演奏

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

ヘヴィメタルで町興し?国内の自治体としては初のユニークな試みが神奈川県川崎市宮前区で始まり、注目を集めている。「自治体とロックの融合」を一貫して追い続けてきた本誌BEEASTとしてもこれは注目せずにはいられない!
 
宮前区は人口約22万人、面積は18.60平方キロメートル。昭和57年(1982年)7月、高津区からの分区により誕生し、今年区制30周年を迎える。東名高速道路川崎インターチェンジや東急田園都市線の鷺沼など3駅に加えバス路線が縦横し、都心へのアクセスが至便である上、生田緑地をはじめとした緑あふれる環境があり、閑静な住宅街が市内一帯に広がっている。ルー大柴松重豊伊藤かずえといった著名人が長く住み続けていることでも知られている。
 
そんな宮前区だが、市内に大きなライブハウスがあるというわけでも、ヘヴィメタルの大御所が出身だというわけでもない。いったいどのような経緯でプロジェクトがスタートしたのだろうか。まずはプロジェクトの概要を以下ご紹介しよう。

宮前重金属発掘計画 概要 ~日本初? ヘヴィメタルでまちづくり?
 
ヘヴィメタルとは、ロックの限界点を追及し、高度な技術や息の合った一体感のある演奏、力強い音の中にも様式美を盛り込んだ音楽。
「へヴィ」とう言葉から“揺るぎない”“強固”といった“精神性”や独特のファッションなど付随するカルチャーも生み出した、独創的な音楽ジャンルとして確立されている。
 
川崎市宮前区は、ヘヴィメタルの精神や音楽を用いて地域力(自治力・情報発信力・地域資源の蓄積力)を高めていきます。そこで結成されたプロジェクトこそ宮前重金属発掘計画なのである!!
 
◆プロジェクトの方向性
1.ヘヴィメタルバンドの様に…
メタルバンドの一体感のある演奏や個性も光るステージング!!
個性もありながら一体感のある区を目指します
 
2.ヘヴィメタルを演奏する“人”の様に…
高度な演奏をするには不断の努力が必要です
限界に挑戦する、日々限界突破を目指す、宮前区民を発掘し、
新たな宮前区の地域人材資源を見つけます
 
3.ヘヴィメタルボーカルのようにシャウト!!
「薬物をやめよう!」など、強くシャウトするメッセージを送ります
区民も言いたいことをシャウト出来る区にしていきます
 
4.ヘヴィメタルで「音楽のまち」推進!!
今回のコンセプトにある「ヘヴィメタル」を区民の人に知ってもらい
1つの音楽ジャンルを通して“世代”“性別”を超えて仲間になってもらいます

 
「自治体がヘビメタで町興し!?」そんな衝撃的なニュースの第1報が地域情報誌などを中心に報じられたのは、今年6月だ。SEX MACHINEGUNSANCHANGとタッグを組んで「ヘヴィメタル(重金属)な世界観をツールとした区政広報に取り組む」という触れ込みで、まずはその第1弾として「脱法ドラッグ撲滅キャンペーン」がスタート。宮前区誕生30周年の記念マスコット、宮前兄妹(兄:メロー、妹:コスミン)なる”ゆるキャラ”がヘヴィメタル仕様に化粧直し。さらに、キャンペーンソングが制作され、PVにはANCHANGと宮前兄妹が出演した。そのPVがこちらだ。
 

 
宮前重金属発掘計画事務局の一員でもある宮前区役所まちづくり推進部企画課の中村圭佑氏によると、本プロジェクトは30周年事業で集まった各課の若手職員が中心となり始動したのだという。宮前区30周年の記念事業の一環として、若者に向けた行政イベントが少ないため軽音楽と絡めた企画を行いたいと区長に提案し、承認されてスタート。イベントの段取りを組んでいたところ、今年1月に「雨の川崎」というタイトルのニューシングルをリリースしたSEX MACHINEGUNSと出会う。宮前区からの協力要請をANCHANGが快諾したことで、”軽”音プロジェクトは一気に”重”金属へと舵を切ることになる。
 
プロジェクトのリーダーには、宮前区在勤でもあり「雨の川崎」のプロモーション映像制作に携わった映像作家・井上秀憲氏が就任。前述の「脱法ドラッグ撲滅キャンペーン」CMが制作され、9月にYouTube上でプロモーションビデオの公開を始めると、新聞各社も一斉にプロジェクトについて報じ、全国的に注目を集めることとなった。
 
 


 


さらに、プロジェクトは次のステージに進む。10月23日より「宮前区とヘヴィメタル30年の歴史」と題したパネル展示を宮前区役所2Fロビーで開催。宮前区とヘヴィメタルのことを知ってもらうことを目的として、宮前区が誕生した1982年から年を追って日本国内のできごと、宮前区のできごと、ヘヴィメタル界のできごとを写真も交えて紹介。さらに、貴重なレコード盤やバンドTシャツ、ギターコレクションなども展示。区内外のメタルファンはもちろん、それまでヘヴィメタルに触れていなかった区民も含め、多くの人が足を止めて展示に見入っていた。
 
 


 


ちなみに宮前区が誕生した1982年にはMötley CrüeDokkenがデビューしている。直接的な因果関係は一切ないものの、「宮前区と笑っていいともとモトリークルーって同期じゃん」「宮前警察署が開署した1986年にメタリカが初来日したんだね」という見方は新鮮で面白い。
 
 


 


そしてもう一つユニークなのは、「宮前鉄男&鉄女(メタルマン)」コーナーだ。区内在住の「一つの道に魂を込め、限界を追求する人。純粋だが揺るぎ無い、他人から見るとバカに見える時もあるが、本当は格好いい人。己の道を貫き生きている、鋼鉄の魂を持つ人」を紹介するもので、今回の展示では「クラシックカーを美しく生き返らせる休日鋼鉄修復士」「日本で唯一の鉛筆削りのカッター・ホルダーを生産する会社の社長」など5名が写真とコメント付きで紹介されている。その中で「あなたにとってヘヴィメタルとは」という質問項目があるのだが、「LOUDNESSなどのジャパメタは子どもの頃に聞いていた」という人から「あまり聞かない。中学の頃フォークギターを弾いていた」といった人まで様々。
 
 


 


このほか、展示スペースには区民が自由にメッセージを書ける、いや叫べる「フリーシャウトコーナー」も用意され、「北部市場でメタルフェスやりましょう!」「宮前区にライブハウスを!」といった音楽ファンからの切実な叫びが書き込まれていた。
 
 


 


そして、宮前重金属発掘計画には日本国内のヘヴィメタル界で活躍するアーティストがアドバイザリーアーティストとして参加。ANCHANGに加え、五十嵐”Angie.”久勝NOVELA)、斉藤光浩BOWWOW)、重盛美晴STILL ALIVE)、難波弘之Nuovo Immigrato)といった顔ぶれがプロジェクトに参加している。
 
宮前重金属発掘計画は今後、どのような展開を見せるのか。前述の中村圭佑事務局員いわく、「11月18日に開催する宮前メタリックフォーラムで、新たな展開が発表できる予定です」とのこと。
 
宮前メタリックフォーラムは二部構成。まずは区民にヘヴィメタルという音楽に親しみ、理解を深めてもらうために、メタルカルチャーのルーツに迫るドキュメンタリー映画『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』(2005年・カナダ)を上映したのち、「メタルでまちづくりはできるのか?」と題したアドバイザリーアーティストらによるフォーラムを開催。パネラーにはANCHANG難波弘之のほか、音楽評論家の平山雄一や、まちづくり専門家、宮前区まちづくり協議会委員、さらには石澤桂司宮前区長も参加し、舌戦を繰り広げる。市民からの質疑応答も受け付けるという。果たして、「メタルで町興し」は実現するのか?そして、このムーヴメントは他の自治体へ広がりを見せるのか。引き続き、その動向に注目していきたい。
 

◆宮前重金属発掘計画公式ホームページ
http://www.miyamaemetal.net/
 
◆川崎市宮前区 公式ホームページ
http://www.city.kawasaki.jp/miyamae/
 
◆宮前区観光協会 ホームページ
http://www.miyamae-kankou.net/
 
 
◆宮前メタリックフォーラム
日付:2012年11月18日(日)
会場:宮前市民館大会議室
※入場無料
内容:
・第一部(上映会)16:00~
『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』
・第二部(討論会他)18:00~
 
■宮前メタリックフォーラム先行予約受付中!
11/18のメタリックフォーラム参加希望者から予約をしたいということで、多くのお問い合わせをいただきました。そこで50名のみ先行予約を受け付けることにしました。
電話(070-6573-8631)もしくは宮前重金属発掘計画HP上よりメールで受付中です。

 
 
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