経営している音楽スクールの会場でライブが行われました。ですので、会場最前列用のパイプ代わりに教室の椅子を並べています(笑)

さていよいよツアー最終目的地の蘭州へ!ホテルのロビー朝5時半集合でフライト。実は重慶から蘭州までの直行便はなく、一度昆明で乗り換えてから蘭州へ飛ぶのでした。そりゃ~朝早い訳だ(笑)

そして、無事に蘭州に到着!もちろん初めての場所で、私の中国訪問経験の中では、最も内陸部に来た事になります。標高1600mの、砂にまみれて乾燥した街で、有名な黄河が流れています。自分の経験では以前行ったメキシコシティーに少し似ていて、カラッと爽やかに澄んだ青空の気持ちいい気候でした。

さて、会場の方はと言いますと、ジャズ・バーをライブハウスに改造したような雰囲気の箱で、会場に入るなり機材等が少し危険な香りをしておりまして…リハを始めてみれば、得体の知れないアンプを3つ試す事になり、最初から歪んだ音のモニターは音量が上がらず、明後日の方向しか向かず、ポロポロと色々なものが音を立てて崩れて行く…という地方ならではの状況にめげず、自分と紀元くんは最後のステージを弾き切ったのであった!感動(笑)

もちろん中国奥地の地方都市だけあって若者のエネルギーはウルトラMAXで盛り上がりは凄まじかったですよ。会場の入り口扉が閉められないほどのお客さん鮨詰め状態ですからね。救いは2台のステージ用扇風機でした(笑)しかも普通の家庭用にゃり~。

という事で、ツアー全行程を終了させ、翌日北京に戻り、全スタッフと北京ダックで打ち上げ~!
めでたしめでたし!全スタッフに感謝です!

様々な中国の地方都市と、それぞれの音楽関係者や中国ミュージシャンと知り合った中で、確信になった自分の思いは「やっぱり政治も文化も関係なく、音楽に国境はない」でした。偉そうに言える立場でも経験も薄い1人の日本人ミュージシャンですが、それでも今まで感じた海外での音楽関係者もミュージシャンもギターキッズもみんな同じ“音楽好き”の極々普通の人達でした。たった1つの「音楽が好き」という共通項だけで、これだけの人との出会いがあり共感を分かち合う“同士”として巡り会えるのですから、音楽の力で平和を願う“同志”になれたら、もっと美しいものに近付ける気がする…と、少し大きく考えずにはいられないほどの中国ツアーでした。

これからも少しでも多くの交流ができるよう微力ながら尽力したいと、心に祈りました。


そして読者の皆さん、今回はかなりの長文コラムになりましたが、最後まで読んでいただき、どうもありがとう!これからも皆様のお役に立つ情報を心掛けて執筆致しますので応援ヨロシク☆
 
 
 
小林信一
 
 
 
「万里の長城に登った奴は一人前」だそうだ。