特集

関東七大学音楽祭

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:ヨコマキミヨ

2010年7月7日から11日までの5日間、毎年恒例の『下北沢音楽祭』が開催されました。古着にレコード店にライブハウス…誰もが知る若者の街、そして数多くの音楽が生まれてきた街、下北沢。普段は良い意味で雑多なこの街に、この5日間は一体感が生まれます。今年で20周年を迎える巨大イベントの中でも、我々BEEASTは3日目・9日夜に開催される「関東七大学音楽祭」に注目します。

まずは、「関東七大学音楽祭」がどのようなイベントかご紹介しましょう。出演者の一人でもある、宮川和也・学生幹事(成城大学3年)に話をうかがいました。

宮川:「関東七大学音楽祭(通称:カンナナ)」は年に2回、春と秋に開催しています。いつ頃から始まったか今現役の学生たちは誰も分からないのですが、何年も続いているということは確かです。『下北沢音楽祭』に出るようになったのは2年前の2008年からです。当時の成城大の学生が、下北沢東会商店会の金子健太郎委員と縁があって、声をかけていただいたのがきっかけです。カンナナの魅力は、やはりスケールの大きさですね。七つも大学が集まるということ自体が珍しいですし、どの大学もかなり熱を入れて真剣に音楽に取り組んでいるので、聴きごたえのある演奏を披露できると思います。実は、カンナナには入場料を取らないこと以外に「こうしなければ」というルールが一つもありません。代ごとに、一から自由に作れるのも魅力ですね。

関東七大学音楽祭に参加するのは、早稲田大学・慶應義塾大学・明治大学・日本大学・成城大学・立教大学で、各校1バンドずつ出演します。「七大学」という名称ですが、今年は白百合女子大学が不参加のため、6大学による開催です。宮川幹事によると、今年は特に各大学のカラーが出るため、楽しい演奏が披露できそうとのことでした。期待が高まります!

小雨の降りしきる9日の夕方、下北沢駅の南口から歩くこと数分、北沢タウンホールの2階ホールに向かうと、既にリハーサルを終えた学生の皆さんがロビーでくつろいでいました。ある大学は集まって打ち合わせをしたり、またある大学はメッセージボードへ誰かの似顔絵を書いたり…思い思いに開演の時を待ちます。そして、各大学の代表は受付の準備に追われていました。

16時半、開演に向けて「楽しい音楽祭にしましょう」と宮川幹事の掛け声で、いよいよ開場へ。パンフレットを手にしたお客さんが、下は10代、上は50代、60代、それ以上もいるでしょうか。実に幅広い層のお客さんが続々と入場していきます。そして17時、いよいよ開演。壇上にはオープニングセレモニーに出演する、地元・東大原小学校5年生の生徒たちと、各大学の代表者、そして実行委員のスタッフたち。全員揃いの下北沢音楽祭Tシャツを着て、ステージを真っ黄色に染めています。

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始めに、下北沢音楽祭の久保田英文実行委員長より挨拶。「子ども達からお年寄りまで色々な世代が一緒になって、下北沢を見つめ直すいい機会になれば。また、このふるさと下北沢を一緒に良くしよう!」と呼びかけ、客席から歓声が上がりました。司会は『下北沢音楽祭』の金子健太郎委員。カンナナでは学生との橋渡し役を務め、宮川幹事ら学生たちからの信頼も厚いようです。

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冒頭は東大原小学校5年生による歌と楽器のステージ。小学生と侮ることなかれ。「涙そうそう」「Oh Happy Day」など40名を超える子どもたちのソウルフルな歌声とステップは見事!客席からは大学生を中心に自然と手拍子が起こります。そして、いよいよ今日の主役、学生たちのパフォーマンスに。客席はイスがずらりと並んでいるのですが、冒頭、ステージに立った早稲田大学の学生たちより「前の方に集まってほしい」と呼びかけがあり、ステージ手前にスタンディングの学生たちを集めて、しっかりと自分たちの演奏しやすい空間を作っていました。

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早稲田大学 Tera Bakyu-mu

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トップバッターは早稲田大学のブラックミュージックを中心に扱う音楽サークル「THE NALEIO」よりTera Bakyu-muが登場。3年生3人、4年生2人で、ボーカル・ギター・キーボード・ドラム・ベースの男性5人編成。聴く人を思いっきり引きつける、というのがバンド名の由来だそうです。「踊れる楽曲を用意してきた!」ということで、アップテンポな曲が続きます。客席の学生たちも一気にスイッチが入り、盛り上がっています。「THE NALEIO」の寺戸泰岳代表(4年)は事前に「ステージを温めてしっかり次の大学につなげたい」と意気込みを語っていましたが、その役目をしっかりと果たしていました。

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サークル「THE NALEIO」公式HP
http://www.thenaleio.com/
http://naleio10.exblog.jp/
イケメンなギターにも注目!入部したい方はご連絡ください!
◆セットリスト
M01. give up the funk
M02. グッドトゥユアイヤホールキス
M03. ブラウンシュガー
M04. シャイニングスター
M05. ハイヤー

◆インフォメーション
2010年08月13日(金)【六本木】Club Edge
慶應義塾大学 Razzle-Dazzle MCP

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続いて登場したのは、慶応義塾大学の主にファンクやソウル、ジャズなどブラックミュージックを演奏する音楽サークル「K.B.R. modern Schacks」よりRazzle-Dazzle MCPです。ボーカル2人にホーンセクション3人、そしてドラムやベースなどのリズム帯が4人の総勢9名。1年生の5月頃に結成し、ずっと今のメンバーで活動を続けているそうです。「K.B.R. modern Schacks」の星野竜彦部長(3年)によると、歌って踊れて観客と一体化できるファンクミュージックが見どころということで、ノリの良い曲が続きます。女性ボーカルの声量もかなり迫力がありました!

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サークル「K.B.R. modern Schacks」公式HP
http://kbrmodernschacks.web.fc2.com/
小学生の演奏にラブアンドピースを感じました。めちゃめちゃ広いステージで出来て楽しかったです!
◆セットリスト
M01. Theme of blackbyrds/The Black Exiotics
M02. Funky Soul Brother/The Soul Drifters
M03. Speedmeter Medley No woman worries~Let the music take your mind~Have you got the message
M04. Only So Much Oil In The Ground/Tower Of Power 5. Maceo Parker Medley Sowl power~Cold sweat~Doing it to death
◆インフォメーション
2010年10月09日(土)【渋 谷】DESSO
明治大学 ドリーマー

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3番目に登場したのは、重厚感のあるブルースに定評がある明治大学「ドリーマー」です。今回登場のメンバーはギター2名にボーカル、ベース、キーボード、ドラムの計6名。2、3年生で構成されたフレッシュな顔ぶれです。富山健代表(3年)によると「見どころは男気溢れるロック!」「最後までドヤ顔をしているので、表情にも注目」とのこと!ムーディーな曲が続きますが、バンドの一体感が強く感じられる演奏でした。”大人のブルース”がオープニングの小学生と対照的で、この音楽祭の幅広さを感じられます。富山代表が後輩達へ「こういう機会を無駄にせず、ここでしか知りあえない人たちと仲良くなって、この先もつながりを作ってほしい」と呼びかけていたのも印象的でした。

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サークル「ドリーマー」公式HP
https://sites.google.com/site/dreamermusic2009/
雰囲気の良さ、楽しさ、そして漢気。明治ドリーマーらしさをご覧いただけましたでしょうか。僕らは最高に楽しかったです!
◆セットリスト
M01. 555 Lake/The Derek Trucks Band
M02. End Of The Line/The Allman Brothers Band
M03. First Time I Met The Blues/Buddy Guy
M04. You Keep me Hangin’ On/Rod Stewart
M05. Key To The Highway/The Derek Trucks Band
◆インフォメーション
2010年10月01日(金)【渋 谷】aube
日本大学 フラワーレイ

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熱い演奏が続きます。4番手は日本大学の「フラワーレイ」。名前からも分かるように、元々はハワイアンを中心に演奏していたというこのサークル。今年は4年生中心の構成で、ギター・ベース・ドラム・キーボード・パーカッションの5名に加えて、ボーカルが4人!長浜駿平代表(4年)曰く、コーラスを分厚くしたかったとのこと。明治大に続き、ムーディーな曲が続きますが、それぞれの曲の終わり方が綺麗で、その都度歓声が上がっていました。そして最後に持ってきたのはSMAPの大ヒット曲「Fly」。本家・SMAPを上回るのではと思えるほどクールな4人のボーカルに魅了されます!

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サークル「フラワーレイ」公式HP
http://flowerleiblog.blog115.fc2.com/
第1期生は昭和35年生まれということで歴史のあるサークルです。最後に客席全体で盛り上がれるのがフラワーレイのお家芸!
◆セットリスト
M01. I Heard It Through The Grapevine
M02. Twilight Zone/Twilight Tone
M03. A Case Of You
M04. ほうろう
M05. Fly(higher take)
◆インフォメーション
2010年08月19日(木)【下北沢】MOSAiC
成城大学 ラスタなう

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続いてはこの関東七大学音楽祭の幹事校でもある、成城大学です。登場するのは「成城大学軽音楽部」より「ラスタなう」。ボーカル3名、ホーンセクション4名など総勢11名。カンナナのために結成され、およそ半年にわたって練習を続けてきました。前出の宮川幹事はギターでの登場。カントリー調の衣装で揃えた11名がステージに立つとボリューム感があります。事前に竹内栄佑部長(3年)が「楽しい」を強調していたように、名曲のカバーで「楽しさ」が全面に出たパフォーマンスが続きます。見ている方も演奏している方も笑顔に満ち溢れていました。

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サークル「成城大学軽音楽部」公式HP
http://seijokeion.m.web.fc2.com/index.html/
東京で最も謎な部活、それが成城大学軽音楽部☆
◆セットリスト
M01. Layla/Derek and the Dominos
M02. Only you know and I know/Delaney & Bonnie
M03. Right to Be Wrong/Joss Stone
M04. Movin’on Up/Primal Scream
M05. No Woman.No Cry/Bob Marley and The Wailers

◆インフォメーション
2010年10月01日(金)【渋 谷】aube
立教大学 RIKKYO ROYAL ISLANDERS ORCHESTRA

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トリを飾るのは、「立教大学軽音楽部」より、ブラックミュージックを中心に活動する「RIKKYO ROYAL ISLANDERS ORCHESTRA」です。メンバーは最多の13名。ライブごとにバンドを組み替えているとのことで、今回は120名いる部員の中からホーンやコーラスなど全員3年生で結成されました。瀬戸千晶代表(3年)によると、今回は難しめの曲に挑戦し、一つ一つの音のクオリティや、コーラスを揃えることに苦労しながら頑張ってきたとのこと。カンナナは全員初出場ながら、堂々としたステージングを披露。曲ごとに入れ替わる4名の女性ボーカルも観客の心をグッとつかんでいました。

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サークル「立教大学軽音楽部」公式HP
http://lmsrikkyo.web.fc2.com/
立教大学軽音楽部は今回出演した6大学の中では一番の大所帯です。部員は女の子が多いですが、もちろん男の子の部員も大歓迎です!
◆セットリスト
M01. Stay/Erykah Badu
M02. A long walk/Jill Scott
M03. Just the two of us/George Benson
M04. Always there/Incognito
M05. I’m caught up/Jocelyn Brown
◆インフォメーション
2010年08月23日【池 袋】LIVE INN ROSA

20時半、全大学の演奏が終了し、閉幕。各大学の個性が際立つ楽しい演奏でした。撤収作業に奮闘する宮川和也・学生幹事を捕まえて、今日のステージを振り返ってのコメントをもらいました。

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宮川:自分自身の演奏を振り返ると…とても楽しかったですね!客席もとても賑やかで。練習で注意してきたことが、本番では盛り上がって取りこぼすこともありましたが、でも見ている人に楽しんでもらえたので良かったです。他大学の演奏も、出番の合間に聴いていました。今年の特徴は、やはり明治大や、私たち成城大の披露した「ロック」ですね。これまでカンナナでロックはほとんど見られなかったので、印象に残っています。裏方を振り返ると、リハに間に合わない学校があったりと思いがけないアクシデントはありましたが、音楽祭を通して一つにつながれることが実感でき、楽しめました!

翌週には期末試験を控えているという宮川さん。汗だくになりながら、全力でカンナナを盛り上げていました。隣には、後輩・平塚由紀さん(2年)の姿が。先輩の奮闘を1年間見て勉強し、来年に引き継いでいくということです。

今回の「関東七大学音楽祭」は『下北沢音楽祭』の一環として開催されました。カンナナを、また10代、20代の音楽に打ち込む若者をどう見ているのか、下北沢音楽祭の久保田英文実行委員長に話をうかがいました。

— 『下北沢音楽祭』が始まったきっかけを教えてください。

久保田:『下北沢音楽祭』の前身は、20年前に始まった『北沢音楽祭』です。これは平成2年当時に北沢タウンホールが完成したので、そのホールの存在を広く知らしめるために世田谷区の主導で始まりました。当時は世界各地の民族音楽の演奏が中心でしたが、今から12年ほど前、「ホールという箱の中だけでなく街に出て、音楽祭をもっと多くの人に知ってもらいたい」と考え、今のようなスタイルになりました。その頃から「異世代共存」というキャッチフレーズを使うようになりました。

— 「異世代共存」にはどのような思いが込められているのでしょうか?

久保田:当時私は商店街の青年部長を務めていましたが、「街角を曲がれば新しい音楽に出会えるような音楽祭」を目指し、青年部とライブハウスで一緒に実行委員会をつくりました。また、ちょうど同時期に地元出身の大スター・金子マリCharの子どもたちがRIZEとしてメジャーデビューしました。幼い頃からよく知っている彼らがデビューするということで、「じゃあ一緒にやろう」と。(※RIZEは1997年にCharの息子・JESSE金子マリの息子・金子ノブアキらで結成。2000年の第10回『北沢音楽祭』に出演の1ヶ月後、「カミナリ」でメジャーデビュー。後に金子ノブアキの実弟KenKenも加入)

— そして第10回『北沢音楽祭』で、世代を超えた競演が実現するわけですね!

久保田:そうですね。同じステージ上で、親世代はChar金子マリが歌う時に前に出てきて、子世代は静かに聴いている。そしてRIZEが出てくると今度は入れ替わって若い世代が前に来て飛び跳ね、それを親世代も後ろで聴いている。同じステージで同じ時間を共有するのはとてもいいことで、面白かったです。金子マリに井戸を掘ってもらい、今でも継続できているので、とても感謝しています。

— そんな『下北沢音楽祭』の一番の魅力は何でしょうか?

久保田:一つに絞るのは難しいですが…(笑)音楽や演劇、古着などに形容される、一般的に全国の人が思い描く「外から見た下北沢」と、この街に生まれ育って暮らしていて感じたり、天狗祭りや縁日など商店街のイベントに象徴される「内から見た下北沢」、その両方が『下北沢音楽祭』には含まれています。それが、大きな魅力の一つですね。

— 若い世代へ向けたメッセージをください。

久保田:下北沢には綺麗な海山はありませんが、立派な劇場やライブハウスがいっぱいあります。そこに生まれ育った子どもたちにとっては、劇場やライブハウスがふるさとです。だから、子どもの頃からライブハウスや音楽のことを知ってもらい、ステージに立つような経験を通して、自分たちが育ったこの街に誇りを持ってもらいたいと思います。「関東七大学音楽祭」では東大原小学校の子どもたちが出演しましたが、一緒にステージに立つ大学生たちが盛り上げてくれることで、小学生の彼らもステージ上でヒーローになることができました。人は、何らかの機会でヒーローになり、自分に自信を持つことができれば、様々な表現、発言が出来るようになります。読み書きそろばんだけではない「自信」を持ってもらうことも一つの大事なことだと思うのです。そして、ステージは子ども達にとって一生の思い出になることでしょう。そうした意義のある音楽祭を、これからもみんなで作り上げていきましょう!



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◆関東七大学音楽祭(下北沢音楽祭 公式HP)
http://shimokita-fes.com/

2010年10月14日(木)【下北沢】北沢タウンホール
OPEN16:30/START17:00(予定)

出演:慶応義塾大学/早稲田大学/明治大学/日本大学/立教大学/成城大学/東京大学