演奏

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

「異世代共存響声」…商店街、 学校、ライブハウス、そして音楽ファンが一体となり、街全体を音楽で染めていくイベント、下北沢音楽祭。毎年7月に開催され、今年で22回目となる、音楽の街・下北沢を象徴するイベントだ。本誌BEEASTではかつて下北沢音楽祭の中で開催される関東七大学音楽祭を特集したが、今回はトークイベントに焦点を当てながら、明日の音楽シーンを考えていきたい。

今年の下北沢音楽祭は7月5日から8日にかけて開催され、街中の至る所から音楽が聴こえる、にぎやかな4日間となった。目玉の屋外フリーライブはもちろんのこと、ライブハウスや小劇場ともコラボレーションしたイベントも多数。「シモキタ」つながりで、青森・下北半島とコラボレーションした地元名産の直売も行われた。そして関東七大学音楽祭はかつては北沢タウンホールでの開催であったが、今年は下北沢GARDENで開催。ライブハウスで行うことで、学生たちにとってはよりいっそう客席と一体となって盛り上がれたことであろう。

そして、今回本誌BEEASTが注目したのが、「宍戸留美presents 下北沢文化とネットカルチャーそして・・・」だ。宍戸留美が毎週Ust番組「Oil in Life」で共演する津田大介とともに、表題通り下北沢文化とネットカルチャー、明日の音楽業界について各界のゲストとともに考えていこうという趣旨のトーク&音楽ライブで、ゲストには世田谷区の保坂展人区長や、音楽ニュースサイト「ナタリー」の運営で知られる株式会社ナターシャ・大山卓也代表取締役、さらには凛として時雨ピエール中野(Drums)らミュージシャンの出演も発表され、注目を集めた。
 
 


 


 


会場となったのは、下北沢に数多くあるライブハウスの中でも、オープンカフェのような開放感と飾らないアットホームな雰囲気が魅力の「風知空知」だ。午後1時半に開場すると、続々と観客が訪れる。思い思いにドリンクを頼んだり本棚を眺めたり…というのはいつもの風知空知と変わらぬ光景。ただ、そこに加えて今日は、トークや音楽の模様をUstreamで生配信するということで、多くのカメラやパソコンがスタンバイしている。その人柄が多くのミュージシャンに愛されている増田店長も、今日は慌ただしく注文を聞いては厨房と客席とを行ったり来たりしている。そして午後2時、いよいよスタート。冒頭、宍戸留美津田大介が登場し、趣旨説明。
 
第1部のトークセッションは、津田大介を中心に男性4名による掛け合い。ともにナタリーを立ち上げた盟友・大山卓也LOST IN TIME海北大輔(Vocal & Bass)、そして凛として時雨ピエール中野(Drums)も緊急参戦!
 
 


 


 


「CDが売れない」と言われる音楽業界が今後どうなっていくのか…というのがトークテーマ。音楽産業は斜陽だ、という声はミュージシャン自身あちこちで聞く経験は多いという。その一方で、ライブで楽しむお客さんの濃度など、ミュージシャンが肌で感じる「音楽への熱」はむしろ以前より盛り返してきているという実感があるのだという。
 
その中でピエール中野は自分達より若いバンドマンが、プロ志向でなく就職しながらバンドを続けるという選択を早々に取る傾向にあることについて触れ、「僕らの世代は夢が絶対にあった。とりあえずがむしゃらにやってみようって言って、一生懸命やっていって気づいたらちゃんと食えるようになっていたけど、最近のバンドは(音楽で食うということに対して)諦めが早い気がする」と指摘。その原因を津田大介は「今の若い子は情報が早い以上に、状況が見え過ぎるのかもしれない。『音楽業界がヤバいらしい』『レコード会社が年収いくらで…』とネットで知ってしまう。見えるようになってしまって、生き残っていくために自らの選択肢を絞っているのだろう」と分析した。加えて、ナタリーの編集長を務める大山卓也は「事務所に入ってメジャーレーベルからCDを出す…というオーソドックスなバンドの成長の仕方があまり成り立たなくなっている。昔はそれが全てだったが、今はそれが選択肢の一つになっている」と現状を語った。確かに、”バンドとしての成功の形”が多様化する半面、”見えすぎてしまうことによる消極姿勢”がむしろ音楽シーンを盛り下げる要因になっているのかもしれない。その中で語られた海北大輔の「その中でもネットを使って面白いことを発信していこうとする若いバンドも出ている。音楽をより楽しむ方法を考えることが大事」という言葉には、客席も大きくうなづいていた。
 
 


 


 


トークセッションには中盤から音楽プロデューサーで「風知空知」を共同店主として立ち上げた佐藤剛も参戦。「CDが売れない現状をどうとらえるか」というテーマで、各々の持論を展開した。「いい音を聴くということに対してお金を払う音楽ファンは確実に存在する。CDか配信か、というのはあくまで手段」とした上で、配信には技術の進化で「いい音」を追究する往年の音楽ファンを取り込める展望がある、というのがパネラーの共通見解のようだ。そして、最後はその「いい音」を生で体感すべく、1セット500万円するという佐藤剛こだわりのスピーカーを使用し、海北大輔がアコースティックライブを披露。第一部の幕を閉じた。
 
 


 


 


しばしの休憩を挟んで、第2部の開催。世田谷区の保坂展人区長が登場。津田大介宍戸留美が世田谷区の施政に迫った。まずは保坂展人区長自身が小田急沿線で青春時代を過ごしたという話から、下北沢という街をどう捉えるかという話題に。保坂展人区長自身、学生時代にこの街の古本屋や飲食店でよく議論を交わしたことから、下北沢に対して「熱い街」という印象を持っているという。「人口88万人を抱える世田谷区より人口の少ない県が6つある」と保坂展人区長が話すと、会場からは軽いどよめきが起きた。
 
津田大介からは「国会議員と区長、立場が変わることで変わったことは?」「日本でも、東京でもなく、世田谷区という行政単位でエネルギー問題になぜ取り組もうと思ったのか?実際やってみた手ごたえは?」と、直球に質問をぶつける。保坂展人区長も「世田谷区内で一番電力を使う建物を調べたら、オフィスでも工場でもなく、世田谷区役所だった。そこで、PPS(=特定規模電気事業者)、つまり東京電力ではない会社に頼んでみようと決めた」「1月に発表したら全国の自治体から問い合わせを受け、タイのテレビ局やロシアの通信社など20社くらいのインタビューを受けた」等、全ての質問に関して真摯に回答した。
 
 


 


 


このほか、ミュージシャン・喜納昌吉をプロデュースしていた頃の話や、自身の原点であるジャーナリスト時代に雑誌『明星』の読者ページで校内暴力やいじめ問題を追究していった話など、話題は多岐にわたった。音楽業界に従事する人にとって、また音楽を楽しもうとする全ての人にとって、避けて通れないのが電力の問題だろう。参加者も保坂展人区長の話に熱心に耳を傾けていた。終盤、「風知空知」の真正面の空き地で曽我部恵一がゲリラライブを敢行。開放されたテラスからその歌声とアコースティックギターの音色が届き、トークの隙間に織り交ざったが、それもまたこのカラフルな街・下北沢を象徴する出来事で、良いBGMとなった。
 
そして第二部も、最後のシメはやはり、音楽ライブだ。本日の司会進行を務めた宍戸留美Contrary Paradeたなかまゆ(Vocal & Piano)によるユニット、Lumi et Mayuが登場。宍戸留美はアコースティックギター、たなかまゆはキーボードを奏でつつ、宍戸留美の新譜『女』収録の「ハマナスの記憶」、Contrary Paradeの「夜遊び」などを披露。二人の柔らかなハーモニーがブランケットのように観客を包み込んだ。
 
 


 


 


保坂展人区長も客席から笑顔でライブ観覧。そして、最後は出演者全員が登壇して挨拶した。「歩く接着剤」と自称するように、このトークイベントは宍戸留美の人柄が人と人とをつなげ、そして同じように音楽を愛する人の気持ちがリンクして、実現したと言えるだろう。
 
音楽を取り巻く環境、ツールは日々進化を続ける。街の表情も変わる。それでも変わらないのは、音楽を愛する人の喜怒哀楽だ。一時期は再開発問題で「街が壊される!」と危惧された下北沢。「風知空知」最寄りの駅南口周辺は、地下化工事のさなかで以前にも増して雑多な印象を受ける。一連の再開発は防災面を考慮すれば避けて通れず、今後街の表面は大きく変わるだろう。どこにでもある綺麗な街になってしまうかもしれない。それでも、この街を訪れる人が同じ音楽でつながり、同じ気持ちを持ち続けている限り、下北沢という街は、音楽は、なくならない。
 

◆下北沢音楽祭 公式ホームページ
http://shimokita-fes.com/
 
◆宍戸留美 公式ホームページ
http://rumi-shishido.com/
◆津田大介の「メディアの現場」
http://www.neo-logue.com/mailmag/
◆ポップカルチャーのニュースサイト ナタリー
http://natalie.mu/
◆LOST IN TIME 公式ホームページ
http://lostintime.me/
◆凛として時雨 公式ホームページ
http://sigure.jp/
◆Contrary Parade 公式ホームページ
http://www.contraryparade.com/
◆風知空知 ホームページ
http://fu-chi-ku-chi.jp/


 

 
 
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【特集】関東七大学音楽祭 in下北沢音楽祭
http://www.beeast69.com/feature/2526
【特集】ROCK ATTENTION 15 ~宍戸留美~
http://www.beeast69.com/feature/20820
【レポート】第1回立川いったい音楽まつり
http://www.beeast69.com/report/35178