演奏

TEXT & PHOTO:ヨコマキミヨ

梅雨明け間近の、むせ返るような熱気が滞った渋谷の道玄坂を、夏休みの若者で溢れる人混みを掻き分けながら、重いカメラ機材の入ったいつものリュックを背負い登っていく。会場となるO-Westの近くまでたどり着くと、一瞬、どこか湿り気を帯びた風が吹き抜けていった。

今宵のライブは、宮原学。龍馬よさこい12のテーマ曲にもなっている新曲「JAPAN」を引っ提げ、名古屋、京都と行われたツアー「rock on the move」のファイナルだ。リハーサル後もなお、宮原学は開場ギリギリまでステージの上でメンバー、スタッフとともに入念にサウンドチェックをしていた。

◆宮原学 2012ツアーメンバー
宮原学(Vocal & Guitar)、小田原豊(Drums)、メッケン(Bass)、柴田俊文(Keyboard)

 


 


18時30分。開場。ステージのスクリーンにはレコーディングの映像が映し出され、盟友・小田原豊とともに真剣な眼差しで話し合う宮原学の姿が何度もループされる。その映像を見ているだけでも、否応無しにもドキドキとライブへの期待が高まっていく。客席フロアの片隅の物販コーナーにはCDやTシャツが並べられている。その横には、この日のライブの4日前に脳幹出血で倒れ、病の床へ伏せる桑名正博への、励ましのメッセージを書き込むコーナーも設けられていた。

 


 


いよいよ開演!宮原学の「オー!イェー!」のかけ声と同時に、重厚なギターの音が響き、1曲目「LOOKIN’ FOR LOVE」がスタート。柴田俊文のオルガンの音がヘヴィさを助長する。なんてゾクゾクするようなストレートさ。そのまま2曲目の「WITH I KNEW SATISFACTION」に突入。これぞブルースといった、ディストーションのかかった渋いギターがたまらない。鳥肌が立ってくる。

 


 


3曲目、4曲目と宮原学らしいビートの効いたロックンロール。ドライブ感をのせたまま、まるで晴れ渡る空に、爽やかな風が抜けていくような軽快でノリのいい曲が続き、思わず拳を上げて一緒に口ずさみたくなる。そこに小田原豊のポップで安定感のある繊細なドラムが加わり、メッケンのベースが、しっかりと軸を作る。
5曲目は80年代初頭、CBSソニーの傘下のレーベル「FITZBEAT」時代の懐かしい曲「GET READY」。一昨年リリースしたミニアルバム「The Double Clash」にリアレンジされて収録されている曲だ。大人のロックといった雰囲気にアレンジされたキーボードソロのイントロで始まり、オルガンのブルースコードのハーモニーに、タイトに刺さり込むようなドラムとベース。サビは会場全体で大合唱。私も歌いながら、リズムに合わせてシャッターを押した。

 


 


「いま。今この瞬間は、JAPANにいるワケじゃん。」そんなMCから入った新曲「JAPAN」。宮原学の力強いボーカルソロが響き渡り、ガッチリとした4ビートのバスドラに、2拍ずつ、ゆったりとした伸びの良いギターのメロディラインへ繋がっていく長いイントロ。じわじわと、どっしりと、それぞれの音が一つ一つ重なり裾野のように広がっていく。

ライジングサン。日出る国、日本をイメージさせる真っ赤な照明。その壮大なスケールに、私は今まで味わったことのないような感覚をおぼえた。例えるなら大海原に浮かぶ、大きな船に身を委ねているような。大きな大きな父性にも似た深い愛情に包まれているような。

 


 


8ビートから16ビートのノリノリな曲が、3曲続けて疾走する。メタリィに唸るギターと、ピアノとのかけ合い。そしてオーディエンスとのかけ合い。これはもう定番の楽しさ!曲の合間に、宮原学は、O-Westを町のライブバーにしてしまうかのように、ごく気さくにオーディエンスに話かける。そこにはTwitterやfacebookで知り合ったというお客さんもいるようで驚きだ。

本当に旨いバーボンというものは何杯呑んでも飽きない。そんな気分にさせるラストは、ミディアムテンポのブルージィな曲「Over again」。このスケール感を、どう写したらいいのだろう?ただ単に広角レンズを使ったとしても表現しきれない。私は、ただそこに広がる空気を坦々とカメラに収めるしかなかった。

 


 


アンコール1曲目は、柴田俊文宮原学の2人だけが登場。しっとりとした大人のブルースバラードを聞かせる。そして小田原豊メッケンも加わり、メンバー紹介の後、代表曲「without you」。揺るぎなく真っ直ぐ、頑なでストレート。確かこの曲を初めて聞いたのは25、6年前であったが、今でも全く古さを感じさせないのは、宮原学がそんなスタイルを貫いているからに他ならないだろう。ヘタな小細工など無いから、いつまでも新鮮さを失わない。

2回目のアンコールは再び「JAPAN」。最後の曲にカメラを向けながら、私は昨年の東日本大震災の時のことを思い出していた…。

 


 


実は今回のライブが始まる前、私は宮原学のオーディエンスに心を打たれていた。「なんと行儀の良いこと!」と。近くで見たい女性は前に、ビール片手に音を楽しみたい男性は後ろにと、何となく分かれ、そのうえ暗黙の了解のように、何となく、でも隙間なく自然に整列されているのだ。ステージ前の柵の中には、いつもなら大抵荷物が置かれてしまい、撮影の際に足場を塞がれてしまうことが多々あることだが、今日はそれもなかった。ライブが始まる前、実は既に、そのことに感動していたのだった。

1年半前の震災発生時、あの混乱と恐怖の中で、私たちは譲り合い、励まし合い、労わり合い、分かち合うことができた。その姿は世界中から称賛された。日本の誰しもが魂の奥底に備える、その誇り高き魂は、この会場に暗黙の了解のように整列するオーディエンスにも象徴されている。「We are JAPAN」…宮原学が、忘れそうになった大切なものを私たちに思い起こさせてくれた。アニキと呼びたくなるような気さくな話かたで、大きな目を見開き、ブルージィでロックな音のむこう側から、私たちの心の中に、真っ直ぐに問いかけてくるのだ。「なぁ俺たち日本人だろう?」って。
 

◆セットリスト
M01. LOOKIN’ FOR LOVE
M02. WISH I KNEW SATISFACTION
M03. WALKIN’ IN THE RAIN
M04. U-it’s
M05. GET READY
M06. JAPAN
M07. motion2245
M08. Four round boy
M09. SHE SAID
M10. Over again
-encore-
M11. A day~all its own
M12. Without you

 
◆インフォメーション
・2012年10月28日(日)【横浜】The CLUB SENSATION
「Manabu Miyahara CLUB SENSATION Special Session 」
 
・2012年11月24日(土)【名古屋】新栄Diamond Hall
~CLUB Diamond Hall 20th Aniversary Presents ~
Diamond Collection 2012~Volume One~
(出演:Char/子供ばんど/宮原学/ほか)
◆宮原学 公式サイト
http://www.manabu-miyahara.com/
 


 

 
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