特集

世界の中心が八潮になる!~Yashi音人企画ライブ~

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:荻原ひかり

Photo品川区八潮。この一帯はかつて江戸湾の漁場があった場所で、1930年代に埋立地となったのち、1980年代に開発が進み、大型団地が建設された。地縁も血縁もない新興住宅地におけるコミュニティ形成は社会学者の関心を集め、都市社会学者・倉沢進は『大都市の共同生活―マンション・団地の社会学』として人々の生活をレポートしている。

集合住宅地では起こりがちな「隣の住民の顔も知らない」といった無関心が、八潮には存在しない。それは、「陸の孤島」という地理的環境から生じた「生協での共同購入を通じたコミュニティ形成」「『八潮島』という結束意識」などが要因とされるが、それら要因の一つに、「バンドを通じた世代交流」があることはあまり知られていない。
今回、本誌・BEEASTではこの「世代交流」に注目。地元八潮でバンド活動を続けてきた学生達により立ち上げられた「Yashi音人(やしおんちゅ)」と、彼らが主催する世代交流イベント「世界の中心が八潮になる!」を取材した。まずは、Yashi音人の小山真由代表に話を聞いた。

 

Yashi音人 小山真由代表(大学4年)
私たちは地元の児童センター「ティーンズプラザ八潮」で高校生までバンド活動をしていた19歳から22歳までのOB、OG約20名で結成した有志団体で、地元・品川区をはじめとした多くの音楽イベントへの参加、企画に加え、小中学生へのバンド活動支援など幅広く活動しています。
 
「ティーンズプラザ八潮」には、3つのスタジオとJホールというキャパ150名のライヴホールがあります。ここでは小学生から高校生までのティーンズのバンドが「Yashi音クラブ」というひとつの団体としてバンド活動を行っています。私たちYashi音人は、そのYashi音クラブを卒業したOB、OGになります。
 
今回の企画「世界の中心が八潮になる!」は、「品川区のティーンズのバンドマンにもっともっと品川区の音楽活動を盛り上げていってほしい!」、「Yashi音クラブの子たちに、音楽・バンド・ライブの楽しさだけでなく、技術や知識、パフォーマンスなどもっと沢山のことを伝えたい!」というOB、OGの熱い想いから企画しました。2011年11月頃から企画会議をスタートし、深夜まで討論をすることも度々ありました。Yashi音人全員が「より良い企画にしたい!」という気持ちがあったからこそ会議も長引く日が続いていたのだと思います。

「世界の中心が八潮になる!」は2月11日土曜日に開催。地元出身のバンドや協力する区内の児童センターで活動するバンドなどに出演を打診。また、動員数100名を目標にし、この日のためにホームページやTwitterのアカウントも作成し、内外に広く来場を呼びかけた。ここからは、そのイベント当日の模様をレポートする。
 
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品川駅からバスに揺られること15分。京浜運河と天王洲など新興ビジネス街、そしてウォーターフロントの高層マンションを眺めつつ、現地入り。この辺りは大井ふ頭中央海浜公園と陸上競技場が近いこともあって、地元住民のほか、コンビニを訪れる市民ランナーの姿も見られ、非常に賑わっている。
今回の会場は、児童センター(児童館)。その響きから想像もしない豪華設備が、扉の向こうに待っていた。防音壁に本格的なPA設備、天井にはミラーボール!巷の小規模なライブハウスに引けを取らない設備に、カメラマン・荻原と顔を見合わせ、興奮する。
児童センターの担当者に挨拶すべく事務室を訪ねると、貸し出し用のバスケットボールの隣にずらっとアコースティックギターが並んでいて、その違和感にまたびっくり。
 
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ライブイベントは午後からスタート。ラウンジでは、リハーサルを終えた出演バンドのメンバーや友人たちが、軽食を片手に談笑している。一方、慌ただしく走り回る学生スタッフの姿も。そして正午を少し回った頃から、オープニング前のプレイベントとして「ワークショップ」を開催。Yashi音人メンバーによる進行で、「ドラムの3点セットとは?」「シールドの正しい巻き方はどっち?」など、音楽クイズを実施。中高生の観客達が参加し、盛り上がった。

O.A フリーパスタ

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午後1時、いよいよライブスタート。冒頭、ステージに立ったのは、赤いカーディガンが可愛らしい小山真由代表(Vocal&Guitar)率いるフリーパスタだ。最近はあまり活動ができていないとのことで、この日は久々のライブ出演となった。メンバーの和波里翠さん(Drums)は今回のポスター、ドリンクチケット、さらにはYashi音人のTwitterアカウントのアイコンのデザインと制作を担当!そして、サポートに入るのは校境なきロックフェスでも活躍した、高田綾奈さん(Bass)!偶然にもこの前日に解散を発表したGO!GO!7188のコピーを披露。
 

1. OAバンド

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そしてここからがライブ本編。まず1組目は現役高校生男女4人によるOAバンド。この日のために組んだメンバーで、こちらもGO!GO!7188の代表曲「浮舟」を演奏。
 

2. Unleash

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続いては大学1年生のUnleash。進学に伴い解散していたが、この日のために復活!チャットモンチーの「風吹けば恋」などをカバー。力強いドラムが印象的。
 

3. Mr.dee

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3組目は現役高校2年生のMr.dee。結成8か月ながら演奏力、パフォーマンスとも、抜群!区内開催のバンドコンテストでグランプリを受賞している。キャッチーでノリの良いオリジナル曲を披露。
 

4. PEACEMILE

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続いて4組目は女性ボーカルに男性4名の5人組、PEACEMILE。丁寧な音作りが印象的。観客と一体となって飛び跳ね、楽しいステージを展開。
 

5. Nomake

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5組目は女性3人組のNomake。児童センター出身OGで、久々のステージ。個性的なオリジナル曲「よしこ」「犬」と、素朴なMCに会場が和む。
 

6. Laliv de Alice

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6組目の登場は隣の児童センターからの参戦、Laliv de Alice。ポップな恋愛ソングを披露。バンド名はメンバーの好きな「ラルク」「(椎名)林檎」「V系」にちなむのだとか。
 

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転換時にはステージ後方で小山真由代表らYashi音人メンバーによるMCでつなぐ。
出演メンバーのほとんどは小山代表の後輩とあって、終始軽快で和やかなトークが続く。
そして、転換中に世代の異なる中高生や大学生が「久しぶり!」と会話しているのが印象的であった。
 
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7. エソラノート

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7組目はYashi音人スタッフの折原龍太君がベースを務める男性4人組エソラノート。オリジナルを3曲披露。メロディアスな楽曲で魅せる!
 

8. ozone

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続いて8組目はozone。区内開催のバンドコンテストで準グランプリを受賞している実力派だ。ACIDMANのコピーなど心地良い早弾きを披露。
 

9. Sams

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9組目はSams。今日PAを担当していたという大山信一君がギター&ボーカルを担当し、オリジナル曲を披露。一曲一曲に奥行きがあり、スケールの大きさを感じさせる。
 

10. tears

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10組目はtears。全員大学3年生・20~21歳だ。YHMF決勝への出場経験もあるが、現在は活動休止中。明るくノリやすいオリジナル曲で盛り上げる。
 

11. chronicle

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先ほど登場の折原龍太君が再び登壇。最後から2番目、11組目は男性4人組のchronicle。既に解散したバンドだが、この日のために復活!4人ぴったり息の合った演奏と、真っ直ぐなボーカルが魅力的。
 

12. 紅月

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トリを飾るのは品川出身の紅月。本誌では2011年1月2010年1月と二度ライブの模様を紹介しているので、ご記憶の方も多いだろう。マイクスタンドにバラを取りつけ、一気に妖艶な雰囲気に。迫力あるボーカルで、観客はもちろん出演者全員を魅了した。

こうして現役高校生からアマチュアシーンで活躍する先輩バンド、久々に楽器を手にしたというOB、OGに至るまで全12組による豪華なステージが終了。実に長丁場であったが、「お目当てのバンドだけ観て帰る」といった観客は少なく、友人や親、先輩と談笑しながらこのイベント自体、この空間自体を楽しんでいるという観客が非常に多いという印象を受けた。

また、親しい友人間にのみ許された野次の応酬から、現役時代を懐かしむMCまで様々な言葉が飛び交ったが、中でもchronicleのボーカル、大木諒君が「今現役で(バンドを)やっている人は、ここでやれる時間を大事にしてほしい」と後輩へアドバイスしていたのが強く印象に残った。観客である中高大生、そして大人が、皆「全員が全員知り合い」状態で、分け隔てなく談笑していた。ロックを通じて、一つのコミュニティが生まれ、紐帯、今風に言えば「絆」が形成されている。

 

一方で、今回のライブでは単なるたまり場とはちょっと違う空気を感じた。言葉で形容するのが難しいが、それは「帰る場所」とか「居場所」といったものと異なる、一つの「通過点」のような場所なのだろう。OB、OGの発言や表情を見ていても、「自分達が楽しむ」以上に、「現役の中高生たちに自分の経験を伝えよう」という意識が強いようで、もちろん自分達も演奏するのだけど、一線を引いてステージに立っているように感じられた。

ここから外に出て、初めてバンドマンとしての生活がスタート。だから、ちゃんと「卒業」がある。ちゃんと終わりがあることで、けじめがあることで、次の世代が育っていく、ということなのだろう。今後Yashi音人の活動はどのような展開を見せるのか。「今回でYashi音人を引退する」という小山真由代表に、ライブイベント終了後の心境を聞いた。
 

小山真由代表 アフターコメント
Photoライヴ当日、スタッフと出演者だけでも約50名いたので、リハーサルからティーンズプラザ八潮が賑わいました。本番はスタートから押してしまったりとハプニングもありましたが、小学生から社会人までの幅広い年齢層のバンドマン、その保護者の方や地域の方、品川区の児童センター職員の方々や私たちが現役として活動していた頃の仲間など、多くの人たちがJホールに駆けつけてくれました。そのため常にJホールは熱気に包まれ、笑顔が集う素敵な会場となっていたのではないかと思います。
 
またこの日はYashi音クラブの高校生もスタッフを手伝ってくれたりと、後輩に助けられた部分も多くあり、「伝える側」だったはずの私たちYashi音人も、それぞれが後輩から「学ぶ」部分もあったのではないかと思います。そして初代Yashi音人として活動してきた22歳の代のYashi音人メンバーは、このイベントをもってYashi音人を引退することを決めていました。そのため今まで行ってきたイベントの中で、一番熱い想いでこの企画を進めてきました。動員数は約70名と、目標達成することができなかったことが心残りではありますが、次の世代に繋がるような軌跡を残すことが出来たのではないかと感じています。
 
Yashi音クラブとを始め、児童センターで活動する子どもたちにとって、学校や部活などが忙しい中でのバンド活動はすごく大変なことではありますが、この施設の有難みやここで出会った仲間との絆を大切にしながらもっともっとバンド活動の幅を広げ、もっともっと音楽を楽しんでもらいたいと思います。

 

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 ◆Yashi音人 公式サイト
http://iloveyashion.syncl.jp/

 
 
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